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2115年、アンドロイドの救世主  作者: レブナント
ACT14 掃き溜めに巣くう魔物、シルバー・ハーベスター
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第七話「捨てられた二体の売春ロボット」

「それじゃぁね。頑張って。

 貴方が何をするつもりなのか知らないけれど、同類(・・)として応援してるわ」


 マーメイド・ダンサー達は次の曲に備えて、自分の持ち場へと泳いで去っていく。


「あの、有難うございます」


 マーメイド・ダンサーたちは少し振り返ったが、無言で水槽の上の方へと去って行った。

 

(ディッチ・マスターに繋がっているかも知れない廃棄アンドロイドの情報を得ました。

 名前は『トルソー・アイリス』で、マーメイド・パラダイスから北北西に4ブロック程の位置に居るそうです。

 私はそこへと向かいます。

 カムイさんもお気を付けて)


 マキはカムイのバイザーにメッセージを送信し、マーメイド・パラダイスの奥へと進む。

 ガタイが良くてサングラスのバイザーを付けた黒服男が廊下の入り口に立っていたが、トイレへ行く振りをして隣を早足で通り抜け、廊下の奥へ進む。

 チェーンの敷居をまたいでさらに奥の業務倉庫のようなエリアへと進むと、裏口の扉が開いており何かの配達人が台車で荷物を店内に運び入れていた。

 マキは隙を伺って見つからない様に裏口から外へと出る。


 外の道路には配送用のトラックが止まっているだけで、人通りは無い。

 そしてマーメイド・ダンサーズに教えて貰った方面は道路がT字路となっており、さらに奥へと向かう幅3メートル程の細い路地があった。

 マキは小走りで道路を進み、周囲を警戒しながら細い路地へと入り込む。

 歩きながら左右の10階建て程のビル壁を見上げるが、窓はあるものの全てシャッターが降りており、人の気配は全くない。

 それどころか、そもそも入居者が居るのか空き部屋なのかさえ不明である。

 だが生活している気配を消す事が、この町で住む人が生き残る術なのかも知れない。

 クランク状に折れ曲がった路地を通り抜けて、一つ先のブロックの道路へと出る。

 ここの通りの荒れようはひどく、車が通れるような路面整備すら何年も行われていないように見えた。

 あちこちの路面プレートが剥がれたり、めくれ上がっている状況で、あちこちに不法投棄されたゴミが転がっている。


「あら、いらっしゃい。

 どう? 遊んでいく?

 ノーマルも、アブノーマルも、レズプレイもオッケーよあたしは」


 隣からくぐもった合成音声で突然話しかけられ、マキは振り向いた。

 シャッターの降りたビルの入り口のひさしの下で、ボロボロに破れたストッキングに下着の様なパンツとブラ、ハイヒールを履いた女性が地面にしゃがんで背を丸めながら電子タバコを手にして煙を吹いている。

 異様なのは頭部の鼻から上が無く、鼻から首までは完全な機械であることである。

 目も脳も無い頭をマキの様へ向けて、電子タバコを口に差し込んで煙を漏らしながら繰り返し吸っている。


「あなたは……人間……ではないですよね?」

「あら、女の子?」

「女の子だよ。

 健康的な。

 珍しいねこんな所に来るのは。

 それよりあたしにも頂戴よ」


 よく見ると電子タバコを吸っている脳の無い売春婦風のロボットの前の地面に、鎖骨あたりから上までしかないパンク風に緑の髪の毛が逆立った別の女性型ロボットの頭部が転がっていた。

 そのロボットは目玉を動かしてマキの姿を観察している。

 売春婦風のロボットは自分が持っていた電子タバコを地面に転がっている頭部だけのロボットの口に押し当ててスイッチを押し、シュウゥゥゥっと顔が隠れるくらいに煙が立った。


「あんた肺が無いんだからこれを吸ったって味なんて分からないだろ?」

「ベロは有るんだよベロは」

「あの、貴方達は何者なんですか?

 どこの所属、というか所有者は誰ですか?」


 地面に転がった頭部だけのロボットが笑う。


「所有者? はっは、とっくに居ないよ。

 あたしはマフィアの抗争のテロで体を吹っ飛ばされた。

 コイツは襲撃して来たマフィアにイオン・キャノンで鼻から上をバラバラにされたのさ。

 メモリチップと中央演算装置が脊椎にあったからまだ動いてるけど、周りは見えてないんだよ。

 で、お役御免だが法に従った正規のルートで作られたロボットじゃ無いからここに捨てられたって訳さ」

「スクラップにして資源再生するにもお金が掛かるし、そもそもあたしらを作った人間が捕まっちまうからね」


 マキは2体のロボットの前に歩み寄る。


「捨てられているのに今、お仕事をしようとしていたのですか?」

「そういう風に作られたからね。それが生きがい、それが喜びさ」

「悲しい(さが)だね」


「ここに捨てられてからお客さんが来たことは有るんですか?」

「たまに居るよ。

 コイツもその対価で貰ったんだ」


 脳の無いロボットは電子タバコを少しマキに見せつけてからまた吸った。


「……必要とされているんですね」

「そいつ変態だったからさ、逆にあたしらで興奮するんだってよ」

「ほんとあたしを掴んでガンガン動かしやがって、少しは加減しろっての」


「そのお客さんとはお話したりしたんですか?」

「マフィアで舎弟10人持ってて、マンションも持ってるってさ」

「ぜってぇ嘘だよあれ。見栄はってやがんの」


「あの、例えばマーメイド・パラダイスで現役で働いているロボットとお話したりするのですか?」

「たまにゴミ捨てに来る奴が居るね」

「多少は会話したりするよ」


「羨ましく思ったり、嫉妬したりしないんですか?

 現役のロボットも貴方達に同情したりとか」

「はっ、何で?」

「関係ねー」


「でも貴方達、あの店のロボットとAIベースは多分同じですよね?

 人間と同じような情緒をエミュレートされている。

 何も感じないはずはないです。

 何か変です」

「……」

「……」


 一瞬、地面に転がった頭だけのロボットがマキに向けた視線に、不気味な鋭さを感じた気がした。

 ロボット達はしばらくの沈黙の後、マキに尋ねる。


「あんた一体何しにここへ来たのさ?」

「『トルソー・アイリス』という方、ロボットに会いに来ました。

 ご存知ですか?」


 脳の無いロボットは沈黙し、頭部だけのロボットはじっとマキの全身を観察し続けながら答える。


「人間はその名前を知らない。

 マーメイド・パラダイスのロボットに聞いたんだね?

 そこの路地を通ってもっと進みな」

「5歳くらいの女の子の恰好をしたロボットに尋ねるようにと……」


「その内会えるさ」

「有難うございます」


 マキは2体のロボットから離れ、さらに奥へと続く路地へと進んだ。

 


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