第82話 王都を襲う巨大カボチャゴーレム大作戦
収穫祭の季節がやってきた。
王都では毎年恒例の観光イベントとして、巨大なカボチャの装飾が街中を彩る。
そして今年、メルヴィン副校長が「もっと盛大に!もっと驚きを!」と企画したのが、錬金術で作る「巨大カボチャゴーレム」だった。
「お嬢様、本当に大丈夫でしょうか?」
セレーナが心配そうに眉をひそめながら、私の錬金術の準備を見守っている。
虹色に染まった髪が秋の陽光にきらめいて、とても綺麗だ。
「大丈夫大丈夫!観光用だから、ゆっくり歩き回るくらいの設定にしてあるもん」
私は自信満々に答えながら、巨大な錬金釜にカボチャのエキスと「活力の源」、そして「動力安定剤」を投入していく。
肩に乗ったふわりちゃんが「ふみゅ?」と首をかしげているけれど、きっと大丈夫。
「ピューイ!ピューイピューイ!」
ハーブが私の足元で警告するように鳴いているが、まあ、この子はいつも心配性だから。
錬金釜の中で材料がぐつぐつと煮えたぎり始める。
オレンジ色の美しい光が立ち上って、とても良い香りが漂ってきた。
「うん、順調順調♪あとは完成の合図の『秋の祝福』を唱えれば……」
私が魔法を唱え終わった瞬間、錬金釜から眩い光が放たれた。そして次の瞬間――
ーードッカーーーーン!
予想以上の大爆発が起こり、私たちは煙の中に包まれてしまった。
「お嬢様!ご無事ですか!?」
セレーナが煙を手で払いのけると、そこには……
「うわぁぁぁ!なんか想像の三倍くらい大きくなってる!」
私の前に立っていたのは、高さ十メートルはありそうな巨大なカボチャゴーレムだった。
丸々とした体に短い手足、くりぬかれた目と口から優しい光がもれている。
「ふみゅーっ!」
ふわりちゃんが慌てたように羽ばたいているが、時すでに遅し。
カボチャゴーレムがゆっくりと歩き始めてしまった。
「あ、歩いてる歩いてる!でもゆっくりだし、観光には完璧ね!」
私がそう言った瞬間、カボチャゴーレムの歩みが急に速くなった。
「え?えええっ!?」
どうやら「活力の源」を少し多めに入れすぎたらしい。
カボチャゴーレムはぺたぺたと音を立てながら、王都の街中へと向かって行く。
「お嬢様、追いかけましょう!」
「そうね!でも何だか楽しそうだし、きっと大丈夫よ!」
私たちは慌ててカボチャゴーレムの後を追った。
街中では、巨大なカボチャゴーレムの登場に人々が大騒ぎしていた。
「うわー!本当に動いてる!」
「すごーい!今年の収穫祭は一味違うわね!」
最初は皆楽しそうに見物していたのだが、カボチャゴーレムが歩くたびに体から小さなカボチャがポロポロと落ち始めた。
「あれ?なんかカボチャが……」
小さなカボチャは地面に転がると、まるで生きているようにコロコロと街中を駆け回り始めた。
「きゃー!カボチャに追いかけられる〜!」
「うわー!こっちにも来たー!」
気がつくと、王都の街は転がるカボチャで大洪水状態になっていた。
人々は必死にカボチャから逃げ回って、まるで巨大な運動会のような光景だ。
「これはちょっとまずいかも……」
私は空間収納ポケットから愛用の棍棒『星輝の輝き』を取り出した。
「よし!こうなったら『カボチャ叩き割りゲーム』よ!」
私は棍棒を振り回しながら、転がってくるカボチャを次々と叩き割っていく。
『星の輝き』の効果で棍棒がきらめき、割れたカボチャから甘い香りが漂った。
「すごーい!お嬢さん、上手ね!」
近くにいた観光客のおばさんが手を叩いている。
「私もやってみたい!」
「面白そう!棒を貸して!」
気がつくと、観光客たちも次々とカボチャ叩きに参加し始めた。
逃げ回っていた王都の人々も、いつの間にか笑いながらカボチャを追いかけるようになっている。
「ピューイ!ピューイ!」
ハーブも小さな体で必死にカボチャを避けながら、楽しそうに駆け回っている。
「ふみゅ〜♪ふみゅみゅ〜♪」
ふわりちゃんは私の肩から状況を見守りながら、何だか楽しそうに鳴いている。
「セレーナ!あなたも参加しなさい!」
「え、私もですか!?」
セレーナも最初は困惑していたが、やがて衝撃波魔法でカボチャを吹き飛ばすことを覚えて、意外に楽しそうになってきた。
「これは……意外に楽しいですね」
街中がカボチャ叩き祭り状態になる中、巨大なカボチャゴーレムはのんびりと王城の方向へ歩いて行く。その道筋には、叩き割られたカボチャの破片が山のように積み上がっていた。
「あ、王城に着いちゃった」
カボチャゴーレムは王城の正門前で、まるで挨拶をするようにお辞儀をした。
すると、体からさらに大量のカボチャがどさどさと落ち始める。
「うわわわ!カボチャの山ができてる!」
王城前には、オレンジ色のカボチャの山が築かれていく。
その光景があまりにも壮観で、集まってきた人々から大きな拍手が起こった。
「これは……これは素晴らしい!」
突然現れたのは、威厳に満ちたグランヴィル侯爵だった。
王都の治安を司る彼が、なぜか感動に打ち震えている。
「毎年収穫祭の最後に、王城前にカボチャの山を築く。これこそ真の『収穫の象徴』ではないか!」
「え?でもこれは事故で……」
私が説明しようとすると、バルナード侯爵も現れた。
「素晴らしい!実に素晴らしい企画だ!市民参加型のカボチャ叩きゲームに、最後は王城前での記念撮影!完璧な観光イベントじゃないか!」
「えええっ!?」
気がつくと、周りの人々も大賛成している。
「来年もやりましょう!」
「カボチャ叩き、楽しかった!」
「王城前のカボチャの山、綺麗ね〜!」
「ふみゅ〜♪」
ふわりちゃんが満足そうに鳴いている。どうやらこの結果を予想していたような気がする。
「ピューイ♪」
ハーブもカボチャの欠片を嬉しそうに齧っている。
この子にとっては、美味しいおやつが大量に手に入った最高の日らしい。
「まあ、結果的にみんな喜んでいるから、良いことにしましょうか」
セレーナが苦笑いしながら言う。
虹色の髪についたカボチャの欠片を払いながら、でもどこか楽しそうだ。
巨大なカボチャゴーレムは、自分の役目を終えたとでも思ったのか、ゆっくりと崩れて普通のカボチャの山になった。
「お疲れ様、カボチャゴーレム!」
私は崩れたゴーレムに向かって手を振った。
後に、この日の出来事は「第一回王都カボチャ叩き祭り」として王国の正式な年中行事に登録され、翌年からは「伝統の収穫祭イベント」として毎年開催されることになった。
史書には「ルナ・アルケミの錬金術的発想により生まれた、市民参加型の新しい祭りの形」と記録されている。
まあ、みんなが楽しんでくれたなら、それが一番大切なことよね。
「ふみゅ〜♪」
ふわりちゃんも同じことを考えているようで、満足そうに小さく鳴いていた。
私たちの錬金術は、今日もまた新しい「伝統」を作り出してしまったのだった。