ある刀工
ある所に一人の刀工がいた。
刀工は美術品としての刀に価値を見出し、「人を斬る刀」を作る事を良しとしてはいなかった。
故に刀工の刀は美術品としては一級品だったが、武器としては二流三流のなまくらだった。
ある日、刀工の鍛冶場に一人の少女が現れた。
少女は刀工に「人を斬る刀」の製作を依頼した。
刀工は断ろうとしたが、少女は刀工に事情を話した。
少女の家族が賊に殺されてしまった、だからその敵を討ちたい、と。
刀工は少女の思いに感銘を受け、少女のために「人を斬る刀」を作る事を決心した。
刀工は鍛冶場に籠り、刀の製作に没頭した。
今まで追求していた刀の美しさを捨て、刀の硬さ、鋭さ、重さ、そして使い易さにまで心血を注いだ。
それは刀工の人生において初めての経験だった。
同時に刀工は、刀作りの中で「人を斬る刀」を作る楽しさを見出していた。
そして一ヵ月後、刀は完成した。
少女は現れた。
刀工は己が打ち上げた刀を少女に手渡した。
しかし剣術の才がない刀工は、試し切りをしていなかった。
故に、刀工はその刀に絶対の自信を持ってはいなかった。
その旨を少女に伝えると、少女は手に持った刀で刀工を斬りつけた。
刀工は、己が初めて打ち上げた「人を斬る刀」の出来栄えをその身を持って知り、大いに満足した。