第七話「クラブ音音からの逃亡作戦実行」
「アイ! マキ! 準備はいいか?」
「オーケー」
「大丈夫です」
マサコは3つの誘導手りゅう弾を取り出すと、左手にまとめて持ち、右手をそのセンサーにかざしてハンドシグナルでプログラミングを行う。
そしてクラブ音音の建物の壁に向けて投げつけた。
3つの誘導手りゅう弾は小型のイオンスラスターウィングを展開して、時間差をつけて建物の壁をまっすぐ登っていく。
そして屋上から反対側へ進み、姿を消した。
「移動する。私に続け!」
マサコが先導して壁際を音を消しながら進み、建物の角で止まる。
しばらくすると角の向こう側で3発の誘導手りゅう弾の炸裂音が1秒間隔で響いた。
「ゴー! ゴー! ムーブ! ムーブ!」
マサコに続いてマキも角から飛び出し、旧式パワードスーツを操縦するアイも続く。
建物の反対側では8人ほどの黒いコンバットアーマーを付けたハンニバルズの兵士達が等間隔にならんでいた。
だが全員、目を片手で抑えて呻いている。
さっきの3発の特殊な閃光手りゅう弾を見てしまったようである。
だが閃光手りゅう弾は兵士の小型バイザーは透過して目にダメージを与えるが、パワードスーツはカメラ越しの映像を見ており、異常な光は自動的にシャットアウトするので影響を受けない。
兵士達の間にたつ3体のパワードスーツがミサイルポッドから小型ミサイルを連続発射、ガトリングをこちらへ向ける。
「アイ!」
マサコの叫びと同じタイミングで3体のパワードスーツは連続して爆発、炎上した。
アイの旧式パワードスーツが持つキャノンの速射である。
「これが特殊部隊ですって? 反応が遅すぎじゃない?」
空中を近づく小型ミサイルは全てマキがスプレッド弾モードの零式熱小銃で撃墜していく。
「店を滅茶苦茶にしやがって! 食らいやがれぇ!」
マサコがトリプルバレル・コイルガンの砲身をフル回転させ、甲高いソニックブームの炸裂音を鳴り響かせながらハンニバルの兵士たちに掃射した。
兵士たちは次々とコンバットアーマーの破片と血しぶきをまき散らせながら倒れていく。
同じ頃、ノドカは地面スレスレを飛行したりビルの壁面スレスレを飛びながらハンニバルズの包囲部隊に向けて突入していた。
パワードスーツの正確なオートエイムがあっても、その機械的な駆動速度ではマッハ近くで至近距離を飛ぶノドカを捉えきれず、背後を砲弾でトレースするだけである。
ノドカは5メートルほどの間隔を置いて立ち並ぶ兵士たちの隙間を縫うように飛びながら、プラズマライフルを乱射する。
何人かの兵士を片付けるとその場から高速で飛び去り、別エリアへの展開部隊目指して進む。
フライソルジャーは重量の制限の為、質量弾はあまり使わない。
彼女が持つのもその例にならい、軽いバッテリーセルを使う特殊なプラズマライフルである。
ノドカが目の前から去ったあと、一際大きなパワードスーツに乗ったハンニバルズの指揮官が、操縦席でホロディスプレイを展開する。
クラブ音音の周辺地図とハンニバルズの展開状況、そして最後に兵士たちが確認した敵勢力の位置が表示されていた。
ハンニバルズの兵士からの無線が入る。
「敵戦力が予想外に大きい!
北西方面に展開したパワードスーツの応答が無くなった!
一体どうなっているんだ? 注意すべきはターゲットのアンドロイド程度で他は全員ただのホステスだと聞いてたぞ!
只者じゃないぞこいつ等!」
「南西方面に多数の抵抗勢力あり」
指揮官はホロディスプレイを眺めて返答する。
「クラブ音音北西方面の展開部隊が壊滅した。
このままでは空白地帯となってここを狙った敵の展開が予想される。
西側展開部隊は北西の穴を埋めろ。
戦力の再編成を行う。
東半分に展開する補間部隊は全員移動して西へ回り込め」
「東が薄くなりませんか?」
「スナイパーとマルチセントリーロボが展開していて健在だ。
なによりこの素人の烏合の衆どもは西から抜ける気で攻めている」
「ラジャー」
「ラジャー」
南西で外部エアコン設備や倉庫の影に隠れてカムイ達は応戦中であった。
しかしティアラは建物の裏で震えながら銃を空に向けて発射するだけ。
実質まともにハンニバルズの方向に攻撃をしているのはカムイとナオコとニミーだけである。
「ティアラさん!」
「な、なによ、ちぃ」
「そろそろ……あと1分で予定の時刻です」
「ナオコ! ニミー! シュリ! カムイさん! 時間よ! 早く急ぎましょう!」
「先に行って!」
ナオコがしんがりとなって何度も角から上半身を出しながら、パルスレーザーライフルを乱射する。
その他のメンバーは一斉に元の場所へと引き返し始めた。
マキ達、北西チームはハンニバルズの第二波を壊滅させたところであった。
「アイ! 少し無茶を頼まれてくれるか!」
「分かってるわ。早く行って」
「頼んだぞ。マキ、中央エリアに引き返す。裏取りの兵士が予想される。
撃ち漏らすなよ」
「大丈夫です」
マサコとマキは再び中央エリアへと引き返す。
予想通り回り込んできたハンニバルズが居たがマキとマサコは残さず撃ち取り、中央エリアを再度制圧した。
直後にカムイ達も集合する。
「皆! 無事ね?」
「ああ、そろそろだ。覚悟を決めろ。
いいか、一斉に飛び出すぞ。」
(残り時間:4秒)
アイの前にハンニバルズの歩兵が現れた。
アイは対戦車グレネードランチャーを歩兵へ向けると、歩兵は慌ててビル影へと走りこんで逃げる。
(残り時間:3秒)
ノドカは歩道橋の下を高速で潜り抜け、ビルとビルの間、高度100メートルまで上昇する。
遠くに見えるのはジュエリー花蜜のビル。
強化した視覚はクラブ音音の方を向いてベランダに伏せたスナイパーを捉えている。
(残り時間:2秒)
アイはくるりとパワードスーツを回転させて北東を向くと、対戦車グレネードの銃口を角度80度ほどの上空へと向けた。
そして銃口の角度を徐々に下げながら対戦車グレネード弾を機械音を立てて連続発射する。
グレネード弾は空高く舞い上がった。
(残り時間:0秒)
ノドカはプラズマライフルをスナイパーの側頭部から横腹へ向けて掃射しながら接近。
スナイパーは気づいて顔を向けるが時すでに遅く、黒焦げの死体となった。
そのままノドカはベランダに突入し、隣に居た観測員に組み付いてゴロゴロ転がる。
クラブ音音の北東の駐車場ではマルチセントリーロボが接近する複数のグレネードを検知して一斉迎撃を始める。
だが2発ほどが空中で炸裂したものの落としきれず、対戦車グレネードが5発ほど同時着弾。
駐車場は大爆発を起こして、音を立てて崩れ落ちる。
「いくぞ! マキ、今回もお前は迎撃に徹しろ! 皆は目に映る兵士は躊躇なく撃て! ゴーゴーゴーゴー! ムーブ! ムーブ!」
中央エリアで待機していたメンバーが一斉に東へと突進を始めた。
時折現れるハンニバルズ歩兵はマサコがトリプルバレル・コイルガンで撃ち抜き、ビル越しに襲い掛かる誘導手りゅう弾やミサイルをマキが全て撃墜する。
50メートルほど進んで交差点を飛び出し、正面をマサコが、左をニミーとナオコが、右をカムイが確認し、それぞれが一人撃退する。
「止まるな! ムーブ! ムーブ!」
300メートルほど町を突き進んだ後マサコが叫ぶ。
「いいか! ここで散開する。全員バラバラになって逃げろ!
必死で逃げるんだ! いいな? 命が尽きるまで全力で走れ!」
全員が散り散りになる中、マキの背後からカムイが叫ぶ。
「マキちゃん! あそこに山が見えるだろう?
山の頂上に神社がある。
白蓮神社という神社だ。
そこで俺たちは落ち合おう。いいね?」
「分かりました」
「気を付けて! じゃあ行って!」
「カムイさんも気を付けて下さい! 必ずまた会いましょう!」




