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第76話 魔王城・紅葉観光

「わー!綺麗だなぁ!」


私は魔王城の窓から外を見て、思わず感嘆の声を上げた。

城の周りの森がまるで炎のように燃え盛る紅葉で彩られ、そこに虹色の城壁が映えて、まさに絵画のような美しさだった。


「ふみゅ〜」

肩に乗ったふわりちゃんも、小さな翼をぱたぱたと羽ばたかせて同意してくれる。


「セレスティア様、今日の観光客は五十名を超える見込みです」

バルトルドが資料を持ってやってきた。


「えっ、そんなに?」

「はい。王都からの馬車も三台予約が入っておりまして……」


そう、魔王城は今や一大観光地なのだ。

私の実験で虹色になった城壁と、秋の紅葉のコンビネーションが「絶景」として王都でも評判になり、連日観光客が訪れるようになっていた。


「セレスティア、準備は大丈夫?」

「……正直に申しますと、まだ慣れません」


セレスティアが困ったような顔で答える。

真面目で責任感の強い彼女にとって、観光案内は予想外の仕事だったのだ。


「でも大丈夫!みんな楽しみにしてるから!」

「そうは言われましても……」


そんな時、城の入り口から賑やかな声が聞こえてきた。


「うわぁ!本当に虹色だ!」

「写真に残したい美しさね!」

「魔王城がこんなに綺麗だなんて!」


今日の観光客たちが到着したようだ。私たちは急いで出迎えに向かった。


「皆様、ようこそ魔王城へ!」


セレスティアが丁寧にお辞儀をすると、観光客たちは少し緊張した様子で会釈を返す。

やっぱり魔王というだけで、どこか畏まってしまうんだなぁ。


「え〜っと、こちらが千年前に築かれた魔力防壁でして……」


セレスティアが真面目に説明を始める。


「構造は古代魔法陣を基盤とした七層構造になっており、各層には異なる属性の魔石が……」


「は、はぁ……」

観光客たちは困惑顔。うーん、ちょっと難しすぎるかも。


「あ、あの、紅葉についても説明いたします! こちらの紅葉は、光の屈折率と魔素濃度によって特別な赤い色彩を……」


「魔素濃度って何ですか……?」

完全に学術発表になってしまっている。これじゃあ楽しい観光にならない!


「あのね〜!」


私が前に出ると、観光客たちの視線が集まった。


「ここはね、とっても素敵なスライムちゃんをモフれる『もふりポイント』なんだよ!」

「もふりポイント?」


その瞬間、城の周りからぷるぷるとスライムたちが現れた。

虹色スライム、小さな赤ちゃんスライム、ちょっと大きめのお父さんスライムまで、みんな「プルルン♪」と可愛い鳴き声で並んで登場。


「きゃー!可愛い!」

「触ってもいいの?」

「やわらかそう!」


観光客たちの表情が一気に明るくなった。

特に子供たちは目をキラキラさせて、早速スライムに手を伸ばしている。


「プルルン♪」

スライムちゃんたちも慣れたもので、撫でられると嬉しそうに鳴き声を上げる。


「あったか〜い!」

「ぷにぷにしてる!」

「この子、笑ってるみたい!」


城の中庭が一気に和やかな雰囲気に包まれた。

大人も子供も関係なく、みんなでスライムを抱っこしたり撫でたりしている。


「……も、もふりポイント?」


セレスティアが小声で呟いた。

真面目な彼女にとって、この光景はかなり衝撃的だったみたい。


「魔王様も!魔王様も一緒にどうぞ!」


観光客の一人が手を振って、セレスティアを呼んでいる。


「え、あ、いえ、私は……」

「大丈夫だよ!スライムちゃんたち、とっても人懐っこいから!」


私がセレスティアの背中を押すと、彼女は恐る恐る一匹の小さなスライムに手を伸ばした。


「ぷるん♪」

スライムが嬉しそうに鳴いた瞬間、セレスティアの頬がぽっと赤くなった。


「……可愛い」


思わず呟いた一言に、観光客たちは「おぉ〜!」と感嘆の声。

なんだか魔王のギャップに心を奪われたみたい。


「魔王様、意外とお茶目なんですね!」

「親しみやすい方で安心しました!」


観光客たちとセレスティアの距離が一気に縮まった。これこそ私の狙い通り!


そんな時、城の奥から「ドガーン!」という音が響いた。


「あ……」


実験室からだ。今朝仕掛けておいた『紅葉色再現薬』の実験が、どうやら成功したみたい。

青い煙がもくもくと上がってきた。


「また実験ですね……」

セレスティアが苦笑いを浮かべる。


「え、今の音は?」


観光客たちが心配そうに見上げる中、実験室の窓から紅葉色の美しいきらきらした粉が舞い散り始めた。それがお日様の光に照らされて、まるで魔法の雪みたいに光って見える。


「わぁ〜!綺麗!」

「まるで宝石の雨みたい!」


偶然の産物だったけれど、観光客たちは大喜び。

紅葉色の粉がひらひらと舞い散る中、スライムたちと戯れる光景は、まさに幻想的だった。


「これも観光の演出なんですか?」


「え、えーっと……」

セレスティアが困った顔で私を見る。


「そう!特別な『紅葉マジック』だよ!」

私が元気よく答えると、観光客たちは拍手喝采。


「ふみゅ〜」

ふわりちゃんも満足そうに鳴いている。


だけど、遠くでバルトルドが「城の格式が……」と遠い目をしているのが見えた。

ちょっと申し訳ない気もするけれど、みんなが楽しそうだからきっと大丈夫!


「それでは皆様、お食事の時間でございます」


セレスティアの案内で、みんなでスライムちゃんたちが作る特製ランチをいただくことに。

虹色スライムの魔法で作られる料理は、王都の高級レストラン並みの味で有名なのだ。


「今日のメニューは、紅葉をイメージした秋野菜のスープと……」


「プルルン♪」

スライムちゃんが得意そうに料理を運んでくる姿を見て、観光客たちは再び笑顔になった。


こうして、『紅葉狩り』と『スライムもふり』を融合させた特別な魔王城観光ツアーは大成功に終わった。


最後に観光客の皆さんが帰る時、


「また来年も来ますね!」

「スライムちゃんたち、元気でね!」

「魔王様も、ありがとうございました!」


と言ってくれて、セレスティアも嬉しそうに手を振っていた。


「……もふりポイント、ですか」

セレスティアが小さく笑いながら呟く。


「どう?楽しかったでしょ?」

「はい……意外と、楽しかったです」


真面目な魔王の新しい一面を発見できた、素敵な秋の一日だった。


「ふみゅ〜」

ふわりちゃんも満足そうに鳴いて、今日という日に花丸をくれたのだった。

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