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第93話 冬の大市(ウィンターマーケット)

王都の中央広場は今日、年に一度の冬の大市で大賑わいだった。

雪化粧した石畳に色とりどりのテントが立ち並び、魔法道具から珍しい食材まで、ありとあらゆるものが売られている。


「わあ!すごい賑わいですわね!」


カタリナが目を輝かせながら周りを見回す。確かに、普段は見かけない珍しい商品がいっぱい。


「ルナさん、今日は普通にお買い物を楽しみませんか?」


エリオットが少し不安そうに提案する。

失礼ね、私だって普通にお買い物くらいできるわよ。


「もちろんよ!今日は錬金術の材料を探しに来ただけだもの。絶対に平和にお買い物するわ」


「…その言葉、聞き覚えがあります」


後ろからセレーナが呟く。今日は私のお供として付いてきてくれた。


「ふみゅ〜♪」


肩の上のふわりちゃんが嬉しそうに鳴いている。市場の賑やかな雰囲気が気に入ったみたい。


「ピューイピューイ!」


ポケットの中のハーブも興奮している。きっと美味しそうな匂いがするのね。


「それにしても、珍しいものばかりですわね」


最初に立ち寄ったのは、魔法道具を扱う店。

キラキラ光る杖や、自動で動く羽根ペン、温かい魔法のマフラーなどが並んでいる。


「いらっしゃいませ!お嬢様方、何かお探しですか?」


店主のおじいさんが愛想よく声をかけてくる。


「錬金術の実験器具で、何か珍しいものはありませんか?」


「おお!錬金術師のお嬢様でしたか。それでしたら…」


おじいさんが奥から古ぼけた小さな鍋を取り出した。表面に不思議な文字が刻まれている。


「これは『時短調合鍋』と言いまして、普通の3倍の速度で錬金術ができるという代物です」


「3倍も!?それは素晴らしいわ!」


私は目を輝かせて鍋を手に取った。ずっしりと重くて、なんだか特別な力を感じる。


「ただし、使い方を間違えると大変なことになるのでご注意を…」


「大丈夫です!私、錬金術は得意ですから」


「ルナさん、その自信が一番危険なのでは…」


エリオットが心配そうに呟く。


次に向かったのは、冬季限定の食材を扱う店。雪の下で熟成された『雪花キノコ』や、氷の洞窟で育った『氷晶ベリー』など、見たことのない食材がずらり。


「あら、これは珍しい!『極光の実』ですって!」


私が手に取ったのは、虹色に光る小さな実。触ると暖かくて、不思議な感覚。


「お客さん、目が高いですね。それは北の極地でしか採れない幻の果実ですよ」


商人のおばさんが自慢げに説明する。


「どんな効果があるんですか?」


「食べると体が軽くなって、魔力が一時的に増幅するんです。ただし…」


「ただし?」


「量を間違えると、とんでもないことになりますから気をつけて」


またその台詞。でも、こんな珍しい材料を見つけたら、実験したくなるのが錬金術師の性よね。


「これください!あと、雪花キノコと氷晶ベリーも」


「ルナさん、まさかここで実験するつもりでは…」


カタリナが不安そうな表情を浮かべる。


「まさか!家に帰ってからよ。でも…ちょっとだけ、『極光の実』がどんな味か試してみたいの」


私は小さな実を一つ、口に放り込んだ。


甘酸っぱくて、なんだか体がポカポカしてくる。すごく美味しい!


「あら、体が軽くなった気がするわ」


そう言った瞬間、足が地面から浮いた。


「え?え?ええええ!?」


私の体がふわりと宙に浮き上がってしまった!


「ルナさん!」


「お嬢様!」


カタリナとセレーナが慌てて手を伸ばすけれど、私はどんどん上昇していく。


「これ、どうやって降りるのよ〜!」


「ふみゅー!」


ふわりちゃんも一緒に浮いている。でも彼女は元々飛べるから平気そう。


「ピューイピューイ!」


ハーブだけは重力の影響でポケットの中に留まってる。


市場の人々が空を見上げて騒ぎ始めた。


「あの娘、空を飛んでるぞ!」


「魔法使いかい?」


「すごいじゃないか!」


でも私は魔法で飛んでるんじゃなくて、『極光の実』の効果で勝手に浮いてるのよ〜!


「ルナさん、何か重いものを持って体重を増やしてください!」


エリオットが下から叫ぶ。


そうか!私は空間収納ポケットから『時短調合鍋』を取り出した。

ずっしりと重い鍋を抱えると、ゆっくりと下降し始めた。


「よかった…って、あれ?」


鍋を抱えた状態で地面に着地したけれど、なんだか鍋が熱くなってきた。


「あ、あつい!」


慌てて鍋を地面に置くと、中で何かがぐつぐつ煮立っている音がする。


「まさか、『極光の実』の汁が鍋に付いて、勝手に錬金術が始まってしまったのでは?」


カタリナが鍋を覗き込む。


「『時短調合鍋』ですから、3倍速で反応が進んでいますわ」


鍋の中では虹色の泡がぽこぽこと沸いている。しかもだんだん大きくなってきた。


「みんな、離れて!」


私が叫んだ瞬間—


ーーーボボボボーン!


鍋から虹色の煙が噴き出して、市場全体を包み込んだ。


「うわあああ!」


「何だこれは!」


人々が慌てて逃げ回る。でも煙に包まれた商品たちが、なんだか光り始めた。


「あら、綺麗…」


煙が晴れると、市場の商品すべてが虹色に光っている。

魔法道具はより美しく輝き、食材は新鮮さが増して、まるで宝石のよう。


「すごいですわ!まるで市場全体が魔法にかかったみたい」


「これは…『極光の実』の魔力増幅効果と『時短調合鍋』の加速効果が組み合わさって、周囲のものすべてを強化してしまったようですね」


エリオットが分析している。


商人たちも最初は驚いていたけれど、商品が美しくなったことに気づくと—


「こりゃあすごい!商品が全部グレードアップしてる!」


「お客さん、あんたは商売の神様だ!」


なぜか私は市場の救世主扱いされてしまった。


「でも、効果はいつまで続くのでしょう?」


セレーナが心配そうに尋ねる。


「えーっと…多分、日が暮れる頃には元に戻ると思うわ」


「思うって…」


でも結果的に、今日の冬の大市は大成功。

虹色に光る商品目当てに、さらにたくさんのお客さんがやってきて、市場は大賑わい。


「ルナ・アルケミお嬢様!」


突然、市場の組合長らしき人が現れた。


「今回の件、心から感謝いたします。おかげで今年最高の売上になりそうです」


そう言って、大きな籠いっぱいの冬季限定食材を渡してくれた。


「え、いいんですか?」


「もちろんです!また来年もお待ちしております」


帰り道、カタリナが感心したように言う。


「ルナさんって、結果的にはいつも良い方向に転ぶのが不思議ですわ」


「それが私の才能よ!」


「才能…なのでしょうか」


エリオットが首をかしげる。


「お嬢様、今日は何事もなくて良かったです」


セレーナがほっとしたように言うけれど—


「そうそう、今日手に入れた材料で、明日は『虹色ジャム』を作ってみるのよ。きっと美味しいと思わない?」


「また実験ですか…」


「でも今度は絶対に安全よ!ジャムを作るだけだもの」


「ピューイ…」


ハーブが不安そうに鳴く。


「ふみゅ〜」


ふわりちゃんも心配そうだ。


でも、新しい材料を手に入れたら実験したくなるのが錬金術師の性。明日はどんな発見があるかしら。


夕方、屋敷に戻ると兄が待っていた。


「ルナ、今日は市場で騒ぎを起こしたそうだな」


「でも結果的に市場は大成功だったのよ」


「…そうらしいな。組合長から礼状が届いている」


やっぱり結果オーライが私の得意技。


でも一つ気になることが。『時短調合鍋』、まだ少し温かいのよね。まさか、まだ何か調合中じゃないわよね?


まあ、きっと大丈夫よ。明日になれば冷めてるはず。


…多分。

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