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3-3

「やめておいた方がいい。」


 ほぼ異口同音に告げられた言葉。俺の持っている食料を売れないかと、ハーゲテーナイとおっちゃんに相談してみれば、一切の間をおかずに注意されたのだ。


「……もし、もしそれなりに余裕があるんだったら、王都の方ならもしかしてって考えられるだろうが。」

「そうね。王都なら食料は有り余っているだろうし、この辺りと違って裕福な家庭も多いから目立たないだろうけど……」

「そこに行くまでに腐っちまうし、そもそもどうやって行くんだよ。関から比べりゃ近いってたって結構な距離があんぞ。……魔王軍や傭兵連中みたいに、ある程度足が優遇されてりゃ、まぁ、判らんでもないが。」


 二人が心配している事は、ここで俺が少量でも一般的な食料を販売し目立つ事で魔王軍に目をつけられるという事。この辺りにある屋台のように、この辺りの森から採れる程度ならば何も問題はなかろうが、俺のイベントリに入っているのは王都でも中々目にしないような高級品なのだそうだ。


 おっちゃんに相談する時に試しにと、ゲームの時に調理クエストで作った『ふんわりパン』を出して見せた時のおっちゃんの驚き具合から俺が結構軽はずみな行動をしていたのだと気付かされた。そしてそれでもこうして注意してくるおっちゃんはいい人なんだろう。


 目立たないように俺の持つ食料を売るのならば、それこそ俺の持つ食料と同等レベルの食料が溢れる王都での販売となる。王都で売るのならば、キッシュの容姿と相まって、王都の何処かの飲食店の手伝い程度に考えられるからだ。


 ただ王都での販売を目的としても、今居るのは魔王が収める大陸の半分のそのちょうど中心部分あたり。真面な交通機関が発達していない以上、移動手段は当然徒歩であり、イベントリに入っているものは時間の経過が無い事を知らない二人はそれでは食料にカビが生え腐ると思っている。


 それは無い事を俺は知っているが、それを告げた所で、余計に目立つからやめておけと言われるだけだろう。


 ちなみに傭兵ギルドに加盟していれば、有事の際に素早く移動する為に飛竜が貸し出される。ただ有事の際には強制徴兵される事から、飛竜が貸し出されるとしても対して旨味があるとは言えない。


 魔人族には自前の翼があるものも少なからず居り、またその身体能力の高さから短時間で結構な距離を移動できるからなのだが、今回の場合流石に自前で移動するのは難しいと言える。


「そっか……、いいアイデアだと思ったんだけどな。」

「まぁな。この辺りの町では魔王軍の強制徴収で慢性的な食糧不足だし、ギルドは傭兵共が食べる分も確保しなきゃならないから、確実に高く売れるだろうがな。」

「傭兵になるって手も無い事も無いけど、それでもキッシュみたいな子供が傭兵なんかになるのを見過ごす訳にもいかないしね。」


 結果的には諦めなければいけない事となったが、それでも食料は売れるという事は覚えておこうと思う。いつか役立つ日が来るかもしれないし、それに目立たずに食料を売れる方法があれば販売することが出来るようになるからな。


 俺は別に傭兵になりたい訳でも無い。英雄と呼ばれたい訳でも無い。出来れば元の姿で、俺として元の世界に帰れたら一番いいが、それが叶わないのならばやはり農耕プレイをしてみたい。


 現実ではただの会社員となってしまった俺だが、農耕にハマったのが高校入学後という、ほとんど人生のレールの上に乗った後の事だったから諦めて家庭菜園程度に抑えていたのだ。確かに、人によっては大学をそっち方面にすればいいという人も居たかもしれない。だが、心の奥底の何処かでは客観的に見ている自分が居て、わざわざ苦労するのか?と囁いていた。


 だが今は違う。帰りたいと思わないのかとも囁いているように思えるが、それ以上にあの荒れた田畑を見て、予想以上にショックを受けるも、俺が耕してやると意気込んでいる自分が居るのだ。


「ほらほらブツブツ言ってないで。お腹も膨れたし、さっさと傭兵を雇いに行きましょう。その方がなによりも健全よ。」

「……言葉に出てた?」

「百面相してたわよ?」


 うわ、すっげぇ恥ずかし。片手で赤くなった顔を隠しながら、先を歩いていくハーゲテーナイの後ろを付いていく。だが決意だけは変わってなかった。


 こっちでは傭兵ギルドと呼ばれるが、人種族の支配地では冒険者ギルドと呼ばれる。では冒険者ギルドと言われて思い浮かべる景色というのはどんなものだろう。


 まずは町中。それも中世ヨーロッパの街並みの、古びたレンガ造りの大きな建物。周りもそれなりに繁栄してと言うのが思い浮かばないだろうか。


 冒険者ギルドも傭兵ギルドも人々の依頼で生計を立てているのだから、それなりに人口の多い町にギルドは立てられる筈だからだ。


 だが目の前の建物は、大きさはイメージ通りだが、周りが無駄に広い。いや正直に言おう。周りに建物も人も居ない。平野にポツンと無駄に巨大な建物が建っている。


「えっと、本当に此処に入んの?」

「そうよ。王都の方じゃそれなりに信頼がある傭兵だけどね。この辺りじゃ嫌われ者よ?だぁあれもこの近くに住みたがらないのよ。」

「……なるほど。」


 思わず本当に此処かとハーゲテーナイに尋ねてしまった。だがこの町の人々の、傭兵に対する印象を聞くと納得してしてしまった。


 傭兵は文字通り命を懸けて戦う連中だ。それも御国の上層部にすれば、体のいい駒。だからこそ士気だけは落とさせないために食事だけは何よりも良い物を食べさせている。


 それが、森に採取しに行かなければその日の食事にも困るような食料事情の町民との間に壁を作り出し、傭兵の中には人の良いものも居るのに差別の原因となっている。


「こんにちわ。」

「あら?珍しいわね、ゲテーナじゃない。」


 ハーゲテーナイがその建物の、両開きになっている扉を押して入っていく。その奥からハーゲテーナイに声が掛かった。


「うおっ!?エロフっ!?って間違えた。エルフ?」

「あ、あのねぇ……」


 そのハーゲテーナイに向かって声を掛けて来た人物を見て、思わず驚きつつ口に出した言葉にハーゲテーナイは脱力し、そのエルフの女性はクスクス笑っている。


 見た目はファンタジーの定番。耳の尖った美人。やせ形で撫で方で、光が水面で反射しているかのような流れる金髪に青い目。見た目的には20代頃ぐらいだろうか。ただただゲームに出て来た知っているエルフと異なっている部分。胸の部分がものすごく大きい。それにエルフの民族衣装だろうか。前から見ると一見ミニのワンピースの様だが横が開いており、所々に結んである紐がなんとも言えない。


「かわいい坊やじゃない。この子、どうしたの?」

「……今度、うちの村に住む事になったキッシュよ。ってか仕事しなさいよ。」

「あら、いいじゃない。今の時間、飲んだくれしかいないのよ?」


 その言葉に周りを見渡せば、役所の様なカウンターの隣。併設された酒場に置かれた丸テーブルで酒を飲みながら談笑したり、カードゲームに興じたりしている、どうみても荒事になれた者達がいた。


「あら?厄介事かしら?」

「えっ!?」


 その奥で何やら騒ぎが起きているようである。ハーゲテーナイの言葉にそちらを向こうとして、咄嗟に飛んできたものを掴み取った。

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