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第75話 初回調査報告書

歌うハリネズミの調査から二日後、私たちは調査報告のため冒険者ギルドを訪れていた。

肩の上のふわりちゃんが「ふみゅ〜」と小さく鳴いて、緊張している私を励ましてくれる。


「お疲れ様でした、Tri-Orderの皆様」


ギルドマスターが温かい笑顔で迎えてくれた。


「初回調査の結果はいかがでしたでしょうか?」


「はい、予想以上の成果が得られました」


エリオットが几帳面に報告書を取り出す。


「まず、歌うハリネズミの生態についてですが、彼らの歌声には確実に魔力増強効果があることが判明いたしました」


「ほう、それは興味深い!」

ギルドマスターの目が輝く。


「ルナさんの魔物との意思疎通能力により、群れのリーダー格との直接対話も実現できましたの」


カタリナが優雅に補足する。


「彼らによると、歌声は聞く者の心を癒し、魔力を活性化させる効果があるそうです」

「素晴らしい発見ですな!これまでの調査では、そこまで詳細な情報は得られていませんでした」


私も調査の様子を詳しく説明した。もちろん、薬の取り違えや髭のことは省略して。


「人間との音楽交流も可能で、実際に歌声コンテストのような形で交流を深められました」

「歌声コンテスト?それはまた…ユニークな調査方法ですな」


ギルドマスターが感心したような、困惑したような表情を浮かべる。


「あ、これが証拠です」

私は空間収納ポケットから小さな水晶を取り出した。


「『音響記録水晶』にハリネズミたちの合唱を録音してあります」


水晶を軽く叩くと、美しいハリネズミの歌声が響き始める。


「♪ピルリリ〜、ピルルル〜、ピルリリピルル〜♪」

「おお…本当に美しい歌声だ。確かに魔力が活性化される感覚がありますな」


ギルドマスターが感激している。


「それで、安全性はいかがでしたか?」

「全く攻撃的ではありませんでした。むしろ人懐っこくて、友好的な種族です」


「それは良かった。では、この調査結果を元に、歌うハリネズミは『友好的魔物』として分類を更新いたします」


ギルドマスターが満足そうに頷く。


「次回の調査依頼もご用意できますが、いかがいたしましょう?」


「ぜひお願いします!」

私が即答すると、カタリナとエリオットが苦笑いを浮かべた。


「ただし、今度は事前準備をもう少し念入りに…」

「特に、薬品の管理には注意を」


二人の視線が痛い。


「が、頑張ります…」


「ふみゅ〜」

ふわりちゃんも励ますように鳴いてくれた。


ギルドでの報告を終えた後、私たちは王立魔法学院に向かった。学術機関への報告も、Tri-Orderの重要な責務の一つだ。


「失礼いたします」

研究室の扉をノックすると、魔物学のフローラン教授が振り返った。


「おや、Tri-Orderの皆さんですね。調査結果を伺いに来ました」

「はい、歌うハリネズミの生態調査について報告させていただきます」


エリオットが改めて報告書を開く。


「まず、最も重要な発見として、歌声による魔力増強効果について…」

私たちは教授に詳しい調査結果を説明した。音響記録水晶も再生して、実際に歌声を聞いてもらう。


「素晴らしい!これは学術的に非常に価値の高い発見です」

フローラン教授が興奮している。


「特に、魔物との直接対話による情報収集は、従来の調査方法では不可能でした」


「ルナさんの能力あってこその成果ですわね」

カタリナが微笑む。


「今後、この調査結果をどのように活用いたしますか?」

エリオットが質問する。


「まず、学院の研究論文として発表いたします。著者は当然、Tri-Orderの皆さんです」

「本当ですか?」


「ええ。学生による実地調査研究として、非常に価値があります。それに…」


教授がにやりと笑う。


「歌声の魔力増強効果について、さらなる研究の余地もありそうです。もしかすると、治癒魔法の効果を高める応用も可能かもしれません」

「治癒魔法への応用?」


私の研究心がうずく。


「はい。歌声で魔力を活性化してから治癒魔法を使えば、より強力な効果が期待できるかもしれません」

「それは興味深い研究テーマですわね」


「ただし、まずは基礎研究が必要です。ハリネズミの歌声成分の分析、魔力増強のメカニズムの解明…」

教授の説明を聞いていると、新しい実験のアイデアがどんどん浮かんでくる。


「あ、そうだ!私、『歌声記録薬』って作れないかしら?」


「歌声記録薬?」

「ハリネズミの歌声の効果を薬として保存して、いつでも魔力増強効果を得られるようにするの!」


「それは…斬新なアイデアですね」


教授が考え込む表情になる。


「音響を化学的に保存するというのは、確かに錬金術の応用としては面白いかもしれません」


「ルナさん、またそんなことを…」

カタリナが心配そうな顔をする。


「でも、理論的には可能性があるわよ!音響記録水晶の原理を応用して、薬品として…」


「ちょっと待ってください」

エリオットが慌てて止める。


「まずは基礎研究からですよね?いきなり新しい薬を作るのは危険です」

「そうですわ。今度こそ慎重に進めましょう」


二人に釘を刺されてしまった。


「ふみゅ〜」

ふわりちゃんも心配そうに私の頬を小さな手でぺたぺたと叩く。


「分かったわ、分かった。ちゃんと段階を踏んで研究するから」


教授への報告を終えて、私たちは学院の中庭で休憩していた。


「初回調査としては、本当に大成功でしたわね」

カタリナが満足そうに微笑む。


「学術論文の著者になれるなんて、思ってもみませんでした」

エリオットも嬉しそうだ。


「これも皆で協力したからよ。一人だけだったら、きっと髭を生やしたまま帰ってくることになってたわ」


「それは確実にそうなってましたね」

「想像しただけで恐ろしいですわ」


二人に突っ込まれながらも、私は今回の調査に大満足していた。


「次の調査はどんな魔物かしら?」


「今度はもう少し大人しい相手だといいんですが…」

エリオットがため息をつく。


「大人しくても、ルナさんが実験を始めれば同じことですわよ」

「ひどい!私はそんなに無茶なことはしないわよ」


「『美声薬』と『美髭薬』を間違えたのは誰でしたっけ?」

「それは…ラベルが似てたから…」


言い訳をしている私を見て、ふわりちゃんが「ふみゅ〜」と困ったような声で鳴く。


「でも、結果的には成功したからいいじゃない!」

「結果オーライでは困るんです」


「次回は事前準備をもっと念入りに」


二人のお説教が始まった。


でも、心の中では次の調査のことを考えていた。

今度はどんな魔物と出会えるかしら?そして、どんな新発見があるかしら?


「ふみゅ〜」

ふわりちゃんが私の気持ちを察したように、楽しそうに鳴いた。


きっと次の調査も面白くなりそう。ただし、今度こそ薬のラベル確認は忘れずにしよう。


夕方、屋敷に帰ると兄さんが待っていてくれた。

「おかえり、ルナ。調査報告はどうだった?」


「大成功よ、兄さん!学術論文まで書かせてもらえることになったの」

「それは素晴らしい。父上も母上も喜ばれるだろう」


報告書のコピーを兄さんに渡しながら、調査の詳細を説明する。もちろん、髭の件は内緒で。


「魔物との音楽交流とは…ユニークな調査方法だな」

「でしょう?私のアイデアなの」


「ただし、安全第一だからな。無茶はしないように」

「もちろんよ」


その時、セレーナが夕食の準備ができたと知らせに来た。


「お疲れ様でした、お嬢様。調査はいかがでしたか?」

「大成功よ、セレーナ!今度、歌声記録薬の研究もしてみたいの」


「…また新しい実験ですか」

セレーナの表情が複雑になる。


「大丈夫よ!今度は慎重にやるから」


「それなら安心ですが…爆発だけは勘弁してくださいね」

「頑張ります」


夕食を食べながら、私は明日からの新しい研究計画を考えていた。

歌声記録薬、音響増幅薬の改良、そして次の調査の準備。


やることがいっぱいで、とても楽しみ。


「ふみゅ〜」

「ピューイ」

ふわりちゃんもハーブも嬉しそうに鳴いて、私の気持ちに応えてくれた。


Tri-Orderの冒険は、まだ始まったばかり。これからどんな発見が待っているのかしら?

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