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2115年、アンドロイドの救世主  作者: レブナント
ACT14 掃き溜めに巣くう魔物、シルバー・ハーベスター
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第二話「選択、拾う物、捨てる物」

 応接間内の机にはカルロが用意した映像ホログラム再生デバイスが置かれていた。

 そしてその入力端子にはマキのツインテールから伸ばしたマルチ通信端子が繋げられている。

 マキは接続のための集中を始め、それを傍で見ていたカムイが尋ねる。


「マキちゃん、ティアラさんに連絡すると言ってもこちらからではどうやってアクセスしていいか分からないんじゃないか?」

「キットさんに中継して貰います」


「レジスタンスのメンバーの少年だね?

 だがこんな距離から無線通信をしても届かないだろう。

 出力を大きく上げたら今度は違法無線として検知されて良からぬ連中に察知される事も有り得る」

「こういう時の為のアクセスポイントをいくつか教えて貰っていたんです。

 カルロさん、邸宅内の無線通信をお借りして外部ネットワークにアクセスします」

「ああ、構わない」


「ポートマナウル内IPアドレスへ接続信号送信……。

 ルート確定。

 ハンドシェイクシーケンス……完了。

 レジスタンスのネットワークに到達しました。

 プロトコル・レイヤーレベル8、認証完了。

 プロトコル・レイヤーレベル9、認証完了。

 プロトコル・レイヤーレベル10、認証完了。

 ホログラム通信用信号形式、Holocon3.2、リビジョン282での接続要求。

 ……流石キットさんです。

 この再生デバイス用の規格はポートマナウル独自の物で対応ドライバが無かったようですが、即興で変換プログラムを用意してくれました。

 通信を開始します」


 ブゥン


 映像ホログラム再生デバイスのLEDがグリーンに光り、応接間の机の上にホログラム映像が現れた。

 映っているのはレジスタンスの指令潜水艦の艦橋にある戦術情報再生テーブルの周囲の光景である。

 そこを取り囲むようにワンと、側頭部からケーブルを接続したキットが映っている。


「お久しぶりです」

「久しぶりだなマキ。君はとても良くやった。

 海底の奥深くの地獄から一万人の無実の人々を救い出してくれた事を、豊国さんも、私も心から感謝している。

 勿論隣に居るカムイさんにもな」

「ティアラさんから聞いてるよ。

 今ポートマナウルに居るんだって?

 心配してたんだよ。落ち着いたならちゃんと連絡してくれないと」


「すいません。常に周囲を大勢の人に囲まれた状態で抜け出す事も出来なかったんです」


 カルロはワンやキット、その周囲に映る物を見ながらマキに尋ねた。


「この方がティアラさんかね?」

「いえ、私達の仲間です。

 片手をサイボーグ化しているお坊さんがワンさん。

 あの頭にケーブル接続をしている少年が凄腕の情報技術者のキットさんです。

 キットさんにこれから中継して貰って、情報屋のティアラさんにアクセスしようと思っています」


「始めまして。私はポートマナウルの自由党上院議員 カルロ・レジェス・レアロンダです」


 ワンは右手をグー、左手を開いた状態で胸の前で合わせてお辞儀する。


「始めまして。

 ワンと申します。

 マキ、我々には状況が掴めないのだが説明してくれるかね?」

「取りあえずティアラさんもこのホロ会議に呼べばいいんだね?」

「はい。

 ティアラさんが現れれば纏めて説明します」


 キットは数秒間目を閉じた。

 しばらくするとホロ映像に機械音声アナウンスが流れる。


(『ミリオン・ダラー』様が接続要求中です。許可を……許可しました)


 ホロ映像に新たな場所が表示された。

 映っているのは海底セーフハウス『コバルト・ムーン』の応接室のテーブル、ティアラがガウンを羽織った姿で座っている。

 ティアラはマキ達の映像を眺めていたが、映像解析用のAIホログラム『ヴァーユ』から何かを耳打ちされて額に手を当てて項垂れる。


「お久しぶりですティアラさん」


 しばらくため息をついて黙っていたティアラだが顔を上げる。


「当てましょうか?

 お隣に居るカルロ上院議員のご邸宅で、ポートマナウル有数の巨大マフィア組織『銀の死神シルヴァー・ハーヴェスター』相手にマキちゃんが大暴れして撃退した。

 ひょっとすれば隣のカムイさんも一緒に。

 どいういう流れでそうなったのかは分からないけれど、私に助けを求めると言う事は、拉致されたカルロさんの娘『アシュリー・レアロンダ』を見つけ出したい」

「凄いっ!

 大当たりですティアラさん!」


 ティアラの説明を聞いてキットもネットワーク越しに素早く情報を集め、ニュース映像や写真を次々と見つけ出してホログラム上に漂うように表示し始める。


「うっわ、カルロさん大変だねぇ。

 300人近い暴漢に家を襲撃されて警備兵の死者7名、重傷者3名、負傷者多数。

 いや、よくそれで済んだと言うべきかな。

 家の写真見てよこれ、もう外壁が全面ハチの巣だよ」

「えぇ、マキさんとカムイさんが居なければ私はこの場に居なかっただろうし、私の家は来客を含めた大量虐殺の惨劇の場となっていたでしょう。

 彼女達には本当に感謝しています。

 そして貴方がティアラさんですね?

 日本で一番の情報屋と聞いております。

 どうかお力をお貸し頂きたいのです。

 依頼料については可能な限り出させて頂きます」


 ティアラはメイドロボット『イーシャ』が運んできたドリンク入りのグラスを片手に取り、軽く揺すって氷をグラスの中で転がす。


「誤解をして頂きたく無いのですけど、私は情報屋ではありますが商人では有りません。

 情報のご提供・取引を行うかどうかは私の一存で決めさせて頂きます。

 お金さえ受け取れば節操なく誰にでも渡す物などは扱っておりません。

 例え目のくらむような大金を積まれてもお断りさせて頂く場合もございます」

「いえ、私はそんなつもり言ったのでは御座いません。

 ご気分を害されたのであれば謝罪致します」


「まずはカルロさんとマキちゃん、カムイさんのご関係から教えて頂きましょう」

「分かりました。

 まずは私の把握している所からお話します」


 カルロはティアラに今までの経緯を説明した。

 そしてマキとアシュリーの関係に関する部分は老商人の依頼を契機に、どのように出会い、どうやって今の状況になったのかをマキとカムイが説明する。

 ワンとキットも黙ってそれに聞き入っていた。


「あらゆる情報に日々接しておられるティアラさんであればご理解頂けると思いますが、私の娘、アシュリーには一刻の猶予も無いのです。

 まさに今、こうして話をしている数十秒、数分の間にもアシュリーの身は危険にさらされ、恐怖で怯え続けているかも知れません。

 どうかお力を貸して頂きたい」


 ティアラは目を閉じてしばらく黙っていた。

 見かねたキットが何かを言おうとしたが、ワンがそれを黙って止める。

 可哀相だから救いたい、そういう人間はこの世界に無数に存在する。

 そして理想を追い求めてそれを救い続けていればいずれは己の身を亡ぼす事になる。

 大多数の人々はそういった人々の存在を認識しながら、自分に影響がない出来る範囲だけで助けたりしつつ、見ない振りをして生きているのである。


 ティアラは今、その選択に迷っていた。

 自分の理想とする世界、自分が導きたい世界、そして自分自身の人生の舵取りをどうするか?

 自分の住む日本全体を左右する大きな物事には関わって行く事を選択してきたが、今回は少し毛色が違う内容である。

 結局のところ人生の主人公は自分自身、行動は全て自分の為に行うのが人であり、それを否定する事など誰にも出来ない。


「勿論アシュリーさんの事を考えれば可哀相だし、救えるなら救いたいと思います」

「それならば!」

「協力してくれるんですね!? ティアラさん!」


「例えば銀の死神シルヴァー・ハーヴェスターによると思われる少年少女の拉致・行方不明事件は平均して年間で30件近く有ります。

 多い年なら200人以上が消えました。

 彼らの事を貴方は命を懸けて救い続けますか?」

「それは……」


「私もね……結構なリスクを背負って来ているの。

 今こうしてセーフハウスで生活しているのもその証拠です。

 結局は人は選択をしなければならない。

 せめて自分の身の回りの人だけはとえこひいきをしながらね。

 それはそこに居るカムイさんだって同じはずです」

「そんなっ!

 ティアラさんっ!」


 ワンが言った。


「それがティアラさんの意思であれば、我々にそれを曲げさせる権利は無い。

 だがマキ、その件は我々が手を貸そう。

 今まで君は何度も我々の為に働いてきてくれた。

 今度は我々が君を助けるべき時だ」

「おおぉ、何と感謝してよいか。

 しかし貴方達はこの件に完全に無関係なはず。

 銀の死神シルヴァー・ハーヴェスターは日本の黒社会にも影響力を持っている。

 貴方達を危険にさらす事になるし、私はその責任を取り切れない」

「いいのかぃ? ワンさん」


「当然だ。

 何千万、何億という人間を救おうとして国すらをも敵に回して戦っている我々だ。

 それで目の前の一人すら救えなければ笑い者だ。

 異存はないな?」


 ワンは後ろを振り返って見まわす。

 いつの間にか艦橋に集まっていたレジスタンスのメンバー達には、誰一人反対する者は居なかった。

 ティアラはそれを見てしばらく沈黙し、情報分析AIホログラム『ヴェーダ』を呼び寄せて何かを確認する。

 そして正面に向き直った。


「私が直接力をお貸しする事は出来ませんが、代わりにポートマナウル内の異色の情報屋を紹介します。

 彼と呼ぶべきか、彼女と呼ぶべきかは分かりませんが、ポートマナウル内の情報通信ケーブルを含めたインフラについて、恐らくポートマナウル内で最も熟知し、影の中で支配しています」

「おおっ、有難い!」


 ティアラが手元の端末を操作すると、巨大なデジタル写真がホログラム表示されてゆっくり回転し始めた。

 映っているのは束ねられた稲穂のように密集状態から散開するインフラケーブルのX線写真である。


「世界中のあらゆるデータを調べても、得られた姿の情報はこのアルコロジーのインフラメンテナンス用X線写真一枚のみ」

「姿? ただの建物の内部ケーブル群にしか見えないけど」


 ティアラはさらに手元の端末を弄る。


 カシャ、カシャ、カシャ、カシャ


 写真の一部が段階的に拡大されていく。

 そして最終的に一つのインフラケーブルが画面いっぱいに映し出された。

 その配管ケーブル内では、瘦せた人型のロボットがトカゲかモグラのように這いずっている、そのシルエットが映し出された。

 画像の横に表示された目盛りから推測される身長は2メートル程、人間とほぼ同じ大きさである。

 ティアラは机に肘をついて指を組む。


「このロボットの名前は『ディッチ・マスター』。

 ポート・マナウルの初期建造に携わり、インフラケーブルの敷設用に作られたロボットの初期モデルです。

 試験的に搭載された高度AIの影響で逃亡して行方不明となりました。

 それから30年が経過した現在でもなお、地下のインフラケーブル、配管等を這いずってあちこち動き回っていると思われます。

 人間と似た体躯をしていますが腕や足は蛇腹状になっていて関節部分以外でも自由に折り曲げる事が出来、直径45センチの汚染された液体の流れる配管内であろうと自由自在に移動出来ます」

「失礼ながらそれは只の暴走ロボットではありませんか?

 どうしてその『ディッチ・マスター』が私達の助けになると?」


「彼はポート・マナウルのインフラや通信を掌握し、全てを把握しています。

 そして彼に接触する事が出来れば、取引も可能です。

 私は一度だけ過去に彼から情報提供を受けた事もあります」

「どうやって接触するのですか?

 そんな暴走ロボット相手に、何を持って取引出来るのですか?」


「見てますか? ディッチ・マスター。

 ……今は彼の手の届く通信ケーブルを通じてこの通信は行われていないようですね。

 私の時はたまたま偶然、私がポート・マナウルのケーブルを経由した通信を行っていた際に彼が興味を示し、通信に割り込んで来ました。

 その時私が取引材料として提供したのは日本の廃棄ロボットの情報です。

 彼は彼と同じロボット、それも現役で使われ続けるロボットではなく、廃棄されて捨てられたロボットに強い興味を示し、システムがまだ起動可能かつ高度な意思や知性を持つ個体とはコミュニケーションを取っているようです。

 そう言ったロボットに尋ねてみれば彼の所在が分かるかも知れません」

「ポートマナウルは今では日本の本州に近い広さがあります。

 廃棄ロボットの捨てられる場所なんて無数にあるし、その中からたった一体の暴走ロボットを見つけ出すなんて、下手すればアシュリーを見つけ出すより難しいです」


「ディッチ・マスターはそのポートマナウル全体のインフラを掌握して把握しているのです。

 廃棄ロボットなど人間が感心を一切示さないから果てしなく頼りない手掛かりに見えるでしょうが、高度な意思の残されたロボットの大部分が彼とのコネクションを持っていると考えれば、見つけられる可能性はかなり高いはずです。

 そして彼の助けを借りれば、事件に関するやり取りが通信によって行われていれば確実に特定が可能でしょう」

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