言わぬが花
探偵に会うには探偵事務所に行くか、事件に巻き込まれた場合に運が良ければ探偵に出会えるのかもしれない。
「ハンバーガーとごいっしょに探偵はいかがですか」
「あっじゃあお願いします」
「かしこまりました、お時間少々かかりますのであちらの席でお待ちください」
あるいはもしかしたらよく利用してもはや顔見知りに近いファスートフードのお姉さんに勧められるままに探偵を注文した僕のような人物が、探偵と出会うのかもしれない。
「なにかお困りかね」
「探偵さんですか?」
「いかにも、事務所は汚くてね片付くまでは私が依頼人の所に出向くことにしている」
ファーストフードのお姉さんが、ご丁寧にケイタイで呼び出したのは探偵の格好をした少女ではなく、ジャージにサンダルをはいていて、どこか尊大なともすれば探偵っぽく喋っている事以外は、どこからどう見ても女子高生だった。
探偵に見えない少女は今僕の目の前に座り、先程頼んだ僕の食べかけのハンバーガーを頬張っている。
「強いて言えば困ってますね」
「探偵がでてきて解決できるかね」
「探偵がでてこないほうが、解決できたかもしれません」
「警察は色々と面倒だぞ」
あっ察してくれない、探偵さん頑張って推理してください。
今困っているのは君とどう接していいか分からないこの状況だということを自覚してください。
「いや警察がでるまでもないんですよ」
「警察はどうでもいいことには力を尽くしてくれないからな」
「そうです、どうでもいいんですけど困っているんですよ」
「そんな時は探偵に頼るといい」
まぁ頼れないから困っているんですが、探偵がいらないとなるとなんで頼んだんだという事になる。
「さて冗談は此処まで、あっハンバーガーご馳走様」
「いえいえ」
あっなんだ冗談だったのか、女子高生が探偵とかありえないですしね、しかもファーストフードでハンバーガのオマケで探偵を頼んだら本当に来ました、なんてドッキリでもない限りありえない事だしね。
「実は探偵になり立てで初めての依頼人でね、いやぁ本当に依頼人っているんだなぁ」
「そうなんですかぁ本当に探偵なんですねぇ」
「もちろんだ」
冗談じゃなかった、本当に探偵だった。
嬉しそうに笑う女子高生にあいそ笑いをしながら何とか場を取り繕うがこれは言い辛い。
まさかファーストフードで探偵頼んだら本当にきましたなんて言い辛い状況になってしまう。
「そうなんですかぁ」
「それでご依頼は?」
ペットも飼っていないし、探してほしい初恋の人もいない、ストーカー被害に悩まされているわけでもない、探偵に依頼するような事がない状況ですとはいえなかった。
「探偵の助手ってどうなるんですかねぇ」
「探偵に頼めばいいのではないか」
「そうなんですか、依頼というのは探偵さんの助手にしていただけないかなぁと思ったんですよ」
「いいよ丁度キミのような助手が欲しかったし」
断って欲しかったんですとはいえない状況になってしまった。
「えっ素人が探偵助手なんて無理ですよね」
「初めはだれでも素人さ、かくいう私も売れていない趣味がこうじて探偵を始めたばかりだし気にするな」
いえ、あなたファーストフードで追加注文のように売れて、僕としてはまったく探偵に依頼するきがなかったんですとはついに言えず、僕の心の秘密として未来永劫封印しようと思った。
「それじゃあ行こうか」
「どこへ?」
「私の探偵事務所だよ、依頼があったら動けるように待機しないとな」
「ですよねぇ」
流れで探偵助手として働く事となってしまった。
「探偵には探偵助手だ、後はこれで私に足りないのは事件の依頼人だな」
節穴だらけのこの探偵さんなら、僕がこの数十分で抱えた秘密があばかれることも無いだろう。なにせこの探偵さん、推理力とか探偵としての勘というのがもろもろ足りていないのだから。
「そうそう探偵助手になったキミに一つ言う事がある、探偵とストーカーの違いわかるかね」
「全く違う気がしますよ」
「殆んど同じだよ好きな人につきまとうか、仕事でつきまとうかの違いだからね」
「面白い冗談ですね」
「そうか、まぁ長い付き合いになるだろうからよろしく頼むよ」
彼女は笑いながらお店をでて、僕もそれに続くように店を出た。
しかし、何か忘れているような気がする。
なんで今日に限って、ファーストフードのお姉さんは探偵いかがですかなんて聞いたのだろうか。
探偵でもない僕には分かりようもなかった。