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2115年、アンドロイドの救世主  作者: レブナント
ACT12 アトラスの亡者達
112/151

第七話「アトラス・ガーディアン『グラディエーター・プロトタイプ』『コラプス・ゲイザー』『ヒュドラMk.2SP』」

 マキと人間の脳髄を持つロボット達は、アトラスゼロプレート地下をカーゴに乗ったまま移動し、アトラス北西エリアの駅で停車していた。

 ホームの天井から下がったプレートには『農業コロニー中央地下5番駅』と記されている。

 マキは真っ先にカーゴの窓からホームに飛び降りると、振り向いてロボット達に言った。


「私が先行して安全を確認します。

 皆さんは私が呼んだらついて来てください!」


 ホームから続くまっすぐな通路を走り、角を4、5箇所曲がって慎重に様子をうかがうが、全く人の気配はない。

 違和感を感じながらもマキはゼロプレート上に多層構造となっている農業コロニーへ荷物を運搬する巨大な業務用エレベーターの搭乗口へと辿り着いた。

 安全を確認し、ホームへ走り戻って今度はロボット達を引き連れて来る。

 そして後ろで大勢のロボット達がヒソヒソと話し合っている中、壁面のコントロールパネルからエレベーターの制御を奪っていた。


 ビ―― ビ――


 黄色いランプが点滅するとともにエレベーターが動き始め、トラックが2台は並んで入れそうなほど巨大な扉が左右に開いた。

 中は巨大で無機質な円筒形の空間が広がるのみである。


「皆さん! 中に乗って下さい!」

「大丈夫か?

 エレベーターで昇ってドアが開けば武装した連中に囲まれてたりとか考えてる?」


「ダミー映像の可能性は有りますが一応エレベーターの停止可能な全階層のセキュリティカメラの映像は確認しています。

 そしてリスクを言うならば、この鈍重なエレベーターで私と皆さんが分断されてしまう事の方が大きなリスクです。

 万が一問題が発生した場合は私が可能な限り脅威を排除します」

「可能な限り……」

「これしか無いんだよ。

 我々は助けて貰えている事だけでも感謝しなきゃならない。

 よし、皆乗ったな?

 いいよマキさん、上がってくれ」


 エレベーターの扉が閉まり、重い金属音やモーター音と共にゆっくりエレベーターは上昇し始めた。

 ゼロプレートの上に出るとエレベーターの外周の強靭な金属フレームの組み合わさった隙間から、所々設けられた透明な特殊ガラスの窓によって外の海底の様子が見えるようになる。

 エレベーターはいくつもの金属支柱に支えられた巨大な円盤型の建物の中にグングンと上昇して入って行ってはしばらく建物内を進む。

 そして建物の上から抜けてさらに上にある別の巨大な円盤型の建物へ向かう。

 それが5、6回繰り返される。

 その中でマキはロボット達に説明を行った。


「アトラスの農業コロニーは見ての通りに円盤型の巨大な建物が大きいものが4つ、小さなものが3つの合計7つ、少しずつずれて重なった構造になっています。

 全部を共通して貫くのが今皆さんが乗っている業務用エレベーターです。

 しかしそれぞれの円盤一つ一つの中で育てられる作物、それらの維持に使用する物資はこことは違う円盤個別に設けられたエレベーターが地下へと伸びた構造になっています。

 私達が向かうのは上から2番目の小型の建物、名目上は遺伝子合成された麦が栽培されている建物です。

 そこから個別のエレベーターを通じて地下へと降りた場所、そこは地下の他の通路から隔離された空間になっています。

 本来は地下のカーゴから業務用エレベーターにも、建物固有のエレベーターが通じる地下倉庫にも行けるものが大半なのですが、そこだけが一旦上まで大回りして向かわなければならない状態になっています。

 その地下倉庫の存在も公式案内データから除外されている理由。

 それはそこが貴方達同様に、アルコロジー・オオヤマツミの甲26ブロックから拉致された人々が生身の状態で、隠して保管されているからです。

 人数はおよそ4000名。

 脳組織の退化を防ぐために強制的に半覚醒休眠状態で夢を見せられ続け、肉体は電気刺激で筋肉を維持しながら、一人一つの小型金属フレームに固定されて保管されているのです」

「うわぁぁぁ、いやだぁぁ!

 行きたく無いよぅ!」


 話を聞いた途端、ロボットの一人が頭を抱えてへたり込む。

 それを見て隣のロボットがへたり込んだロボットを優しく抱きながらあやす。

 その様子を見ていたロボットがマキに言った。


「我々の内の、どれほどかは知らないが大勢が元々閉じ込められていた場所だろう。

 生きているのに現実を見られない、起きようとしても起きられない、いつまでも続くかのような恐怖の夢から覚めた後、次に見せられるのは貴方の言う地獄の様な光景だ。

 そして何をされるか分からないまま、まぁ結果的にこのような体にされるために運び出され、体を切り刻まれる。

 多くの者がトラウマを持っているはずだ。

 あの場を見たくない者は多いだろう」


 マキは言った。


「私一人で4000人を誘導する事は不可能です。

 全員とは言いませんが協力者が必要です。

 貴方達の居た地獄に、今も囚われ続ける人々。

 貴方達でなければ彼らを救う事は出来ません!

 どうかご協力をお願いします!」

「やるよ。

 俺はやる」

「どうしても駄目だって人は入り口とかで待っていたらいい。

 俺もやるぞ」

「私もやります」


 ロボット達の半数以上が協力を申し出た。


「ありがとう。

 ご協力に感謝致します。

 さぁ、もうすぐ目的の建物に到着します。

 念のため皆さん身を低くしていてください!」


 エレベーターは速度を落とし、重い金属のロック音が周囲で響いた後、ゆっくりと扉が開いた。

 目の前には土では無くセラミック質の多くの溝が彫られた床で、水耕栽培されて育つ麦の平原である。

 高い天井では太陽光の代わりとなる強烈な人工照明が輝いている。

 気温や麦の育成状態、出荷予定などが羅列された巨大情報パネルもぶら下がっている。

 そして畑と天井の中間付近を縦横曲がりくねって走るレールに、メンテナンスや収穫を行う為のロボットアームやコンテナ類がぶら下がっているのがチラホラと見える。

 さらに300メートル程先に目的のエレベーターの乗り口が小さく見えた。

 天声会の信者達やセキュリティロボ等、敵の姿は見当たらない。


「行きましょう。

 あそこに見えるのが目的のエレベーターです」


 マキとロボット達は乗って来たエレベーターの扉から出て歩き始めた。

 突如、情報パネルが暗転し、エバの顔が映し出された。


「恐れを知らぬヴァルキュリア・マキ。

 貴方は天声会を甘く見ていませんか?

 天声会の構成員数は日本の人口の13%に相当します。

 既に一つの宗教を超え、一つの社会、一つの国です。

 そして国は力の行使をする暴力装置を必ず保持しているものです」


 マキは黙って情報パネルに向けて拳を向け、ワイヤード・ロケットパンチで破壊しようと構える。


「可能なら傷の少ないまま貴方を確保したかったのですがとても残念です。

 マキ。

 貴方がここを通る事を予想していたから、足手まといを排除しておいたのです。

 GL-PLT01、GZ-POR、HYDRA2。

 コマンドコード・DSSU・FC097EB・スタート」


 パキンッ

 カチッ

 ガチャッ


 エバの呼びかけの直後、中空を走るレールからつるされたコンテナが3つ、金属音を立てた。

 何かを仕向けてくる。

 そう察したマキはロボット達に叫ぶ。


「皆さん!

 今すぐ元来たエレベーターシャフトの裏側に走って隠れて下さい!」

「急げ!」

「何だ何だ?」

「とにかく急ごう!」


 ロボット達が慌てて逃げている中、コンテナは空中で分解するようにしてはじけ飛び、3体のロボットが地面へと降り立った。

 一体はビキニアーマーを付けてミニスカートをはいたようなデザインの人型ロボット。

 人に例えるなら金髪ウェーブロングの様なケーブル類が頭から生えており、白いセラミック質な顔に付いた二つの目の他に、ゴールドのサークレットに見える物を額に付け、その中央にもセンサーが付いている。

 地面に着地すると同時に少し身を低くして体勢を斜めに変え、両手にブロードソードの様に巨大なヒートブレードを逆手に持ってマキを凝視しながら構えた。


 もう一体は全身が黒の人型ロボットで顔全体が巨大なカメラのレンズの様になっており、大文字に両手両足を開いて立っている。

 武装に見える物は無いが、顔だけでは無く手足にも胴体にも無数のセンサーが搭載されている。


 最後の一体は下半身は人型、上半身はまさに神話に出てくるヒュドラのようにリニアキャノンの砲身が二つ、パルスレーザー砲の砲身が二つ、大口径サーマル丸の砲身が二つ生えた胴体のみがあり、頭や手足は無い。


 エバは言った。


「彼女はアトラスのガーディアン、グラディエーター・プロトタイプ。

 貴方と似たようなコンセプトで設計されたアンドロイド。

 世界に流通している主要な軍用ロボット程度は何体居ようとも相手になりません。

 そしてコラプス・ゲイザーが貴方を観察し、分析して貴方が確実に敗北する行動をグラディエーターにリンクします。

 ヒュドラMk.2SPは世界中の戦場で活躍する戦場の悪魔。

 MERHAM(ミーハム)科技有限公司の主力商品の特別仕様版です。

 単体では貴方に劣るかも知れませんが、的確な狙撃を行うヒュドラMK.2を貴方が攻撃する事は、グラディエーターが決して許さないでしょう。

 さぁ、見せて貰いましょう。

 八菱重工の底力を」

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