結託
「うおおお!」
雄叫びと共に聖剣が大斧を弾く。その猛る闘志には鬼気迫るものがあった。
そのまま間髪入れずに追撃の横薙ぎが繰り出されると、怪物は少ない手傷を負って後退した。
九死に一生を得た仲間の姿にレイラが安堵するも、すぐに顔を顰める。
クロードの足許には大量の血液が滴っており、腹部の傷跡は中途半端な状態で塞がっていたのだ。ミリーが治療の最中に彼の元を離れた為だろう。
「クロード、一旦回復を!」
「いいや、俺の事は後でいい。それよりもう一度魔法の詠唱を頼む。今度はもっと高威力のやつだ!」
レイラが治療を勧めるも、彼がこの場を切り抜ける作戦を優先する。周りの事を最優先する彼らしい性格だとは思うが、恋人を想う側からすれば放ってはおけない。
「で、でも...」
「大丈夫だ!ここの地形は壁が硬い。数発なら耐えられるはずだ」
クロードが化物から目を離さずに告げる。
──そんな事を言いたいんじゃない!
レイラは思わずそう口を挟みたくなったが、昔からよく知る彼の正義感の強さに、半ば強引に自分を納得させるしかなかった。
「死んだら承知しないわよ!」
レイラが怒ったような口調で言うと、直ぐに魔法の詠唱へと移行する。魔杖に込められる魔力量は膨大なもので、高威力の魔法が展開される事が予測出来た。
クロードがそれを確認すると、次は背後へと視線を向ける。窪んだ岩壁のすぐ近くには、腰を抜かすミリーとエルリックの姿があった。
「レイソン嬢、ライトの詠唱を頼みます!」
「は...?」
クロードからの唐突な指示にミリーがあんぐりする。
「ライトって...あのライト?」
「そうです。詠唱をお願いします」
「いや、何でこのタイミングでライトなのよ!?」
ミリーが困惑する。彼女の疑問はもっともだった。
確かに、レイラが戦闘に重点を置いた事もあって、彼女の放ったライトは照度が落ちてきている。
しかし、《《暗闇に目が慣れてきた》》今、視野を見渡すには十分な明かりを持っている。この状況での光源の確保は必要性が感じられなかった。そんな事は誰よりも周りを見ている彼が知っているだろうに...。
だが、クロードの顔は真剣そのものだった。
「どうか俺を信じて下さい!」
「し、信じるって言ったって...」
「お願いします...」
「わ、分かったわよ!やればいいんでしょ、やれば!」
ミリーが嫌々ながらも納得すると、錫杖を支えにその場を起き上がる。そして二、三度息を整えると、ライトの詠唱を始めた。
「天より賜りし光よ、暗闇を照らす道標となれ。──クロード、いつでも撃てるわよ!?」
「俺が合図を送ったら発動をお願いします!」
彼はそう言い残すと、再び化物の注意を引き付け始める。
果敢に振るわれる聖剣、それと対をなして薙ぎ払われる大斧。一つ読み違えれば命はない。
やがて、より強大な力が地面を貫くと、クロードが腹の底から声を出した。
「今ですッ!」
「ラ、ライト!」
梔子色の光が辺り一帯を包み込む。すると、牛頭の化物は自らの眸を庇って怯み出した。
その隙にクロードが渾身の一刀を仕掛ける。
「うおおおお!」
無防備な肉体に斬撃が入ると、化物が悲鳴を上げて仰け反る。
依然として深手には及ばないが、刃は先ほどよりも通っているように見えた。
「ど、どうなってるの...?」
「ミノタウロスは夜行性なので、急激な光に弱いんです」
「そうなの!?」
「はい」
奇っ怪な声を聞きながら、クロードが標的から目を離さずに頷く。
Aランクに指定されるミノタウロスは、膂力と耐久力、どちらも付け入る隙がなく、真っ向から挑めば一撃の元に斬り伏せられてしまう。通常は魔法で遠距離から戦うのがセオリーなのだ。
しかし、この洞穴は十分な幅もなければ広さもない。距離を必要とする魔導師にとって、この環境は戦いには適していないのだ。
常套手段を取るのは難しい。そこでクロードが目を付けたのは、ミノタウロスの生態的特性だった。
今回の洞穴内の様子からも分かるように、ミノタウロスは暗い場所を好んで住処にする。それは即ち、照度の高い環境に慣れていない事を意味していた。
「もしかしたらと思ったけど、上手くいって良かった...」
「そんな特性を知っていたのなら、最初に言いなさいよ!」
「すみません。何分、急に襲われたものだったので...。それに確証が持てなかったので言うのは控えていたんです」
「確証が持てないって...。それってつまり、失敗する可能性もあったって事...?」
「まあ、そうなりますね」
その言葉を聞き、ミリーが暗がりでも分かるほど顔を赤くする。
「何が『俺を信じて下さい』よ!失敗したらどうする気だったのよ!」
「あはは...」
「笑って誤魔化すんじゃないわよ!ほんと大した勇者ね!」
彼女の珍しく的を射た意見。クロードはただ苦笑いを浮かべるだけで、反論の余地はなかった。
不満も程々に、ミリーが気を取り直す。
「でも、これであの牛と対等に渡り合えるって事よね!」
打つ手がないと思われた状況だったが、ここに一つの攻略法が生まれた。
──今の流れを繰り返せば、ミノタウロスを倒す事が可能。彼女の消失しかけていた闘志に再び火を灯る。
しかし、期待を抱く彼女とは裏腹に、クロードが粛々と告げる。
「残念ながら、それは難しそうです」
「え...?どうしてよ」
「今の俺では奴に致命傷を与える事は出来ないからです。例え怯ませる事は出来ても、決定打となる攻撃が加えられない」
そう告げる彼の足許には大量の血液が滴っており、呼吸も一段と激しくなっていた。
「あ、あなた、その怪我は...!」
「さっき喰らった一撃が思った以上に重たかったようですね。正直、立っているのも辛いです」
「ま、待ってなさい!今私が回復魔法を掛けて...!」
「ありがとうございます。ですが...どうやらその隙も与えてはもらえないようです」
「えっ?」
言った直後、彼等の視線の先で怪物がゆっくりと態勢を立て直す。
巨体からは確かに血が流れているが、傷は決して深くはない。それどころか、手傷を負ったことで闘志が更に膨れ上がっている様子だった。
「既に手持ちの回復ポーションは全て飲んでしまいましたし、レイラの詠唱もまだ時間が掛かりそうです」
「な、なら私のポーションを...」
咄嗟にミリーが自分の収納袋を漁るが、そこには僅かな飲み水が入ってるだけだった。
「あ......」
道中での自分の行動を振り返り、彼女が青い顔をする。せっかく見えた一筋の光明も、暗い闇に呑まれてしまった。
そんな彼女の事を安心させるように。
クロードが半ば無理をしながら明るい口調で努める。
「そんな顔をしないで下さい。大丈夫ですよ、俺達には頼れる剣聖がついていますから」
「.........え?」
その疑惑に満ちた声は、エルリックから出たものだった。
クロードが呆然とする彼の方を向くと、優れない顔色に笑みを浮かべる。
「殿下、先ほどは《《不覚を取ってしまい》》申し訳ありませんでした。敵視を引き付けられなかった俺の失態です」
「クロード君...」
「どうか、もう一度だけチャンスを頂けないでしょうか?俺達だけでこの化物を倒す事は不可能です。殿下のお力添えが必要なんです」
彼の言葉に、近くにいるミリーも同調する。
「そうです!私には...私達にはエルリック様が必要なんです!」
「ミリー......」
徐ろにエルリックが顔を伏せる。
レグイット帝国の王族として生を受けた彼は、幼い頃から才能に恵まれており、大抵の事は難なくこなせてきた。剣聖のスキルを得てからは更に拍車が掛かり、自分が如何にこの国で完璧な存在であるのかを再認識した。
だが、その仮面はついさっき、脆くも剥がれ落ちてしまった。
敵無しだと思っていた自慢の技は通用せず、死が間近まで迫る恐怖を初めて体感した。そしてあろうことか、恋人にまで醜態を晒してしまうばかり。
自分の酷くみっともない姿が頭に焼き付いている。未だかつてない喪失感と羞恥心が深く伸し掛かった。
そんな自分を窮地から救った勇者。仲間の危機に颯爽と駆けつける様は、正しく英雄そのものだった。
《《やはり》》彼は特別なのだろう...。そんな思いが胸の内を占めた。
だが、彼はこんな自分を必要だと言う。
そして──愛する恋人もまた、変わらぬ眼差しで自分を必要としている。
心の楔が外れた気がした。
「......やれやれ、そういう事ならば仕方がないな。君達に剣聖の技を見せてやるとしよう」
エルリックが徐ろに立ち上がると、細剣を握る手に力を込める。彼の瞳には、再び光が宿っていた。
それを見て、クロードが深く頷く。
「殿下...ありがとうございます。では、引き続き俺が敵視を取りますので、レイソン嬢は合図と同時にライトの発動を。エルリック殿下は魔物が怯んだ隙を見計らって攻撃を仕掛けて下さい」
「分かったわ」
「任せたまえ」
頷く仲間の姿を確認すると、クロードが化物の前に出る。
──パーティの士気は戻った。後は俺がどれだけ時間を稼げるかに掛かっている。エルリック殿下とレイラの火力があれば、きっとこの化物を倒す事が出来る筈だ。
ここが正念場だ。踏ん張れ。
いつものように聖剣を中段に構えると、彼が未だ衰えない闘志を燃やした。
「行くぞッ!」
クロードが大きな懐へと斬り込む。それを迎撃しようとミノタウロスが大斧を振るうも、彼が寸前で見切って回避する。
巨体から繰り出される攻撃は強力だが、動きが重い分で回避はしやすい。
このまま攻撃を誘いつつ、隙を作り出す。クロードが意識を集中させて動きを見切っていると、不意に化物の動きが変化した。
──こいつ......。
彼が思わず表情を顰める。こちらの動きを学習したのか、化物の挙動はコンパクトなものへと変化し、大振りだった攻撃は振り幅を絞り出したのだ。
それに伴い、次第に回避の難易度も上がっていく。
恐ろしい順応力だ。動きの変化で威力は落ちているであろうも、元が元なだけに、まともに受ければ致命傷は免れない。
元々回避を前提とする立ち回りをする上で、これほど厄介な相手もいないだろう。
クロードの額を汗が伝う。絶え間ない激しい運動量と集中力により、勝手に無駄な汗が出てしまう。ましてや、負傷している状態ならば尚更だった。
──まだか。
一秒が長い。今までの人生で、これほど一秒を長く感じた事はないだろう。改めて、Aランクの壁というものを再認識する。
そのまま彼が生死の境に直面していると、言うが早いか、ミリーから合図が届いた。
「クロード、いけるわよ!」
「...!了解です!」
クロードが短く応えると、回避した直後の反動をつけて、大振りに聖剣を走らせる。剣は筋肉で覆われた太腿に線を入れると、僅かな切り傷を生み出した。
それが引き金となって、ミノタウロスの動きも変化する。
咆哮と共に大斧の軌道が大きくなる。いくら順応力が高い魔物といえど、怒りの感情には逆らえないようだ。
そこは人間も魔物も共通か。
クロードが冷静に視覚で捉えながら、即死級の一撃を横に避ける。地面に大斧が突き刺さった。
「レイソン嬢!」
「ライト!」
名前を叫んだのとほぼ同時に、周囲が眩い光に包まれる。
クロードが網膜に痛みを感じながら薄目を開けると、白い残影の先で怯むミノタウロスが映った。
千載一遇のチャンスだ。
「殿下、今です!」
怯んだ化物に颯爽と人影が迫る。長身を活かした突進力は抑揚を付けると、複数の真空波を生み出した。
「ソニックブレイド!」
ミノタウロスの巨体が切り裂かれる。
胴体に拓けた傷跡を中心として、ドス黒い血飛沫が上がると、巨体が大きな音を立てて膝を着いた。
「やったか!?」
手応えを感じたエルリックが言う。真新しい傷跡は鳴りを潜めているが、それはあくまで瑕疵がない箇所に限られていた。
元々ある傷跡を狙えば致命傷へグンと近づく。攻撃の手は決して無駄ではなかったのだ。
これもパーティの連携が成せる技。クロードが仲間の頼もしさに誇りを感じていると、その直後に化物が身を突き動かした。
「ぐぅ!?」
強靭な腕がクロードの体を捕捉する。骨が軋む音が聞こえた。
顔の筋肉は強張ったように硬くなり、脳を巡る血液が急激に流れを止める。
「...離...せ...!」
咄嗟に掴まれた腕に聖剣を突き立てる。しかし、腕の力は緩まるばかりか強さを増し、更に全身が圧迫された。
「ぐぁぁぁっ!」
必死の抵抗も虚しく、全身の半分にも満たない人間の力では微動だにもしない。大方分の悪い力比べだ。
即座にエルリックが迎撃に移る。
「クロード君を離したまえ!」
再度描かれる鋭い軌道。しかし、化物の執念は斬撃を物ともせず、捕捉した獲物を決して離そうとはしない。
そうしてクロードの腕が化物によって掴まれると、そのまま全身ごと高々と持ち上げられる。利き腕の骨が砕ける感覚が襲いかかった。
「くっ...ああ...」
激痛に苛まれながらも、決して聖剣だけは手放さないクロード。尚も屈しない姿は勇者そのものだった。
そんな彼にトドメを差すかのように、化物が大口を拡げる。
「...俺を喰うつもりか」
肯定するように、牛頭の目元が歪む。唾液に塗れた形相は醜悪に満ちていた。まるで恐怖という感情を具現化したような存在だ。
しかし、幼い頃から育まれた勇者の正義心は、最後まで折れる事はなかった。
「生憎と、お前の腹の足しになってやる気はない」
そう言いつつ、クロードが手元を開く。
宙を落下する一本の聖剣──。
それが半回転した時、彼の左手が血糊の付着した柄を掴み取った。
「これでも喰らえッ!」
歪んだ眸に刃が深く突き立てられる。天井を掠めるほどの血飛沫が立ち上ると、今までで一番大きな悲鳴が上がった。
その苦しみから逃れるように、ミノタウロスが手中の獲物を放り投げる。
「がはっ...!」
クロードの全身が地面に打ち付けられる。彼の腕の皮膚は赤黒く変色しており、上腕の部分が不自然なほど圧縮されていた。
「クロード!」
遠くで叫ぶ仲間の声を聞きながら、彼が激痛を堪えて身を起こす。恐ろしい形相が目と鼻の先にまで拡がっていた。
野性的で、それでいて暴虐な悪魔のような牛頭。
恐らく目が合っているであろう眸を見ながら、彼が静かに笑みを浮かべた。
「《《俺達》》の勝ちだ」
洞穴内に夥しい量の魔力が溢れる。その魔力量は目の前の化物をも凌いでいた。
「よくも好き勝手やってくれたわね...。あんたの暴虐もここまでよ。喰らえ、セイクリッドスピア!」
レイラの魔杖から、光を帯びた巨大な槍が飛び出す。魔力で形成された槍の穂先は、付近にいるクロードを避けると、的確にミノタウロスの胴体を貫いた。
黒い血液が宙を舞うと、化物は叫び声を上げながら地面に崩れ落ちた。
「全く、これじゃあ嫌でも範囲を絞るしかないじゃないの」
レイラが不敵に笑う。放たれた魔法の精度は正確無比で、賢者の名に恥じない威力を秘めていた。彼女が日頃からどれだけ修練を積んでいるか窺える。
「クロード、大丈夫!?」
魔物を仕留めたのを確認すると、レイラが急いでクロードの元へと駆け寄る。
「このくらい...うっ...!」
彼はすぐに大丈夫だと答えようとしたが、腕の激痛がそれを拒んだ。
「あ、ああ...クロード...腕が...」
彼を見つめるレイラの表情は酷く狼狽しており、今にも泣き出しそうなものだった。
「こ、このくらい大丈夫さ...。レイラや皆が無事で良かったよ」
「大丈夫なわけないでしょう!このアホ!」
下手くそな作り笑いを見たレイラが強い口調で怒ると、近くにいるミリーへと顔を向ける。
「ミリー様、早く回復をおねがい!」
「ええ、分かっているわ。でも、もう少し勝利の余韻に浸らせてくれても...」
「いいから早くして!手遅れになったらどうするつもりよ!」
身分も忘れて怒鳴るレイラ。その凄い剣幕に圧されて、ミリーが渋々了承する。
「はいはい、分かったわよ。相変わらずキーキー煩いんだから」
徐ろにクロードへ回復魔法が施される。あれほど酷い状態だった腕は元の形へと戻り、痛みも徐々に薄れていく。
「ありがとうございます。レイソン嬢」
「まあ私も疲れているんだけども、今回はあなたの活躍が大きかったのもあるから、特別に治してあげるわ。精々感謝しなさい」
そっぽを向きながら治療するミリー。素直じゃない態度にクロードが微笑む。仮にこれが重症を負ったのがエルリックだったらと考えると、彼女の態度も百八十度変わる事は容易に想像つくが、それも何だか微笑ましかった。
治療を受けながら、クロードが鞘に細剣を収めるエルリックの方を向く。
「エルリック殿下も素晴らしい剣技でした。流石です」
「ふっ、当然だろう?私は勇者一行の頼れる剣聖なのだからな」
自信に満ちた様子で告げるエルリック殿下。もはや彼の顔に悲壮感は感じられず、普段の調子が戻った様子だった。
密かに、クロードの懸念が一つ晴れる。
「レイラも凄い魔法だったよ。流石は賢者。今回も助けられちゃったな」
「なに良い感じに場を収めようとしてるのよ?煽てて済むと思ったら大間違いよ。本当にあんたは無茶ばっかりして...」
「あ...いや、その...」
「帰ったら覚悟しておきなさい。言いたい事は山程あるんだから」
「う...仰せのままに...」
洞穴内に笑いが漏れる。危機的状況ではあったが、勇者一行の絆はより深まった気がした。
ミリーの回復魔法による光が収まると、クロードが全身の感覚を確かめながら立ち上がる。
「もう動いて平気なの?」
「うん、もう大丈夫だ。どこも支障はないよ」
レイラの問いにクロードが答える。まだ多少の傷みは残っているものの、動く分には問題はなさそうだった。
「それよりも、思った以上に時間が掛かってしまった。なるべく急いでギルドへ戻って、依頼の達成を報告しよう」
洞穴に入ってから、少なくとも三十分以上は経過してしまっている。日が暮れてしまうと、帰路での魔物との戦闘が厄介なものとなる。
往復での時間も考えると、出来るだけ早く帰還するに越した事はなかった。
「そうね。早いところ領民の皆を安心させてあげなくちゃ」
「ああ。こんな辛気臭いところはさっさとオサラバしたいものだ」
「私は早くシャワーを浴びたいわ」
他の仲間も、クロードの意見に賛同する。
来た道を引き返していく勇者一行。仲間達の背中を眺めながら、クロードが思う。
──これでバルクエの脅威は取り除いた。
だが、依然として岬には魔物が多数確認されたままだ。街へ戻り次第、岬周辺の立ち入りを禁止して、警備を強化してもらうべきだろう。
またいつ、今回のミノタウロスのような化物が襲ってこないとも限らない。対策は入念に取っておくべきだろう。
そうして今後の思索に耽っていた為か。
この時の彼は、”Aランク”という魔物がいかに強力な存在であるのか。それを失念してしまっていた。
勇者一行の前に影が落ちる。殿のクロードが慌てて振り返ると、そこには横一文字に薙ぎ払われる大斧が迫っていた。
「がふ...!」
くぐもる声が上がると、クロードの視界の景色が一気に切り替わる。咄嗟に向けた聖剣も勢いを殺しきれず、彼の体は無抵抗なまま岩壁に直撃した。
意識が途絶える瞬間、レイラの声を聞いたような気がした。
「冗談でしょ...これ」
「う、嘘...」
「こいつ、まだ生きているというのか!?」
真新しい血のりがついた大斧が勇者一行に向けられる。黒い大粒の雫を垂らす牛頭の眸は、手負いによる闘争心で燃え盛っていた。




