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行事と魔法使い

ハロウィンと魔法使い

作者: 末吉

あらすじに書いた通りの理由で書いた。製作時間おそらく四時間ぐらい。

 アメリカのとある銀行。そこに仮装をした二人組が意気揚々と入っていき……


「「Trick or Treat!! 金をくれなきゃ悪戯するぞ!」」


 それから数分後。その二人はパンパンに膨らんだ二つの袋を苦も無く持って、走り去った。




 今日は十月三十一日。収穫祭という正式な行事であるにもかかわらず、現在では子供がお菓子をもらう口実に使われるコスプレ祭。


 そんな中、どう見ても子供に見えない二人組がパンパンな袋を担いで走っていた。


「いやー上手くいったな!」

「あぁ。まさかおもちゃの拳銃で脅せるとは思わなんだ」

「だな!」


 そう言いながらも、二人は人間とは思えぬ速度で屋根の上を走っていく。跳んでいく。

 身長は互いに170前半あたり。全身黒いマントに身を包んでいるせいか詳しいことはわからず、頭にはかぼちゃ頭が。

 その中の一人――かぼちゃの頭の目の部分が二等辺三角形になっている方――が、隣で並走している奴に言った。


「どっちが配る?」

「前回はお前が配っただろー? 前々回は俺が配っただろー?」

「発起人である、お前だな」

「ちょっ!? 即答ですかい!?」


 先ほどからテンションが高い、かぼちゃ頭の目の部分が正方形になっている方。それに対し、二等辺三角形は言った。


「毎回付き合わされる身にもなれ。それに、一回ごとに交換なんだからいいだろうが別に」

「……へーい。だが俺が戻ってくるまで絶対に始めるなよ! わかったな!?」

「分かったからさっさと行って来い!!」


 あらよっと! そう言いながら右斜め五メートル先の屋根へ飛び移る正方形。それを見たもう一方は、すぐさま前方を見て速度を上げた。








 彼らはつい先ほど強盗をした。なぜなら、彼らがそれをしたかったからである。

 今の世はかなり不安なことばかりである。人々はそれに怯え元気がない。

 ならその元気を与えることをやろうというのが、彼らの根本的目標であった。

 ある時はクリスマスでサンタになって他人の家に不法侵入しておもちゃを置いて行ったり、またある時は正月にお年玉という金が入った袋をばらまいたり、またある時はこのように仮装して銀行強盗して半分ほど貧しい家へ配りに行ったり、オーロラを見たり、雪を降らせたり、どこかの学校の文化祭でライブに交ったりしていた。


 そんな彼らは新聞では『現代の大泥棒』などと言われているが、彼らは気にしない。もともと犯罪行為という認識はあるがとっくの昔にその倫理を捨て去っており、困ってる人がいれば手段を問わずに笑顔にさせるという行動理念があるだけ。

 だから彼らは結婚をしておらず、また彼女という存在もいなかった。





 二等辺三角形の目をしたかぼちゃ頭をつけたほうは、すでに住宅街から少し離れたところにある廃ビル群の一つに来ていた。

 何の気なしにその建物の中に入り電気をつける。

 つかないはず(・・・・・・)の電気が一階のフロアを照らす。そこにあるのは衣装の数々と写真、そして自分達が一面になった新聞の切り抜き。無論、それらは壁際に置いてあり、中心にはテーブルが一つといすが四つ。椅子の方は乱雑に置かれていた。


 担いでいた袋を自分が座ろうとしている椅子の近くに置き、その椅子に座ってかぼちゃ頭を外す。

 そこから現れたのは男の顔と短い青髪。

 息を吐いてその男は呟く。


「まったくレニーの奴。『仮装しようぜ!!』というから着てしまったが……強盗するなら一言言ってほしいものだ。事前にどこを狙うか決めておくのに」


 そこから文句を続けようと思ったらしいがふと立ち上がり、奥の部屋へと消える。

 しばらくしてからマグカップを持った男が飲み物を飲みながら現れた。


「ふぅ。仕事後のミルクは最高だな。ま、今日はハロウィン。まだあるだろうが」


 そのまま椅子に座りテーブルに置いてあった新聞を読む。


「……ズズ。何々……『警察トップの一人娘、行方不明になってもまだ見つからず!』ね……どうでもいいやこんなの」

「たっだいまー!!」

「ん」


 勢いよく扉があいた音と声が聞こえたがその男はそちらに目もくれず、相槌だけを打つ。


「なんだよーそんなもののどこがいいんだよー」

「情報源になるだろうがバカ」

「そんなのよーその場のノリで何とかなるんだよー」

「ノリがよければ万事解決になるわけないだろ」

「と、いうわけで、ノリが悪かったから攫ってきましたー!」

「ぶっ!!」


 呑んでいたミルクを噴き出す。新聞に盛大にかかり、咳き込みながらようやく扉の方を見る。


 そこには、先程の正方形の目をしたかぼちゃ頭とその腕に眠ったように抱かれている九歳ぐらいの性格がきつそうな少女がいた。





「前から思っていたがお前本当に馬鹿だなレニー!」

「別にいいっしょ? 力使ってないんだし」

「そういう問題か!」

「だってこいつ、一人だけ笑わなかったんだもん。金配ってる時」

「……」


 彼らは服をいつもの私服に着替え、椅子を二つ使って少女を寝かせ、起きるのを待つかのように見て雑談していた。


「そんなの嫌じゃね? 笑顔を配る俺達に対し笑わないとかよ」

「でもどうする。こいつ、俺達を目の敵にしてる奴のトップの娘だぞ」

「はへ?」

「これを見ろ」


 そう言って盛大にミルクをぶちまけたはずの新聞を見せる。そこに濡れているところは一か所もない。


「あーまだ見つかってないんだこの子。きっと親御さんも悲しんでいるだろうに」

「だからそいつがそうだっての。写真見ろ、写真」

「写真……あ」


 レニーと呼ばれた男は新聞一面にある写真の一つを見て理解した。


「一緒だわ…」

「だろ?」

「どうすっか」

「送り届ければいいだろ」

「でもこいつに悪戯してない」

「ここまで連れてきた時点で悪戯だろ」

「嫌! こいつが笑ってこそ悪戯だ!!」


 その言葉と同時に椅子から立ち上がるレニー。その音のせいか体勢がきつかったせいか知らないが、件の少女は目が覚め起き上がろうとして……椅子から転げ落ちて床に落ちた。


「いだっ!」


 顔面から激突し、女子とは思えない悲鳴を上げる。それを聞いたレニーは笑い、もう一人の青髪の男は少女から顔を背けて笑いをかみ殺していた。

 そんな二人を起き上がった時に見た少女は、当然怒った。


「なんなのよあんた達! 連れ戻しに来たの!?」


 その見当違いの発言にレニーは大笑いし、もう一人も肩を震わし我慢しながらも笑う。

 それにますます苛立った少女は息を大きく吸い込んで「うるさーーーーい!!」と、その体躯には見合わないほどの声量を少し広い部屋に響かせる。

 だがレニーはそれ以上に笑い声をあげて腹筋を抑えており、青髪の男も我慢しきれずに床を叩きながら笑いだす。


「な……なんなのよ……」


 肩で息をして呼吸を整えながら、笑うのをやめない二人を見て慄く少女。

 この二人はどう見ても異常。少なくとも生きてきた中で一番の。

 でも今の内なら逃げられるかもしれない。そう思った少女は踵を返して扉へ向かおうとしたところで――――気付いた。


「いやー笑わせてくれたねーうん」

「え!?」


 目の前に、レニーがいることに。

 少女は後ろを振り返る。するとレニーは居らず、青い髪の男がいつの間にか自身の膝の上で新聞を広げていた。


「こっちにいるからそっちにいるわけないでしょー常識だって」

「なんなの、あんた達は…」

「俺達? ただの旅人さ。ちょっと訳ありのね」

「旅人? …こんな場所で泊まってる訳?」

「『場所で』ではなく『場所に』が正しいんだけど……ちょっと面倒な理由があるんだよ。攫われたお姫さん」


 言われた少女は身構えて質問する。


「……何が望みなの?」

「君の笑顔」

「は?」

「だから君が笑ってくれればそれでいいんだよ。幸いにも今日はハロウィーン! お祭り騒ぎはまだまだ始まったばかりだやっはー!!」

「……なんなのこいつ」


 急にテンションが上がったレニーを見て一歩後ろに下がる少女。

 そんな少女に、今度は青髪の男が声をかけた。


「そいつは時折自分の発言でテンションを上げる奴だ」

「……重症じゃないの?」

「あいにくだが正常で平常だ」


 淡々と告げるその男。それを聞いた少女は「……貴方も大変ね」と青髪の男の近くまで下がる。


「なぜこっちに来た」

「あそこにいると怖いのよ」

「なるほど。誘拐されたというのに肝が据わっている上に冷静だな」

「今回は誘拐じゃなくて逃げ出したのよ。まさか本当に捕まるとは思わなかったけど」

「ん?」


 青髪の男は少女の何気ない言葉を詳しく聞こうと思ったが、レニーが「よっしゃ今夜虹を見よう!!」と叫んだことにより矛先を変えざるを得なかった。


「あのなレニー」

「なんだよ相棒」

「虹というのは雨が降った後、しかもすぐ晴れなければ見れないんだぞ?」

「いくらお前が俺の事を馬鹿だと言ってもそれぐらいは知ってる」

「だったらなぜ」

「夜の虹って今更ながら綺麗そうじゃね!? ヤバいって絶対!!」

「……お前本当救いようがないな」

「本当ね」


 額に手を当てながら青髪の男はため息をつき、それに同情するように少女もため息をつく。

 それを見たレニーは、「今日やるぞ! 今日の夜やるぞ!! その間にこいつ笑わせてやる!」と息巻く。


「え、ウソでしょ?」

「やると言ったら聞かないのがあいつでな……相手は任せた」

「え?」

「おら行くぞ生意気少女ーー!!」

「え、ちょっ、ちょっとそれはやめてーーーー!!!」





 ~数分後。


「ハァ、ハァ、ハァ……も、もうやめて……」

「……まだ足りねー」

「え、う、うそよね? 嘘よね?」


 少女が着ていたワンピースは肩の部分がはだけ、少女自身床に倒れている。大分笑ったからか息は切れており、頬も上気し涙目に。もう立ち上がる体力もないのか、上半身を起こすだけで精いっぱいだった。

 これが大人だったら相当な色気を出していただろう。まぁ身体的特徴がまだ子供なのでそんなことはないが、一部の人たちには嬉しい状態ではないだろうか。

 そんな状態にしたレニーは、相当不満げだった。


「お前まだ本気で笑ってねーし」

「わ…笑った……わよ、これでも」

「いーや絶対違うね。俺が笑わせただけであって、お前自身が本気で笑ったわけじゃないね」

「……」

「そこは言わないのか。ま、時間はあるんだゆっくりしようぜ」


 そう言うとレニーは立ち上がり奥にある扉へ歩き出す。それを目で追う事しかできない少女は、迷っていた。

 この人に言っていいかどうかを。

 が、迷っている内にレニーは奥の部屋へ消えていく。

 それを見た少女は床に倒れ込んで天井を見ながら、「……はぁ」とため息をついた。










 ~数時間後。


「おーい。起きろよ嬢ちゃん」

「…………う、うぅ」

「そんな恰好なのに色気のない体が風邪ひくぞ?」

「何を言ってるのよ!!」


 レニーの言葉に顔を赤くして起き上がる少女。


「よっ」

「……」


 起き上がったら普通に挨拶されたので、ジト目で返す。そんな二人に、青髪の男は言い放つ。


ここを出てくぞ(・・・・・・・)最後の仕事(・・・・・)をしてな」

「おう」

「え? …キャッ!」


 呆けた返事をした少女をレニーがお姫様抱っこで抱え、それになれていない彼女は顔を赤くしながらじたばたする。


「は、離しなさいよ!」

「やだね。俺はお前が笑ってるところを間近で見たいんだよ」

「それに、お前がやろう(・・・・・・)としていたこと(・・・・・・・)も手伝う」

「……え?」


 青髪の男の言葉に抵抗するのも忘れる少女。

 それを好機と見た二人は頷き合うと、面をつけて外に出た。


「いやー『ジャパン』の『ノーメン(・・・・)』はさすがだ! 視界良好・通気性良し!」

「苦労して作ってもらった甲斐があったな…」


 二人は一直線に屋根の上を走りながら、つけている能面(・・)を評価する。

 どちらも付けているのは般若の面。もはや恐怖の対象と思われても致し方ないのだが、二人は気にしない。

 時刻は夜になったらしく空は暗い。満天の星空が輝いているので目立っているにもかかわらず、彼らは見つからない。片方が少女、もう片方が袋を抱えているあるいは担いでいるにもかかわらず。

 レニーは青髪の男に訊いた。


「こいつ俺達が金配ってたスラムにいたんだよな。何してたんだ?」

「スラム街の住人の一斉検挙。なにかと理由をつけてな。だからこいつは助けようとしていた」

「マジかよ……そんな楽しくない事許されるわけないだろ」


 先程までおちゃらけていたレニーの顔が真剣になる。その顔の意味することを知ってる男は、「やりすぎるなよ」という。

 だが彼がその言葉通りにならい事もまた、よく知っていた。






「準備はいいかお前達」

『『はっ!』』


 スラム街の入り口近く。警官というより軍隊に近い数がいる先頭に、少女の父親がいた。

 今回のスラム街掃討は上からの指示というのもあるが、普段からいる卑しい奴らを合法的に逮捕できることがうれしかった。

 だが、そんな幻想もすぐに打ち砕かれる。


「警部! 後ろに……!!」


 突然一人の警官が自分の後ろを指さし、震えている。

 それを不審に思った彼が後ろを振り向くと、般若の能面をかぶった全身黒い『何か』が彼らの近くにいた。

 いきなり現れた『何か』に驚いた彼は声を上げて数歩後ろに下がる。

 だが『何か』――レニーたちは意にも介さず低い声で叫ぶ。


「Trick or Treeeeeeat!! 悪い子には『おもてなし』という『悪戯』をしてやるぜ!」

「『悪戯』じゃなくて『お仕置き』だ!」


 ついでレニーが取り出したのは、発煙筒。


「オゥラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ……………………!」


 それを投げたと思ったら、どこからともなく取り出してまた投げる。それを気が済むまで続けていた。

 無論その結果、風がないのも相まって、ここら一帯の煙が充満しすぎて誰も前が見えない状態に陥っている。


「げほっ、ごほっ、げほっ!! だ、大丈夫かお前ら…!」

『み、見えねぇ! 前が見えねぇ!!』

『いてぇぞテメェ!』『やんのかコラ!』


 少女の父親は、辺り一面が見えないのでその場に留まり声を張り上げるが、聞こえるのは喧噪の音ばかり。

 くそっ。なんでこんな目に遭っている。なんなんだこの状況は。

 身動きが取れない中、彼はやたら近くで聞こえる殴り合いの音に怯えていた。


証拠は(・・・)郵送したし(・・・・・)、これにて一件落着、か……」

「な、なにしたのよ?」


 スラム街の入り口にあるビルの屋上。そこからスラム街の住人(・・・・・・・)対警官の(・・・・)乱闘騒ぎを少女と青髪、そしてレニーは傍観していた。

 青髪の言葉にビクつきながら少女が訊ねると、彼はあっさり答えた。


「このスラム街を潰そうとしている下院議員の一人の不正証拠及びそれに操られた憐れな警官たちのリストをホワイトハウスに送った。もちろん、お前の父親の名もある」

「なんで……」

「そんなことをしたのか? それはレニーにでも聞けばいい。俺は加勢しに行くからな」

「ちょっと!」


 能面をつけたまま飛び降りる青髪。それが自殺行為だと思い手を伸ばした時にはすでに彼の姿は見えなかった。


「心配いらねぇよ。俺達は飛び降りる位で死にはしないから」

「え?」


 少女はすぐさまレニーを見る。すると彼は神妙な顔をして説明した。


「俺達は魔法使いなんだよ。そんで今試験中。世界を旅して自分達が定めたことをやれって話」

「……そうなの」

「驚かないわけ?」

「ちょっと前に魔法使いの小説が流行ったから」

「……なるほどねぇ」

「で? あなたたち二人の定めたことって?」

「そいつは……っと、終わったみたいだぜ」


 レニーの言葉に少女は下を見る。すると煙は晴れており、青い髪の男はすでにおらず、どちらもこちらを見るように倒れていた。


「うわっ!」


 堪らず視線を上げる。


「はっはっはっ。なにビビってるんだよ」

「ビ、ビビッてなんかないわよ」


 その様子を見たレニーは笑い、それに対し少女は膨れる。

 とその様子を見ていたのか青い髪の男が止めに入った。


「さっさとやるんだろ?」

「おおぅ。そうだったそうだった」

「?」


 二人の会話に首を傾げる少女。だが、その答えはすぐに見られた。


「こいつはお前を笑顔にする最終手段だ! 俺にはこれしか才能がないからな!!」

「……うそ。()が、出来てる…」


 レニーは両手を空に笑いながら広げ、少女へ振り返る。少女はというと、彼が作り出したらしい魔法の虹――満天の星空の中に浮かぶ、場違いな虹――を見て信じられないといった表情で驚いていた。


 星々が輝く空に浮かぶ七色の虹。あまりにも現実とかけ離れたこの光景――幻想的で感動的な光景――を目撃したスラム街の人間と警官たちは一様に息を飲んでいた。

 誰かが言った。


「……奇跡だ」


 それにつられて全員が口々にその感動を叫びだす。もはやそこにスラムも警官も関係なく、ただ全員が互いに、この日、この時起こった奇跡に対し感動の渦を巻き起こしていた。


「すごい……」

「へへっ。やったぜアベル!」

「そうだなレニー」


 親指を突き立てるレニーに、同じく指を突き立てる青髪の男――アベル。そんな二人をよそに、眼下に映っている姿に同じく感動していた。

 虹はまだ消えていない。魔法を使っての現象なので、彼が消そうとするまで消えない。

 この場にいる全員が余韻に浸っている中、レニーとアベルは息を吐いていた。


「さてっと」

行くか(・・・)

「え?」


 少女は二人が言った言葉が理解できなかった。


「行く…?」

「ああ」

「次の国へ行くさ。旅の途中だから」

「…戻ってくるの?」


 知らず知らずの内に悲しそうに聞く。自分でも驚いているその声に、レニーは頭を掻きながら答えた。


「あーどうすっか」

「試験が終わればここに戻ってくる必要はない」

「……そうよね」

「だが、終わってないふりをすればこの世界に居られる。終わったとしてもな」

「! それって」

「おお! そんな考えがあったかさすがだアベル!!」


 アベルの提案に嬉しそうに涙を流す少女と、アベル本人の背中をばしばしと叩くレニー。

 そんな二人を見ながら、「やれやれ」と心の中でため息をついたアベルは、「行くぞ、レニー。別れの挨拶ぐらいしろ」と言って二人から離れる。


 残された二人。


「…………」

「あーどうしたもんかなー」


 黙る少女を見て頭を掻くレニー。しばらく掻いてから、彼は叫んだ。


「うだーーー!!」

「!」

「こんなしみったれた雰囲気やってられるか!」

「…え」

「だから笑え! お前の心の底の笑顔を見せてみろ!! それを見たらお前のところにまた来ると約束してやる!!」

「――――ッ!」


 レニーの心の底からの叫び。それを聞いた少女は涙があふれ出してるのを手で抑えようとしたがやめ、その状態のままで、自分の心の赴くままに、


「こ、ごう……?」


 涙交じりの状態で、満面の笑みを浮かべた。


 それを見たレニーも負けじと笑顔を見せ、片手をあげて叫んだ。


「あばよっ!」










 

 ~数年後。


「……ふぅ」

「あんたも良く飽きないわね、ジェシカ」

「まぁね」


 とあるキャンパス内のテラス。

 そこには二人の女性が席を陣取っていた。

 片方はたった今椅子に座り、もう片方は勉強をしていた最中だったらしくペンを置く。


「そんなに勉強しなくてもまだ在学期間あるでしょうに。何年先の勉強してるのよ?」

「勉強をやめた時は人生の終わりよ」

「……はぁ。ところで、今日は何の日だか分かる?」

「ハロウィンでしょ?」

「知ってるなら今から先生たちにお菓子貰いに行くわよ」

「いいわよそんなの」

「相変わらずノリが悪いわねー」

「だよなー昔と変わらない顔してるぜ、お前」

「悪かった……え?」


 勉強をしていた少女――ジェシカは驚いて聞き覚えのある声が聞こえた方へ向く。


 そこにいたのは――――――


「よっ。元気にしてたか? そんな子には選択肢を上げよう。Trick or Treat?」

「その声……レニー!?」


 ――――正方形にくり抜かれた眼のかぼちゃを被った人だった。


「約束通りアベルと一緒に来たぜ……お前の笑顔を見に、な」

ではさらばっ!

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― 新着の感想 ―
[良い点]  トリックオアトリート!  少女の笑顔を得るためだけに、愚直に頑張ったレニーが好きです。出来れば彼らの活躍を、ずっと見ていたいな、とか思ってみたり。となると……次は、クリスマスですね(キ…
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