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「うむ、私が魔王カイラクスである。」
呆然とする俺達。特にキヤラが顕著で、だがそれも仕方がない。そんな俺達をカイラクスは、悪戯が成功したかのような笑みを浮かべつつ放った第一声がそれだった。
「えっ!?いや、えっ!?」
「これ、陛下の御前である。頭が高いぞ?」
「は!?ははぁ――ッ!!」
「これ宰相、この者達は私の命の恩人だ。それに私自ら招いた客人ぞ?悪戯はほどほどにせよ。」
混乱するキヤラに、カイラクスの横に立っていた少し年を召した偉丈夫が声を掛けて来た。すぐさま平伏するキヤラ。俺とシヤさんはまだ混乱中である。だがそんなキヤラを見て、宰相と呼ばれた偉丈夫もカイラクスもニヨニヨと笑いを耐えていた。悪戯だったようだ。
「ほれ、モーブ・キヤラ殿だったな。楽にしてくれても構わん。キッシュに助けて貰ったのは本当の事じゃしな?」
「くっくっ、すみませんな。この所少しばかり気が立っておりまして……」
カイラクスと宰相の言葉に恐る恐る顔色を窺いながらキヤラが立ち上がった。
「カイラクスって、魔王だった、のか?」
「そうじゃ。と言っても名ばかりじゃがなぁ……」
「陛下、それは……」
真っ赤な絨毯が一面に敷かれ、その中心を真っすぐに走る黄色い絨毯。その先には玉座がある。その玉座に腰かけ、サキュバスの、蝙蝠の様な羽を広げて妖艶に嗤うカイラクスに態々確認した俺だったが、直後にカイラクスの顔が曇った。小声で何か言っていたようだが、俺でも全部は聞き取れなかった。
あの後少しばかり屋台をひやかし、カイラクスが呼んだ馬車に乗せられ、ついた先がここ魔王城である。
「…………」
「シヤさん、我慢……出来ます?」
「すまん、無理だ。だが……」
「ええ、カイラクスの性格を確りと把握した訳ではないんだが……」
魔王であると明かしたカイラクスを鋭く睨み付けるシヤさんに声を掛ける。元々切れ長の鋭いと言える目をしている事と、流石にこれだけ離れていては判らないと思うが、それでも敵意に気付かれては不味いという事で確認口調で諫めた。
シヤさんの忍鬼の里は魔王軍によって壊滅させられた。何とか逃げ出しそれなりの人数は無事だが、それでも恨みがない訳でも無く、ただカイラクスの性格を考えると、無理やり里を壊滅させてまで食料を奪うような真似はしないと思う。
出会って数時間しか経ってはいないいし、こうして目の前で魔王然としている事から腹芸も出来るのだろうが、それでもカイラクスの雰囲気というか、そういう物がお人よしであると告げてくる。
「あれ?でもサキュバスってそんなに力ある種族じゃないんじゃなかったけ?」
「うむ。大概はそうじゃろうな。じゃが、私の様なリリムに近いサキュバスは別じゃ。」
魔族は何よりも実力主義であり、力無き者が魔王の座につく事は出来ない筈。その事に疑問に思い、キヤラにこそっと尋ねれば、聞こえていたのかカイラクスが説明してくれた。
サキュバスは魔族全体から比べれば弱い種族ではある。ハーゲテーナイの様な別格はおいておくとして、だからこそ魔王と呼ばれるカイラクスが不思議であったが、カイラクスはサキュバスの中でリリムに最も近いのだそうだ。
リリムとはサキュバスの始祖とも呼ばれる存在であり、堕天使に分類される初代魔王の妃でもある。子供であるサキュバスやインキュバスとは違い、力が強く魔力も豊富で、使える魔法もまた桁違いと言われている存在である。
(あれ?でも……)
心の中で、つい最近そのリリムと呼ばれた存在が身近に居た様な気がした。
「陛下っ!?」
「よい、私の頭一つで事態を打開できるのであればな。安いもんじゃ!!」
俺が考えている間に事態は進んでいたようで、目の前でカイラクスが頭を下げていた。
「キッシュ、私を助けてくれないだろうか?」




