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名前を小説からなくしてみよう

作者: 朝日 橋立

 皆さん、キャラクターにどのような名前を付けるでしょうか?

 何か特別な意味を込めていることでしょう。


 私自身、名前に特別な意味合いを込めるのは楽しいなと思います。

 ただ逆に特別な意味合いを排除するのも面白いのではないか、と最近は思います。


「名前」とは何でしょうか。

 これは個人を識別するものです。


 個人を識別するものの意味を排除する、この方法を考えます。

 私は一つ思いつきました。名前を排除すればよいじゃないか。


 これは創作論じゃないです。

 あくまで思案の話です。ですから、論理的でないかも知れませんが、許してくださると幸いです。


 さて、まず主人公の名前を排除しましょう。

 適当にこんな小説を書きます。


 遠い海の先、そこで小さく見える貨物船が滑っている。

 空にはユラユラと揺れる太陽が浮かんで、浜には波が押しては引いていく。背後には車の走り去る音が聞こえている。


 私自身何か理由があってここに来たわけではなかった。

 ただどうにも悩ましく思えて、何か寂しく思えたことが要因だった。

 所謂自然発生的な衝動であったが、此処まで来てすぐに帰るというのも可笑しくって、ただ海を眺めている。


 今思うと、こんなことよりも何かまた別のことをするべきだったかもしれない。

 たぶんこれは時間の無駄である。


 春先の海はまだ寒くて、吹き付ける潮風は干からびた海藻を揺らして、私に降りかかる。

 その磯臭さに、何だか笑えてきて、冷たい手を袖に隠して、横たわる。


 空はどこまでも広いのだが、どうにもここから見ると小さく見えてしまう。

 そう考えると、私が見る世界の何て小さいことなのだろうか。

 私は世界の一端しか見れていない。いったんというのももしかしたら、過言なのかもしれない。

 』


 この小説中の文章では、名前を故意に排除しました。

 すると、テイストが私小説に近くなります。

 そして、名前の排除の結果としても、個人としての「私」が存在することも確かになります。


 あくまで自他の境界をなくすというテーマではないのでこれでよいのです。

 ただ、このとき主人公にあまりにも意味がありすぎるのではないか、と思ってしまいます。


 また別の手法をとってみましょう。

 主人公の名前を排除し、これを二人称で語るための仮名をつける形です。


 昔書いた小説からの引用です。


 曇り空に同じような赤褐色の瓦屋根が並ぶ街中に、小さな列が川に沿うように進んでいる。

 その列の後方にいる子供は、道端の丸石を蹴り、川の中へと蹴り入れている。

 川は静かに流れ、その上を小さな船が不気味に滑っている。


 ところで、先程赤褐色の瓦屋根が並んでいるといったように、川を挟むように数えきれない数のレンガ造りの家が並んでいた。そのどれもが日の光によって白く焼けていて、粗末な色を眼下にさらしている。いうなれば青年のシャツのようなものである。妙にさらさらとした、違和感ばかりの残る、嫌らしい色である。


 もっとも、こう目下のことばかり見ていることも奇妙なことだが、ただ一人それらを見ていた男がいた。

 仮に名前をK・Vとすると、彼は果たして、眼前にある不思議な光景に何を思ったことだろう。

 』


 この小説自体はK・Vに意味をつけすぎて失敗しましたが、最初の方は結構意図通りだなと思ったので引用しました。


 結論から言うと、この書き方をすればあくまで主人公という存在を、世界を見るためのツールに落とし込めるのではないかと思えます。

 ただ、仮名とはいえ識別の可能な名前を与えてしまうということになるのですがね。


 個人的に、名前を名前として意味を持たせるというのも、キャラクターとしての背景を持たせることができて好きです。


 でも、名前を単なる記号として扱い、排除することで面白い表現ができるのではないかなと思う今日この頃の思案でした。


 考察をまとめましょう。結局のところ分かり切ったことの復習です。


 名前の排除によって、キャラクターの意味を根本的に排除することは不可能である。

 そして、視点として扱うためにはある程度キャラクター性が必要になり、必然的にキャラクターは個になってしまう。


 この恣意的な要素の排除というのは、たぶん名前以外にも成り立つと思います。

 ですから、色々と他にも考え中です。例えば、そもそもとしてキャラクターを排除するとか。

追記


最後にキャラクターを排除すると書きました。

これを考えると、少し面白かったので書きます。


たぶんキャラクターを排除したとして、それはまた別のキャラクターを生むことになりそうです。

結局文章に落とし込む段階で、視点が生まれますから、そのキャラクターの存在を許容することになります。

すると、目的に反するのでこれは不可能ということになるでしょう。


以上、唐突に思いついた思案でした。

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