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英雄は言った『どこが好きかって? 全部だわ!』

作者: 満原こもじ

 人間が食物連鎖の頂点に位置している、などと勘違いしている者はいなかったであろう。

 例えばドラゴンが人間より強いなんてのは自明の理だから。

 ただその頂点に君臨するやつらが人間のテリトリーに入り込んでくるとなると、話は別だ。

 人間は弱くとも、黙って食われる生き物じゃないから。


 レベッカ・アレクサンダー伯爵令嬢は、魔道に関するスペシャリスト揃いのアレクサンダー伯爵家の中でも天才と称されていた。

 魔力による自動修復理論を応用し、駆動補助機構付き全身鎧『パラディン』を発明したのだ。

 『パラディン』は鎧というよりも、人間が魔道ゴーレムの中に入り操縦するという兵器に近かった。

 『パラディン』は高度の防御力と耐性と運動能力を実現させ、ここに至ってようやく只人が頂点の魔物と何とか戦えるようになったのだった。


          ◇


 ――――――――――竜穴の前進基地にて。『パラディン』の騎士ジェフ・ガードナー視点。


 赤く塗装された愛機をオレが眺めていると、美しい銀の髪の一七歳の少女が話しかけてくる。


「ジェフ、調子はどう」

「おいおい、格納庫は意外と危ないんだぜ? あんたみたいな博士の来るところじゃねえ」

「よく言われるけど」


 ふくれっ面の可愛いこいつはレベッカ・アレクサンダー伯爵令嬢。

 『パラディン』の発明者で、一般には『魔道卿』って言われてる。

 本来こんな前進基地にいるような天才様じゃねえんだが、『パラディン』操縦者である騎士からの要求をすぐ実機にフィードバックしたいんだってよ。

 正直助かっている。


「オレの『パラディン』なら絶好調だぜ」

「そう。何度も言うけど、量産型を使ってくれないかしら?」


 オレの『パラディン』は試作品の第一号機なんだ。

 だからレベッカは安全性の高い量産型を使えと言ってくる。


「ダメだ。量産型は鈍重だ。デカブツ相手に少しの反応の遅れは命取りになる」


 現在の量産型と違い、オレの『パラディン』にはバックアップ魔力バッテリーと緊急脱出装置がついていない。

 危険だから量産型を使えというレベッカの言い分はわからなくもない。

 しかしバックアップ魔力バッテリーと緊急脱出装置がない分、駆動がうんと軽やかなんだ。

 また試作機だから細かい調整が可能で、今ではオレのための唯一無二のチューニングになっている。


「デカブツ……頂点の魔物達ね?」

「そうだ。量産型ではサイクロプスの鋭い一撃を躱すのは至難の業だ。レベッカもわかってるだろう? 何人が貴重な『パラディン』を捨てて緊急脱出してるよ?」

「……うん。理解はしているけど」


 サイクロプスは一つ目の高級巨人だ。

 デカブツ達の中では中位の強さに過ぎない。

 中位であっても一対一ではオレしかまともに戦えないのが、今の苦しい現状だ。

 レベッカもわかっちゃいるんだろうが。


「今エースのオレが機体を交換するわけにはいかねえんだ。デカブツどもに押し負けちまう」

「……」

「レベッカにできることは量産型の改良だけだ。オレの愛機並みに動ける新型ができたら喜んで乗り換えさせてもらうぜ」

「……わかったわ」


 けっ、切なげな顔すんな。

 心配そうな目を向けんな。

 伯爵令嬢がオレみたいな平民上がりに惚れるんじゃねえ。

 こっちの精神が揺れるだろうが。

 オレにできるのはデカブツどもをぶっ殺すことだけだ。


 レベッカら魔道士やエンジニアどもが必死だってことくらいわかってら。

 ボロボロだもんな。

 だからオレ達騎士だって、この前進基地までは一匹だってデカブツどもを通しゃしねえんだ。


          ◇


 ――――――――――魔道卿レベッカ・アレクサンダー伯爵令嬢視点。


 何故人類がこの場所を対頂点の魔物における前進基地にしているかというのは理由があるの。

 ここは魔力の吹き出す竜穴があって、私達が占拠していれば豊富な魔力を使って開発も回復もできるから。

 でも私達が竜穴を発見したことで、頂点の魔物達もパワースポットとして認識したのです。

 魔物達も狙ってくるようになりました。


 頂点の魔物達がこの前進基地を占領したら、さんざん敵対した人類への報復の拠点として使うでしょう。

 逆に私達がこの場所にいるからこそ、頂点の魔物達の攻撃を引きつけているとも言えます。

 私達は絶対にこの場所を明け渡せないのです。


 『パラディン』の騎士の一人ジェフ・ガードナーは凄腕のエースです。

 現在でも単機で竜種や巨人を倒した実績があるのはジェフだけ。

 ……確かに今ジェフの戦闘力を失えば、『デカブツどもに押し負けちまう』というのはその通りだと思います。

 でもあの試作機は危ないのに。


 『パラディン』は魔力による自動修復の技術を応用しています。

 魔法剣が刃こぼれしない理屈と同じですね。

 だから貯蔵魔力がある内は損傷しても修復が利くのだけれど、試作機は貯蔵魔力が切れると搭乗者から魔力を吸い取って機体を修復しようとする欠陥があるのです。

 だから量産型にはバックアップ魔力バッテリーと緊急脱出装置が実装されたのに。

 ジェフは動きが鈍重になるからと、量産型を使ってくれないの。


 でもようやく画期的な新型が完成しましたわ。

 試作機並みの鋭敏な動きを実現し、バックアップ魔力バッテリーはそのまま、機体ごとワープで基地まで逃げ帰る緊急脱出装置を実装したの。

 今までみたいに脱出した際機体を捨ててこなくていいし、しかも一機なら連れて帰れる仕様になりました。

 機動性も安全度も格段に上がりましたわ! 

 これならジェフも使ってくれます!


 なのに……。

 『パラディン』の騎士の一人ゲイルのもたらした報告は不吉でした。 


「ジェフが行方不明?」

「ブレイブドラゴンと一騎打ちになってよ。ジェフの回避は神技だぜ。ヒットアンドアウェイを繰り返して見事倒したんだが……」

「どうしてブレイブドラゴンなんかと戦闘になったの?」

「ここの基地を襲う構えを見せたんだ。やつらはこっちの事情を酌んでくれねえからな」


 ブレイブドラゴンは数こそ少ないですが、頂点の魔物達の中でも最上級に位置します。

 今の『パラディン』では絶対に倒せないと思われていたのに。

 ……一騎打ちになった理由はわかります。

 ジェフが鈍重って言ってたくらいの機体では、ブレイブドラゴンとの戦いに

ついていけるわけがないから。

 試作機の反応速度とジェフの操縦技術があって、初めて微少ながらも勝機があったのでしょうが……。


「断末魔のブレイブドラゴンと一緒に死の谷に転げ落ちたんだ」

「死の谷に……」


 死の谷の空気には有毒ガスが含まれているため、頂点の魔物達も嫌って近付きません。

 『パラディン』は少々の毒なんか中和するから、生きてさえいればジェフは平気のはず。

 でも機体の損傷具合によっては、ジェフは『パラディン』の自己修復に巻き込まれて、魔力を吸われ死んでしまいます。


「ゲイル、あなたジェフを救いに行ってくれません?」

「嬢ちゃん話聞いてたか? 現場は死の谷だぞ? 仮にジェフが生きてたって、機体から出しただけで死んじまうわ」

「新型の『パラディン』が一機だけ完成しているの。僚機を一機連れて基地までワープで戻れます」

「マジか。すげえ! ぜひ試運転がてら行かせてくれ!」


 ゲイルがすっ飛んでいきました。

 ゲイルは百戦錬磨の『パラディン』の騎士だわ。

 地理をわかってるゲイルなら、必ずジェフの『パラディン』を見つけ出すはず。

 ジェフの『パラディン』は赤く塗装されていて目立ちますしね。

 お願い、ジェフ生きていて!


「こんにちはー」

「あっ、御機嫌よう」

「おお、レベッカ嬢。久しぶりですな」


 聖女ペペロン様と宮廷魔道士長ユーディッヒ様が来てくれました。

 ということは?


「ようやく蘇生装置が完成したんだ。瀕死でも頭さえ残ってりゃ再生できるよ。魔力が豊富な竜穴でなら余裕で使えるわ」

「助かります!」

「何の何の。前線で踏ん張っている戦士やエンジニアがおるのに、我らだけサボっておれませぬわい」

「三人まではいっぺんに蘇生できるからね」

「ああ、これでジェフが生きてさえいてくれれば……」

「ジェフってレベッカちゃんのいい人だったっけ?」

「『パラディン』の騎士のエースですな」

「ブレイブドラゴンと相撃ちになって、死の谷に落ちてしまったと今報告がありまして」

「ブレイブドラゴンを倒せるのか。すげえ!」

「新型『パラディン』が間に合っていれば……」

「「新型?」」


 反応速度と脱出機能を大幅に向上させた『パラディン』がどうこう。


「なるほど。新型の数が揃えばエースのジェフ殿ほどの腕でなくとも、頂点の魔物の中でも最上級のやつらと互角に戦える可能性が高いのですな?」

「そうですね。戦術フォーメーション自体は今までのが使えますし」

「最上級のやつらなんて、そもそも個体数が少ないじゃん。それより死の谷って何?」

「有毒ガスがたち込めていて……」


 頂点の魔物達すら寄りつかない場所でホニャララ。

 聖女様と宮廷魔道士長がふんふんと熱心に聞いています。


「……つまり頂点の魔物の亡骸が多くあるから死の谷と」

「マジか。魔物素材の宝庫じゃん。ねえレベッカちゃん。新型『パラディン』のワープ能力があれば、魔物の亡骸を回収できるでしょ?」

「新型の数があれば可能ですけれども、防衛に携わる騎士を減らすわけにはいきませんよ」

「死の谷に生きてる魔物がいないなら、素材回収用の人員は戦闘経験なんかいらんじゃん。つまり人数と新型『パラディン』の数さえあればいくらでも儲かる」

「ええ?」


 理屈としてはそうですけれども。


「魔物どもの亡骸はあたし達のお金になる。考え方が変わるなー。じっちゃん、魔道砲の開発はやめよう。木っ端微塵になると素材が残らんわ」

「それもそうじゃな。出力を絞ってもダメージを与えられるよう考えるか」

「レベッカちゃん。陛下を説得してガンガン予算回すから、現場でも儲けることを考えて」

「は、はい」

「竜穴の基地の規模をうんと大きくすればいいのじゃ。そうすれば後方の人類社会はより安全になり、また竜穴の魔力を利用できるなら魔道技術は格段に進歩する」

「じっちゃん頭いい!」


 聖女様と宮廷魔道士長の話を聞いていると、悲壮感なんか吹き飛びますね。

 明るい未来がすぐそこまで来ていることを感じます。


 ん? 魔力が高まります。

 あっ、もうゲイルが戻ってきました!


「嬢ちゃん。ジェフはかろうじて生きてるが……。え? 聖女ペペロン?」

「あたしがいる時でラッキーだったな。蘇生装置起動して。回復魔法行くぞー。エクストラヒール!」


          ◇


 ――――――――――一年後、竜穴の基地にて。元『パラディン』の騎士ジェフ視点。


「すっかり変わっちまったな。もうオレの出番なんかねえじゃねえか」


 オレがブレイブドラゴンを倒したものの死にかけた日。

 あれが転換点だった。

 いや、転換点ってのはオレが働いたからではなくて、画期的な新型『パラディン』の実用化と蘇生装置の到着があったからよ。


 というかその日に聖女ペペロンと宮廷魔道士長ユーディッヒがこの前進基地まで来たんだと。

 物好きなやつらだが、そのおかげでオレは一命を取りとめた。

 で、聖女と宮廷魔道士長は死の谷の存在を知り、魔物素材をガッポリ回収できれば大儲けできることに気付いた。


 その通りなんだけどよ?

 オレ達が命を張ってデカブツどもの侵攻を食い止めてる時に金勘定だぜ?

 おかげで予算に不自由しなくなって新型をさらに改良した『パラディン』が投入され、騎士が死ぬことはなくなった。

 騎士志願者が増えたから、リハビリを終えたオレの出番もまた消えたってことさ。


 文句の一つも言いたくなったんで、聖女と宮廷魔道士長に毒づいてやった。

 答えはこうだ。


「世の中成果を挙げた者が強いのだ。確かにジェフ君は頑張った。でもそれだけ。あたし達があちこちを動かしたから今がある」

「口幅ったいことを申す気はありませんが、流れのいい時にケチをつけなくてもよろしいのでは?」

「そうそう。あんたが半死半生で、とゆーよりほぼ死んで戻ってきた時、レベッカちゃん泣いてたぞ? 女を泣かす男が何言ったって説得力がないわ」

「もうジェフ殿の出番はござらん。イチャイチャしていればよいですぞ」


 ぐうの音も出ない。

 当たり前だが、この二人を相手にして口で勝てる気がしない。

 王や各地の有力者を口説いて回って、莫大な出資金をかき集めたやつらだもんな。


 退役となったオレのやるべきことは何だと自問自答していた時、新エースとなったゲイルが言った。


「あんたにしかできないことがあるだろうが」

「何だよ、それは?」

「啓蒙活動だよ」


 オレの倒したブレイブドラゴンは骨まで売られたそうだ。

 骨は素材にならないと聞いたが、売却先は『人類史博物館』だそうで。

 史上初めて人類が単機で倒したブレイブドラゴンとして、『パラディン』の騎士ジェフ・ガードナーの名とともに展示されてやがんの。

 行列ができるほどの目玉展示物なんだってよ。

 こっ恥ずかしい。


 で、英雄扱いのオレは講演を頼まれるんだよ。

 結構引っ張りだこで。

 啓蒙活動ってこういうことかよ。

 子供達が目をキラキラさせて聞いてやがんの。

 こっ恥ずかしい。


 勲章と年金をもらったので、働かなくても何とか食っていけるんだが。

 そこはオレの勤労精神が邪魔をするわけだ。

 暇な時は働けるよう、非常勤の『パラディン』操縦法教官にしてもらった。


 生徒に聞かれる。


「ジェフ教官のような英雄になるためにはどうしたらいいですか?」

「いいか? 英雄ってのは危機の際に生まれるもんだ。お前らは人類を危機に晒さないのが役割。そして現在はデカブツどもを撃退できる環境が整っている。自分のなすべきことは理解できるな?」

「「「「はい!」」」」


 オレは英雄なんかじゃねえよ、と言うのは簡単だ。

 しかし英雄らしいことを言わねえと、納得してもらえねえからな。


「ジェフ、待った?」

「少しな」


 誰だって?

 レベッカだよ。

 オレが寝たきりだった時、ずっと世話してくれてよ。

 リハビリを終えたら誰よりも喜んでくれたわ。

 まったく伯爵令嬢様がオレなんかのどこを気に入ったのかねえ?


 あ?

 オレがレベッカの何を好きなんだって?

 全部だよ、全部。

 レベッカにはデカい借りがあるしな。

 一生かけて返すんだよ。


「竜穴の基地も様変わりしたなあ。観光地みたいだぜ」

「予算が以前には考えられないほど潤沢になりましたからね」

「おかげでデートにも事欠かねえんだけどよ」

「うふふ」


 恥ずかしそうに笑うな。

 可愛過ぎるだろうが。


「そういえば私、一八歳になって成人したのですよ」

「……結婚、するか?」

「はい!」


 ムードがないとか言うな!

 精一杯だわ!

 レベッカを抱きしめ、おでこにキスを落とした。

 ガンダムとかFSSみたいなロボ物もたまにはいいかと思いました。

 ハイファンではなく異世界恋愛では無謀ですかね(笑)?

 

 最後までお読みいただきありがとうございました。

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 よろしくお願いいたします。

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