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2115年、アンドロイドの救世主  作者: レブナント
ACT3 レジスタンス組織
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第五話「訳あり逃亡者の居住区画」

 潜水艦は海水で満たされた巨大なパイプ状の水路を進む。

 カムイとユリカは個室で丸テーブルをを囲んで向き合っていた。


「本当に私はもう今までの生活を全て捨てなければいけないんでしょうか?

 今まで積み重ねた生活も、友達も全て……」

「君の母親の住むマンションにサブマシンガンで武装した人達が大勢突入してたそうだ。

 まさに間一髪で加代さんは救出された。

 君は確実に与党の最重要人物にとって邪魔な人間として狙われている」


「……それでも、引っ越しするとか、名前を変えるとか……」

「この国の……表の世界には君の想像を超える数の監視カメラやセンサーがあちこちに付けられている。

 そしてすべての映像情報、通信情報は統合され、整理されて管理されている。

 多少変装や整形しようがAIによる分析で特定されてしまうそうだよ。

 国がその気になれば君が街へ出て一分歩けば確保される。

 HPTシステムを利用しようものなら乗り込んでしばらくしてドアを開ければ警察署の中さ。

 そして君を付け狙う相手はそれを悪用出来るほどの権力を持っている」

「……でも……アンダーワールドには犯罪者がいっぱい逃げ込んでいるんでしょう?

 私はそっちのほうが怖いです」

「君は今後表の世界では一級の犯罪者として扱われる」

「うっ、うっ、私は何もしていないのに……。被害者なのに……」

「そして事情は人それぞれだが君と同じような人間も協力しあって生きている場所があるそうだ。

 そこへ案内してくれる。

 それに俺も定期的に様子を見に行くよ」


 一方司令室ではカイが深刻な顔でディスプレイに映る情報を見つめていた。

 ワンとキットも周囲を囲んでいる。


「もうこんな所までが連中の手に落ちていたのか……」

「そうだよ。カイ、もう本当に時間が無い。どうする? このままだと」

「何か手を打たなければならないぞ。私はこの状況を見過ごすのは反対だ」


「ワン、もちろん、見過ごすなんて選択肢は無いさ。

 表の人々だけでなく、アンダーワールドの住人も運命共同体だからね。

 ……猶予もなく、俺達だけではとてもじゃないが戦えない。

 残された道はあれしか無い」

「カイ、『断片』のもう片方を取りに行くのかい?」

「そうだ。あれが有ったとしてもその後に時間と天運が必要だ。

 だがあれ無くしてもはや道がない」

「私はいつでも準備は出来ている」


「カイさん! 到着しましたよ?」


 操縦席からの通信が入り、カイ達は会話を中断した。

 カムイとユリカも連絡を聞いてカイ達の元へ集まってくる。


「よし、ハッチを開けて、被害者たちをアンダーワールドの病院へ連れて行くぞ」

「了解しました」

「カムイさん、ユリカさん、君達には迎えを呼んでいる。

 付いて来てくれ」


 カムイとユリカはカイに案内されて潜水艦のハッチから外へ出た。

 コンクリート製の地下鉄駅のようなプラットフォームに降りると一人の女性が歩み寄る。

 身長は160ほど、赤いセミロングの髪の20代ほどの芯の強そうな女性である。

 片目にだけルビーのように輝くバイザーを装着している。

 そして首までビッチリとした黒いゴム製のダイバースーツのようなものを付けており、背中には刀のようなものを装着している。

 カイはその女性を手招きして紹介をした。


「彼女はネリ。アンダーワールドの自警団の一人だ。

 彼女が君達を『訳あり逃亡者の居住区画』へ案内してくれる。

 ネリ、この二人が例の人物、カムイさんとユリカさんだ」

「よろしくお願いします」

「よろしく」

「……遅れずに付いてきなさい。ここで迷えば永久に出られなくなるわ」


 カムイ達はカイに別れを告げると足早にあるくネリの後を追った。

 しばらくコンクリート製の廊下、剥き出しのパイプだらけの通路や階段を移動すると、ネリはズンズンと腰まで浸かるような水路に降りて進む。


「ちょ、ちょっと待って、ここを進むの?」

「そうよ? はやくしなさい。置いていくわよ?」

「マジですか……」


 カムイはユリカの手をとって水路へ降り、慎重に進む。


「ひゃぁっ! 今足に何か触った!」

「別に驚くもんじゃないわ。ここは海に直結した海水路。魚が泳いでいるのよ。急ぎなさい」

「まぁまぁ、あんまり慌てると足を滑らせて溺れるぞ?

 膝までの深さの川でだって溺れることがあるんだ」

「なぜそんなに急ぐんですか?」


 ネリはイライラし始めながら答えた。


「ここを渡りきったら教えるわ」

「……そ、そうか。人喰鮫がよく泳いでるとかだったりしてな。はっはっは」

「変な冗談はやめて下さい」


 ゆっくりと流れる水路の下流の遠くを眺めていたネリは、すっと背中から刀を抜いて構えた。

 刀身に伸びる電飾のラインの発光が、青から赤へと変わり、高周波音が響き始める。

 そしてネリは下流へと数歩進んだ。


「……おいおい、冗談だろ」


 ネリは素早く刀を軽く振って水中の何かを切断した。

 切り後の水中からは無数の気泡が浮かび上がる。

 この刀は高周波振動による切れ味上昇効果を持つ特殊素材の刀であり、水中では刀身の刃先から無数の気泡を出すことで水による抵抗をほとんど無くす機能がある。

 水中では銃弾も数メートル進む前に水の抵抗で停止して威力を失う。

 アンダーワールドの住人が好んで使う武器の一つがこの高周波ブレードである。


 水面には体の中心で真っ二つに切断された、3メートルほどのサメの死体が浮かび上がり、下流へと流れていった。


「……まじかよ……」

「急ぎなさい。今ので血の匂いを嗅いでもっと集まってくるわ」


 カムイとユリカは急いで水路を進み、対岸のコンクリートの床へと這い上がった。

 ネリはさらに足早に先へと進む。

 1時間ほど歩くと壁の張られていない、鉄筋剥き出しの建造中のビル内部のような場所に出た。

 何人もの人々があちこちで集まり、雑談したりドラム缶で何かを燃やして暖を取っている。


「ネリじゃねーか。何だ後ろの二人は? 新入りか?」


 その場の人が話しかけるがネリは無視して進む。

 カムイ達もネリに続いて進む。


「相変わらずだなあのネェチャンは」

「まぁ変な奴はいっぱい居るさ」


 ネリはさらに進み、比較的近代的なホテルの1フロアのような場所へと辿り着いた。

 そこには加代が長椅子に腰掛けて待っていた。


「お母さん! お母さーーん!」

「ユリカっ! 無事で良かったわ」


 ユリカと加代は立ち上がって抱き合う。

 それを眺めながらカムイはネリに聞いた。


「ここに居る連中は安全なのか?」

「ええ。ここは重犯罪者や無法者達がたむろする区画からは遠くはなれているし、私達自警団の本部に近く、見回りもよく通るわ」

「政治犯みたいな人達があつまるのか?」

「そういう人達も居るわね。ここはアンダーワールドの中でもVIP扱いの場所よ」

「へぇ。ところで君はカイの仲間、レジスタンスのメンバーなのかい?」

「よく人を匿うのを頼まれるし、時々お礼として物資の支援を貰えるけど、基本は向こうからの一方通行ね。

 こちらから連絡を取る手段も知らないわ。

 まぁ、それが彼らなりの思いやりなのかもね」

「レジスタンスはアンダーワールドではどういう存在なんだ?」

「基本は他人、興味はないわ。ただし大きな問題が有った時、特に人道的に許されないような個人や小さな集団がどうにも出来ない問題が有った時は、彼らが助けてくれる事があるのよ。

 この世界の最後の法律執行機関みたいなものね。

 アンダーワールドでは彼らは好印象を持たれている。

 だから人々は協力的よ」

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