第69話 武器製作と予想外の発見
「王都剣術大会の開催が決定いたしました!」
グリムウッド教授の声が教室に響いた瞬間、私は思わず身を乗り出した。
剣術大会!魔法も錬金術も使えない純粋な武器戦闘なんて、なんだかとても新鮮で面白そう。
「参加希望者は全員参加可能です。ただし、武器は各自で用意すること」
カタリナが隣の私を見る。その蒼い瞳がきらりと光っているのを見て、私も思わずにっこりと笑った。
「ルナさん、参加なさいますの?」
「うん!絶対参加する!」
私の返事に、エリオットも隣で頷いた。
「僕も参加します。でも武器をどうしましょう?」
そこで私は閃いた。
エリオットの実家はシルバーブルーム錬金術工房。きっと素晴らしい武器を作ってくれるはず!
「エリオット、お願いがあるの!」
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翌日、私たちはエリオットの実家の工房を訪れた。
石造りの立派な建物で、煙突からは白い煙がもくもくと上がっている。
男爵家らしく、控えめながらも品のある佇まいだった。
私の肩にちょこんと座ったふわりちゃんが「ふみゅ?」と興味深そうに工房を見上げている。
「シルバーブルーム男爵家にお邪魔いたします」
カタリナが上品に一礼すると、私も慌てて真似をした。
ふわりちゃんも小さな翼をぱたぱたさせて、お辞儀のような仕草を見せた。
「いらっしゃいませ、アルケミ伯爵令嬢、ローゼン侯爵令嬢」
出迎えてくれたのは、エリオットそっくりの銀髪の男性だった。
セルジオ・シルバーブルーム男爵、エリオットのお父様だ。
「父上、友人たちに武器を作っていただけないでしょうか」
「ほほう、剣術大会用ですな。どのような武器をご希望で?」
カタリナが上品に一歩前に出た。
「私は細身で軽く、切れ味が鋭く、なおかつ美しく頑丈な剣をお願いしたいですの」
「なるほど、侯爵令嬢にふさわしい優雅な剣ですな」
次に私の番。私は迷わず言った。
「私は棍棒みたいな打撃武器がいいです!」
「……は?」
工房が静寂に包まれた。
ふわりちゃんも「ふみゅ?」と首をかしげている。エリオットが慌てて口を挟む。
「ルナさん、もう少し…こう、女性らしい武器は…」
「だって私、切ったり刺したりより、どーんと叩く方が得意なんだもん!」
カタリナが深いため息をついた。
「ルナさんは本当に…まあ、それがルナさんらしいですけれど」
セルジオ男爵は苦笑いしながら頷いた。
「分かりました。では早速作業に取り掛かりましょう。ただし、特別な金属を使いますので、錬金術での精製が必要です」
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工房の奥で作業が始まった。大きな炉に魔力を込めた青い炎が燃え上がる。
「この『月光銀』という金属は、魔力を込めた高温でないと加工できません」
セルジオ男爵が説明しながら、金属片を炉に投入した。
すると、美しい銀色の光が炉から漏れ出した。
「わあ、きれい…」
私が見とれていると、ふわりちゃんも「ふみゅみゅ〜」と感動したような声を出した。
カタリナの武器製作が始まった。溶けた月光銀が型に流し込まれ、魔法陣が描かれた冷却装置で急速に固められる。
その後鍛えたり、磨いたりといくつかの行程を経て、完成した。
出来上がった剣は本当に美しかった。
細身で軽やか、刃は鏡のように光り、柄には小さな薔薇の装飾が施されている。
「まあ、素敵…!」
カタリナが感動で目を潤ませている。
「では次はお嬢様の…えーと、棍棒ですな」
私の武器は見た目こそシンプルだったが、持った瞬間にその重さと質感に驚いた。
適度な重量がありながら、振り回すと軽やか。
そして握りの部分には滑り止めの加工まで施されている。
「うわー、すごい!これなら思いっきり振り回せる!」
私が嬉しそうに棍棒を振り回していると、エリオットが止めに入った。
「ルナさん、工房の中では…」
その時だった。私の棍棒の先端が、工房の隅に置かれていた小さな瓶にちょんと触れた。
「あっ」
瓶が床に落ちて割れ、中身の光る粉末が舞い上がった。
「それは『星屑の粉』という貴重な…」
セルジオ男爵の説明が途中で止まった。
光る粉末が空気中の魔力と反応して、工房内がキラキラと光り始めたのだ。
「うわあ、きれい!まるで夜空みたい!」
私が感動していると、粉末は私たちの武器にも付着した。
すると不思議なことが起こった。
カタリナの剣は月光のような淡い光を放ち始め、私の棍棒は星のようにキラキラと輝いた。
ふわりちゃんも「ふみゅ〜」と驚いたような声を出している。
「これは…予想外の効果ですな。星屑の粉が武器に魔法的な特性を与えたようです」
「え?でも剣術大会は魔法禁止じゃ…」
「いえいえ、これは武器自体の特性です。ルール違反ではありません。むしろ…これは素晴らしい発見かもしれません」
エリオットのお父様が興奮気味に説明した。
「カタリナ様の剣は『月灯りの加護』で夜間でも周囲がよく見えるでしょう。そしてルナさんの棍棒は『星の輝き』で相手の目を眩ませる効果があるかもしれません」
「すごいじゃない、ルナさん!偶然から素晴らしい発見を!」
カタリナが拍手してくれた。でも私は少し困惑していた。
「えーと、これって私のドジが原因なんだけど…」
「そうですが、結果的に素晴らしいことになりました。これも錬金術の面白さの一つです」
エリオットが微笑んだ。
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工房を出る時、私たちは特別な武器を手にしていた。
カタリナは月灯りの剣を、私は星輝の棍棒を。エリオットは実用性重視の鋼の剣を選んでいた。
「これで剣術大会が楽しみですの」
「うん!でも私、剣術の経験あんまりないから、練習しなくちゃ」
その時、私の肩にちょこんと座っていたふわりちゃんが「ふみゅ」と頷いた。
私がふわりちゃんの頭を優しく撫でると、「ふみゅみゅ〜」と気持ちよさそうに鳴いた。
「大丈夫です、ルナさんには『試行錯誤』の剣技がありますから」
私の独特な戦い方を思い出して、エリオットが苦笑いした。
確かに私の戦い方は予想外の角度から攻撃したり、わざと大振りしてから軌道を変えたりする、まさに「試行錯誤」そのもの。
「でも今回は魔法も錬金術も使えないのよ?物理だけで大丈夫かしら」
「きっと大丈夫ですわ、ルナさん」
カタリナが優しく笑った。
「ルナさんの『試行錯誤』は、きっと武器戦闘でも発揮されますの」
屋敷に帰ると、セレーナが薬草ウサギのハーブと一緒に待っていた。
私を見つけると「ピューイ」と嬉しそうに鳴いて駆け寄ってきた。
「お嬢様、いかがでしたか?」
「見て見て、セレーナ!すごい武器ができたの!」
ハーブも私の足元でぴょんぴょん跳ねて、棍棒に興味深そうに鼻をひくひくさせている。
私が星輝の棍棒を見せると、セレーナの目が丸くなった。
ふわりちゃんも「ふみゅ〜」と感動したような声を出し、ハーブは「ピューイピューイ!」と興奮してぐるぐる回り始めた。
「まあ、キラキラしてとても美しいですね。でも…棍棒ですか?」
「うん!どーんと叩くのが一番だから!」
セレーナは深いため息をついた後、いつものように言った。
「分かりました。でしたら練習用の的を用意いたしますね。ただし、屋敷の庭でお願いします。室内での練習は…」
「大丈夫大丈夫!」
私がそう言った途端、棍棒の星屑が反応してキラリと光った。
その光がセレーナの虹色の髪に反射して、とても綺麗だった。
ふわりちゃんも光に反応して「ふみゅみゅ?」と不思議そうに首をかしげ、ハーブは光る棍棒の周りをぴょんぴょん跳ね回っている。
「やっぱり屋外で練習しましょう」
セレーナの冷静な判断に、私たちは素直に頷いた。
ふわりちゃんとハーブも「ふみゅ」「ピューイ」と同意するように鳴いた。
剣術大会まであと一週間。きっと楽しい大会になりそうだ!