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第77話 王都仮装舞踏会

「うーん、仮装って何にしようかな?」


実験室で『発光草』と『香気の花粉』を手に取りながら、私は首をかしげていた。

今夜は年に一度の王都仮装舞踏会。貴族も庶民も一緒になって楽しめる、王都最大のお祭りなのだ。


「ふみゅ〜?」


肩に乗ったふわりちゃんが首をかしげる。

その隣では薬草ウサギのハーブが「ピューイ」と鳴きながら、カボチャの形をした薬草をかじっていた。


「そうだ!秋といえばやっぱりカボチャだよね!」


私は閃いた。

『発光草』の光る成分と『香気の花粉』の甘い香りを組み合わせれば、光るカボチャお面が作れるはず!


「お嬢様、今度は何を……」


セレーナが心配そうに覗き込む。

最近の私の実験は必ず何かしらの爆発を起こすので、もう慣れたものだ。


「大丈夫だよ!今度は絶対に爆発しないから!」


私は自信満々に材料を錬金釜に放り込んだ。


「……それは明らかにフラグですね」

セレーナが遠い目をする。


「ピューイピューイ」

ハーブも同感とばかりに鳴いている。


錬金術の火をつけて、慎重に材料を混ぜ合わせる。

発光草がきらきらと光り始め、香気の花粉がふわりと舞い上がる。うん、今のところ順調だ。


「あ、でももう少し光らせたいな……」


私は追加で『星屑の粉』を一つまみ加えた。その瞬間――


ーードガーン!


派手に爆発した。


オレンジ色の煙がもくもくと上がり、実験室中がカボチャの甘い香りで満たされる。

煙が晴れると、そこには顔すっぽりサイズの、やたらと光るカボチャお面が完成していた。


「……光りすぎじゃありませんか?」


セレーナが苦笑いで指摘する。

確かに、お面は星のように煌めいていて、直視するのが困難なレベルだった。


「でも可愛いでしょ?」

「可愛いというより……まぶしいです」


「ふみゅ〜」

ふわりちゃんも小さな翼で目を隠している。


「ピューイ〜」

ハーブは諦めたように鳴いていた。


-----


王都の大広場は、夜とは思えないほど明るく輝いていた。

魔法で作られた灯火と、紅葉を模した装飾が会場を彩り、まさに幻想的な光景だ。


そんな中に、私は光るカボチャお面を被って登場した。


「……なんだあの光は?」

「新星でも現れたのか?」

「いや、歩いているぞ?」


会場がざわめき始める。

私としては目立つつもりなんてなかったのに、なぜかみんなの視線が集まってしまう。


「ルナさん、それはちょっと光りすぎじゃありません?」


カタリナが美しい花の女神の仮装で近づいてきた。

赤茶色の髪に花の冠を乗せ、淡いピンクのドレスを着た彼女は、まさに絵画から抜け出したような美しさだ。


「そう? でも可愛いでしょ?」

「可愛いですけれど……周りの人が目を細めていらっしゃいますわ」


確かに見回すと、みんなが眩しそうに私を見ている。


「エリオットくんはどこかしら?」

「あっちにいるよ」


私が指差した先では、エリオットが古代の賢者風の仮装をしていた。

銀髪に長い髭のつけ髭、古い羊皮紙を模した巻物を持って、とても学者らしい仮装だ。


「理論的に完璧な仮装を目指しました」

「さすがエリオット!」


そんな時、会場の反対側から妙にどよめきが聞こえてきた。


「封印の右手が……疼く……!」


低く響く声の主は、漆黒のマントを翻した勇者エドガーだった。

右手には謎の包帯をぐるぐる巻きにして、真顔で中二病全開のポーズを決めている。


「まぁ……なんて芸の細かい仮装なのかしら!」

「あの演技力、素晴らしいわ!」


周囲の令嬢たちが拍手喝采している。

エドガーは照れながらも、さらにポーズを決めていた。


「あ、リリィちゃんも来てる!」


会場の中央では、ド派手な孔雀の羽根ドレスを着たリリィが、得意げにポーズを決めていた。


「どう? 目立ってるでしょ!」


確かに目立っている。というか、羽根が広がりすぎて隣の人に突き刺さっているのだが……。


「あの、リリィさん、羽根が……」

「えっ? あ、ごめんなさい!」


慌てて羽根を畳もうとするリリィだが、今度は反対側の人に当たってしまう。

結果的に会場の一角が大混乱になっていた。


「みんな個性的な仮装だなぁ」


私が感心していると、突然会場がしーんと静まり返った。


「ふみゅ〜♪」


小さく可愛い声が響く。見ると、ふわりちゃんが私の肩から飛び立って、ふわふわと会場の中央に舞い降りていた。


小さな翼をぱたぱたと羽ばたかせながら、天使のような純白の毛がきらきらと輝いている。

その可愛さは、もう犯罪レベルだ。


「あ、あの神々しさは……」

「天使……いや、それ以上の存在……」


会場にいた全員が、ひざまずき始めた。

貴族も庶民も関係なく、ふわりちゃんの前にひれ伏している。


「ふみゅみゅ〜?」

ふわりちゃんは困ったような声を出しながら、私の方を見上げた。


「あー、みんな! ふわりちゃんはただの可愛い友達だから、そんなにかしこまらなくても大丈夫だよ!」


私が手を振って説明するが、光るカボチャお面を被った状態では説得力がない。


「神聖な存在が……光の化身と共に……」

「これは奇跡だ……」


ますます事態が悪化している。


「ピューイー!」


そんな時、ハーブが私の足元で鳴いた。

いつの間にか会場に来ていたらしい。

茶色のふわふわの毛に小さなカボチャのアクセサリーをつけて、とても可愛い。


「あ、ハーブも仮装してる!」


「ピューイ」

誇らしげに胸を張るハーブ。その可愛さに、ようやく会場の緊張が緩み始めた。


「あの薬草ウサギも可愛いわね」

「ふわふわの天使と薬草ウサギ……癒やされるわ」


みんなが笑顔を取り戻し始めた時、司会者が登場した。


「皆様、お待たせいたしました! 今年の『最も印象的な仮装賞』の発表です!」


会場が再びざわめく。


「栄えある第一位は……光る謎の存在と神聖な天使のコンビ!」


えー!?


私は慌てて手を振ったが、光るお面のせいで正体がバレていない。


「賞状をお渡しいたします!」

司会者から手渡された賞状を見ると……似顔絵が光るカボチャになっていた。


「ちょっと待って! 私、カボチャじゃないよ!」

お面を取って抗議するが、


「あら、可愛いお嬢様だったのね」

「でも光るカボチャのインパクトがすごかったわ」


みんな笑いながら拍手してくれる。


「ふみゅ〜」

ふわりちゃんも嬉しそうに鳴いて、私の肩に戻ってきた。


「ピューイ♪」

ハーブも満足そうだ。


結局、思いがけず仮装舞踏会の主役になってしまった私たち。

でも、みんなが楽しそうで、何だかとても温かい気持ちになった。


「来年はもう少し控えめな仮装にしようかな……」


「それは無理でしょうね」

セレーナが苦笑いで答える。


きっと彼女の言う通りだろう。私の作るものは、いつも予想を超えてしまうのだから。


でも、それもまた楽しい思い出になるのかもしれない。


王都の夜空に花火が上がる中、私たちの笑い声が響いていた。

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