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第60話 魔法実習と予想外の連鎖反応

「今日の魔法実習では『浮遊魔法』を練習します」


グリムウッド教授が黒板に杖を向けると、チョークが宙に浮いて勝手に文字を書き始めた。

さすがは魔法の先生だ。


「ルナさん、今日は実験用防護結界をちゃんと張りましたからね」


教授が私を見て苦笑いする。

確かに先週の『光の魔法』の実習では、私の魔法が暴走して教室中が虹色に光ってしまった。


「はい、ありがとうございます」


私は席に座りながら、肩の上のふわりちゃんを撫でた。


「ふみゅ〜」


真っ白でふわふわなふわりちゃんが、小さな翼をぱたぱたと動かしながら座っている。

雲のような毛がふわふわと揺れて、水色の瞳がきらきらと輝いている。


「あぁ…今日も天使のように美しい…」


グリムウッド教授がふわりちゃんを見て、一瞬うっとりした表情になったが、すぐに咳払いをして授業に戻った。


「ふわりちゃんは学院が特別に許可してくれてるから、安心してね」


私がそう言うと、ふわりちゃんがちょこんと頭を下げた。


「では、まず軽い羽根を浮遊させてみましょう」


机の上に白い羽根が配られた。私は杖を構えて呪文を唱える。


「レビテート・プルーマ」


——フワァ…グラグラ


羽根が浮いたものの、左右にふらふらと不安定に揺れている。


「うーん、やっぱり魔法は苦手」


一方、隣のカタリナは—


「レビテート・プルーマ」


——スゥ


完璧に安定して浮遊する羽根。

さらに美しい軌跡を描きながら、まるでダンスを踊るように空中を舞っている。


「さすがカタリナ」


「恐縮ですわ、ルナさん。でも、ルナさんの羽根も個性的で魅力的ですのよ」

カタリナが上品に微笑んだ。縦ロールの赤茶色の髪が美しく揺れている。


「ふみゅ〜」

ふわりちゃんも小さな翼をひらひらと動かして、私の不安定な羽根を応援してくれているようだ。


「次は少し重いものを浮遊させてみましょう。このりんごを使います」

赤いりんごが配られた。私は必死に集中して杖を向ける。


「レビテート・ポーマム!」


——フワフワ…ガクガク


りんごは浮いたものの、激しく上下に揺れて、なぜかゆっくりと回転も始めた。

「うわあ、制御が…」


対照的にカタリナは—


「レビテート・ポーマム」


——スーッ


りんごが優雅に浮遊し、まるで空中に静止しているかのように完璧に安定している。


「完璧だね、カタリナ」

「魔法の理論を正確に理解すれば、制御も容易になりますの。でも、ルナさんの魔法は理論を超えた面白さがございますわ」


「面白いって言うか、制御不能なだけよ」

私は苦笑いした。


——調子に乗った私——


「よし、今度はもう少し大きいものを浮遊させてみよう」

私は教室の隅にある小さな椅子に杖を向けた。


「ルナさん、それは少し危険では?」

エリオットが心配そうに言う。


「大丈夫よ、椅子くらい…カタリナだって完璧にできるでしょう?」


カタリナが上品に頷く。


「やらせていただきますわ」

カタリナが杖を向けると—


「レビテート・セデス」


——スゥゥゥ


椅子が美しく、まるで羽毛のように軽やかに宙に浮いた。

完璧な制御で、微動だにしない。


「すごい…さすがカタリナ」


「物体の重量と魔力の配分を正確に計算すれば、このように安定いたします」

カタリナが理論的に説明してくれた。


「では、私も」

私は意気込んで杖を向ける。


「レビテート・セデス!」


——ガタガタガタ


椅子が激しく震えながら宙に浮いた。そして、まるで生きているかのように空中をくるくると回転し始める。


「うわあ!やっぱり制御できない!」


クラスメートたちが慌てて避ける。


「ルナさん、制御を!」

グリムウッド教授が慌てて呼びかけるが、椅子はもう私の制御を離れていた。


——ふわりちゃんの救援——


暴走する椅子の風で、ふわりちゃんが私の肩から飛ばされそうになった。


「ふみゅう!」

慌てたふわりちゃんが私の黒髪の中に潜り込む。

ふわふわの毛が髪に絡まって、とても可愛い。


「ふみゅう…」

髪の中からふわりちゃんが心配そうに椅子を見上げた。

そして、小さな体を光らせながら髪の隙間から顔を出して—


「ふわり〜」


——パァァァ


ふわりちゃんから神聖な光が放たれた。

すると、暴走していた椅子がゆっくりと床に降りて、元の位置にちょこんと座った。


「素晴らしいですわ!」

カタリナが感嘆の声を上げた。


「ふみゅみゅ〜」

ふわりちゃんが髪の中から誇らしげに顔を出した。黒髪と白いふわふわの毛のコントラストが美しい。


「ありがとう、ふわりちゃん」

私はそっとふわりちゃんを髪の中から出して、再び肩に乗せた。


「気を取り直して、次は複数のものを同時に浮遊させる練習をしましょう」


教授が複数の小物を机の上に並べた。羽根、小さなボール、消しゴム。


「まず理論を説明させていただきますわ」


カタリナが杖を構える。

「複数物体の同時浮遊では、それぞれの重量に応じて魔力配分を調整する必要がございます」


「トリプル・エレガント・レビテート」


——フワフワフワ


三つの物が美しいハーモニーを奏でるように、規則正しく円を描きながら浮遊した。

まるで空中でワルツを踊っているよう。

たしかにエレガントだ。


「完璧な理論実践ですね、カタリナ」


「理論さえ理解すれば、どなたでもできますのよ」

カタリナが謙遜しながら微笑んだ。


次は私の番。集中して杖を構える。

「マルチプル・レビテート!」


——フワフワフワ


三つの物がそれぞれ宙に浮いた。でも…


「あれ?なんかバラバラに動いてる?」


小さなボールが勝手に跳ね回り始めた。

そして羽根がくるくると高速回転して、消しゴムは上下に激しく揺れている。


「ルナさん、魔力の配分が均等になってませんね」


「興味深い現象ですわね」


カタリナが知的な好奇心を示した。


「魔力が均等に配分されていないため、それぞれが独自の動きをしているようですわ」


「ふみゅ?」

ふわりちゃんも肩の上で首を傾げている。


その時、跳ね回っているボールが教室の魔法陣の装飾に当たった。


——ピカッ


装飾の魔法陣が反応して、薄く光り始めた。


「あら?装飾が光ってる」

すると、光った装飾から小さな光の玉がぽんぽんと生まれ始めた。


「まあ、光の玉が…美しいですわ」

カタリナが感嘆の声を上げる。


でも、光の玉たちは教室中をふわふわと漂い始めて、私の浮遊している物体たちと接触し始めた。

光の玉が私の浮遊魔法に触れると—


——ピカピカピカ


物体たちがキラキラと光り始めた。

そして、まるで生きているかのように、より活発に動き回る。


「わあ、光ってる!」

「まるで光の舞踏会みたい」


クラスメートたちが見とれている。


「これは魔法の共鳴現象ですわね」


カタリナが興味深そうに分析している。


「異なる魔法同士が干渉して、予想外の効果を生み出していますの」


でも、光る物体たちはどんどん勢いを増して、教室中を飛び回り始めた。


——ビューン、ビューン


「きゃあ!」

「うわあああ!」


クラスメートたちが慌てて机の下に隠れる。


光る羽根が黒板に激突し、光るボールが天井で跳ね回り、光る消しゴムが窓に当たってキーンと音を立てる。


「ふみゅう〜」

ふわりちゃんが慌てて私の髪の中に隠れてしまった。


そして、飛び回る光る物体たちが、教室の他の装飾魔法陣にも次々と当たり始めた。


——ピカッ、ピカッ、ピカッ


教室中の装飾魔法陣が連鎖的に光り始めて、無数の光の玉が生まれた。


「これは…制御不能ですわね」

カタリナも困った表情になった。


教室は光の玉と光る物体たちで大混乱。

まるで光の嵐のようだ。


混乱が極限に達した時、すべての光る物体と光の玉が教室の中央で激しくぶつかり合った。


——バチバチバチ


強烈な光の火花が散って—


——ドォォォォン!


眩しい光の爆発が起こった。教室中が真っ白な光に包まれる。


「ふみゅう〜」

ふわりちゃんが髪の中から心配そうに顔を出した。


「皆さん、落ち着いて!」

グリムウッド教授が必死に状況を収めようとするが、光で前が見えない。


「ふみゅみゅ〜」

ふわりちゃんが覚悟を決めたような表情で、小さな体を思いっきり光らせた。


——パァァァァァ


とても強い神聖な光が教室全体を包んだ。


「あらゆるものを本来あるべき姿に戻す」力が発動すると—


暴走していた魔法はすべて静まり、光の玉たちは消え、散らばった机や椅子は元の位置に整列し、眩しい光もきれいに収まった。


「ふみゅう…」

ふわりちゃんがぐったりして、私の肩で小さく息をしている。


「お疲れ様、ふわりちゃん」

私はそっとふわりちゃんを撫でた。


「…まあ、今日は予想外の実習になりましたが」

グリムウッド教授が苦笑いしながら眼鏡を拭いている。


「ルナさん、あなたの魔法はいつも理論を超えますね」

「すみません…」


「でも、魔法の共鳴現象について貴重な実例を見ることができました」

教授が前向きに言った。


「装飾の魔法陣が反応するなんて、予想もしていませんでした」


「ルナちゃん、今日もすごかったね」

トーマス君が感心している。


「光の舞踏会みたいで、怖かったけど綺麗だった」

アリスが笑顔で言った。


「ルナさん、あなたの魔法はいつも予想外の現象を起こしますのね」

「制御が下手だからかしら」


「いえ、それは違いますわ。ルナさんの魔法は従来の理論では説明できない独特の性質をお持ちなのです」

カタリナが知的な興味を示しながら微笑んだ。


「今日の『魔法共鳴現象』は学術的に非常に価値がございます」


「装飾の魔法陣が反応するなんて、誰も予想していませんでした」

エリオットが興味深そうに分析している。


「ルナさんの魔法には、他の人にはない特殊な波長があるのかもしれません」

「そうかもしれないわね」


「それに、ふわりちゃんの神聖な力も関係していそうです」


「今日もお疲れ様でした、お嬢様」

セレーナが虹色の髪を揺らしながら歩いている。


「ふわりちゃんも頑張ってくれたものね」


「ふみゅ〜」


肩の上から小さな返事が聞こえた。

まだ少し疲れているようだ。


「今日の光の舞踏会は美しかった様ですね」

「そうね、最初は混乱したけど、確かに綺麗だった」


「今日の魔法実習、予想以上に大変でした」

実験室で今日の出来事を日記に書いている。


「でも、ふわりちゃんの力について新しいことが分かったし、魔法の共鳴現象についても勉強になった」


「ふみゅみゅ〜」

ふわりちゃんが小さなあくびをした。今日は本当によく頑張ってくれた。


「明日は錬金術の実習ね。今度はどんなことが起こるかしら」


窓の外を見ると、学院の魔法陣が穏やかに光っている。きっと明日も楽しい一日になるだろう。


——翌朝・教授からの報告——


「ルナさん、昨日の現象について調査した結果です」

グリムウッド教授が興味深そうに報告してくれた。


「あなたの魔法は確かに特殊な波長を持っています。それが装飾魔法陣を活性化させたようです」


「それは珍しいことなんですか?」

「非常に稀な現象です。学術論文の題材になりそうですね」


なるほど、私の制御不能な魔法も、時には研究の役に立つことがあるのかもしれな


「今日の実習では、魔法の波長について詳しく学んでみましょう」

グリムウッド教授が提案してくれた。


「ふみゅ?」

ふわりちゃんが首を傾げている。

きっと、今日も何か面白いことが起こるだろう。


「大丈夫よ、ふわりちゃん。今日は装飾に気をつけるから」


「ふみゅみゅ〜」

ふわりちゃんが安心したように微笑んだ。


今日もまた、錬金術師の楽しい学院生活が始まる。

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