表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
83/215

第83話 王城召喚とドキドキの大誤解

朝食を食べていると、ハロルドが慌てた様子で執事室から駆け込んできた。

白髪をかき上げて、眼鏡がずり落ちそうになっている。


「お嬢様!大変です!王城からお召しの知らせが届いております!」

「え?王城から?」


私はスプーンを持ったまま固まってしまった。

肩に乗ったふわりちゃんも「ふみゅ?」と心配そうに鳴いている。


「お、王城って……あの王城?国王陛下がいる?」

「はい、その王城でございます。本日午後、至急お越しくださいとのことで……」


ハロルドが震え声で王室の公式文書を差し出す。

確かに王家の紋章が押された、とても重々しい羊皮紙だ。


「うわあああああ!ついに来ちゃった!」


私は頭を抱えてしまった。


最近の一連の騒動――スイートポテト大脱走事件に、カボチャゴーレム暴走事件。

きっと王様に怒られるんだわ。


「お嬢様、落ち着いてください」

セレーナが虹色の髪をなびかせながら、お茶を淹れ直してくれる。でも私の動揺は止まらない。


「ピューイ?ピューイピューイ?」

ハーブも心配そうに私の足元をくるくる回っている。この子まで不安そうだ。


「どうしよう、セレーナ!もしかして王国追放とか……監獄送りとか……」

「そんな大げさな。きっと何かの表彰かもしれませんよ」


セレーナは慰めてくれるけど、私には確信があった。絶対に怒られる。間違いない。


「ふみゅ〜、ふみゅみゅ〜」

ふわりちゃんが私の頬を小さな手でぽんぽん叩いている。

『大丈夫だよ』と言ってくれているような気がするけど、この不安は消えない。


午後になって、私は震えながら王城の門をくぐった。

セレーナとふわりちゃん、そしてハーブも一緒だ。


「うう……王城って本当に大きいのね……」


石造りの巨大な建物を見上げると、改めて自分の小ささを実感する。

これまでも貴族の邸宅は見慣れているけど、王城の威圧感は別格だ。


「ルナ・アルケミ様ですね。お待ちしておりました」


立派な制服を着た近衛兵が私たちを案内してくれる。

廊下は赤い絨毯が敷かれていて、壁には歴代国王の肖像画がずらりと並んでいる。


「あの……私、何か悪いことしましたか?」


思わず聞いてしまうと、近衛兵は困ったような顔をした。


「それは陛下から直接お聞きください」

「うわあああ、やっぱり怒られるんだ……」


「ふみゅ〜」

ふわりちゃんが私を励ますように鳴いているけど、足がガクガクしてきた。


ついに、謁見の間の扉の前に到着する。重厚な扉の向こうから、威厳のある声が聞こえてきた。


「ルナ・アルケミを通せ」

「は、はいいいい!」


私は声がひっくり返ってしまった。セレーナに背中を押されて、おそるおそる扉をくぐる。


謁見の間は想像以上に豪華で、天井まで続く柱と美しいステンドグラスが印象的だった。そして玉座には……


「うわ、本物の王様だ……」


立派な王冠をかぶった国王陛下が、厳かな表情で私を見つめている。

隣には王妃様もいらして、とても上品で美しい方だ。


「ルナ・アルケミ、近う寄れ」

「は、はは、はいいいい!」


私は膝をがくがくさせながら、玉座の前まで歩いた。

ふわりちゃんが私の肩でじっとしているのが、唯一の心の支えだ。


「ピューイ……」

ハーブも緊張しているのか、小さく鳴いている。


「陛下、ルナ・アルケミ、参りました……」

私は必死に礼儀作法を思い出しながら、深々とお辞儀をした。


「うむ。ルナよ、そなたを呼んだのは他でもない」

国王陛下の重々しい声が謁見の間に響く。私はもう覚悟を決めた。


「は、はい!すみませんでした!スイートポテトが逃げたのも、カボチャゴーレムが暴走したのも、全部私の責任です!どんな罰でも受けます!」


私は頭を下げたまま一気に謝罪の言葉を並べ立てた。


すると……


「はっはっはっ!」

突然、国王陛下の大きな笑い声が響いた。


「え?」

私が顔を上げると、国王陛下も王妃様も、そして周りの廷臣たちもみんな笑っている。


「ルナよ、そなたは誤解しておる。我々はそなたを罰するために呼んだのではない」


「え?えええっ?」


「それどころか、感謝状を贈るために呼んだのだ」

「か、感謝状?」


国王陛下は穏やかな笑みを浮かべながら続けた。


「そなたの錬金術によって生まれた『カボチャ叩き祭り』は、我が国の新たな観光資源となるだろう。他国からも多くの観光客が訪れ、王都は大いに潤うことになろう」

「そ、そうなんですか?」


「さらに『自走するスイーツ』も大変な話題となって、王都の菓子職人たちが新しい技術開発に励んでおる。経済効果は計り知れんぞ」


王妃様も優しく微笑みながら話してくださる。


「あなたの発明は、多くの人々に笑顔をもたらしました。それはとても素晴らしいことですのよ」

「え、えええ……そんな風に考えてもらえるなんて……」


私は予想外の展開に困惑してしまった。怒られると思っていたのに、逆に褒められている。


「ふみゅ〜♪」

ふわりちゃんが嬉しそうに鳴いて、小さく手を叩いている。

この子は最初から分かっていたのかもしれない。


「よって、ルナ・アルケミに『王国発展貢献賞』を授与する!」


国王陛下から美しい勲章を受け取った時、私はまだ夢を見ているような気分だった。


「ありがとうございます!でも、私はただ実験していただけで……」

「謙遜は無用だ。そなたの自由な発想こそが、この国の宝なのだからな」


謁見が終わって王城を後にする時、私はまだふわふわした気持ちだった。


「セレーナ、私、怒られると思ってたのに……」

「お疲れ様でした。でも、お嬢様らしい結果ですね」


セレーナが微笑みながら答える。


「ピューイ♪」

ハーブも嬉しそうに跳ね回っている。王城で緊張していた分、今は開放感でいっぱいだ。


「ふみゅ〜、ふみゅみゅ〜♪」

ふわりちゃんが『良かったね』と言ってくれているような気がする。


家に帰ると、兄さんが出迎えてくれた。


「ルナ、お疲れ様。王城からの報告は受けたよ。よくやったな」

「兄さん……私、本当にびっくりしちゃった」


「いつものことじゃないか。ルナの実験は最初は騒動を起こすけど、最終的にはみんなを幸せにする」

兄さんの言葉で、ようやく実感が湧いてきた。


私の錬金術は確かに予想外の結果を招くけれど、それがみんなの笑顔につながるなら、きっと良いことなんだろう。


「また明日から実験頑張ろうっと!」


「ふみゅ〜♪」

ふわりちゃんも賛成してくれている。


私の錬金術師としての道のりは、今日もまた新しい一歩を踏み出したのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ