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四話

陰気なン・ガイの森からベヒモスを引きずり、ウルタールの村まで着く頃にはもう夕暮れ時になっていた。

こんな馬鹿デカイうえに重いモノを引きずって村まで帰るのに日が落ちなかったのだから大したものだ、と自画自賛しながら村の広場まで引きずりながら行くと、大人達が出迎えてくれた。

「ディオル、また凄いものを狩ってきたなぁ」「これで成人の儀式は皆終りかぁ?」「ベヒモス狩ってきたのかよ?」「一人で狩るもんじゃねーぞ、アレ」「腕をあげたな!!」

などと、皆酒を飲みながら、ネコミミをひょこひょこさせて、好き勝手に話をしたり、私をからかったりしている。ちなみにディオルとは私の転生後の名前である。




私は、生前は学生などと言うものをやっていたが、転生して此処に生を受け約十年、今では立派な狩人である。狩猟は一人でしたことはないが、弓の腕は村一番だ。魔法は使えないが…………






何故そんな狩人様が一人で狩りをしていたかというと、今日は五年に一度の成人の日の祭なのである。成人の日といっても、日本とかのただ祝う日ではなく、ディオル族の子供が独り立ち出来るかどうかを確かめる意味合いのほうが強い。


このウルタールの総人口は半魚人をのぞくと約百人ぐらいの小さめな村である。

此処に住むものは、主に狩猟で生計を立てている。人口が少ないため、いつかは森が危険でも一人で狩りをしなければならない。


そこで、この祭では成人前の子供たちが独りでン・ガイの森に入り、食料を集めて来られれば、成人出来るという儀式である。成人をすればようやく一人前という訳である。


食料は十分な量があり、食べられるものならば何でもよいが、ン・ガイの森は昼入っても夜のように暗く、危険な生物がいっぱいいる。

例えば、粘液状の食肉生物ショゴット、姿の見えない吸血生物星の精や狂暴で地面からいきなり飛び出してくるドールなどがいる。

幸い全部光が苦手であり、ン・ガイの薄暗い森ですら昼はめったに出てこないのではあるが……


また毒性を持つ植物も多いため、毒があるかどうか見極める必要がある。


狩りをする場合には、今までは集団でしてたがこの日は一人でしなければならない。


そのため、食料を得るには

一・植物を集める場合、毒があるかどうか理解している。

二・狩りをする場合、一人でも勝てる相手にする。

三・さらに危険な生物からは逃げる。

この三つをこなさなければならない、非常に難しい儀式である。


私が成人の儀式を受けた中では最年少の様である。

もっとも、他の子ども達も十五くらいなのだが。



「ディオルや、無事だったかのう?」


私に灰色の長い髭と、薄くなってきた同じく灰色の髪、そして皺の刻まれた顔にはアッシュグレイの瞳が輝いている老齢の男性が駆け寄り、私に無事を問うてきた。


この方は、長老であり司祭、そして私の育ての親であるミャオである。


私は頷き、祠の方向を無言で指差した。早く、このベヒモスを神に納めたかったのである。



「おおっ、そんな大物を狩ってきたのかのう。こりゃバテスト様もお喜びになるわい。……さて皆の者、バテスト様に獲物を奉納しに行こうかのう」


どうやら私の到着が最後だったらしく、長老の合図とともに他の子供たちが、大皿いっぱいの木の実や、シャンタク鳥を担いで祠に向い始めた。みんな無事だったらしい。特に親しい友達もいないので、話しかけることなく、私も負けじとベヒモスを引きずり祠へ向かった。



祠の前にやっとこさ到着すると、長老が祠を開けてくれた。祠に獲物を入れるまえに、まずはお祈りをしなければならない。といっても、手を合わせるだけだが。


私はかなりこの神を信仰している。信仰というよりも感謝かもしれないが。

なぜなら、この祠に奉られている半人半獣の神は、死んだ私をこの世界に転生させてくれたという、返しきれない大恩が有るからだ。それだけでなく村も危険な生物から守ってくれているのだ。どうして信仰しない訳が有るだろうか。





私は長老に祠で拾われ、ディオルという名前を付けたらしい。


らしいというのは幼少期の事はあまり覚えてないからである。

とにかく、気がついたら、死んだはずの人間の男がディオル族の少女として転生していたのである。

だが、間違い無く私を転生させたのは、この祠に奉られているバテスト神であろうと私は確信している。何故なら、祠の中の御神体はあの日に見た神々しいナニカと、とてもよく似ている。




お祈りが終わり、祠に子供たちが獲物の一部をいれていく。余った部分は我々が食べるのだが、一応、建て前では神が獲物を食べるのが一番であり、その後、村で獲物を分けて食べるのだ。しかし祠に奉納した獲物は翌日にはなくなってしまうのだから、ただの儀式的なモノではないらしい。


私が獲物を奉納する番となった。

私は汚れない様に服を脱ぎ、ベヒモスの分厚い皮膚にナイフをいれて切り裂き、巨体の中に入り、心臓を取り出して奉納した。


血まみれになり、他の子供たちがドン引きしていたが、あそこが一番美味しいと私は思うので、そのうまさを神様に味わって欲しかったから後悔はしていない。



奉納が終わり、長老が祠を閉めた。皆、獲物を村の広場に持っていこうとしている。私もベヒモスを持ってかえろうと思ったが、その前に、井戸に行った。

ベヒモスの血を落とすためである。流石に血まみれでは、祭に参加出来ない。



凹凸のほとんど無い貧相な体を井戸水で丁寧に洗っていく。無造作に伸びたボサボサの金髪にこびりついた血も猫の耳に水が入らないように落としていく。一応、この体になってから十年近くたっている。もう手慣れたものだ。



血をきれいさっぱり落とした後、臭いが気になったので、その辺のいい香りのする花を適当に摘み、潰して髪の毛にこすりつけると多少臭いがマシになった。

脱いで置いた服を着る。腕や頭を先に通してから尻尾を穴に通す。この服は、シルクの様なもので出来ている純白のワンピースで、長老のくれたものだ。伸縮性があり、羽のように軽い。水や血をある程度はじき、薄暗いン・ガイの森でも目立つため救護や援護を受けやすく、誤射されないという優れものだ。



広場に私達が狩ってきた獲物を持ち帰ると、皆集まって来て好きな量を切り取ったり、取っていたりして、各々勝手に調理をし出来た料理を取り分けて食べる。そんな祭りだ。


酒も成人したら飲み放題だったが、とても薄く、水で薄めた甘酒のような味だった。材料も製法も全くわからない酒なので一口以降飲む気がしなかった。




祭も佳境に入り、村人が音楽を奏で、皆踊り始めた。

あっちへふらふら、こっちへふらふらと、見てるだけでMPが減りそうな不思議な踊りである。音楽も、狂おしいまでの太鼓の連打と狂った旋律の笛との狂演である。




半魚人達も祭に便乗して料理を食べたり、魚料理を作ったり、音楽を奏でて踊っているらしく、ちらほら居るのを見かけた。正直音楽と踊りは半魚人のほうが上手い。




祭のフィナーレには村長の胴上げと、デイゴンとヒュドラの半魚人夫妻による魔法を使ったダイナミックな水芸が披露された。村の湖が間欠泉のように立ち昇り、龍のように縦横無尽に動く様は正に圧巻であった。








どんちゃん騒ぎも終わり、長老の家に帰るってしばらくすると、胴上げや踊りでヘロヘロになった長老が帰ってきた。


しばらくふうふうと、息絶え絶えだったが、落ち着いて、真面目な顔をして


「ディオルや、話しがある」


といってきた。


「何故、お前がディオルと言う名前を授かったか、という話じゃ」


長老はその灰色の目をこちらに向けて話している。


長老は私の育ての親である。

ディオルという名前も、そんな長老が付けてくれたものであるため、今まで気にしていなかったが、一族と同じ名前というのは妙だとずっと思っていた。


長老は目と同じ灰色のヒゲを撫でながら、


「実はディオルという名前は、まだ我々が故郷を奪われ流浪の民だったころ、ウルタールを勝ち取り、平定し此処を安住の地として、バテスト神に愛された英雄の名前じゃ。わしらは皆ディオルの子孫じゃから、ディオル族を名乗っているのじゃ」


初耳である。

ディオル族の名前の由来の話など聞いた事もなかった。

そもそもウルタールに住む前に別の場所で暮らしていたとは知らなかった。

私の疑問が一つである、ディオルの謎は解決されたがそれ以外の謎が深まった。

ウルタールはあまり大きくはない、それなのに勝ち取るとはどういう事なのか。森を切り開いたということの言葉のあや、というものだろうか。英雄なのに石像の一つも建っていないのも気になる。またなぜ私にその名を付けたのだろうか。



私が複雑な表情をしているのを見て長老は察したらしく、


「なあに、今言うから考える必要は無い」

と言って、棚の上から巻物をだし話しを続けた。


「お前さんがディオルと名付けられた理由はこれじゃ」


長老は巻物を開くと神託を私に見せ付けた。



「お前さんは神の子じゃ、だからわしは英雄と同じ名前のディオルと名付けた」


私は神の子と書かれた神託を見て甘美な衝撃を受けた。まさか神が、私を救った神が

私のことをここまで思ってくれているとは思っていなかったからだ。長老の話しも右から左へ、つつぬけである。


「ディオル、お前は小さい時から無口じゃった。だがその無口の裏で才能が渦を巻いているのをわしは知っておるぞ!!狩りをやらせてもなにをやらせてもお前は上手くいった!!そして…………」

長老はエキサイトしてしっぽをブンブンと振り、私を泣きながらベタ褒めしているらしい。

私は私で自分の命を救ってもらい、尚且つ自分の信仰している神に娘(?)扱いしてもらって感動のあまり4つある耳を赤くさせながら泣いている。

傍から見れば滑稽だろう。



「…………という訳でディオルや、神の名の元に一族の悲願、アーカム巡礼を果たしてはくれぬか!!」

「はい、喜んで!!」



こうして私は神の名の元にという言葉に反射的に返してしまった。


悲願のアーカム巡礼の内容も聞かずに。

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