第三話「レジスタンスの目的」
ティアラはカムイの映像メモリーデバイスを受け取り、マキの記憶している映像を手持ちの機器にダウンロードして軽くチェックした。
そして机に頬杖をついて笑顔で尋ねる。
「オーケー。それではレジスタンスについて聞きたい事はなんでもどうぞ」
「彼らの活動目的は何だ?」
ティアラは紅茶を一口飲んでから答える。
「実質的な彼らの活動のメインは、アンダーワールドの住人の自治と保護よ。
アンダーワールドについては存在を知る人々ですら極僅か。
そして国民の義務である識別チップを装着していない彼ら住人は、法的には生存すら認められていない。
そして訳あって地下に潜った人々、その子孫達には表社会への復帰の道も無い。
そんな彼らが迫害に対抗し、生存権をかけて自然に出来上がったのがレジスタンスの前身よ」
「迫害? 確かに表に出れば逮捕されるだろうが、彼らは迫害を受けているのか?」
「政府は用がないときは彼らを放置しているに過ぎないの。
それでも……、例えば新しいアルコロジーや巨大ビルを建てる時は、ソリッド・グラウンド・フレーム、公共地下基盤のメンテナンスが必要になるわ。
その時に駆除を依頼するのよ」
「駆除?」
「あなた達が見たこともなく、存在すら知らない、機械仕掛けの殺戮ロボが今もどこかで虐殺を行っているでしょうね?
場所によっては駆除を専門とした人々が依頼を受けて実行することもある」
「追い払いか?」
「虐殺よ。毎回数十人から数百人単位で死ぬわ」
カムイは信じられない返答、自分の生きてきた世界観からかけ離れた話を聞いて頭がクラクラし始めた。
「いくらなんでも非人道的過ぎる。ここは日本だぞ! 国がそんなことを行って……社会が黙っているわけがないだろう」
「その社会を構成する人間、貴方はこの事を知っていたかしら?」
「……なぜ誰も気が付かない? 何故誰も伝えない? そもそも彼らは電波ジャックや通信ジャックをする技術があるなら何故それを訴えない?」
「歴史の中で人間社会は農業の開発、鉄器の発見、国家の作成、貨幣の発明、法律と契約の概念の作成と大きな変革を何度も繰り返してきたわ。
そして皆が気が付かないうちに……西暦2054年を境に社会は大きく変化し新たな次元へと突入したの」
「2054年? Yenの価値が崩壊してNewYenが制定された頃か?」
「いいカンをしているわね。
現在でも未だ正体不明のハッカーの手により、日本のオンライン化していた全ての通貨取引が大混乱に陥った。
そしてYenという貨幣概念が崩壊し、ただの無意味な数字と化した。
その対策としてNewYenの制定と共に、包括的情報制御法が制定されたのよ。
情報の流れる区画を社会階層、地域、集団特性などで細かく分類して制定し、流れる全ての情報を中央コンピューターによって監視、制御する。
そして情報の急激な拡散、伝播を抑制し、巨大化しすぎた国家が少数の異分子の手で混乱するのを阻止する為、情報の遮断やすり替えを秘密裏に行う。
人々はそれが行われている事を知ることは無い。」
「凄いな……そんな事……そんな法律……学校で習わなかったぞ」
「貴方が知るべき情報区画の人間ではなかったからでしょうね。
誰もが同じ共通の話題で盛り上がる、そんな人類の微笑ましい村社会の時代は終わり、人々は回りのことを何も知らない、何も知ることが出来ない時代へと突入したの。
だから、情報、真実の情報はとても興味深い娯楽であり、貴重品となったのよ」
「そうだ、まだ答えて貰っていない。彼らはなぜ自分たちが受けている迫害を訴えないんだ。お得意の電波ジャックで」
「彼らも同じように苦しんでいるのよ。訴えているのに何故誰も見向きもしてくれないんだってね」
「……ちょっと待て……まさか……」
「当たり。彼らの電波ジャックすらも、既に制御下にあるのよ」
「じゃぁ、レジスタンスが必死に訴えようとしている事、人々が気づいていない危機というのは……」
「そこのフレーズは表現があいまいで実質的な情報を伝えきれていないので、システムによる監視ワード、概念をすり抜けていたので伝わったのね。彼らがその先を言うのを聞いたことがあるかしら?」
「いや、いつもそこで電波ジャックは切断されて元の番組の戻る」
「特別に私が入手した元映像を見せてあげるわ。手癖の悪い電気工が地下通信設備のメンテナンス中に抽出した映像よ。おそらくカイ達が近くに居て自分たちが確認しているときは全てが映って見えたはずよ。」
ティアラは手元の機器を弄るとホロスクリーンにカイがまっすぐカメラを向いて話しかける映像が映った。
カイは訴えかける。
「君たちに心があるならば聞いて欲しい。
今日もまた、アルコロジー『かぐや2010』のフレーム工事に先立って、アンダーワールドで人間狩りが行われ、124名が殺害され、55名が行方不明となった。
人間……ネズミや昆虫ではない。君たちと同じ人間だぞ。
……まぁこの件はまた別の機会に話そう。
本題に入る。
我々はアンダーワールドに縦横無尽に走る通信ケーブルから様々な情報を入手している。
そして我々だけではなく、地上に住む君達が……一部の勢力により何千万人単位で人身御供とされ、命とその存在の危機にあることを知っている。
情報を統制出来る地位にある人間が、社会の物理的、制度的な防衛基盤を密かに破壊し、特殊なトロイを警察のシステム、国防軍のシステムに公的、合法的に侵入させ、外部の東西二つの敵と内通して国の破壊と侵略ほう助を続けている。
複雑な社会に惑わされず、もう一度矛盾や違和感がないか社会構造を見直せ、プログラムをチェックしろ。たちの悪い寄生虫がすべてのシステム内に居る。
人々よ、目を覚ませ、君たちは自分たちに迫る危機に気付いていない。
我々はアンダーワールドの人間同様、君達人間を愛している。
君たちを本心から助けたいと願っている」




