第68話 王都錬金術大会~ふわりちゃんと爆発と奇跡の調合~
今日は年に一度の王都錬金術大会!
王都の大広場に設営された特設会場には、全国から腕に覚えのある錬金術師たちが集まっている。参加者は総勢22名。私も参加することになった。
「お嬢様、今日は絶対に爆発させないでくださいね」
セレーナが心配そうに言いながら、実験道具を詰め込んだ鞄を手渡してくれる。
虹色の髪がキラキラと光って、とても綺麗だ。
「大丈夫よ!今日は特別に安全な薬を作る予定だから」
私がにっこり笑うと、セレーナの表情がさらに不安そうになった。
あれ?なんでだろう。
「ふみゅ〜?」
鞄の中から小さな声が聞こえる。
ふわりちゃんが真っ白でふわふわな頭をちょこんと出して、水色の瞳で周りを見回している。
くるんと長いまつげがとても可愛い。
「ふわりちゃんも一緒に頑張ろうね!」
「ふみゅみゅ〜♪」
ふわりちゃんが嬉しそうに小さな翼をパタパタと動かす。
その破壊的な可愛さに、近くにいた参加者たちがみんな振り返って「あ、天使が……」とつぶやいている。
会場に着くと、既にカタリナが準備を始めていた。
赤茶色の縦ロールがいつものように完璧で、蒼い瞳が真剣そのもの。やっぱりカタリナは優雅だ。
「ルナさん、今日はお互いに頑張りましょうね」
カタリナが上品に微笑みかけてくる。でも、その瞳の奥に闘志がメラメラと燃えているのが見えた。
「うん!頑張ろうね!」
隣の席を見ると、エリオットが何やら複雑な図面とにらめっこしている。
銀髪をかき上げながら、ぶつぶつと理論を唱えているようだ。
「えーっと、この理論式を応用すれば……いや、でも実践では……」
エリオットの机の上には、薬草や鉱物がきれいに整理されて並んでいる。
さすが理論派!でも、なんだか様子が変だ。
「エリオット、大丈夫?顔が青いよ?」
「あ、ルナさん……実は昨夜徹夜で新しい調合法を考えていたんですが、理論は完璧なのに実験で確認する時間が……」
あー、それはよくあることだ。私も前世で化学の実験レポートで同じような経験をした。
周りを見回すと、本当にたくさんの錬金術師がいる。
王立錬金術学院からは、マックス先輩とアリシアが参加している。
アリシアは栗色の三つ編みと眼鏡がトレードマークの理論派で、既に完璧に整理された材料を前に計算している。
「理論値通りなら、この配合で完璧な治癒薬が……」
マックス先輩は銀髪をかき上げながら、何やら危険そうな材料を手に取っている」
「今回こそは、俺の『爆裂強化薬』で優勝を……」
うわあ、あの人も爆発系なんだ。
王都の錬金術師たちも負けじと準備を進めている。
「魔法薬舗『星屑』」の店主レオナード・スターダストさんは、キラキラした星の粉末を丁寧に量り取っている。
「今日は特別に『流れ星の雫』を使うぞ。これで間違いなく……」
「薬草園『緑風』」のマダム・ヴェルディは、珍しい薬草を次々と取り出している。
「この『千年桜の花びら』と『月光草』の組み合わせは……ふふふ」
その他にも、「鉄腕錬金術師」ガレス・アイアンハンド、「香水の魔術師」エレガンス・パフューム、「毒薬専門」スネーク・ポイズン、「薬膳料理研究家」クック・メディスン、「美容錬金術の女王」ビューティー・クイーン、双子の錬金術師「ツイン・ミックス」のアルとベル、「爆発狂」ボム・クレイジー、「完璧主義者」パーフェクト・プレシジョン、「自然派錬金術師」ナチュラル・ハーブ、「古代錬金術の研究者」エンシェント・ロアなど、個性豊かな面々が勢ぞろいしている。
「それでは皆様、王都錬金術大会を開始いたします!」
司会の声が響き渡る。
今回のお題は「王都の人々を笑顔にする薬」だそうだ。
制限時間は3時間。審査員は王立錬金術学院の教授たちと、なぜかバルナード侯爵もいる。
あの人、また面白いものを期待してるんだろうなあ。
私は材料を眺めながら考えた。王都の人々を笑顔にする薬かあ。
普通に考えれば、体力回復薬とか美容薬とかだろうけど……。
「ピューイ?」
あ、ハーブも鞄から顔を出している。茶色のふわふわ毛が陽の光でキラキラしてて可愛い。
「ハーブも応援してくれるの?ありがとう!」
「ふみゅ〜?」
ふわりちゃんもきょろきょろと辺りを見回している。
その瞬間、会場中の視線がふわりちゃんに集まった。
「あ、あれは……天使……?」
「なんて神々しい……」
「心が洗われる……」
参加者たちがみんなふわりちゃんに見とれている。中には手を合わせて拝んでいる人もいる。
「ふみゅみゅ〜」
ふわりちゃんが首を傾げると、会場全体に温かい空気が流れた。
みんなの表情が穏やかになっている。
私がハーブの頭を撫でていると、ふと閃いた。そうだ! みんなが幸せになれる薬を作ろう!
まずは『幸福草』と『笑顔の花』を基本材料に選ぶ。
それに『陽だまりのエッセンス』と『友情の結晶』を加えて……あ、『虹色の粉末』も入れちゃおう!これでもっと楽しくなりそう!
調合を始めると、隣からカタリナの上品な声が聞こえてきた。
「『美肌の露』に『若返りの水』を三滴、そして『薔薇の香油』を……」
さすがカタリナ!完璧な美容薬を作ってるみたい。でも私は私のやり方で頑張ろう。
エリオットの方を見ると、相変わらず理論書とにらめっこしている。
「理論的には完璧なはずなんですが……この数値が実践でどう出るか……」
『活力の石』を砕いて粉末にする。
鍋に材料を次々と投入していく。
魔力を込めた火が青い炎を上げて、とても綺麗だ。
材料たちがぐつぐつと煮えて、甘い香りが立ち上がってくる。
「いい匂い♪これは成功の予感!」
そう思った瞬間、鍋の中身が急にシュワシュワと泡立ち始めた。
あれ?計算では大丈夫なはずなのに……。
「ルナさん、それは……!」
カタリナが心配そうにこちらを見る。
でも大丈夫、まだ爆発の兆候じゃない。
前世の化学知識が教えてくれてる。これは新しい反応の始まり!
「『友情の結晶』と『虹色の粉末』が予想外の化学反応を……!」
鍋の中身がピンク色に変わって、小さなハート型の泡がぽこぽこ浮き上がってくる。
わあ、可愛い!
「面白い現象ですわね」
カタリナが興味深そうにのぞき込んでくる。
エリオットも理論書から顔を上げて、こちらを見ていた。
「理論的には考えられない反応ですが……とても美しいですね」
その時、不思議なことが起きた。
ふわりちゃんが小さく「ふみゅ〜」と鳴くと、会場中のみんなの薬が急に良い方向に変化し始めたのだ。
「あ!完璧な治癒薬ができました!」(アリシア)
「これは……史上最高の美容薬だわ!」(ビューティー・クイーン)
「毒薬が……愛の薬になった?」(スネーク・ポイズン)
カタリナの薬も、エリオットの薬も、みんな素晴らしい輝きを放ち始めた。
「あら、私の美容薬が……こんなに美しく光るなんて」
カタリナが驚いている。
「僕の理論薬も……計算以上の効果が出てる!」
エリオットも嬉しそうだ。
私にはわかった。これはふわりちゃんの力なんだ。
「あらゆるものを本来あるべき姿に戻す」神聖な力が、みんなの薬を最高の形に導いてくれている。
「ふみゅみゅ♪」
ふわりちゃんが嬉しそうに羽をパタパタと動かす。
その瞬間、私の薬にも小さな光の粒がきらきらと混ざり始めた。
そうこうしているうちに、3時間があっという間に過ぎてしまった。
「それでは、審査の時間です!」
まずはカタリナの発表から。彼女が作ったのは『永遠の美薬』という素晴らしい美容薬だった。
飲むと肌がつやつやになって、髪も艶やかになるらしい。
実際に試飲したモデルの女性が、みるみるうちに美しくなっていく。
「素晴らしい!これぞ貴族の嗜みですな!」
審査員たちが大絶賛している。
次はエリオットの番。彼が作ったのは『完璧効率薬』という、仕事の効率を上げる薬だった。
「理論的には完璧なはずなんですが……」
エリオットが自信なさそうに薬を差し出す。審査員の一人が飲んでみると……
「おお!頭がすっきりして、やる気が湧いてきますな! ……あれ?でも妙に几帳面になりすぎて、書類を完璧に整理したくなってきました」
審査員が突然立ち上がって、会場中の書類を整理し始めた。エリオットが慌てている。
「あ、あの……副作用があるようで……」
でも今回は、ふわりちゃんの力で副作用も和らいでいるみたい。
審査員は楽しそうに整理を続けている。
他の参加者たちの発表も続く。どれも技術的に高度で美しい作品ばかり。
マックス先輩の『穏やか強化薬』、アリシアの『完璧治癒薬』、レオナードさんの『星降る幸運薬』……
そしていよいよ私の番。
ドキドキしながら薬瓶を持ち上げる。
中身はピンクと虹色のグラデーションで、小さなハート型の泡と星型の光がゆらゆらと踊っている。
「この薬の名前は『みんなでハッピー・虹色薬』です!飲むとみんなが幸せな気持ちになって、周りの人とも幸せを分かち合える薬です!」
審査員たちがちょっと困ったような顔をしている。バルナード侯爵だけは目をキラキラさせていた。
「ほほう!それは面白そうじゃ!わしが試してやろう!」
侯爵が薬を一口飲むと……
「おおお!なんじゃこれは!心がぽかぽかして、みんなが愛しく思えてくる!そして……」
突然、侯爵の周りに小さなハート型の光がきらきらと舞い始めた。
それを見た他の審査員たちも、なんだか嬉しそうな顔になってくる。
「これは……幸福感を共有する効果もあるのですか?」
「あ、そんな効果もあったんだ!私も知らなかった!」
正直に答えると、会場がどっと笑いに包まれた。でも、とても温かい笑い声だった。
その時、私は隠し玉を取り出した。
さっきの調合で余った材料で作った『ハッピー・レインボー・スパークル』という粉末だ。
「これを振りかけると……」
粉末を空中にぱらぱらと撒くと、会場中にキラキラした虹色の光が舞い始めた。
まるで小さな花火のようで、とても綺麗だ。
「わあああ!美しい!」
観客席から歓声が上がる。
「ふみゅみゅ〜!」
ふわりちゃんが嬉しそうに鳴いた瞬間、光がさらに美しく輝いて……
でも、次の瞬間……
ーードカーン!
やっぱり爆発した。
でも今回の爆発は史上最高に美しかった。
いつもと違って色とりどりの煙と、キラキラした光と、甘い香りと、そして大量のハート型の泡と星型の光が会場中に広がって、まるで夢の世界みたいになった。
誰も怪我をしていないし、むしろみんな笑顔になっている。
「ふみゅ〜♪」
ふわりちゃんが満足そうに鳴くと、光の粒がさらに増えて、会場全体が幻想的な輝きに包まれた。
「お嬢様……今回の爆発は割と綺麗でしたね」
セレーナが呆れながらも、少し嬉しそうに言った。
「これは……これは素晴らしい!」
バルナード侯爵が大興奮している。
「技術的にも素晴らしいが、何よりこの『みんなを幸せにする』という発想と、この神秘的な美しさが素晴らしい!優勝はルナ・アルケミじゃ!」
え?本当に?
「おめでとう、ルナさん」
カタリナが上品に拍手してくれる。エリオットも嬉しそうに微笑んでいた。
「僕の理論なんて、ルナさんの発想力には敵いませんね」
「そんなことないよ!エリオットの理論も、カタリナの技術も、本当にすごいと思う!私はただ、みんなが笑顔になったらいいなって思っただけだから」
他の参加者たちも、みんな嬉しそうに祝福してくれた。
「ルナさん薬のおかげで、私の薬も完璧になりました。興味深いです」(アリシア)
「あんな美しい爆発は初めて見た!」(ボム・クレイジー)
「毒薬が愛の薬になるなんて……君は魔法使いか?」(スネーク・ポイズン)
すると会場中から温かい拍手が沸き起こった。
ハート型の泡と星型の光がまだふわふわと舞っていて、まるで祝福してくれているようだった。
「私一人の力じゃないよ。ふわりちゃんが手伝ってくれたの」
「ふみゅみゅ〜♪」
ふわりちゃんが恥ずかしそうに鳴くと、また会場中が温かい光に包まれた。
「ピューイ♪」
ハーブも嬉しそうだった。
帰り道、セレーナが嬉しそうに言った。
「今日のお嬢様とふわりちゃん、本当に素敵でした。技術も大切ですが、相手のことを思う気持ちが一番大切なのですね」
「セレーナもそう思う?私もそう思うの。錬金術は人を幸せにするためにあるんだと思うな」
「ふみゅ〜♪」
「ピューイ♪」
ふわりちゃんもハーブも同感のようだった。
夕日が王都の街を照らして、今日という日がとても特別な一日だったことを教えてくれる。
明日もきっと、ふわりちゃんとハーブと一緒に新しい発見と小さな爆発が待っているんだろうな。
でも、それも含めて、私の毎日は虹色でとても楽しいのだ。