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2115年、アンドロイドの救世主  作者: レブナント
ACT3 レジスタンス組織
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第一話「壇ノ浦海食洞窟内の寺院」

「ええぇ? ここ通行止めなの?」

「すいませんねぇ。今水道管の工事中なんですよ。

 迂回路は1ブロック大回りしないと行けないけど、この電脳遊戯館の中を通って、エレバーターで5階まで上がってから反対側に抜けると近道できますよ」

「仕方が無いなぁ。こういう所あまり通りたくないんだけど……」


 小さな鞄を持った若い女性が通行止めのホログラムの壁を避けてビルの中へと入った。

 彼女の名はユリカ、女子大生である。

 通学中、しかも遅刻して急いでいる時にこの不運である。

 ユリカは電脳遊戯館の中に入って周囲を見回す。

 猛烈なタバコの匂い、騒音の中、まるで養鶏場の鶏の檻のように4階にまで立ち並んだ台にびっしりと人が向き合って座っている。

 全員がVRデバイスを装着し、台に一つだけ付いているボタンを押し続けている。

 狼狽えるユリカに店員が近づいて話しかけた。


「お客さん、いい台が空いてますよ。案内しましょうか?」

「ごめんなさい。それはいいわ。

 それよりエレベーターはどこですか?」


 店員の目が一瞬すさんだ光を発したようにユリカは感じた。


「あちらですお嬢さん」


 店員が指差す方向に一つのエレベーターがあった。

 ユリカはそのエレベーターに乗り込み、5階のボタンを押す。

 ゆっくりと上昇するエレベーターの中でユリカはぼんやりとちょっとした違和感に思いを巡らせていた。


(そう言えば公共工事や事故が原因の通行止めでは携帯情報デバイスのインフォメーションに知らせが出て、迂回路を表示するはず。

 今日はそんなのが無かったわ)


 エレベーターは5Fを超えたが止まらない。

 ユリカは焦り始めて「開く」ボタンを連打し始めた。

 エレベーターが最上階である30階を超えてしばらく進むと、ポンと大きな部屋のど真ん中に出た。

 このエレベーターの籠はほとんどが透明金属で出来ており、周囲が見渡せる。

 何人もの男が椅子に座ってユリカが閉じ込められた籠を取り囲んでいる。

 何人かが隣と話し始め、一人が近づいてきて言った。


「どうされました? 大丈夫ですか?」

「大丈夫じゃないわよ。なんなのここ。エレベーターから出してくれない?」

「エレベーターが故障したみたいですね。中で少々お待ち下さい。

 ……オーケー。1階にお送りしますね」

「ふざけないでよ。なんでまた1階に戻るのよ!」


 問答無用で今度はエレベーターが下降を始める。

 そして1Fを超えてまだ地下に突き進む。

 ユリカはこの日以降姿を消した。



 半分海水で満たされた幅30メートル、高さ10メートルほどの洞窟の中を屋形船が電飾を光らせながら進んでいた。

 洞窟は天然の鍾乳洞だが、トンネルのように点々とライトが天井側面に取り付けてある。

 波は穏やかで、屋形船から釣り竿を垂らしている客が何人か居る。

 一人の客が大きな当たりを引いていた。


「来たっ! 来たぞっ! これは大きいっ!」


 客は注目する他の客の視線を心地よく感じながらリールを巻いて引き上げる。

 連れたのはアンコウのような深海魚であった。


「うわっ、大物だけども……なんだこの魚。食べれるのか?」」


 座布団であぐらをかいてグラスに入ったドリンクを飲んでいた男が答えた。

 男は黒いロングコートを着ており、髪の毛は歩くときに地面をこするんではないかというほど長く、間隔を開けて紐で縛って後ろで一つに束ねている。

 片腕はびっしりと時計のようなデバイスが装着されていた。

 男の名はカムイという(短編の2110年、百鬼夜行と怨霊ハンター参照)


「多分皆普段食べてるさ。 加工されて気付かないだけだね。

 今時は一世紀前のようなタイやヒラメの天然魚が海に生存しているかすら怪しいよ。」

「最近は手足や歯の生えた魚や、カッパみたいな生き物が生息域を広げているらしいからねぇ。まだ魚っぽい外見なだけ、当たりだよ」


 ここは山口県にある壇ノ浦海食洞窟である。

 2045年に初めて発見された洞窟であり、何キロも半分海水に使った鍾乳洞が続き、奥のほうでは左右に洞窟が掘り進められて寺院が作られていた。

 寺院が作られたのは推定で1100~1200年の間。

 この時代にまで未発見の歴史的遺物が残っていたことに人々は驚き、当時はその神秘性故に連日ニュースとなった。

 そして今では山口県でもっとも有名な観光地となったのである。


(左側の洞穴の壁をご覧下さい。洞穴を繰り抜いて作られた小型のお堂、海洋地蔵尊の祀られた壇ノ浦海洋寺48堂の一つ、平家蟹堂でございます)


 観光案内の音声が流れる中、カムイも顔だけ左に向けて眺める。

 お堂には幾つものランタンのようなものが灯されて、蝋燭の炎も無数に灯っている。

 この洞窟内に存在する寺院やお堂は尽く金箔での装飾が施され、光の効果もあって幻想的な雰囲気を醸し出していた。


「……そろそろか……」


 カムイは立ち上がり、屋形船の操作室へと入っていく。

 船長らしき男が振り向いてカムイを見ると話しかけた。


「……ああ、そうだったね。今から行くのかい?」

「ここらでよろしく頼むよ」

「ほれ、キーデバイス持ってたら出しな」


 カムイはポケットから小型のキーホルダーのようなものを出した。

 中にはまったく彫りも刻みもないのっぺらぼうなキーが一つだけ付いている。

 船長はキーデバイスを受け取って船の装置にしばらくかざし、カムイに返した。


「キー情報を入れたぞ。 奥のトイレの隣のドアから出たらゴムボートが容易してある。

 気を付けろよ。この暗闇の洞穴の海で溺れたって誰も気が付かないだろうからな」

「ありがとう。これはほんの気持ちだ」


 カムイはクレジットデバイスを取り出し、船長が慌てて取り出したデバイスに向けるとNew Yenをいくらか受け渡した。


 屋形船から一人、洞窟の中の海上にボートで取り残されたカムイは平家蟹堂から洞窟の壁を伝ってボートを進ませた。

 ライトで壁面を照らし、X線デバイスを確認しながら慎重に進む。

 ある場所でボートを停止させて呟く。


「情報通りだな。 ……さて、問題はこれからだ」


 カムイはマルチツールを取り出すと壁面に巧妙に隠されたキーパネルのハッキングを試みた。

 が、一瞬でロックが解除され、……いや既に解除されていたのだが、洞窟の壁面がゆっくりと動いて開き始めた。

 更に横道の洞窟が続いており、カムイは静かにボートを走らせる。

 拾い空間に出て、一段高くなった地面の先に観光パンフレットにも載っていない巨大な寺院が有った。

 カムイは拳銃P-99ナイトバーストを構えて陸に上がり、即座に物陰に身を寄せて中を伺う。

 地面には何人かの黒服の男たちが死体となって倒れていた。

 銃撃があったようである。

 カムイは慎重に様子を伺いながら寺院の中へと入る。


 カムイはこの時代の探偵兼バウンティハンター、冒頭のユリカ失踪の調査依頼を母親から受け、結果ここへと辿り着いた。

 この隠された寺院は政界の大物も利用すると噂の非合法の娼館らしい。

 スラムで様々な事件に関わる裏の世界の住人からの情報である。

 そこでは人身売買だけでなく、娯楽目的での殺人や拷問すら行われていると言う。

 だが先客が居るのはカムイにも予想外であった。

 倒れている黒服はこの娼館の護衛のようだ。


 (抗争か? 暗殺か?)


 カムイはさらに奥へと潜入する。

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