六話
私は今、所謂絶体絶命のピンチというものに直面している。
元を返せば、廃村と言えど、一応集落である此処に来て安心し、天候のことなど全く気に掛けず焚き火や魔法陣で安心し始めた私が悪いのだが……
とりあえず、外に置いてある焚き火の火が消える前に松明に火を移しておこう。
と考え松明に手を伸ばしたその時、耳をつんざく様な雄叫びが聞こえた。
テントから慌てて顔を出すと、ベヒモスの親子が星の精から逃げてこちらへ向かってきている。
マズい!!
そう思った時にはもう遅く、消えかけた焚き火も、魔法陣の一部も全てベヒモスに蹴散らされてしまった。
辺りが暗黒に包まれる。
まだ先程の状態の方がましだった。
ベヒモスの野太い断末魔が辺りに響く。恐らくあのおぞましい星の精に血を啜られているのだろう。
最早覚悟を決めて星の精と戦う道しかなくなった。神に祈りを捧げて、無造作にのびた金髪を紐で束ね、半魚人に貰った宝剣を手に取る。
相手は、見えぬ敵ではあるが動きはすっとろい。必ず勝てる。
と、理屈にならない理屈を自分に言い聞かせてテントから出る。人間の耳と猫の耳の4つの耳と転生前と比べてだいぶ利くようになった鼻をフルに働かせて相手を窺う。雨が降っているので詳しくは分からないが、どうやらそこまで数がいるわけではないらしい、星の精特有の金属音に似た声や腐敗臭があまりしない。多分ベヒモスの血で満足した個体が巣に逃げて行ったのであろう。
風が冷や汗を吹き飛ばしながら通り過ぎていく。刹那、星の精の一体がまさしく金切り声を上げ、腐敗臭のする見えない体から触手を伸ばし、私に迫ってきた。私は近づいてくる音と臭いを頼りに剣を振る。何か肉を斬るような感触がして金属を擦り合わせた悲鳴が聞こえた。剣の間合いまでくれば、雨が降っていても強烈な臭いと金属音で居場所がわかった。一度間合いが分かれば怖くは無い。だがまだ仕留めた訳では無さそうだ。
一方的になぶるハズの相手から手痛い反撃を受けた星の精は、怒りに満ち溢れ、金切り声を上げ、仲間と共に私の左右から襲いかかって来た。
しかし動きの鈍い二匹の星の精は、その金切り声が位置を知らせて致命的だとも気付くことなく、私にバッサリと斬られて壊れたブリキのおもちゃの様な音を出して骸となってしまった。
しかし雨足は強くなっているのに、金属音がハッキリ聞こえ、腐敗臭が増している。どうやら他の星の精を呼び寄せてしまったらしい。
剣を構えて全神経を集中させる。寄らば斬る!!という勢いだ。
先走った一匹が突っ込んで来たのを皮きりに、次々と星の精が襲いかかってくる。それをまた次々と切り捨てておく、がキリがない。
その後も日の出までこの攻防が続いた。
足元に落ちている死体は、肌色をした触手の塊と、ミイラのようなベヒモスである。
雨に打たれ大分体力を消耗してしまった。
とりあえず今日も寝れないのは勘弁なので、夜までにはこの森を抜けるため、出発をする事にした。