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2115年、アンドロイドの救世主  作者: レブナント
ACT6 クラブ音音襲撃事件
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第一話「クラブ音音 入店」

 マキは胸に手を当てて目を閉じる。

 不思議とついさっきまで自分の周囲を覆っていた絶望感が失せ、穏やかな感覚が身を包んだ。

 目を開けると目の前のカムイが話しかけてくる。


「落ち着いたかい?」

「……はい。私は孤立して絶望してしまっていたようです。

 私は一人では無い。

 私は孤独ではない。そう感じました。

 私に移植されたデジタルブレインに癒やされた気がします。

 この人はとても優しく、友達の多い人だったようです」


「移植? デジタルブレイン?」

「一昨日、死んだ人物の破損した脳組織を私の中にデジタル情報として移植したんです。私の擬似神経と連動させて記憶を修復させる目的です」


「そうか、変わった実験をしてるんだな。まぁ死者の記憶を知りたいと思うことは俺もあるから、分からないではないな。

 ところでこれからどうする?

 研究所へ帰るかい?」

「……研究所の人に会いたいですが、状況を把握して納得するまで帰ることは出来ません」


「ふっ、アンドロイドにしてはお利口だな。確かに……多分君は深く、大きく、ややこしいトラブルに巻き込まれてるんだろうね。

 軍や政府や得体のしれない勢力が血眼になって、君の奪い合いをしているように感じる。心当たりはあるかい?」

「わかりません。

 それを探るために私に移植されたデジタルブレインの持ち主、レジスタンスリーダーのカイの知り合いに会いたいです」


 カムイは片手でカップを持ち、片手で卓上の機器を操作してメールチェックをしていた。

 だがカイの名を聞いて動きが止まり、目だけがギョロリとマキを見た。


「カイ……、そう言えば数日前に遂にタカマガハラで射殺されたとニュースになっていたが……君の中にはカイが居るのか。

 マキちゃん、君はカイの記憶が分かるのかい?

 何故皆がカイの記憶を奪い合っているのか、思い当たることは?」

「移植された時にはデジタルブレインはあちこちの神経組織が断線し、既にまともに人の記憶として参照するのが困難な状態でした。

 それは今も変わりません。まだ私には分かりません」


 目を離さずにじっとマキを観察していたカムイだが、中空に視線を逸らしてしばらく考え込む。

 そして言った。


「不思議なものだ……。マキちゃん、君は幽霊や運命といったオカルトを信じるかい?」

「未成熟な人間が見る幻覚や妄想……そう思っていましたが、今は以前よりは少し理解出来たような気がします。

 ……人は弱いものなんですね」


「俺は以前カイに会ったことが有ってね、……何だかカイが君を導き俺を頼って連れてきた。そう思えてならないんだよ。

 そして、君は今、決して捕まってはならない。

 そういう恐ろしく緊迫した警告のようなものを俺は感じる。

 カイの居たレジスタンスか。

 そう簡単に接触出来る連中なら既に政府が壊滅させてるだろう。

 だがちょっと探ってみるか。

 よし、とりあえず今日は休もうか。ベッドとか居るかい?」

「ここで大丈夫です」



 翌日の深夜、カムイの運転する車の後部座席では、長いツインテールを纏め上げて深く被った帽子で隠したマキが座っていた。


「カムイさん。他の車を見ていると運転席に人が座っている方が珍しいです。オートドライブモードにしないんですか?」

「運転は俺の趣味なんだよ。人生には娯楽が必要だろ?

 それよりクラブ音音(ねね)に着くまではあまり顔を外に向けるなよ? 街のセンサーに見つかれば一発だ」


「センサーは全て回避して顔をそむけています。そして外を見るのが私の趣味なんです」

「そう来たか」


「ところでクラブ音音(ねね)ってどんな所なんですか?」

「金持ちのおっさん共が通うキャバレーみたいなもんだ。特徴的なのはホステス全員が今流行りのデジタルアイドルのコスプレで服装を統一している点だな。

 知ってるかい? 一世紀前に流行ったデジタルアイドルの復刻版の……」


「知ってます。私の外見のデザインはディバさん、研究員の女性が決めたのですが、その影響を受けたと言っていました。

 だから私の名前もそのデジタルアイドルの名前から1文字ずつ上にずらして名付けたそうです」

「そうか……不思議な因縁だな。

 で、クラブ音音(ねね)は会社の社長やら、大物政治家やらが通う秘密スポットとなっている。

 そしてそこのナンバーワンホステス、ティアラは一部の業界の人間には有名な話だが、情報屋をやっている」


「情報屋ですか……」

「ああ……彼女は表の世界でも裏の世界でも大物さ。

 彼女ならば間違いなくレジスタンスとの接触の鍵となってくれるだろう。

 ほら、見えてきたあそこだ」


 カムイは近くの立体駐車場に車を停めると、マキを連れてクラブ音音(ねね)の前に立つ。

 周囲は空を埋め尽くすような高層ビルがぎっしりと立ち並ぶ中、中世ヨーロッパの貴族の邸宅のようなクラブ音音(ねね)だけは広い立地で優雅構えていた。

 VIP用と思われる送迎用の高級車がこの時代には珍しく、贅沢に土地を使い立地の端に並べて駐車してある。

 カムイはマキを連れて豪勢な彫刻と電飾の施された門を潜った。

 デジタルアイドルのコスプレ、黒スーツアレンジをした二人のホステスが左右に並んで笑顔で挨拶する。


「クラブ音音(ねね)へようこそ!」

「クラブ音音(ねね)へようこそ!」


 カムイはすこし店内を歩くと、暇そうに二人並んでしゃべってるホステスを見つけ、その間に割り込むように長椅子に座った。

 苦笑いを隠すように左右のホステスがカムイに話しかける。


「こ、こんばんわ~~」

「おっす」


 マキは少し離れた長椅子の端に座った。

 一人のホステスが歩み寄り、机にグラスを置いてボトルからワインを注ぐ。


「こちらの方は?」

「ああ、俺の連れだよ」


「あらら、新しい同僚が増えたのかと思いましたよぉ」

「はっはっは」


 ボトルを持って来たホステスはマキの顔を見てヒクリと眉を動かした。

 だがそのまま机を立ち去る。

 そして机の並ぶフロアから離れた柱の裏にくるとグラス型の情報デバイスを装着し、チラチラとマキの方を見ながら小声で話していた。


(はい……多分間違い有りません。ニュースでやってた研究所での虐殺事件を起こして逃げたっていうアンドロイドです。

 はい……、はい……。今のところ暴れてる様子は有りません。

 大丈夫なんですか? 脳がバグってるんでしょう?

 ……いいから早く来て下さい!

 はい……分かりました。平穏に業務を続けます……はい……)


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