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2115年、アンドロイドの救世主  作者: レブナント
ACT11 カルト宗教結社、天声会
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第二十話「ターニングポイント」

 マキとカムイは天通速運の広報課の大石に礼を言って別れ、オフィスエリアを後にした。

 扉を開けて受付の隣から廊下に出ると、受付嬢と雑談を続けていた長峰がこちらを見て声を掛ける。


「おや、水野さんに池上さん。

 お仕事は終わったようですね?」

「はい、お陰様で。

 色々と収穫は多かったです」


「それは良かった。

 そして今は17時過ぎですし今日はもうお休みになられます?

 なんなら今日の予定は終了した事ですし、どうです?

 一緒にどこか飲みに行きませんか?」

「いえ、お誘いは有難いのですが、この後池上と二人でアトラス内を色々見て回る予定なのです。

 勿論観光的な興味もありますが、主に人々の表情や生活風景を生で確認していきたいというまぁ学術研究的な理由が主でして、仕事の一環と言えますかね」


「それなら私がご案内しますよ?」

「いえいえ、さすがにずっと長峰さんの貴重なお時間を拘束し続ける訳にもいきませんし。

 大丈夫、危険そうな所には踏み入れませんよ」


「そうですかぁ……。

 ま、ごゆっくりお楽しみ下さい。

 あ、そうそう、今夜9時にはセントラルタワーの展望台フロアへ来てください。

 強制では無いのですが、天声会の例の集会をアトラス住人が居住ブロック毎に交代で行ってましてね。

 今日の21時は20日ぶりに私のブロックの番なので丁度いいと思いまして。

 これも天のお導きという物。

 ぜひ参加しましょう」

「そうですね、では9時に」


「お待ちしておりますよ。

 それではお気をつけて」


 カムイとマキは長峰と別れ、エレベーターに乗って下へと移動する。

 エレベーター用のチューブ状空間を循環する幾つものカプセル内、その一つの中でカムイと二人きりになったマキが尋ねる。


「何故集会に参加などするのですか?

 私にはリスクが高いだけに思えます」

「天声会の人間はその集会でお互いの結束を固めている。

 信者にとっては信仰上、決して外せない重要な儀式なのさ。

 むしろ断っていた方が大きな疑惑を生んで彼らにマークされる事になっただろう。

 それくらい天声会の信者達にとって『集会参加を断る』という事は異常で異質な、空気をまったく読めてない目立つ行動なんだ。

 そう言うもんなんだよ」


「そうですか。

 カムイさんは参加したことが有るのですか?」

「何度か潜入した事はあるさ。

 で、早速目的の場所の一つについたぞ」


 エレベーターのドアが開き、カムイに続いてマキが外に出る。

 オフィスビル最下層、ゴミ類が集積されるエリア、空調や発電施設があるエリア、エレクトリックカーゴの駅が隣接するひと気のない通路である。

 カムイは持っていた鞄からシリンダー型のデバイスを取り出すとスイッチを入れ、地面に置く。


「きゃぁっ! ゴキブリ!」


 エレクトリックカーゴの駅方面に続く曲がり角で女性の悲鳴が聞こえ、小さなゴキブリが曲がり角から素早く走り出た。

 そして一直線にカムイが置いたシリンダーに向かって走り寄り、その中に自分から入る。

 アトラスに来て初日の夜にマキに手渡し、マキがあちこちでばら撒いたのはこの小さなゴキブリ。

 正確にはゴキブリ型のスパイロボである。

 見た目は普通の小型の素早いゴキブリで、外骨格や筋肉はゴキブリそのもの、ただし中枢神経の代わりにマイクロチップが入っている。

 そして普通のゴキブリ同様に人の髪の毛一本を食えば一週間は活動可能である。

 万が一叩き潰した人がいたとしても、死骸を注意深く顕微鏡で見なければスパイロボだと気が付かないであろう。


「このスパイロボ、どのくらいの情報を収集しているんですか?」

「一日近く経っているからね、完全密閉された閉所以外なら半径300メートルの球状のエリア内をほぼ網羅してマッピングしているだろう。

 さぁ、手早く他のもどんどん回収していくぞ」


 ***


 カムイとマキは一緒にアトラス内を歩き回り、怪しいと見て探りを入れた全箇所のスパイロボを回収した。

 総数20匹中、17匹を回収、3匹は帰還信号に応答無しの為、事故で破損したか、人間に叩き潰されて捨てられたのであろう。

 気が付けば既に20時40分を回っていた。

 二人は慌てて居住リングに戻り、自分たちの部屋へと帰る。

 そして荷物類を置き、部屋を出る。

 先に廊下へ出てマキが待っていると、カムイが遅れて準備を終え、外に出た。

 カムイはドアの床付近と天井付近に親指と人差し指を押し当てる。

 それを見ていたマキが尋ねた。


「カムイさん、何か細い粘着質の糸を張ってますね?

 一体それは何ですか?」

「俺達が集会に行っている間に、人がドアを開ければ糸は千切れる。

 念の為、俺のセンサーさ」


「そんな手段があったんですね。

 今後は私も気を付けるようにします」

「ま、古典的なやり方だがね」


 カムイは糸を張り終えるとマキと一緒にセントラルタワーの展望台フロアへと急いだ。


 ***


 二人が展望台フロアのエレベーターを降りると、エレベーターエリアを監視するように待ち構えていた長峰がすぐさま声を掛けた。


「お待ちしておりましたよ、水野さん、池上さん。

 どうぞこちらへ」


 二人は長峰に連れられ、展望台エリアのペリュトン像のあるフロアへ移動する。

 フロアにはいくつも簡易のテーブルが用意され、その上に飲み物類や菓子類が振舞われていた。

 総勢200人くらいの人が集まり、あちこちで立ち話をしている。

 長峰がカムイとマキの事を近場の人々に紹介し、たわいない会話が交わされる。

 会話は主にカムイが引き受け、マキは下手な発言をしない様に注意しながら適度にうなずいたりほほ笑む程度である。


 しばらくするとブラスバンドの演奏が始まり、人々はドリンクを飲みながらそれを鑑賞する。

 周囲に他の人が近くに居ないタイミングでマキがカムイに尋ねる。


「ただ集まっているだけみたいですね」

「まぁ、後は天声会の幹部が有難いお話とやらをしたり、歌を歌って終了さ。

 歌に関しては周りに合わせて適当に口パクで誤魔化せばいい」


 カムイの言う通り、ブラスバンドの演奏が終わると天声会の紋章が大きく刺繍されたフード付きローブを羽織った男が高台に現れ、設置されたマイクの前に立つ。

 今まで騒がしい程に雑談をしていた人々は一斉に静かになり、起立状態でその男に注目した。

 マキとカムイも周囲に合わせて同じように注目する。

 男はマイクに語り始めた。


「皆さん、本日もお集まり頂きありがとうございます。

 こうしてアトラスでのブロックNの第215回、天声会座談会を無事に開けた事を小川天法様と、偉大なる全能神エバに感謝いたしましょう。

 さて、地上では本日も冷たい北風が吹きすさび、野ウサギがもし今も存在していれば凍えて縮こまって……」


 ザザザザッ!


 話の途中、野ウサギのフレーズが出た瞬間、人々は突如一斉に座り、体操座りになった。

 長峰も同様であり、カムイとマキは反応出来ずに驚くのみ。

 完全に浮いてしまっている。

 数秒間、完全な静寂が流れ、高台のローブの男はカムイとマキを指さして言った。


「おやおや?

 そこの方々、どうかされましたか?」


 立ちっぱなしの二人に全員が注目する。

 カムイは焦りながら答えた。


「申し訳ございません、つい反応が遅れてしまって……」


 長峰も戸惑いながらフォローする。


「お二人共アトラスに昨日初めて来られたばかりなので舞い上がってしまっていただけですよ。

 そうですよね?」

「は、はい。

 すいません」

「そうですか、それならば仕方が有りませんね。

 まぁ次からは気を付けて下さいね」


 いそいそと二人は座り、ローブを着た男の説法が続けられた。

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