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繋がる世界

昼下がりの室内はとても明るかった。

大嫌いだった人と大好きな人がいるその部屋は、昔住んでいたところ。

ボクとその人たちと三人で、にこにこ笑っていた。


窓からの陽射しが壁際にも届いて、ガラス戸の閉められた棚の中に影を作った。

ぬるりと影が動いた。

ガラス戸は閉まってる。

それなのに隙間から抜け出たその影は見覚えのある形だった。


「おいで」

昔、いつもやってたように呼んだ。

毛皮も鼻も肉球も真っ黒なそのコはてけてけと近付いて、ボクの横にちょこんと座る。

モデル立ちとからかったきれいな姿勢。

ちんまりと愛らしい黒猫は、長くて真っ直ぐなしっぽまで気取ってる。

ボクは両手で、これでもかというくらいわしわしと撫で回した。


「触れる! キミに触れるよ!」

抱き上げて膝に抱くと、満足そうに喉を鳴らして甘えてくれる。

懐かしい温もりと、大嫌いだった人と大好きな人。

ボクは心からの笑顔を浮かべた。


気まぐれなキミが窓のそばに行く。

ダメだよ、そこは外に繋がってるんだ。

だから開けてあげられない。

キミはまた、閉じた窓の隙間をするりと抜けて行った。


ボクは急いで追いかけた。

だってキミはお外に出ちゃいけないんだもの。

見たような、知らないような、よくあるような駅前通り。

人の行き交う中で小さな黒猫を必死に追いかける。


時々振り返ってボクを待つキミ。

追いつきそうになるとまた逃げてしまうキミ。

何度もつまずいて転びそうになりながら、一生懸命走った。

苦しくて、もう走れなくなって、その場に座り込んだ。


追いかけて、捕まえて、家に連れて帰らなきゃ。

でも、もうできないよ。

あきらめたら、キミが目の前にいた。


すんすんと鼻を鳴らしながらじっとボクを見てる。

手を伸ばしたら、くるんと背中を向けた。

小さな頭、ぴんと立った三角の耳、黒いおヒゲ。


肩から背中へ、ボクの手が滑る。

キミが逃げるから、とうとうしっぽを掴んだ。

黒いしっぽはボクの手から逃げてった。

しっぽの先が手から離れるとキミは消えた。



―― ◇ ――



得てして夢なんて不可解なもの。

分かっていても、なぜあの人が。

そして、なぜあのコがと思いつつ涙がこぼれた。


またあのコの、艶のある黒い毛並みを撫でたい。

安心しきった顔で腕枕によりかかる体温を感じたい。

もう、無理だけど。


背中に何か温かいものがいた。

起き上がってみっしりと筋肉のついたコを撫でる。

真っ黒な猫っ毛の兄猫と違って、このコはふわふわの毛皮。

触られて目が覚めて、いつものきょとんとした顔でコネコ鳴き。


「ごめんよ」

安心させてやるのに頭から背中まで撫でる。

丸くなって一緒に寝てたコを何度も、何度も撫でた。

でっかくて丸い頭とごつい肩、がっしりした後ろ脚と――――。

エビ模様の真っ直ぐな長いしっぽ。

黒猫のしっぽはもっと短くてカギだったはず。


……お前も星になったニィチャンと一緒に心配してくれてるのか。

よしよしと、おっきな体のコネコを寝かしつける。

不思議なこともあるもんだと思っていたら、カレンダーが目に入った。


ああ、そうか。そういうことか。

今はあの世とこの世が繋がってるんだ。

だから、大嫌いだったあの人と黒猫か。




『彼岸』の時期の、ある日の夢。

弱音吐きすぎだ自分。


でも、だからこそ許せない。

そんな余裕ないんでな。

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