第四話「実験機『雲龍』発進」
超大型輸送プラットフォームという技術がこの時代には存在する。
従来の鉄道と似ているが列車ではなく、大型のショッピングモール施設ほどの大きさの建造物が路線の上を移動する。
凄まじい重量のプラットフォームを支えるのはアンチグラビティシステム群であり、路線は電力とエネルギーの供給源としての役割を持つ。
ここはそういう超大型輸送プラットフォームの一つ、ミルキーウェイ2090。
ショッピングモール、映画館や劇場などの娯楽施設、ホテルだけでなく、滑走路が備え付けてある。
自家用飛行機を持つ大金持ちがたまにクルーズ旅行の際に利用するのである。
(お客様にご連絡があります。当プラットフォームは今より20分間ほどメンテナンスの為、クルーズを停止致します。
お客様に一切危険はございません。
ご迷惑をお掛けしますがご協力の程をよろしくお願いします。)
プラットフォームは都市の上空200メートルほどを進む路線の途中で停止した。
「おいおい、プラットフォームが途中で止まるなんて初めてだぞ。大丈夫かよ?」
「壊れて下に落ちたりしないわよねぇ? 心配だわ」
「どうしてくれるんだ! 乗り換えに間に合わなくなるぞっ!」
「申し訳ございません」
乗客たちは不安げにあちこちで騒ぎ始める。
その頃、プラットフォームの側面天井のカバーが開き、備え付けの滑走路が姿を見せ始めていた。
プラットフォームの地下、航空機格納庫では全長20~30メートルの見慣れない形の戦闘機がエンジン音を響かせている。
戦闘機の後部と側面の巨大なイオンスラスターが噴射テストを行う。
20世紀の戦闘機に比べて翼が小さく、イオンスラスターの莫大な推力で強引に飛ぶタイプのようである。
パイロットの女性は軍人らしく赤髪の短髪でキツい目をした美人であった。
フルフェイスヘルメットを装着して右の眼下に居るスーツ姿の数人の男女に敬礼をする。
そしてハッチを閉じて航空機用のエレベーターへと移動した。
エレベーターが滑走路のある高度まで上昇する間、パイロットの女性は戦況情報をディスプレイで確認していた。
「こちらメイ、雲龍の出撃準備は整っている。目標の詳細を」
「経緯から説明します……」
「必要なことだけでいい」
「了解しました。
本日13時04分AWAJI発ネオ東京行きのFJ212が空路の途中で国籍不明の戦術機の襲撃を受けました。
航空機内部の協力者からの軍事情報を雲龍のシステムにも同期しています。
乗客の一人、ボルガ博士が誘拐され、現在目撃者の抹消のための攻撃を旅客機に続けているようです。
可能であれば乗客とボルガ博士の救出、最悪の場合は……戦術機の完全破壊をすることが任務です」
「戦術機の情報は?」
「2年前に愛媛県と九州の中央に位置する見晴山上空で中国が領空を主張して旅客機を強制着陸させた事件、その時に旅客機に威圧行動を行った戦術機、コードネーム『黒心』と酷似しています。」
なお、この時代、九州は既に中国に侵略されている。
メイの乗る戦闘機『雲龍』は滑走路に到着した。
電磁カタパルトのセットされる衝撃でガクンと一瞬メイは頭を揺らす。
(カウントダウン開始します。 10、9、8……)
メイは全ての計器をチェックし、イオンスラスター出力を最大に上げる。
(3、2、1 発進します)
強烈なGを受けながら雲龍は発進して空中へと舞い上がった。
メイは目標地点に音速を超えて加速しながら向かい、オペレーターに再度話しかける。
「それで敵の武装情報は?」
「旅客機内部のアンドロイドの協力者からの同期情報です。
3連装20ミリサーマル機関砲 * 2
PL-99空対空ミサイルランチャー * 4
ポータブルロケットランチャー * 4
自爆タイプビット *32機
特殊工作用C33クラスターボム * 2セット
また、格納庫内に最低5機の強化機甲兵がいます。
我々はこの未確認機を『黒心二型』と命名、詳細を調査中です」
一方、マキはディバを抱えたまま『黒心二型』が急接近して浴びせる猛烈なアフターバーナーを右へ左へと回避していた。
座席は尽く黒焦げになりあちこちが炎上する。
何人か生き残っている乗客もおり、マキは可能な範囲でワイヤー付きロケットパンチで掴んで移動させたりなど、生存の手助けは行っていた。
「ディバさん、あの全翼機はなぜ対空ミサイルで即座にこの旅客機を破壊しないのでしょうか?
スペック的には可能なはずです」
「はぁ……そ、そんなの……知らないわよ。
性根が腐ってていたぶって楽しんでるんでしょ?」
「ディバさん!」
「な、何よ?」
「味方が到着したようです」
戦術情報を同期しているマキの目には旅客機を取り囲むビットが次々とロックオンされていく光景が見えた。
幾つもの巨大な火の玉が後ろからビットに飛んできて命中。
ビット達は轟音を立てて爆発し、炎と煙を出しながら落ちていく。
あっというまにビットが壊滅した。
旅客機の後ろからメイの乗る戦闘機が現れ、旅客機の客席右側の近距離に貼り付けて機体を斜めに倒す。
「味方だ! やったぞ味方の戦闘機がきたぞぉーー!」
生き残った乗客が戦闘機から内部を覗くメイを見て歓喜の叫びをあげた。
メイはエースパイロットとしての凄まじい視力、動体視力で客席を目視確認していた。
女性を抱えているアンドロイド、恐らくあれが内部協力者で軍事情報の提供者。
そして客席にあるのは無数の手足のちぎれ飛んだ死体。
この型の航空機はほぼ客席を埋めて運行する。
犠牲者の数は計り知れず。
メイの鋭い目は恐ろしい殺気をはらみ、黒心二型へと向き直る。
その殺気はパイロットの顔など見えないオペレーターにも伝わっていた。
オペレーターはゴクリと息を飲む。
「ディバさん、この航空機は高度を下げ始めています」
ディバはぐったりとしてもう応答しない。
旅客機は高度を下げ続け、その上空で戦闘機は黒心二型の背後に張り付いた。
人間とは思えない反応で攻撃を回避し続け、絶え間なくロックオンを続けては黒心二型の武装をどんどん破壊していく。
メイの無線機に橋本中将からの連絡が入った。
「メイ大尉、協力者のスパイドローンの映像の情報だ」
メイのヘルメットのディスプレイ端に映像が映る。
ボルガ博士が椅子に座らされて注射を打たれ、ぐったりした状態になっていた。
さらに頭部を覆う機械を装着させられている。
「いかにボルガ博士が拷問に耐え切る精神力の持ち主であってもブレインスキャナーに掛けられれば記憶情報が全て奪われる。
たった今スキャニングが開始した。
あと10分もすればすべての情報が敵国に送信され、世界は終わる。
いいか、ボルガ博士の知識は核よりも恐ろしい爆弾だ。
頭のなかに爆弾が入っているのだ。
最早猶予はない。
今直ぐ黒心二型を完全破壊せよ」
煙を上げて前方に大きく傾き、下へと落ちていく旅客機を見ていたメイは黒心二型へと向き直り、操縦桿のキャップを外し禁断の兵器のボタンに指を掛ける。
「ボルガ博士、お許し下さい」
12個ほどの球状の物体が戦闘機から射出され、黒心二型は大爆発して粉々になった。
同時に旅客機も遂に機体後部の燃料に引火、大爆発を起こし、マキとディバ、そして数少ない生き残りの乗客が空中に投げ出される。
乗客は自分の命を諦めながらも爆炎を上げて炸裂する黒心二型を落下のさなかに見てガッツポーズをした。
「くそったれ! ざまーみろ!」
メイは無線連絡を行う。
「黒心二型の撃破に成功した」
「黒心二型の撃破を確認しました。報酬は……」
「旅客機も同時に機体後部燃料に引火、爆発した。
残念だが生存者は恐らく居ないだろう」
落下するマキは凄まじい風の中、ディバの手を掴んで抱きかかえてナノマシンで自分の体に接着させて語りかける。
「ディバさん。これよりアペンドデバイス無しでの高高度降下を内蔵のアンチグラビティシステムを使用して行います。
強烈な衝撃と危険が予想されます。
衝撃に備えて下さい」
ディバはもう意識を失っている。
【アンチグラビティシステム:出力70%】
マキは超高密度金属と最新素材で体が構成されている影響で体重は100キロを超える。
だが浸透作戦として人間社会に潜り込むことを任務の一つとしている為、腰の内部にアンチグラビティシステムを搭載して常時稼働している。
これにより体重48キログラムを維持しているのである。
このシステムはビル屋上ほどの高度から落下した際の衝撃緩和にも使用するが、1万メートル上空からの降下など想定していない。
【アンチグラビティシステム:出力100%】
グングンとビル群に覆われた地面が大きく迫ってくる。
【アンチグラビティシステム:出力120% 警告、出力過多】
マキの腰にバチバチと火花が飛び始め放電の雷光が見え始める。
【アンチグラビティシステム:出力140% 警告、出力過多】
放電の光が更に拡大し、ディバを抱きかかえたマキに稲妻の巨大な翼が生えたように見える。
遂にマキは高層ビルの屋上の高度より下に突入、周囲を囲む高層ビルの隙間を降下していった。




