始まりの出会い
平凡な日常。
それは何の気なしに毎日やってくるものであると人々は思っている。
かくいう僕もそう思っていた。
でも、断じてそんなことはない。
人間というもの何度か人生において岐路はある。それを自覚するかしないかだけのことだ。どうやら今回僕はそれを自覚したようだ。
とある少女、いや神との出会いによって。
今は西暦2050年。
行き過ぎた人口増加により、人類は宇宙開発の必要に差し迫られていた。
太陽系には水星、金星、地球、火星、木星、土星、天王星、海王星の7つの惑星がある。
そのうち、水星、火星、金星、木星にはほぼ人類と変わらない生命体が存在することが明らかになった。
地球側はこれらの惑星と交渉を続け、増え過ぎた人類の移民を求めた。
その結果、惑星環境の改善のための技術提供を条件に各惑星は移民を受け入れた。
現在では惑星間の交流も活発化しており、惑星を超えて学校に入学することも珍しくはないらしい。(僕は実物を見たことはないが)
しかし、宇宙の勢力範囲を巡っての戦争が日々行われている。
原住民と協力して地球に抵抗する移民も多いらしい。
そして迷惑なことに、この時代の戦争は近代兵器もさることながら、神霊保持者と呼ばれるまだ年端もいかない学生の能力者たちも戦争の一端を担っている。
神霊保持者はその纏う神霊の力によって発達した近代兵器に立ち向かうことを可能にしている。
申し遅れたけど、僕の名前は明日乃太陽。16歳だ。
名前でわかるとおり日本出身だ。
僕はその神霊保持者の発掘を行う地球唯一の学校、神起学園の新入生である。
神霊保持者はその強さによってS〜Eまでにランク分けがなされているのだが、
この学園ではSランクが6人、Aランクが18人、Bランクが34人、Cランクが123人いる。D、Eランクが大半であり、S~Cに属する者はごく一部のエリートなのだ。
ちなみにSランクともなると小惑星一つくらいなら消せるほどのとんでもない力の持ち主らしい。
だったらこの学園の軍事力ってどの位よ…と驚いてしまうのも無理はない。
現にこの学園は地球軍の戦力の40パーセントを占めている。
とまあ、神霊保持者の話はおいおいするとして学園の話をしよう。
神起学園は4年制の学校でおよそ1学年600人ほどである。
1年生は入学式の後、様々な国から生徒が集まってくるため、オリエンテーションといういわゆる生徒同士の交流を深めるためのイベントがある。
普通、入学式の前にその準備をしておくのだが僕はそのことをすっかり忘れていて(覚えていてもしていないが)その準備をまだしていないのだ。
碧陽館という講堂でこの学園のスポンサーの長ったらしい話を聞きながら、そのように考えていると壇上に黒の長い髪をした背の高い女性・・・つまりは僕の母親が上がってきた。僕の母親はこの神起学園の校長で、かつては地球の神霊保持者の第一番手を務めていたほどの天才神霊保持者だった。今では軍を引退し、この学園の創立に貢献し後進の育成に努めている。
「ねぇ、ねぇ、」
「ん?」右肩をつつかれたので横を見ると見るとそこには美人というよりは可愛らしいと言った方が正確な、茶髪でショートヘアの女の子がいた。俗に言うアホ毛がとても特徴的だ。
いきなり「明日乃ってまさか、あなたの親戚?」と聞いてきたので(新入生は名札をつけているので名前はわかる)
「ああ、うん、実はうちの母親で…」と答えると、
「へぇ~すごい家庭なのねぇ」感心したように、だがすでにそれを確信していたようにそうつぶやき、彼女はすでに校長の話が終わった壇上を見つめた。
折原静音、か…僕も彼女の名前を確認すると同じように壇上を見つめた。
入学式の後、この学園は全寮制となっているので部屋の割り当てを確認し、大量のスポンサーがいるにもかかわらずあまり豪華とは言えない(と言っても学生には十分なのだが)寮にはいり、自分の部屋に向かった。
この寮では二人で一部屋なので、部屋に向かうとすでに先客がいた。
部屋の割り当てと言っても、出席番号順などではない。
この学園では600人もの生徒がおりカリキュラムなども様々なので、出席番号などはこれといって機能しないのだ。
この先客の名前には見覚えがある…安倍明彦、僕の家のお隣さんだ。
そのようなこともあり昔からよく一緒に遊んだものだ。
こいつは僕よりもやや背が高く、なんとなく古風な雰囲気を漂わせている。
ドアから見ると後ろを見ているのでまずはその頭にチョップを叩き込んだ。
まあ、再会記念の冗談というところだ。
「…っ痛!!」
彼は部屋の奥のクローゼットに服をかけていたので全くこちらには気づいておらず、この学園に来ておそらく始めての一撃に頭を抱えていた。
「何だ太陽か…同じ部屋ということで改めてよろしく。」
彼はそう頭を下げて行った。
あのチョップには目もくれないとは…持つべきものは友ということか。
「ああ、こちらこそよろしく。」
そう頭を下げた瞬間…僕の頭上からチョップが飛んで来た。
「お前、俺がさっきの一撃を許すとでも思ってたのか~?」
まあ、ごもっともなセリフである。
前言撤回、やはり友というものはちょっとした冗談が通じない時がある。
みんなも友達関係は大事にしようね!
そうして10分ほどの仲の良い喧嘩を終えた後、ようやくこの学園についての話になると、
「ここには俺だけじゃなくて瀬田も来てるらしいぜ」
瀬田というのは僕の友達で僕、安倍、瀬田といえば地元では有名な3バカトリオだった。
「ていうか、お前たちは何でここに来たの?」
「そりゃここは学費がかからんからね~」
この学園はスポンサーのおかげで学費はタダとなっている。
その分、戦争に駆り出されることもある。といっても一部の優秀な神霊保持者だけだが…
「俺はそんな優秀にはなれんだろうし、関係ないね~」
とそんな話をしていると寮の放送が鳴った。
「1年生は北陽館に集合しなさい」
北陽館というのは、この学園の食堂だ。
1000人ほどを収容できる馬鹿でかい施設だ。
「そろそろ昼食か~、太陽行くか~。」
「ああ」
そう言って僕らは北陽館に向かった。
北陽館に着くとどうやら自由席のようなので、僕らは適当な8人がけのテーブル席に座ると、右から声をかけられた
「明日乃くん、こんにちは。」
「折原さん、こんにちは。」
そう返すと、左側から強烈なボディーブローを受けた。
「お前ってやつはもうこんな可愛い女の子と知り合ったのか~……」
「いやいやいや、碧陽館で隣だっただけだってば……」
うるせい!問答無用~!、そう言ってもう一発ボディーブローをお見舞された。
「明日乃くん、大丈夫?」
「な、なんとか……」
なんて彼女は優しいんだ。正直、並々ならぬダメージだったが彼女のおかげでなんとか耐えられた。
僕が苦痛に顔を歪めていると、1年生の担当の先生、滝口真奈美先生が話を始めようとしていた。滝口先生はいかにも仕事のできる女性、ビシッとスーツを着込んでいる。滝口先生が一瞬こっちを見たような気がしたが、すぐに別の方を向いて話し始めた。
「皆さん、こんにちは。私はこの1年生の学年主任を務めます、滝口真奈美です。この学園への入学おめでとうございます。一刻も早くこの学園での生活に慣れてください。」
ザッツ定型文というような言葉を述べて、直ぐに生活指導の先生へと話を交代した。
「皆さん、始めまして。私の名前はシェリー=アクィナス。今から皆様のスケジュールについて話したいと思います。」
シェリー先生は滝口先生とは違い、ファッションもカジュアルでとても美人な先生だった。現に男子だけでなく女子も先生を見てはしゃいでいる。
「めちゃくちゃ綺麗な先生だな~。それだけでもこの学校に来た甲斐があるってもんよ~。」
安倍もそんなことをそんなことをつぶやいている。
シェリー先生が話し出すと途端に生徒は静かになった。
「明日はオリエンテーションとなっております。必要なものは寮の部屋のパソコンにメールで送ってありますので、確認してしっかりと準備して置いてください。今回のオリエンテーションでは海の方に向かいます。と言っても春なので泳げませんから、水着などはいらないですよ。そして、明後日からはいよいよ神霊保持者としての授業となります。 心構えのようなものですから気楽に臨んでください。」
そう言ってウインクすると一部の男子生徒が声をあげていたが、女子はそれを冷ややかに見つめている。
「それでは、昼食をどうぞ。」
滝口先生がそう言うとどこからともなく昼食の弁当が運ばれて来た。
ご飯に鮭、卵焼き、野菜、煮物といういかにも普通な弁当だった。
ここには外国から来ている人も多いので、口に合うのだろうかと考えていると、
目の前に箸の使い方に難儀している女の子がいた。名札を見るとどうやらイギリスから入学したらしい。腰のあたりまでに伸びている金髪がかなり特徴的だ。
「鉛筆を持つように持てばやりやすいよ。」
と声をかけると、
「私、エミリー=ウェーバーこのような極東の島国でこんなちんちくりんに教えらるなど一生の不覚!」
「いやいや、イギリスも島国だぞ。しかもちんちくりんなんて単語どこで覚えたんだよ!」
「うるさいですわ!このウェーバー家の私に向かってこのような生意気なセリフ!万死に値しますわ!」
「ウェーバー家かなんだか知らないけど、ここでは皆この学園の生徒だろ。」
「ウェーバー家ってのはな~、イギリスでも1、2を争う名家でな~、神霊保持者もたくさん輩出しているんだぞ~。」
こいつは昔からそうだが変な情報をいっぱい知っている。どこからそんな個人情報が漏れているのだろうかと、この学園のセキュリティーに不安を覚えながら、
「でもだからと言って、ここでは生まれとか関係ねえだろ。」
「(このようなことは初めてですわ。今までは家の名前を出していれば皆ペコペコしていましたのに…)」
エミリーが何か考え込んでいたようだったが、心の中まで読めるはずもないので、再び食事に戻った。
横で安倍がまたフラグか~…とかつぶやいてたが無視して、エミリーに向き直ると文句をいいながらもアドバイスには従っていたようだった。
そんなこんなで昼食が終わると今日はそれで解散となり、寮に戻った。
部屋の前に着くとそこには僕のよく知る人物がドアの前で待ち構えていた。
「ん~?、誰だ~?、あの美人は……フガッ!」
安倍の口を目にも留まらぬスピードでふさぎ、そこから回れ右をして逃げ出そうとした。しかし、
「太陽、どこに行くつもりだ。ここはお前の部屋だろう。」
万事休す。どうやら見つかってしまったらしい。
「太陽、まさかお姉さんか~?昔と雰囲気が違い過ぎて誰かわからなかったの~。失敬、失敬。」
そうつぶやく安倍を他所に僕は1人うなだれていた。
僕の姉、明日乃月夜はこの学園3年生で数少ないSランクの神霊保持者であり、学園での活躍も目覚ましい。軍からも何回か表彰されている。外見も神霊との影響で眼帯をしている点を考慮しても長い黒髪、スレンダーな体型と非の打ち所がない、というのが表の顔で、裏の顔はというと半端じゃないほど僕をこき使う恐怖の暴力女だ。
昔、欲しいジュースがなかったからって隣町までたった1本のジュースのために走らされたこともある。このような過去からこの邪知暴虐な姉にいつか一泡吹かせてやろうと思うのだが、前にも述べたようにSランクの神霊保持者は小惑星をも消すほどの力を持っているのだ。はっきり言おう、敵うはずがない。そんなことをしたら僕が一瞬で消し炭にされてしまう。というわけで僕は姉の完全なパシリとなっている。
「どうせオリエンテーションの準備などしていないのだろう。これを渡すから、明日街で必要なものを買ってくるのだな。」
そう言って姉は僕に小遣いをくれた。しかも結構な額だ。Sランクの神霊保持者ともなると軍からの報酬もものすごいのだろうか。などと考えているが、僕は決してこのような白雪姫の毒リンゴに騙されたりはしない。
「どうせ裏があるんだろ?」
そうだ、この姉が僕に小遣いをくれるというハッピーなイベントがあるはずがない。そんなことがあるのは地球の終わりの時ぐらいではないだろうか。
「姉に対してなんと言う物言いだ。それは姉からのささやかな入学祝いとでも思っておくがいい。」
「えぇ~!姉ちゃんが僕に小遣いをくれる~⁉いやいや、これはきっと夢だ、夢に違いな……ゴフッ!」
言い終わる前に目の前からパンチが飛んで来た。安倍が引くくらいの結構な威力だ。僕は攻撃を受けた頭を抱えていた。
「チッ、電話か」
「ああ、浪川か。すぐに行く。裏手で待っていてくれ。」
どうやら僕は浪川さんとやらの電話で助かったらしい。きっと浪川さんという人はきっと天使に違いない。
「では、太陽またな。安倍くんもこの不出来な弟をよろしく頼む。」
「いえいえ~」
そう言うと、姉は部屋の前から去って行った。
「太陽…綺麗なお姉さんじゃないか~。何が不満なんだ~?。」
「今見てたの⁈僕殴られたんだよ?」
「いやいや~、お姉さんがお前を大事に思っているってのはよく伝わってくるの~」
どうしたんだろうこいつは?今の行動からどうやったら優しい姉という偶像を取り出すことができるんだろう。頭のネジが外れているのだろうか?
「でも、オリエンテーションの準備はしないといけないから今から出かけるか。」
「はいよ~、これに必要なものは書いてあるからいってらっしゃいませ~」
いつのまに用意したんだろうか、と思いつつもそれを受け取り僕は寮を出た。
神起学園から出ると学園城下町と一般には呼ばれている、神明街に着く。神明という言葉を使っているあたりこの学園との強い関係性を示しているようだ。神明街は16の区画に別れており、各区はそれぞれバス、地下鉄で繋がっている。さっき安部に渡された紙を見ると特に日用品以外はいらないようなので、第4区のショッピングモール「プリンセスロード」に向かうことにした。
「(えっと、第4区に向かうにはどうすればいいんだ?)」
この街に来るのはもちろん初めてなので、どうやって行くかがさっぱりわからない。
「(安倍に聞いときゃよかったな…)」
そう思いながらも寮に戻るのは億劫なのでとりあえず学園を出てすぐにあるバスターミナルへ向かうことにした。バスターミナルに着いても路線の数が半端ではないので、どれに乗れば第4区に行けるのか案内の電子板と睨めっこをしていると後ろから声をかけられた。
「明日乃君?なにしてるの?」
後ろを振り返ると、そこには少し不思議そうな顔をした折原静音さんがそこにいた。この子とはよく会うなあ、と思いつつも聞かれたことに答えた。
「第4区に向かうにはどのバスに乗ればいいんだ?」
「第4区に行くってことはプリンセスロードに行くの?それなら私も行くから一緒に行こうよ。」
願ってもない申し入れだった。渡りに船とはこのことか。
「うん、それなら一緒に行こう。」
「こっちだよ。」
彼女はそう言って16番ゲートの方に向かったので僕も彼女に着いて行った。
「しっかし、このバスターミナルは大きいなあ。その辺の空港より大きいんじゃないか?」
「200路線ほどあるんだから、それぐらいの規模が必要ってことよ。」
「そういえば、折原さんはプリンセスロードに何をしに行くんだ?」
「明日のオリエンテーションの準備と言っておこうかしらね。」
「なんだか意味ありげなセリフだなあ。」
「女の子の秘密を暴こうとするのはデリカシーに欠けるわよ。」
彼女は小悪魔的な笑みを浮かべてそう言った。そう言われては僕も返す言葉がない。ふと、彼女が足を止めた。どうやらもう16番ゲートに着いていたらしい。
「このバスよ。」
僕も遅れずそのバスに乗り込むと、彼女の席の隣に座った。このバスはリニアモーターと同じ原理で動いているらしい。つまりはフレミングの左手の法則だ。だから走行音などはほぼ聞こえず、揺れることもない。
「10分ほどでつくわよ。」
「運賃ってどうなってるんだ?」
僕がそう尋ねると呆れたような声で、
「学園の生徒はこの神明街での公共機関の利用はすべてタダよ。入学の案内読まなかったの?」
僕はゲームなどでもそうだが説明書を読むタイプではない。だが流石に入学の案内くらいは読んでおいた方が良かったかもしれない。そう1人で後悔して、携帯に入っている案内にざっと目を通していると、
「明日乃君の携帯電話の番号教えてもらってもいい?」
「いいけど…僕の番号なんて知ってもどうしようも無いよ。」
僕はこの超情報社会においてかなりの情報弱者だと思う。携帯電話なんて掛けた記憶はほとんどない。ましてや、携帯のアプリケーションなんてさっぱりだ。
「いいのいいの、知っておくといざっていう時に電話掛けられるし。」
そのいざっていう時が来るのは何年後だろうかと、思いながら彼女が操作している2つの携帯をぼんやり眺めていた。僕の携帯にそのような機能があったのかと感心しているうちに、
「はい!終了!」
彼女に携帯を渡されると電話帳に折原静音と登録されていた。女の子と携帯番号を交換するなんて安倍に聞かれたら1日中暴力の嵐だろうが、僕にとっては取り立てて特筆すべき感情は浮かんでこなかった。
「折原さんってなんでこの学園に来たの?」
せっかくの機会だし、聞いてみてもよかろう。
「う~ん、なんでって言われてもね。学費がタダっていうのもあるけど…やっぱり宇宙に行ってみたかったからかしら?」
この学園では地球軍からの要請があると、すぐに神霊保持者を宇宙に送って戦わせるのである。当然ながらそれは戦争なので生きて帰れる保証はない。それどころか死体が帰ってこないこともザラにある。倫理上年端も行かない学生に戦わせるなどクレームが来そうだが、戦力調達のために黙認されている。そんな学校に子どもを預ける親はどうなんだと思われるかもしれないが、往々にしてこの学園の生徒の親も地球軍の軍人又は関係者であることが多く、子どもに活躍してもらいたいと思うのも不思議ではないしその子どもも親の背中を見て育つもので地球を守ろうという愛星心に溢れていることが多いのだ。そういう理由で学校に来る人は珍しくない。
でも彼女は宇宙に行ってみたいから、と言っている。今なら宇宙旅行というのも一般的に行われているし、宇宙に行ってみたいなら旅行すればいいだけのことだ。それだけのことでこの学園に入って来るのはおかしなことではないだろうか。折原さんはいろいろ事情がありそうだ。
「明日乃君はどうしてこの学園に来たの?やっぱりお母さんがこの学園にいるから?」
「まあそんなとこかな。母さんも姉ちゃんもこの学園にいるしね。」
(次はプリンセスロード前~、プリンセスロード前~)
「着いたみたいね。降りるわよ。」
「うん。」
バスを降りるとそこには食パンのような形をした巨大な建造物が見えた。エントランスの前までくると、一旦そこで別れ、(折原さんに着いて行こうとしたのだが、女の子の下着を買うのに着いて来る勇気はあるの?という折原さんの言葉の圧力に負けて別れることにした)14階の日用品売り場に行くことにした。平日にも関わらず、このショッピングモールは結構混雑していた。ここは神明街で最も品揃えが良く、ここでなかったら神明街から出て探さなければならないことを意味している。高速エレベータに乗って14階に着くと、安倍に渡されたメモを見ながら、売り場をさまよって必要なものを揃えていくと、
「(姉ちゃんにお金もらったんだし、何か買って行ってやるべきだろうか。何を買うかな~、そうだせっかく折原さんの携帯番号教えてもらったんだし聞いてみようかな。)」
制服のポケットから携帯を取り出すと、さっき登録したばかりの折原さんに電話をかけた。いざという時は1時間後にはやって来たみたいだ。
「明日乃君?どうしたの?」
柔らかな声で折原さんが応じる。
「折原さん今どこ?」
「私は今10階で買い物をしているんだけど、もうすぐ終わるわよ。」
「姉ちゃんに何か買ってやりたいんだけど、同じ女性に何を買ったらいいか意見を聞いて見たくて。」
「それなら、20階のエレベーター前に来て。20階は雑貨屋さんだからお姉さんへの品物も見つかると思うわ。」
「うん、わかったありがとう。」
折原さんは優しいなあ、姉ちゃんに折原さんの爪の垢を煎じて飲んで欲しいぐらいだ。ともかく20階に向かわなければ。
「(エレベーター前ってことだし、エレベーターで行けばいいか。)」
そう思ってエレベーターの方に歩いて行くと、3バカトリオの一角、瀬田がいた。こいつのフルネームは瀬田孔明。といっても某三国志の英雄とはなんの関係もない。ズル賢いという点では間違いなく3バカトリオの中では1番だし、成績も良かったような気がする。僕よりやや背が低く、どんな時でも冷静な結構キザなタイプだ。しかし、瀬田は僕に気づかず売り場の方へ行ってしまった。
「(こっちも折原さんを待たせているし、またにするか。 )」
エレベーターに乗り込むとあっという間に20階に着いた。
「明日乃君早かったわね。」
「そう言う折原さんこそ。待たせちゃった?」
「いえ、私も今来たばかりよ。」
「それじゃあお姉さんへの贈り物を選びましょう。」
「うん、ありがとう。」
重ねてお礼を言うと、小物が売っている店に折原さんが行こうとしていたのですぐにその後を追った。その店は装飾品を主に売っている店で、客の足も上々だった。「明日乃君のお姉さんは美人だものねえ。」
あれっ?折原さんに姉さんのこと話したっけ?と一瞬思ったが、姉はSランクの神霊保持者だし折原さんが知っていても無理はない。
「まあ…僕に対する扱いさえもう少しよければね…」
「あら、お姉さんの行動はあなたへの愛情の裏返しよ。」
どうしたんだろう、折原さんもおかしくなってしまったみたいだ。裏返しと言うならなんとかもう1回裏返してはもらえないものだろうか。と僕が考え込んでいると、
「これなんかどうかしら?」
折原さんが選んだのはきらびやかなネックレスだった。僕もそれがいいいと思ったので、すぐに購入することにした。
「折原さんお礼にお茶でもおごらせてよ。」
「それ程のことをしたわけじゃないんだけどここはお言葉に甘えましょうかね。」
その言葉を聞くと僕らは32階のカフェに行くことにした。
カフェは高校生が行くにしてはちょっと雰囲気の大人びたところで、折原さんはともかく僕は間違いなく場違いだった。店員さんが僕たちのことをカップルと思ったのだろう、悪戯っぽい笑みを浮かべて、
「何に致しますか?」
と聞いて来たので、
「僕はコーヒーで」
と言うとすぐに折原さんも、
「ミルクティーをお願いします。」
と注文すると店員さんはすぐに厨房の方に向かってオーダーを通していた。
「明日のオリエンテーションって具体的には何をするの?」
「基本的にはただの日帰り旅行だと思ってもらって構わないわよ。」
「それってオリエンテーションなのか…」
「オリエンテーションというより友達作りの一環ということかしらね。」
「ミルクティーとコーヒーをお持ちしました。」
丁寧な手つきで店員さんがミルクティーとコーヒーを並べると、ごゆっくり~という言葉と共に厨房の方へ下がって行った。
折原さんがカップを手にとった瞬間カップの持ち手がドーナツを半分に割ったように割れ、バキーンという音と共にカップがテーブルの上に落ちた。幸い折原さんの服にはかかっていないようだが、明らかに右手が火傷をしているように赤くなっている。
「…熱っ!」
「氷お願いします!」
とっさに厨房に向かって僕が叫ぶとさっきの店員さんがこちらを見て一瞬で状況を理解したらしく、血相を変えて氷を取りに行った。僕はとりあえず手元にあったおしぼりで彼女の手を抑えていた。氷が届くとすぐにそれを彼女の手に当てて冷やした。彼女は火傷のことなど気にならないように、僕の顔を見て少し驚いたようにしていたが、やはり熱湯同然のミルクティーを手に浴びたことで痛みに顔を歪めている。店員さんはしばらくオロオロしていたが、すぐに正気に戻り新しい氷を取りに行ったようだ。
「あ、ありがとう」
彼女は少し顔を赤らめてそう言った。火傷の影響で体温が上がったのだろうか。
「いやいや、これぐらい今日折原さんにしてもらったことに比べれば大したことないよ。」
そう言うと、彼女は顔を赤らめたまま沈黙して火傷した手を見つめていた。処置が早かったおかげか火傷はほとんど引いていたようだった。店員さんは新しいミルクティーを持って来てお代は結構ですから、と申し訳なさそうに言っていた。折原さんは左手で右手を抑えながらミルクティーを飲み始めていたので、僕もホッとしてコーヒーを一口飲んだ。ミルクティーを飲む間折原さんは一言も発しなかったので、僕も静かにコーヒーを飲んでいた。2人共飲み終わるとさっきの店員さんが深々と頭を下げてカフェの入り口まで見送ってくれた。お金はどうしても受け取ってもらえなかった。
「折原さんはもう買い物は終わった?」
と聞くと、彼女は少し心ここにあらずと言った様子で、
「ああ、うん」
と答えた。そうしてエレベーターで1階に降りて、来た時とは逆の車線にあるバス停に向かった。5分ほどしてバスが来てそれに乗り込んだ。来た時と同じように折原さんの隣りに座った。折原さんは少し氷が溶けて水と混ざっている氷袋で手を抑えていて、僕の目からみると火傷はもう大丈夫そうだった。特に痕が残るということもないだろう。
「一応今日はお風呂とかでお湯につけない方がいいよ。」
「うん、そうする。」
「私火傷なんてしたことがなかったからびっくりしちゃって…」
ようやく冷静になったのか、彼女は恥ずかしそうにそうつぶやいた。
「最近は火傷するような電化製品はないもんね。」
この時代では安全装置の発達に伴って火災が起こることもほぼ稀になった。火事の件数は30年前の100分の1くらいになっているらしい。
「その割には、明日乃君は火傷の処置に慣れていたような気がしたけど…」
何を隠そう、この僕は火事が起こらないような電化製品でも家事を起こしかけた、超メカ音痴なのだ。その度に姉ちゃんに何度も殴られたことは言うまい。
「うん、まあ昔にいろいろあって…」
前言撤回、さっき何を隠そうと言ったが、折原さんにバレるのは嫌なので適度にごまかした。そう言うと僕も彼女も少し黙った。
バスの走行音はほとんど聞こえないくらいなので、折原さんの呼吸音だけが妙に耳に入って来る。そんな状況にドキドキしてたが、顔には出さなかった。
そうして僕らはバスターミナルに到着するまで、取り留めもない世間話をしていた。バスターミナルに着いて、天井がガラス張りの吹き抜けから空をみるとそろそろ太陽が沈み始めた頃らしい。人混みの中を通り抜けて、16番ゲートから神起学園の方へ僕らは並んで歩いていた。神起学園の方へ向かう生徒は少ない。やはりこの学園に入ってすぐと言うことで皆気を引き締めて、前持って準備していたということだろうか。ライトアップされた学園までの道のりを歩きながらそんなことを考えていた。横の折原さんは急に言葉少なくなったような気がする。 どうしたんだろう?やっぱり火傷のことがショックなんだろうか。実際にはそのことが一因なのだが、太陽の認識は少しずれていた。学園の階段の最後の一段を登り終えると、
「じゃあ、明日乃君ここで。」
「うん、今日はありがとう。」
「いや礼を言うのはこちらの方だわ。今日は本当にありがとう。」
火傷の処置がそんなに礼を言われることかと、少し違和感を覚えたが彼女はもう女子寮の方へ行ってしまっていた。
「(僕も寮に戻るか。)」
そう思って、安倍の待つ自分の部屋に向かった。部屋に着くと、
「お帰り~。遅かったの~。」
脱力感全開の安倍の声が聞こえた。どうやら安倍は部屋に備え付けてあるパソコンを使っているらしい。i13とか言っているが、それは何語だろうか?
「ダメかの~、このパソコンじゃあまり滅多なことはできんの~」
「パソコンについては全くわからないけど、寮のパソコンなんだからそりゃあ
そんな風に設定してるんじゃないか?」
「やっぱり1回家に機材を取りに帰らないと改造できんの~」
「何考えてんだよ!入学早々俺は怒られたくねえからな!」
「大丈夫だの~。この安倍明彦、ハッカーの名にかけてそんなヘマはしないの~」
入学早々、堂々犯罪者宣言とは恐れ入る。怒られるぐらいで済んだ方がマシなような気がして来た。
「って、お前ハッカーだったの?もしかして、お前が妙にここの生徒に詳しいのって…」
「ここのサーバーにはもう侵入してるからの~。なかなか苦労したの~」
僕は犯罪をしました的なことをドヤ顔で言われて僕はどうしたらいいんだろう。善良なる日本国民なら警察に突き出した方がいいのかもしれない。でも、これでは証拠不十分なのでどうしようも無い。しかし、こんな古風な男がハッカーだなんて、人は見かけで判断してはならないという教訓を改めて思い知った。僕が思いっきり怪訝な顔をしているのが安倍にもわかったのだろう。それはそうと、と強引に話題転換をして来た。
「もうすぐ夕食って放送が鳴ってたぞ~。確か6時からだったかの~」
僕はそれを聞いて壁にかけてある今となっては珍しいアナログ時計に目をやると短針は5と6の間を長針はちょうど11を指していた。
「もう5分しかねえじゃねぇか!なんでお前はこんなにのんびりしてんだよ。ハッカーの下り絶対いらなかっただろ!」
僕は半ば叫ぶようにそう言うと、安倍の制服の奥襟をグッと掴んでラムネを入れた炭酸飲料のように部屋から飛び出した。息を切らしながら、昼食の時と同じ席に座ると、お嬢様系イギリス人エミリーに見下すような視線を向けられた。
「この国の人間は時間すらろくに守れないのかしら。」
それは僕以外の日本人に失礼だろ、と思ったが言うと、より大きな波乱を巻き起こしそうなので、心の内に留めておいた。周りを見渡すと、ほとんどの生徒がすでに着席していた。隣りの折原さんも手を冷やしていた氷もなく、澄まし顔で座っていた。どうやら日本人の恥は安倍と僕くらいのものらしい。夕食はご飯、味噌汁、焼き魚、出汁巻き、海苔、漬物といった、純度100パーセントの和食だった。またもや箸を使わなければならない料理にエミリーは隠すことなく嫌そうな顔をした。しかし、文句を言っても夕食のメニューが変わるわけでもないので不承不承と言った様子で、慣れない箸を使って日本の食文化和食と格闘していた。折原さんは焼き魚の骨を博物館の化石のように丁寧に解体していた。骨には傷1つついていないというのが地味に凄い。北陽館の管理をしているであろう、数人のおばちゃんはいるようだが、先生たちはこの夕食の場にはどうやらいないようだ。入学直後ということもありおちおち食事などしていられないということであろう。すでに食べ終わった生徒は食堂のカウンターに食器を返して部屋に帰っているようだ。僕もご飯を食べるのは早い方である。とは言え、折原さんは慎ましく夕食を味わっているし、エミリーは相変わらず箸にあまり慣れていない様子だし、安倍は昔からそうだが、何かの儀式のように、とてつもなく食べるのが遅い。一人だけ帰るのも如何なものかと思ったので、ゆっくりと目の前の食事を味わうことにした。お茶をすすっていると、不意に安倍が、
「今日の帰りは遅かったの~、誰かと話でもしていたのかの~?」
とニヤニヤした顔つきでそのような爆弾を繰り出した。お茶を吹き出しそうになるのをそうにか堪え、
「いや、まあ、色々あって…」
と誤魔化そうとしたのだが、
「明日乃君とバスターミナル会ったので一緒にお買い物をしたの。」
折原さんはその爆弾にあっさりと火をつけてしまった。僕がげんなりした表情で折原さんの方に振り向くと、折原さんはキョトンとした顔をしている。エミリーが恨
めしそうな顔をしていたのは気のせいであろう。
「ふむふむ、そのようなことがあったのかの~」
先程からのニヤニヤした表情を崩してはいないが、明らかに目が笑っていない。
「偶然だよ、偶然。別に約束していたわけでは…」
「言い残すことはあるかの~?」
「ありません。」
バコン、という音と共に頭が割れそうなほどの一撃を受けた。折原さんが心配の目を向けてくれているのは嬉しいんですが、こうなったのもアナタのせいです、はい。何だかんだで、全員食べ終わったようなので食器を返却して部屋に戻った。
部屋に戻ると、安倍があとでいいの~と了承してくれたので先にシャワーを浴びることにした。疲れている時にはぬるめのシャワーがいいんだったっけ、とかあやふやな記憶を頼りにシャワーを少しぬるめに設置すると頭から勢い良くシャワーを浴びた。シャワーのお湯と共に今日の疲れが流れて行くような気がする。
「(安倍、瀬田との再会、折原さん、エミリーとの出会い。今日だけでもいろいろなことがあったなあ。)」
そんなことを考えながら頭と体を洗っていくと、ふと壁にテレビがかけてあることに気がついた。
「(金のある学校はやることが違うね。)」
吐き捨てるようにそう言ったが、せっかくなのでつけてみることにした。僕はバラエティー番組などはあまり見ない方だ。テレビを見るというと、大抵ニュースを見る。ニュースでは神起学園の入学式の様子が映し出されている。この学園は地球軍の重大な戦力となっているので、注目されるのも無理はない。むしろ地球の運命がこの学園にかかっているのだから、注目されない方が不思議だ。画面では校長ーつまり僕の母とこの学園の生徒会長ーつまりこの学園最強の神霊保持者である、真田直人がインタビューに答えている。真田直人はその身一つで木星の戦闘機を10機も落とした、地球軍の英雄のような存在である。ゆくゆくは地球軍の最高司令官ともなる存在だ。彼を見てまず目に付くのはその眼光の鋭さであると僕は思う。画面越しでもとてつもない威圧感が胸を締め付けてくるほどだ。そこまで見たところで、テレビのスイッチを切り、シャワー室から出た。家から持ってきた新しいパジャマに着替え、部屋の中に戻ると、安倍は相変わらず鉛筆立てのような機械をパソコンにつないで、改造を試みているらしい。
「上がったぞ。」
「はいよ~」
気の無い返事を返すと、しばらくして諦めたのかシャワー室に入って行った。
ベットに転がり込むと明日のオリエンテーションのことを考えていたが疲れてしまったのかすぐに寝入ってしまった。
ーとある一室ー
少女と女が会話をしている。
「今のところ敵対勢力からの接触の素振りはありません。」
「そうか…あやつは特別な血族だ。それを狙って多くの勢力が手に入れようと画策している。あやつの警備を厳重に頼む。」
「はい、わかりました。」
そう言うと、女の方はほころんだように
「学園での生活はどうだ?」
と尋ねると、
「概ね問題ありません。少し気になる人が…」
女は意外そうな顔をして
「ほう、それは誰だ?」
少女の方は少し顔を赤らめて
「それは秘密です。」
と答えた。
「まあ良い。ではゆっくり休め。」
「ありがとうございます。」
そう言って少女は部屋から出て行った。
「あいつが気になる人か…興味深いな。」
女は誰もいない部屋でそうつぶやくと部屋の奥へ消えて行った。
なぜかふと目が覚めた。目をこすって、時計に目をやるとまだ3時前。左の方に目をやると、安倍はぐっすり眠っているようだった。もう一眠りできるな、と思って右を向いて眠ろうとすると、僕は心臓が止まりそうになった。なぜなら、僕の隣りで見知らぬ少女が眠っていたからである。この状況100人いたら100人は僕を通報するだろう。でも、僕に限って犯罪は起こしていない・・・はずだ。少女はなぜか着物を身につけていて、どことなく和風な趣のする少女だった。深呼吸をして、少し冷静になると、とりあえず彼女を揺すって起こすことにした。もしかしたら、ここの生徒の誰かが部屋を間違えたのかもしれない。そんな希望的観測をしながら彼女を揺すった。
「ん~うるさいのう」
眠たそうにそう告げると、彼女は僕の顔を見てしばし固まった。僕は静かに、
「お前は誰だ?」
と尋ねた、すると
「私か?私はのう……ふぐっ」
この状況にもかかわらず、馬鹿でかい声で話そうとする少女の口を抑え、安倍を見た。どうやら目覚めてはいないようだ。
「お前は馬鹿か?馬鹿なのか?誰がこの状況で大声なんかだそうとしてるんだよ!バレたら大変なことになるだろうが!」
「ふ、ふぐぅ~」
どうやら理解してもらえたらしい。少女はボリュームを抑えて言った。
「私の名は天照。八百万の神の頂点に立つ神じゃ。」
突然とんでもないことを言い出したが、この少女は嘘を言っているような顔つきでは無い。
「さして、お前さんの名は何という?」
「僕か?僕は明日乃太陽だ。」
「そうか、お前さんが明日乃太陽か。」
少女は意味ありげにそうつぶやくと、一瞬考え込んだような顔をして、
「お前さんなら任せられるかもしれんな。おい、私の胸に手を当てろ。」
「は?」
目が点になる僕。この状況だけでもまずいのに胸なんか触ったら、完全なる犯罪者だ。まだ塀の内側では暮らしたくない。一体この少女は何なんだろう?急に現れて、胸に手を当てろとは。と僕は考え込んだが、全ての脳細胞がエラーを提示してくる。
「はようせんか、はよう!」
少女は仕切りに僕を急かしてくる。なおも躊躇う僕にしびれを切らしたのだろう、少女は僕の手をとって自分の胸に押し当てた。
「…なっ!」
「契約成立じゃ。」
驚く僕を尻目に、嬉しそうな表情を浮かべる彼女。それが最後の光景となって僕は意識を失った。この日、この時、この場所から僕の平凡な日常は終わりを告げた。そして、新しい物語が幕を開けた。
始めての投稿になります。拙い部分もあると思いますが、温かい目で見守ってやってください。
感想お待ちしています。