ただ死ぬ話
その三人の若者は、山の神社の御神木の前でそろって杯を仰いだ。
同じ場所で生まれた彼らは、幼い頃から共に学び、遊び、そしていがみ合い、友情を築きあげてきた。
同じ女を好きになり仲間内で喧嘩をしたり、結局その女が教鞭を振るっていた男に取られ、皆で泣いたこと。
海で誰が一番遠くまで泳げるか競争し、沖に戻れなくなり溺れかけたこと。
南国の成人儀式の真似事を行い、崖から飛び降りたこと。
語れば尽きぬ昔話に花が咲き、酒は湯水のごとく飲まれていった。
ふと、皆で空を見上げると、三日月分欠けた月が浮かんでいた。
「ここで月を見るのも最後か。」
ぼそりと一人が呟いた。
地面に杯を置き、何も言わずにぼんやりと月を見る。
天の川の淵には一等星が輝き、何とも言えぬ幻想的な光景を作り上げていた。
誰も、何も口にしなかった。
「帰ってきたらさ、またここで酒を飲もうか。」
「そう、そうだな。またここで、みんなで集まるか。」
「じゃあ、特級酒を用意しとかないとな!」
また、騒いだ。
彼らは夜が更け、朝日が裾野を染め上げるまで騒ぎ続けた。
そして、空の中点に日が昇るころ、黒い煙を吐き出す列車に揺られ、彼は生まれ故郷を後にしたのだった。
数か月ののち、とある噂が近隣の学徒たちに囁かれる様になった。
戦争に行った若者が、神社の御神木の前で酒盛りをしているという話である。
彼らは皆、銃弾と爆薬が雨霰と降る陣地で、戦死している。
ただ、彼らは恨みも辛みも無く、騒いで笑い声をあげているのだ。
町の人々は、そんな彼らの笑い声を、ただ夜毎に聞くだけであった。