第79話 侯爵令嬢の秋の1日vs伯爵令嬢の秋の1日
午前7時 起床
【侯爵令嬢カタリナの朝】
「おはようございます、カタリナお嬢様。本日のご予定を確認いたします」
ジュリアが優雅にカーテンを開けると、朝日が差し込んでローゼン邸の豪華な寝室を照らした。
カタリナは美しい寝顔のまま、ゆっくりと目を開ける。
「ありがとう、ジュリア。今日もよろしくお願いいたします」
完璧に整った髪、乱れのない寝間着。まるで眠っている間も貴族の品格を保っているかのようだった。
【伯爵令嬢ルナの朝】
「お嬢様〜、起きてください〜」
セレーナが部屋に入ると、私は実験道具に囲まれたベッドで寝ていた。
枕元には昨夜実験していた『紅葉の涙』の欠片が光っている。
「んー、あと5分……」
「お嬢様、髪が寝癖でとんでもないことになってますよ」
「ふみゅ〜」
肩に乗ったふわりちゃんが「起きて」と言っているような鳴き声を出す。
「ピューイ」
足元のハーブも呆れたように鳴いていた。
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午前8時 朝食
【侯爵令嬢カタリナの朝食】
「本日の朝食は、秋の味覚を使ったフローレンス風オムレツと、紅茶はアールグレイをご用意いたしました」
「まあ、素敵ですわ。栗やきのこの香りが上品で、とても美味しそう」
カタリナは背筋を伸ばし、優雅にナイフとフォークを使って食事を楽しむ。
会話も上品で、まさに教科書通りの令嬢の朝食風景だった。
【伯爵令嬢ルナの朝食】
「お嬢様、今日のパンに『紅葉の涙』の粉末を混ぜるのはやめてください」
「えー、でも美味しくなりそうだよ?」
「実験材料を食事に混ぜるのは危険です!」
結局、普通の朝食を食べることになった。
でも、ハーブ用のニンジンに少しだけ『紅葉の涙』の粉末をかけてあげたら、「ピューイ♪」と嬉しそうに鳴いてくれた。
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午前10時 学院での授業
【侯爵令嬢カタリナの授業】
「それでは、秋の魔法について説明いたします」
グリムウッド教授の魔法の授業で、カタリナは完璧にノートを取っている。
美しい文字で、図解も丁寧に描かれている。
「カタリナさん、『紅葉変化の魔法』について説明してください」
「はい。紅葉変化の魔法は、植物の葉緑素に働きかけ、温度変化と魔力の相互作用によって……」
完璧な答えに、クラス全員が感心している。
【伯爵令嬢ルナの授業】
「ルナさん、同じ質問です」
「えーっと、葉っぱが赤くなるのは……化学反応?」
前世の知識がちょっと混じる。
「それは……まあ、間違ってはいませんが……」
グリムウッド教授が困った顔をする。その時、私のポケットから『紅葉の涙』が光った。
「あ、そうだ!この『紅葉の涙』と魔法を組み合わせたら、もっと綺麗な紅葉が作れるかも!」
「ルナさん、授業中に実験するのは……」
——ドカーン!!
教室の半分が紅葉色の煙に包まれた。
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午後12時 昼食
【侯爵令嬢カタリナの昼食】
「今日のメニューは、秋のきのこのクリームパスタと、かぼちゃのポタージュです」
学院の食堂で、カタリナは友人たちと上品に談笑しながら食事をしている。
話題も教養深く、まさに社交界の花らしい会話だった。
【伯爵令嬢ルナの昼食】
「ルナさん、また実験の煙が髪についてますわよ」
カタリナが苦笑いで指摘する。
「あー、気づかなかった」
私が髪を払うと、キラキラした紅葉色の粉がひらひらと舞い散った。
それを見た他の生徒たちは「綺麗!」と歓声を上げる。
「ふみゅ〜」
ふわりちゃんも嬉しそうに鳴いている。
「偶然の産物も、時には美しいものですね」
エリオットが感心していた。
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午後2時 自由時間
【侯爵令嬢カタリナの優雅な午後】
「今日はお庭でピアノの練習をいたしましょう」
ローゼン邸の美しい庭園で、カタリナは白いドレスを着てピアノを弾いている。
秋風に舞う紅葉と、美しいメロディが調和して、まるで絵画のような光景だった。
「ショパンの『秋の歌』ですわ。この季節にぴったりですの」
通りがかった人々も足を止めて、その美しさに見とれている。
【伯爵令嬢ルナの爆発午後】
「今度こそ、『紅葉の涙』を使った新しい薬を完成させるぞ!」
実験室で、私は『紅葉の涙』と『秋風草』を組み合わせた調合に挑戦していた。
「お嬢様、今度は何を作るおつもりで?」
「えーっと、『完璧な紅葉再現薬』!」
材料を錬金釜に入れて、魔力の火をつける。順調に混ざり合って、良い感じの香りがしてきた。
「今度こそ成功する気がする!」
「……それはフラグですね」
セレーナが遠い目をする。
——ドカーン!!
今度は虹色の煙が上がった。煙が晴れると、実験室中が美しい紅葉に包まれていた。でも、全部色がバラバラ。虹色の紅葉、青い紅葉、紫の紅葉……。
「あー、また失敗した」
「でも綺麗ですね」
「ピューイ♪」
ハーブは虹色の葉っぱをかじって、美味しそうに鳴いている。
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午後4時 社交
【侯爵令嬢カタリナの社交】
「カタリナお嬢様、本日の茶会のご準備ができました」
ローゼン邸のサロンで、近隣の令嬢たちとの茶会が開かれている。話題は最近の社交界の動向から、芸術、文学まで多岐にわたる。
「最近読んだ詩集についてですが……」
カタリナの教養の深さに、みんなが感心している。まさに社交界の中心的存在だった。
【伯爵令嬢ルナの社交(?)】
「プルルン♪」
学院の魔物保護施設で、私はスライムたちと遊んでいた。スライムキングも「プルルルル〜ン♪」と嬉しそうに鳴いている。
『ルナちゃん、今日も遊びに来てくれてありがとう〜』
心の声でスライムキングの気持ちが伝わってくる。
「こっちこそ、いつもありがとう!」
「ふみゅみゅ〜」
ふわりちゃんも小さなスライムたちと触れ合っている。その可愛さにスライムたちもメロメロだ。
これも一種の社交なのかもしれない。
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午後6時 夕食準備
【侯爵令嬢カタリナの夕食】
「今夜のディナーは、秋の味覚をふんだんに使ったフルコースをご用意いたします」
シェフ自ら腕を振るった豪華な夕食。美しく盛り付けられた料理は、まさに芸術品のようだった。
「素晴らしいですわ。シェフの腕前に感服いたします」
上品に食事を楽しむカタリナ。食事の作法も完璧で、見ているだけで美しい。
【伯爵令嬢ルナの夕食】
「お嬢様、今日こそ普通の夕食を食べてください」
「あ、でもちょっとだけ実験の材料を……」
「だめです!」
セレーナの鉄の意志により、今夜は普通の夕食となった。でも、こっそりデザートに『紅葉の涙』のシロップをかけてみたら、とても美味しかった。
「ピューイ〜」
ハーブも満足そうだ。
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午後8時 就寝前
【侯爵令嬢カタリナの夜】
「今日も充実した一日でした」
美しい夜のドレスに身を包み、カタリナは日記を書いている。美しい文字で、今日の出来事を丁寧に記録していく。
「明日も素敵な一日になりますように」
完璧な一日の締めくくりだった。
【伯爵令嬢ルナの夜】
「今日も色々あったなぁ」
パジャマに着替えながら、今日の実験結果を思い返す。失敗も多かったけれど、楽しい発見もたくさんあった。
「ふみゅ〜」
ふわりちゃんが肩で眠そうにしている。
「ピューイ」
ハーブも眠そうだ。
「明日はどんな実験をしようかな?」
セレーナが「お嬢様、明日こそは普通の一日を過ごしてください」と言ったけれど、きっとまた何か面白いことが起きるに違いない。
こうして、侯爵令嬢と伯爵令嬢の全く違う秋の一日が過ぎていった。
どちらも、それぞれの幸せな時間だった。