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第96話 新年祝宴と踊る薬草

新年最初の大祝宴が王宮で開かれる日がやってきた。

金と銀で装飾された大広間には、シャンデリアの光がきらめき、まるで星空を室内に閉じ込めたような豪華絢爛さ。

王族を始め、全国の貴族が色とりどりのドレスや正装に身を包んで一堂に会している。


「ルナさん、今日は絶対に、絶対に何も実験しないでくださいませね」


カタリナが真剣な表情で釘を刺してくる。

深紅のドレスに身を包んだ彼女は、いつにも増して上品で美しい。

縦ロールの髪が優雅に揺れている。


「失礼ね、王宮で実験なんてするわけないでしょ。私だって常識はあるのよ」


私も特別に仕立てた薄紫色のドレスを着ている。

胸元の小さなポケットからは、ふわりちゃんがちょこんと顔を出している。


「ふみゅ〜♪」


ふわりちゃんも小さなティアラを付けて、まさに天使のような可愛さ。

ハーブは今日はお留守番で、「ピューイ…」と寂しそうに鳴いていたわ。


「それにしても、王宮の豪華さは圧巻ですね」


エリオットが感嘆の声を上げる。彼も黒い正装に身を包んでいて、いつもより大人っぽく見える。


セレーナも今日は特別に、メイド服ではなく淡いブルーのドレスを着ている。

アルケミ家の従者として正式に招待されたのだ。虹色の髪がドレスとよく映えている。


「皆、よく来てくれた。今年も王国の繁栄を祈り、盛大に祝おう」


国王陛下の威厳ある声が大広間に響く。

隣には美しい王妃陛下、そして金髪に青い瞳が美しいノエミ王女殿下の姿も見える。


さらに、第一王子アルカディウス殿下と第二王子セラフィム殿下も揃っている。

アルカディウス殿下は引き締まった表情で王位継承者らしい威厳を漂わせ、一方のセラフィム殿下は穏やかな笑みを浮かべている。学者肌と噂される通り、知的な雰囲気ね。


拍手が響く中、次々と豪華な料理が運ばれてきた。

どれも見たことのない珍しいものばかり。


「あら、これは『星霜の果実』ですわね。年に一度しか収穫できない、とても貴重な食材ですのよ」

カタリナが銀色に輝く美しい果物を指して教えてくれる。


「こちらの『虹色魚』も素晴らしいですね。古代から王室の祝宴でしか食べられないと言われています」

エリオットも詳しく説明してくれる。

確かに、七色に輝く魚は美しすぎて食べるのがもったいないくらい。


私は興味深そうに料理を眺めていたのだけれど…ん?何だか変な匂いがする。


「あれ?この『星霜の果実』、少し香りがおかしくない?」

鼻をひくひくさせながら、私は首をかしげた。


「おかしいって、どういう意味ですの?」

「なんか…『ネムリグサ』の匂いがするの。毒草よ」


前世の化学知識と、今世で培った錬金術師としての嗅覚が警鐘を鳴らしている。

この甘ったるくて少し青臭い匂い、間違いない。


「毒?まさか!」

エリオットの顔が青ざめる。


その時、ノエミ王女殿下が優雅な手つきで『星霜の果実』に手を伸ばそうとしているのが見えた。

上品な笑顔を浮かべて。


「危ない!」


私は咄嗟に駆け寄って、ノエミ王女殿下の手首を掴んだ。ドレスの裾を踏みそうになりながら、必死に。


「あら?ルナ様?どうかなさいましたの?」

王女殿下が不思議そうに私を見る。その美しい青い瞳に困惑の色が浮かんでいる。


「申し訳ございません、殿下!でも、その果実には毒が仕込まれています!」


私の声に、会場がざわめき始めた。


「毒だと?」

アルカディウス殿下が鋭い視線を向け、セラフィム殿下も心配そうな表情を浮かべる。


「根拠はありますの?」

カタリナが冷静に尋ねる。さすが、こういう時も落ち着いている。


「匂いです!『ネムリグサ』という毒草の香りがします。間違いありません」

すぐに王宮の毒見役が呼ばれ、慎重に果実を検査し始める。緊張の数分間が過ぎて—


「確かに、微量の毒が検出されました。『ネムリグサ』の毒です」

会場が騒然となった。暗殺未遂事件よ!


「すぐに調査を開始し、他の料理も全て検査せよ」

国王陛下の厳しい命令が下る。


「このままでは祝宴が台無しになってしまいますね」

セラフィム殿下が心配そうに呟く。


でも検査には時間がかかる。このままでは新年の祝宴が…。


「あの!私が『毒消し薬』を作れるかもしれません!」

私は手を挙げて提案した。


「本当ですか?」

ノエミ王女殿下の目が希望に輝く。


「ルナさんなら、きっと大丈夫ですね」

セラフィム殿下が信頼の眼差しを向けてくれる。


「許可する。国民の安全のためなら、あらゆる手段を講じよ」


国王陛下の許可を得て、私は急いで錬金術道具を空間収納ポケットから取り出した。


「王宮で錬金術を行うなんて、前代未聞ですわね」

カタリナが呟く。確かに、こんな場所で実験するなんて初めて。


私は『万能毒消し薬』の調合を開始した。

『浄化の水』をベースに『解毒の草』と『中和の粉』を加えて…


でも、あれ?『解毒の草』が足りない!


「どうしましたの?」

「材料が足りないの…」


困っていると、会場を飾る美しい花飾りが目に入った。


「あ!あれは『ヒーリングローズ』!代用できるかも!」


私は花飾りから薔薇を何本か拝借して、急いで薬に加えた。

さらに効果を高めるために魔力も多めに注ぎ込んで—


「えい!」


その瞬間—


ーードッカーン!


予想以上の爆発が起こった。虹色の煙がもくもくと立ち上り、甘い花の香りが会場中に漂う。


「きゃー!」

「大丈夫か!」


貴族たちが慌てふためく中、私は煙の中から手を振った。


「大丈夫よ〜!実験成功の証拠よ、この虹色の煙は!」


でも次の瞬間、予想外のことが起こった。


会場中の花飾りが、まるで生きているかのように揺れ始めたの。

薔薇、百合、カーネーション、ありとあらゆる花が踊るように動いている。


「あら…花が踊ってますわね」

カタリナが妙に冷静に指摘する。


「『ヒーリングローズ』の生命力が他の植物にも伝播したのでしょうか」

エリオットが分析している間にも、花たちの踊りはどんどん激しくなっていく。


「これは…美しいですね」

セラフィム殿下が感嘆の声を上げる。学者らしく、この現象に純粋に興味を示している。


「実に興味深い現象だ」

アルカディウス殿下も、普段の厳格な表情を少し緩めている。


そして肝心の『万能毒消し薬』も完成した。美しい金色に輝く液体よ。


「これを料理にかければ、どんな毒も無害化されます!」


王宮の料理人たちが慎重に薬を各料理に振りかけていく。再び毒見役が検査すると—


「素晴らしい!全ての毒が完全に中和されています!」


会場から大きな拍手が起こった。


「ルナ・アルケミ嬢、見事だ。君のおかげで祝宴を続けることができる」

国王陛下から直々にお褒めの言葉をいただいた。


「ルナ様、命をお救いくださって、本当にありがとうございます!」

ノエミ王女殿下が深々とお辞儀をする。


「妹を救ってくださり、心から感謝いたします」

アルカディウス殿下が珍しく温かい表情を見せる。


「ルナさんの知識と行動力には頭が下がります」

セラフィム殿下も敬意を込めて頷いてくれた。


祝宴は無事に続行され、踊る花々の演出もあって、例年以上に幻想的で美しいものになった。

貴族たちも「これは素晴らしい演出だ」「まさに新年にふさわしい」と大喜び。


でも翌日、ハロルドが困った表情で報告してきた。


「お嬢様、王宮から緊急の依頼が参りました」

「何かしら?」


「『植物鎮静化』の依頼です。王宮の庭園の植物が全て踊り続けて、観光客が殺到して大変なことになっているそうです」


「えー、でも踊る花って素敵じゃない?」

「庭師が仕事にならないそうです」


「ピューイ…」

ハーブが呆れたような鳴き声を上げる。


「ふみゅ〜」

ふわりちゃんも苦笑いしているような気がする。


「分かったわ!『植物安定薬』を作って解決しましょう」


「今度こそ、何も起こりませんように…」

セレーナが心底祈るような気持ちで呟いた。


でも、ノエミ王女殿下の命を救えて本当に良かった。

きっとカタリナも喜んでくれるし、今度のお茶会でも話題になるでしょう。


『踊る花薬』の応用研究も面白そうだけれど、それはまた今度にしましょう。


まずは踊る花を何とかしないと、王宮の庭師さんたちが困ってしまうものね。

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