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2.アリスを探せ

 さてさて、幼女二人が仲良くお昼寝している頃。

 別の場所では真っ白な兎耳を生やした青年……白ウサギが森の中を走り回っていました。


「アリス―!ヤマネ―!」


 どうやらあの二人を探しているようですが、まだ見つけられていない模様。

 走り疲れたのか、近くにある切り株に腰掛けました。


「はぁあ。ヤマネにアリスを探してもらうのはやっぱ駄目だったか」


 そう言って、お耳と同じ白い髪をガシガシと掻き毟ります。

 朝起きて朝食を皆で食べた後に「散歩してくる」とだけ言って家を出たアリス。

 お昼になっても帰って来ず、心配になって探しに行こうとしたところで、ヤマネに出くわしました。


「アリスを探しに行ってくる」


 だから大人しく家で待っているんだよ、と続ける前にヤマネが行動に移す方が早かったのです。


「わたしもお手伝いするー!」


 と元気よく言って、止める暇もなくどこかに走り去っていきました。


「まったく、どこに行ったんだか」


 家の庭はもちろん、お城や公爵夫人の家、湖付近まで探しに出たもののどこも外れ。

 最終的に一番厄介なこの森にやって来たのでした。


 この広い森は似たような道が沢山ある上に、決まった順番道理に進まないと違う場所に出ることもあるのです。

 まさに迷路のような森の中。どこに行けばアリス達を見つけられるかわかりません。

 はぁぁ……と大きなため息を吐き、もう一度探しに歩こうかと立ち上がります。


 するとタイミングよく、がさっと茂みが揺れました。


「白ウサギ」


 一瞬、探しているアリス達かと思いましたが、聞こえてきたのは子供よりも低めの落ち着いた声。

 期待を裏切るように現れたのは、帽子を被った男装が良く似合う女性でした。


「帽子屋!アリス達いた?」


 白ウサギに帽子屋と呼ばれた女性は、人差し指を口元に当て「しー」と静かにするよう手振りで伝えます。

 そして、こちらに来るようにと手招きをしました。


 何事だろう、と訝しみつつも白ウサギは先導する帽子屋の後をなるだけ音を立てずに付いて行きます。

 いくつかの道を曲がると、帽子屋は唐突に立ち止まりました。


「行き止まり?」


 白ウサギがそう呟いたのも仕方がありません。

 目の前は木々に阻まれており、通れない事はありませんが人が歩きやすいように整えられた道は無くなっていました。


「そう見えますよね」


 くすっと笑った帽子屋はその場にしゃがみます。そして、一点を指さしました。

 よくよく見るとそこは、上から下がっている枝と葉に隠されているだけで、向う側につながる穴がぽっかり開いています。


 大人が入るには少々狭いそこは、幼子ならば楽に入れるでしょう。

 葉を退かして覗いてみると、少し開けた空間になっており、一つだけ置いてあるベンチの上には人影がありました。


「こんな所に居たのか」


「みたいですね」


 疲れ切った様子で白ウサギが吐息と共に漏らした言葉に、帽子屋はふふっと上品に笑います。


 言うまでもなく、ベンチに座っているのは探しものであるアリスと探す側であったはずのヤマネ。

 ヤマネが忘れやすいことと、どこでも眠れる特技があることは既に白ウサギも知っている事なので咎めるつもりはありません。

 きっとアリスも彼女に肩を貸している内に眠くなってしまったのでしょう。珍しいとも思いつつも年齢とこの陽気を考えると仕方がありません。

 まだまだ二人とも小さな子供。お昼寝は大切です。


「見つかって良かった」


 心底安心したとでもいうような白ウサギに、帽子屋は少し呆れました。

 確かに見つかったのは良かったのですが、アリスがふらっと一人で出歩くのはいつものこと。彼女が出歩く範囲もほぼ決まっていますので、こうやって探せば見つかるのはわかっている筈なのです。

 それなのに少し時間に遅れたくらいで「アリスがいない!」と騒いで探し回るのは、どうなのでしょうか。


 自分だって時間に正確ではない癖に、と帽子屋は冷めた瞳を白ウサギに向けます。


「貴方は過保護ですね」


「だって、まだこの子は幼いし……」


「貴方よりもしっかりした子だと思いますが」


「そうだろう。アリスはしっかり者で頭の良い子なんだ!」


 帽子屋は嫌味を含めて言ったのですが、アリスが褒められたと思った白ウサギは親バカ丸出しで娘自慢に入ろうとしました。

 アリスが良い子だという事は帽子屋だってわかっています。しかし、自分が語るならばともかく、誰かにそれを話し続けられると言うのは鬱陶しい。


「うざい。しつこいとアリスに嫌われるぞ」


 つい言葉を崩してしまいましたが、他に誰もいないのだから良いだろうと帽子屋は開き直りました。


「その内「白ウサギなんて嫌い、近寄らないで」と顔を顰められるようになるのだろうな」


「やめて。無駄に似ている声真似も未来を予言するのも勘弁してくれ」


 自覚をしているのか白ウサギは項垂れます。若干涙目です。

 アリスならば「面倒くさい、過保護」とは言いそうですが、心根の優しいあの子の事。拒絶はしないだろうと思いましたが敢えて訂正せずに帽子屋はため息を吐きました。


「とりあえず、二人はもう少し寝かせてあげましょう」


 まだ暗くなる時間でもないし、この天気では冷えて風邪を引くという事態にもならないでしょう。

 帽子屋からの提案に白ウサギも頷きます。そして、ベンチに座っている二人を見ました。


「可愛い顔しちゃって」


 眠っている二人の姿はとても愛らしいのですが、色々な場所を走り回った身としては少々複雑な気持ちもあります。更に帽子屋からの口撃のせいで彼のハートは傷だらけ。


 けれど、白ウサギは二人を見ながら微笑みを浮かべました。

 穏やかな顔で眠っている姿に、この子達を脅かす事態が起きていなくて良かったと心から思うのです。


「邪魔です、変質者」


 そんな覗きをしたまま動かない白ウサギを、帽子屋はさっさと入れとばかりに後ろから足で押しました。

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