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2115年、アンドロイドの救世主  作者: レブナント
ACT2 全翼旅客機の空中爆発事件
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第二話「ウォッチアウトッ! ウォッチアウトッ!」

 「13時04分発、ネオ東京行、全翼型旅客機FJ212にご搭乗の方はそのままX線ゲートをお進み下さい」


 AWAJI国際空港の巨大な建物の中では飛行機の搭乗口へ向かう4本の通路が並び、腰ほどの高さの敷居で句切られている。

 ディバはその内の一本の通路を他の客に混じって足早に歩く。

 X線検査を行うゲートを通り抜けて待合室の自動ドアを開けて中に入る。


「ディバさん! こっちです」


 座席に座っていたマキが手を振ってディバを呼んだ。


「あら、早かったわね」


 この時代は体の一部がサイボーグ化した人間、全身がサイボーク化した人間、さらには完全なロボットなどが普通に生活している。

 その為、それらの乗客は別ルートを通ってチェックを受けるのである。

 量産型のメイドロボなどの有名企業のロボットは安全性の検査は早いが、マキのようなオリジナルのロボットやサイボーグには普通は時間が掛かるのである。


「胸のデジタル階級章のチェックと政府への連絡確認だけで通してくれました」

「マキは特別だからね」


 本来、マキは「危険」なのである。

 人工筋肉だけでも万が一飛行中に暴れ出したら旅客機を墜落させることは容易である。

 だが八菱重工と日本の陸軍省の機密に関わるサイボーグの為特別な待遇を受けていた。

 その為大体のサイボーグの乗客に施される、主要動力の出力を制限するチップの挿入などは免除されていた。


「さぁ、飛行機に乗り込むわよ」

「はい」


 ディバはマキを連れて全翼型旅客機の後部搭乗口に連結されたトンネルを通って進む。

 この時代の平均的な旅客機FJ212はブーメランのような全翼型をしている。

 客席は2300席ほどであり、機体前部に階段状、まるで映画館の客席のようにして並ぶ。

 機体の前面と天井は強化透明アルミの窓だけで出来ており、座席からは前方の風景が丸見えの状態である。

 その為空へと飛び立つ情景、雲の上の情景は素晴らしいものになる。

 ブーメランのような全翼型なので乗客の席も中央でV字型に折れ曲がっているが、ディバとマキが予約した席は中央の最も視界のよいVIP席の後部、一番高い場所である。


「あっ、あれはボルガ博士ではないですか?」

「本当ね」


 少し前をボルガ博士と護衛と思われる黒服の男数人が歩いている。

 ボルガ博士も振り向いてこちらに気が付き、軽く会釈した。

 ディバ達も会釈を返す。

 ボルガ博士達は前方左側に搭乗した。

 乗客が全員着席すると案内アナウンスが流れる。


「これより離陸してから安定飛行に入るまでの間、ベルトが自動で装着されます。ご注意下さい」


 ディバとマキの座る座席からウネる触手のようにベルトが自分から這い出て腰に巻きつき、固定する。


「これより離陸します。乗り物酔いをするお客様、風景が苦手なお客様はお手元の白とグリーンのゼブラ模様のボタンを押して下さい。

 VRデバイスがお客様の視界を覆います」


 全翼型旅客機は滑走を始め、ふわっと浮き上がるとどんどん上昇していく。

 20世紀の旅客機にくらべこれだけの桁違いの客を運べるのは全翼型による効率的な揚力の利用、軽量かつ強靭な素材の開発、浮遊システムによる補助、より効率の良い燃料の開発のためである。


「ご協力ありがとうございます。当機は高度1万メートルで安定飛行に入りました。

 これよりベルトを解除致します。

 機内のご案内についてはお手元のグリーンのボタンをお押し下さい。

 VRと指向性音声、AIシステムにより柔軟に対応させていただきます」


 前方に広がるのは見渡す限りの流れる雲の海である。

 ディバは手慣れた様子でボタンを操作すると近くの機内物資輸送テーブルのランプが点滅し、歩み寄ってコーヒーを受け取り、座席に戻る。


「どう? マキ。

 飛行機に乗ったり、こんなに遠くまで来るのは初めてでしょう?」


 VRの案内情報を高速で操作して情報収集していたマキが答える。


「この世はまだまだ私の知らないことばかりですね。

 ディバさんが居なければ私はまだ何も出来ません。

 ……不安を感じます」

「そう。そう感じているなら貴方はサイボーグ達の中では優秀よ」

「この飛行機への搭乗も他人に全面的に命を預けています。

 乗客は皆パイロットを信頼しているのですね。

 私は不安です」

「航空機の歴史は長いわ。

 ありとあらゆる事故を想定し万全なシステムが構築されているの。

 死ぬ確率は自動車事故よりも低いのよ」

「……ディバさん。今直ぐ私の全兵装のロック解除をお願いします」

「馬鹿ね。大丈夫よ。私が付いているから安心しなさい?」

「私のレーダーが捉えました。

 未確認の大型機と無数のビット(補助の子機、偵察やレーダー機能補助、攻撃補助を行う)がこの航空機に急接近しています。

 航空機の登録信号がありません。

 さっきからこの航空機のパイロットの通信にも応答していません。

 ディバさん。

 この機内は既にデンジャーゾーンです」


 乗客たちがざわめき始めてディバは左右を見回す。

 旅客機の外では小型の黒い全翼機、ビットが後ろから次々と現れて取り囲んでいく。


「ウォッチアウトッ! ウォッチアウトッ!」


 一人の乗客が立ち上がって航空機の後ろ側の天井を指差して叫んだ。

 巨大な黒い全翼機が後方上部から現れて旅客機に伸し掛かるように接近し、ディバ達乗客を黒い陰で覆っていく。



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