一人だけの掃除部Ⅱ
とある学園に存在する特殊な部活動――掃除部。その唯一人の部員である如月芥斗は、今日も元気に部活動に励んでいた。
「あっ! 指紋付いちゃった。また拭かないと。ゴシゴシゴシゴシ」
今磨いているのは年季の入った壺。
自分の指紋でさえ目に見えるかのように、触った部分を声に出しながら擦っていく。
気色の悪い笑みを浮かべながら少年が壺を磨いていると、ガラガラと音を立て教室の扉が開いた。
「ああ! こんな所に居たー!」
大声を出して入ってきたのはポニーテール女子、卯月あやか。
彼女は芥斗の幼馴染であり、今でも共に居ることが多い。
「机の下にスゴイ汚れだ!」
ほぼ物置と化した現在使われていない教室を片っ端から掃除していく。
「もう! 探したんだからね!」
「これはスゴイぞ!」
「全然聞いてないし」
掃除中の彼に話しかけても返事がないことは昔からよくあることだ。
「見て、あやか! 積乱雲級だよ!」
「いや、そんな大きくないでしょ! っていうか気づいてたんだ」
あやかは、はあとため息をつき、ゴキブリのように蠢く幼馴染を呆れた様子で眺める。
「バケツの水がなくなった! あやか汲んできて!」
「何でわたしがっ! ……わかったわよ」
一度は反抗するものの、毎度頼みごとを受けるあやか。
教室を出たあと程なくして戻ってきた。
「ほーら、持ってきたわよ」
「ありがとう! この恩は一生忘れないよ!」
「そんな大層なことしてないし」
このやりとりは常日頃から行われていることだ。
「この積乱雲強い!」
「積乱雲じゃなくて汚れね」
訂正するも彼の耳には届かない。
「こういう時はこれっ!」
鞄の中から何かを取り出す。
「たらららったら~、マジックリン~!」
独特の口調。青い猫型ロボットの真似だ。
「それ似てないからね」
「今のは初代の人の真似だよ。二代目じゃないよ」
「それでも似てないから」
えー、と不満の声を漏らす芥斗。
「もういいよ。速攻でこの教室綺麗にするから」
一度雑巾についた汚れをとり、目を閉じて呼吸を整える。
「すーーーーはーーーー」
そして……。
「うおおおおおおおおお!」
障害物を機敏な動きで回避しながら床を一気に雑巾掛けしていく。
それはどう見てもゴキブリにしか見えないと、あやかは口に手を当て気持ち悪そうに彼を見ていた。
数分後……。
「終わった! タイムは!? ねえ、あやかタイムは!?」
あやかの両肩を掴み前後にがくがくと揺らす。
いい加減うんざりしていた彼女は……。
「知らないわよ!!」
「えーーーー!」
芥斗に怒りをぶつけ教室をあとにした。
「増えないかなー、部員」
今日も彼は切に願うのだった。




