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2115年、アンドロイドの救世主  作者: レブナント
ACT14 掃き溜めに巣くう魔物、シルバー・ハーベスター
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第五話「ナイトクラブ『マーメイド・パラダイス』」

 マキとカムイは、道を一つ挟んだ先にあるナイトクラブ『マーメイド・パラダイス』の入り口を眺めていた。

 店舗は5階建て程のビルであり、煌びやかなネオンと共にホログラムの人魚がビルの壁際や上を優雅に泳いでいる。

 降り続ける雨が道路に薄い皮膜を作り、そこがネオンの光を乱反射させて薄暗い中でよりこのナイトクラブを輝かせて見えた。

 そして大勢の人々が出入りする様子が見える。

 シリコンコートを羽織って駆け込む着飾った若い女性、地上用のエレクトリックカーを止めて、そこから入口に消えるカップル。

 エレクトリックカーも自動運転で雨の中、勝手に立ち去って行く。

 目的地を前にして足を止めたカムイに、マキは尋ねた。


「どうしたんですか? 行かないんですか?」

「ここからは分かれて行こう。

 俺がまず一人で先に入るから、マキちゃんは俺が入り終わってから来るんだ。

 会計用の電子決済デバイスを渡しておくよ」


「一人で? どうしてですか?」

「俺達はここに情報収集に来たんだ。

 カップルだと思われると、クラブ内で他の人から声を掛けられにくくなるし自由に動き辛くなる。

 逆に独り身だと思われると何もしなくても声を掛けられるだろう。

 マキちゃんなら特にね」


「分かりました。 私はどう振舞えばよいのでしょうか?」

「寄って来る男に関しては有用な情報が取れそうと思えなければ適当に断ってあしらえばいい。

 多分あまりにしつこい奴が居れば黒服のボーイに言えば助けて貰えるさ。

 お互いの緊急時用のラインは繋がるね?」


 ピピッ


 即座にカムイの服の内ポケットに入れたインフォメーションデバイスが音を発した。

 カムイはそれを取って目に付けると、デバイスからマキの声が響く。


(大丈夫です)


「よし、それではまず俺が行くからな。


 カムイは小走りで道路を横断し、『マーメイド・パラダイス』の入り口へと消えた。


 ***


 カムイが入って数分後、マキも道路を横断して『マーメイド・パラダイス』の入り口へと入る。

 2メートルほどしかない通路を進むとすぐに閉じたスライドドアで足止めされた。

 通路の左側には窓口があり、中から太い腕に入れ墨を入れたスキンヘッドで筋肉質の男がマキに話しかける。


「お嬢ちゃんなら入場料は100NY、ドリンク代その他で100NYだ。

 必要なら男性コンパニオン・ロボットも付けるが?

 その時はまた追加料金になる」

「コンパニオンは不要です」


 マキはカムイから受け取ったスティック型の電子決済デバイスを差し出すと、受付の男は机にいくつか並んでいる受信機から一つ選んで取り出し、カチッとデバイス同士タッチさせる。

 マキのデバイスは即座に音声を再生した。


(200NYの引き落としです。承認されますか?)

「承認します」

(200NYの引き落としが完了致しました)


 受付の男は手元のディスプレイをチラ見すると、タッチスクリーンに触れる。


 カシャ――


 奥へと続くスライドドアが開いた。

 受付の男はドアの開いた通路を指し示す。


「マーメイド・パラダイスへようこそ。

 楽しい夜を」


 マキは通路の奥へと進んだ。

 中はビルの1F~3Fをくり抜いたような大きなホールになっていた。

 中央には直径30メートルほど、高さ1メートルほどのサークル状の平坦なダンスフロアとなっており、奥の方はショーが行われるような高台があり、今は大きなボール状のホログラムの中で一人の男が背もたれ式の椅子に深く腰掛けて半分寝たような状態で浮き上がり、手足をリズミカルに動かして音楽や歌の再生を行っている。

 ダンスフロアの左右には厚さ2メートル、幅20メートル、高さは遥か天井の上まで続く巨大な水槽があり、中で殆ど全裸の女性達が髪の毛を水中に広げながら優雅に泳ぎながらダンスをしている。

 周囲を見回して観察すると、カムイはホールの右、中二階にあるテーブル席で既に女生と同じ机の前でソファーに腰かけて語り合っていた。

 中には大勢の男女が激しく点滅して移り変わるカラフルなライトの中、お酒を飲んだりダンスをしている。

 マキは階段を降りて一番下のフロアーに出ると、人々の間をすり抜けながら最初に気になった水槽の中のマーメイド、ダンサーの元へと歩み寄った。

 ダンサーはほぼ全裸の状態で何度も音楽に合わせて手足を動かし、グルングルンと横回転したり宙返りを器用に繰り返す。

 ダンスがひと段落したところでマキが注目していたダンサーが泳いでマキに近寄り、正面から見つめあいながらコンコンとガラスを叩いた。


「ハァイ!

 私のダンスがそんなに気に入ったのかしら?」

「貴方は人間では有りませんね?」


「ハイハイ、初めて来た客に良く聞かれるわ。

 人間なわけ無いでしょう?

 もし私達が人間だったら、息が続かなくて溺れ死んでるわ」

「何故、裸で踊っているのですか?」


「プッ。

 なぁに? この()

 おかしなこと聞くわねぇ」


 その様子を見て、同じ水槽内に居た別のマーメイド・ダンサーもマキに泳いで近づく。

 最初に話しかけたダンサーはマキを指さしながら同僚ダンサーに言った。


「ちょっと可愛いなぁと思って近寄ってみたら、この()、変なのよ。

 なぜ裸で踊るのかって」

「へぇっ、ねぇお嬢さん。

 むしろ先にこう聞くべきじゃ無いの?

 何故、ここの人たちはお酒を飲んで踊っているのか?

 ってね」

「そう言えば……何故でしょう?」


「「あっはっはっはっは!」」


 二人のマーメイド・ダンサーは同時に大笑いした。

 きょとんとしたマキに最初のダンサーが言った。


「ここは未成年は禁止よ?」


 同僚のダンサーがもう一人に耳打ちする。


「この()、多分私達と同じよ」

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