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第6話 魔法薬学の授業と史上最大の大惨事

本日の魔法薬学は『基礎治癒薬の調合』です。レシピ通りに、正確に作ってください」


グリムウッド教授の厳格な声が講義室に響く。

彼の鋭い目つきは「絶対に変なことをするな」と全生徒に釘を刺している。

特に、私の方を見る時間が長いのは気のせいだろうか。


「はーい」


私は元気よく返事をしながら、机の上の材料を確認する。

月光草、清涼水、銀粉、そして魔力結晶の欠片。


隣のカタリナは、いつものように完璧な手つきで材料を整理している。

縦ロールが揺れるたび、キラキラと光って見える。


「ルナさん、今日は『レシピ通りに』ですわよ?」

彼女の微笑みには「頼むから爆発させないで」という切実な願いが込められている。


「もちろんよ! 今日は絶対に——」


その時、前の席のトーマス君が振り返る。


「ルナちゃん、君の『絶対に』は信用できないんだよなあ」

「失礼ね! 私だって、ちゃんとできるのよ」


むくれながら言い返すと、教室中がくすくす笑い始める。うう、私の評判って一体……。


「では、月光草を細かく刻んで、清涼水で煮出しましょう」

教授の指示に従い、私は丁寧に月光草をナイフで刻む。薄紫の葉っぱが、まな板の上でキラキラと光を放つ。


「おお、きれい……」


思わず見とれていると、手元が狂った。


「あ」


ナイフがすっぽ抜けて、月光草が机から床へ——。


「きゃあ!」


慌てて拾おうとした瞬間、隣の清涼水をひじで押してしまう。

透明な液体が机の上をざーっと流れて——。


「わわわわっ!」


慌ててタオルで拭こうとするが、その拍子に銀粉の瓶を倒してしまう。

キラキラした粉が宙に舞い、教室中が突然、雪景色のように。


「ル、ルナ・アルケミ! 何をしているんですか!?」

教授の叫び声が響く。しかし、もう手遅れだった。


舞い上がった銀粉が、隣のカタリナの鍋に——。


「あら、ちょっと……」


カタリナの完璧な治癒薬に銀粉がふわりと降り注ぐ。

すると、鍋の中でぽこぽこと泡が立ち始めた。


「カタリナ、危ない!」

私が手を伸ばした瞬間——。


「皆さん、伏せて!」

教授の警告と共に——。


——ドッカーーーン!!


教室中に虹色の爆発が広がった。


煙が晴れると、そこには信じられない光景が広がっていた。


教室中の生徒たちが、頭からつま先まで色とりどりの粉まみれ。

トーマス君は緑色、隣の女子は真っ青、後ろの席の双子は片方がピンク、片方が黄色に染まっている。

そして、カタリナの完璧な縦ロールは——。


「………虹色」

七色に輝くレインボーロールになっていた。


「あら……まあ……」


さすがのカタリナも、今度ばかりは言葉を失っている。

鏡を見る彼女の表情は、困惑と驚愕と、そして微かな興味が混じった複雑なもの。


「み、みんな、ごめんなさい!」


私は慌てて頭を下げる。

しかし、教室を見回すと——。


「あれ? みんな、なんだか元気そう……?」

そう、色とりどりに染まった生徒たちは、なぜかみんな顔色が良く、目がキラキラ輝いている。


「これは……治癒薬の効果が……?」

教授が呟く。


確かに、いつも疲れ気味だったクラスメイトたちが、妙に生き生きしている。


「ルナさん……あなた、まさか『色付き治癒薬』を作ったのですか?」

カタリナが虹色の髪をかき上げながら、興味深そうに尋ねる。


「え、えーっと……偶然よ、偶然! でも確かに、みんな元気になってるみたい……」

「本当だ! 疲れが全部取れた感じ!」

「私の古傷も痛くない!」

「これ、すごいじゃないか!」


クラス中が騒然となる中、教授は複雑な表情で私を見つめていた。


「ルナ・アルケミ……君の錬金術は、いつも予想の斜め上を行きますね」

「あ、あはは……すみません」

「いえ、謝ることはありません。結果として、全員の体調が改善されています。ただし——」


教授の目が鋭くなる。


「次回からは、もう少し『静かに』実験してください」

「は、はい!」


授業後、虹色の髪のままのカタリナと一緒に廊下を歩く。


「カタリナ、その髪……似合ってるわよ?」

「まあ、そうですか? でも明日までに元に戻らなかったら、どうしましょう……」


彼女は鏡を見ながら、虹色の縦ロールをくるりと回す。不思議と、いつもより楽しそうに見える。


「大丈夫よ! きっと一晩で元に戻る……と思う」

「『思う』って何ですの!?」

「あはは……でも、みんな元気になったし、結果オーライじゃない?」

「ルナさんの『結果オーライ』は、いつも心臓に悪いですわ……」


そんな会話を交わしながら、私たちは夕焼けに染まる廊下を歩いていく。

後ろからは、まだ色とりどりの生徒たちの楽しそうな声が聞こえてくる。


「でも、今日は特に派手だったわね」

「ええ、教室が虹色に染まるなんて……」

「次回は『音楽が流れる治癒薬』でも作ってみようかしら!」

「それは絶対にやめてください!」


カタリナの悲鳴が校舎に響く中、私はまた新しい実験のアイデアを思いついていた。


——

翌日、カタリナの髪は無事に元の美しい赤茶色に戻っていたが、なぜか前より艶やかになっていた。

一方、教授は私専用の『実験用防護結界』を教室に設置することを決めたという。

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