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第87話 侯爵令嬢の舞踏会準備と隣家の爆発音

今日はカタリナの屋敷で舞踏会の練習をすることになった。


「ルナさん、今度の王女様の舞踏会では完璧な踊りを披露しなければなりませんの。特にワルツの基本ステップは確実にマスターしておきましょう」


カタリナが縦ロールの髪をくるりと巻き直しながら、上品な笑顔で説明してくれる。

彼女の蒼い瞳は真剣そのもので、さすが侯爵家の令嬢という完璧さが滲み出ている。


私といえば、正直なところ舞踏会のダンスなんて苦手分野だ。

錬金術の実験なら何時間でも集中できるけれど、優雅なステップとなると途端に足がもつれてしまう。


「えーっと、右足を前に、左足を横に…」


カタリナの指導に従って、慎重にステップを踏もうとする。

ふわりちゃんが私の肩で「ふみゅ〜」と応援してくれているのが唯一の救いだった。


「そうですの、その調子で…」


カタリナが優雅に踊りながら見本を見せてくれる。

月灯りの剣を腰に佩いた姿でも、彼女の動きには一分の隙もない。流麗なステップ、美しい手の動き、まさに教科書通りの完璧な舞踏だった。


「1、2、3、4…」


リズムを数えながら、なんとかついていこうとする。


その時だった。


ーードォォォォン!ーー


隣の屋敷の方向から、聞き慣れた爆発音が響いてきた。


「あ」


思わず足を止めてしまう。この音は間違いない。私の実験室からの爆発音だ。

きっとセレーナが調合の実践をしているのだろう。

最近彼女は『虹色治癒の雫』の調合で、私の許可ありで仕事の合間に一人で調合を続けている。


「ルナさん?どうされました?」


「あ、いえ、何でも。続けましょう」


慌てて笑顔を作って、再びステップを始める。


ーードーン!ーー


また爆発音。今度はさっきより少し大きい。


「1、2、3…」カタリナが数えているのに合わせて足を動かそうとするが、なぜか爆発のタイミングに合わせて体が勝手に跳ねてしまう。


ーードォォン!ドン!ーー



連続で響く爆発音。どうやらセレーナは今日、連続調合に挑戦しているらしい。


「1、2、3、4…」カタリナは気にせず優雅に踊り続けているが、私の体はもはや爆発音のリズムに完全に支配されていた。


普通のワルツなら「1、2、3、1、2、3」のリズムなのに、爆発音のせいで「1、2、ドーン!4、ドン!6」みたいな変拍子になってしまう。


ーードドドーン!ーー


特に大きな爆発音。きっと『星屑の煌めき』と『虹色の雫』を組み合わせた実験だろう。

あの組み合わせは派手な爆発とともに美しい七色の煙を上げるのが特徴だ。


「あらあら、ルナさん?なんだかステップが…」


カタリナが困惑した表情で私を見つめる。

確かに、私の動きはもはやワルツではなく、爆発音に合わせた謎のダンスになってしまっていた。


ーードーン!パーン!ドドドーン!ーー


もう完全に爆発のリズムに身を任せることにした。

右に跳ねて、左に跳ねて、くるりと回る。なんだか楽しくなってきた。


「ふみゅみゅ〜♪」

ふわりちゃんも肩の上でリズムを取っている。さすが私の相棒だ。


「ちょっとルナさん!それはワルツではありませんのよ!」


カタリナが慌てて止めようとするが、時すでに遅し。私の体は爆発音のリズムに完全に乗っかっていた。


ーードーン!ドーン!パパパーン!ーー


セレーナの実験もクライマックスを迎えているらしく、爆発音が激しくなる。私もそれに合わせてより激しく踊る。まるで雷に打たれたような動きだ。


「もう!仕方ありませんわね」


なんと、カタリナまで諦めて爆発音に合わせて踊り始めた。さすが侯爵家の令嬢、どんな状況でも優雅さを失わない。爆発音に合わせた謎ダンスでさえ、彼女が踊ると上品に見えるから不思議だ。


ーードドドドドーーーン!!ーー


フィナーレを飾る特大の爆発音。きっと実験が大成功したに違いない。私たちも最後の決めポーズ。


「ふみゅー♪」


ふわりちゃんも満足そうだ。


しばらくして爆発音が止むと、不思議な静寂が訪れた。


「あの…ルナさん?」


「はい?」


「今のは一体何だったのでしょうか?」


カタリナが呆然とした表情で尋ねる。確かに、普通のワルツの練習のはずが、最終的には爆発音に合わせた謎のダンス大会になってしまった。


「えーっと、これは…斬新な創作ダンス?」


苦笑いしながら答える私。でも意外と楽しかったのも事実だ。


そして、翌日。昨日と同じようにカタリナの屋敷で、ワルツの練習を始める。


その時、屋敷の扉が勢いよく開いて、ジュリアが息を切らして駆け込んできた。


「カタリナお嬢様!大変でございます!」


「どうされました?」


「先ほどから、王都の貴族の方々がお屋敷に押しかけていらして…『最新流行の舞踏を教えてほしい』とおっしゃっているのです!」


「え?」


私とカタリナは顔を見合わせる。


「どうやら、昨日お嬢様方が踊っていらした新しいダンスを窓から拝見されていた方がいらっしゃって…『あれこそ現代の革新的な舞踏だ』と大絶賛されているそうなのです」


「そんな…」


カタリナが青ざめる。どうやら、爆発音に合わせた謎ダンスを「最新流行」と勘違いされてしまったらしい。


「特にバルナード侯爵様が『これぞ真のエンターテイメントだ!次の舞踏会でぜひ披露してほしい』と興奮でいらっしゃいまして…」


あの娯楽大臣のバルナード侯爵か。確かに彼なら、爆発音ダンスを気に入りそうだ。


「ルナさん…」


カタリナが恨めしそうに私を見る。


「ごめんなさい…」


でも、隣からはセレーナの嬉しそうな声が聞こえてくる。


「お嬢様〜!『虹色治癒の雫』の調合に成功いたしました〜!」


きっと彼女の実験は大成功だったのだろう。虹色の煙がもくもくと上がっているのが窓から見える。


「仕方ありませんわね…」


カタリナがため息をついた後、くすりと笑った。


「でも確かに、あのダンスは楽しかったですわ。たまには型破りなことも悪くないかもしれませんのね」


「カタリナ…」


「それに、王女様の舞踏会でも話題になること間違いなしですわよ。『ローゼン家とアルケミ家が開発した革新的舞踏』として」


さすがカタリナ、どんな状況でも前向きに考えられる。


「では、この『爆発音ワルツ』を完璧にマスターいたしましょう。今度はセレーナさんに協力してもらって、より正確なリズムで練習いたしましょう」


「ふみゅ〜♪」


ふわりちゃんも賛成のようだ。


こうして、私たちは思いがけず新しいダンスの創始者になってしまったのだった。


次の舞踏会が今から楽しみなような、恐ろしいような…でも、きっとセレーナの調合した薬の効果で、会場は虹色に染まって美しいことになるだろう。


爆発音と錬金術、そして友情の力で生まれた奇跡のダンス。これも立派な錬金術の成果かもしれない。

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