第55話 王立魔法学院体育大会③
第6種目:魔法玉入れ(空中版)
「さあさあ!最後の種目は魔法玉入れじゃ〜!」
メルヴィン卿の声と共に、校庭の上空に巨大なカゴが現れた。
普通の玉入れと違って、カゴは空中を縦横無尽に動き回っている。しかも高さは約30メートル。
「今回の玉は特別製じゃ〜意思を持っていて、生徒をからかうように逃げ回るぞ〜」
審判の先生が手に持っている玉を見せてくれた。
確かにキラキラと光りながら、まるで生きているようにぴくぴくと動いている。
「これは…普通の玉入れじゃないですわね」カタリナが複雑な表情をしている。
「でも面白そう♪」
参加者は各クラスから3名ずつ。9クラス合計で27名の参加となった。
私も1-A組代表として参加することになった。
「お嬢様、怪我をしないようにお気をつけください」セレーナが心配そうに見守っている。
「大丈夫よ〜。玉入れくらい簡単よ」
でも実際に玉を手に取ってみると、予想以上に重くて、しかもぴくぴくと動いている。
まるで小動物を抱いているみたいだった。
「あ、この玉…温かい」
「それでは…競技開始〜!制限時間は15分じゃ〜」
合図と共に、参加者たちが一斉に玉を投げ始めた。
でも予想通り、玉たちは投げられた瞬間に勝手に方向を変えて、カゴを避けるように飛んでいく。
「あ〜逃げた〜」1-B組の男子生徒が叫んでいる。
「こっちに来い〜」2-C組の先輩が必死に追いかけている。
各クラスの代表者たちが必死に玉を追いかけているけれど、玉の方が一枚上手だった。
私も試しに玉を投げてみたけれど、玉は空中でくるりと回転して、全く違う方向に飛んでいった。
「む〜、手強いわね」
でも私には『魔物との意思疎通』の能力がある。もしかして、この玉たちとも会話できるのかも。
「玉ちゃんたち、お疲れ様」
手の中の玉に向かって優しく話しかけてみた。
すると玉がぴくりと反応して、少し光が穏やかになった。
「カゴに入ってもらえる?お願い」
玉がくるくると回転して、まるで「考えてみる」と言っているようだった。
次に投げた玉は、素直にカゴの方向に飛んでいって…でもカゴの縁でぽんと跳ね返って、観客席の方に向かった。
「あぶない〜」
慌てて『キャッチ魔法』をかけて、玉を回収する。
「う〜ん、まだ信頼関係が足りないのかしら」
そんな時、隣で投げていた3-A組の先輩が面白い作戦を使っているのに気づいた。
彼女は玉を投げる代わりに、魔法で玉の周りに小さな竜巻を作って、強制的にカゴに運んでいるのだ。
「なるほど〜力技ね」
でも私はもう少し平和的な方法を試してみたかった。
今度はポケットから『友好促進薬』を取り出して、玉に一滴垂らしてみた。
すると玉の光がとても温かくなって、手の中で嬉しそうに震えている。
「仲良しになれた?」
玉をそっと投げ上げると、今度は素直にカゴに向かって飛んでいった。
そしてカゴの中にすっぽりと収まった。
「やった〜!」
「1-A組、ポイント獲得〜!」審判の先生が発表した。
でも成功したのは束の間。次の玉はまた逃げ回り始めた。
どうやら一個ずつ友好関係を築かなければならないらしい。
「これは時間がかかりそうね…」
そんな中、最も劇的な展開を見せたのは2-B組のドーラだった。
彼女は玉を抱え込んだまま、『浮遊魔法』で自分ごとカゴに向かって飛んでいったのだ。
「え〜そんなのあり〜?」
「ルール違反じゃない〜?」
観客席の各クラスの応援団がざわめいたけれど、審判の先生は「玉がカゴに入れば手段は問わない」と判定した。
「なるほど〜発想の転換ね」
私もドーラの作戦を参考にして、今度は『友好促進薬』を大量に空中に散布してみた。
すると、逃げ回っていた玉たちが急に大人しくなって、まるで甘えるように私の周りに集まってきた。
「可愛い〜」
玉たちが私の手や肩にぴょんぴょんと飛び移って、まるで小動物の群れのようだった。
「みんな、カゴに入ってくれる?」
玉たちがくるくると回転しながら、一斉にカゴに向かって飛んでいく。
まるで花火のように美しい軌跡を描いて、次々とカゴに収まっていった。
「1-A組、大量得点〜!」
「おお〜!」
各クラスの応援席から大きな歓声が上がった。特に1-A組の応援席は大盛り上がりだった。
「素晴らしい〜!まるで玉たちが踊っているみたいじゃ〜」メルヴィン卿が大興奮している。
でも私の成功に刺激されたのか、他の参加者たちも色々な作戦を試し始めた。
2-A組の先輩は『重力魔法』で玉を重くして、強制的にカゴに落下させている。
3-B組の代表は『分身魔法』で自分を増やして、複数の玉を同時に投げていた。
1-C組の男子は『炎魔法』で玉を温めて、玉を機嫌良くさせる作戦を取っていた。
「みんなすごいなあ…各クラスとも個性的な作戦ね」
最終結果発表では、ドーラ(2-B組)が1位、私(1-A組)が2位、『分身魔法』を使った3-B組の先輩が3位だった。
「お疲れ様でした〜」
玉たちは競技終了後も私の周りに集まって、まるでお礼を言っているように光っていた。
「また今度遊びましょうね」
玉たちがぴょんぴょんと跳ねて、嬉しそうに応えてくれた。
閉会式と大爆発フィナーレ
「さあさあ〜今年の体育大会も大盛況のうちに終了じゃ〜」
夕暮れの校庭で、メルヴィン卿が最後の挨拶を始めた。
全ての競技が終わって、9クラス216名の生徒たちみんな疲れているけれど満足そうな顔をしている。
「各競技の得点を集計した結果…」
ドラムロールの音と共に、結果発表が始まった。
「第3位は2年生チーム〜!」
2-A、2-B、2-Cの生徒たちが嬉しそうに手を振っている。さすが中堅学年、安定した実力を見せていた。
「第2位は3年生チーム〜!」
3-A、3-B、3-Cの上級生たちから大きな拍手。最上級生らしい堂々とした態度だった。
「そして第1位は…1年生チーム〜!」
「え〜本当〜?」
1-A、1-B、1-Cのクラスから驚きの声が上がった。
確かに個人種目では上位に入ったけれど、団体種目では各クラスとも散々だった気がする。
「総合得点では僅差でしたが、『創意工夫賞』『エンターテイメント賞』『観客感動賞』などの特別加点により、1年生チームの勝利じゃ〜」
なるほど、普通の体育大会とは評価基準が違うらしい。
「やったわ〜ルナさ~ん〜」1-A組のカタリナが嬉しそうに手を振っている。
「1-B組も頑張ったー!」
「1-C組だって負けてないぞー!」
各クラスの生徒たちが嬉しそうに声を上げている。
「ふみゅみゅ〜♪」ふわりちゃんも小さな翼をばたつかせて喜んでいた。
「優勝賞品は校長自ら調合した『万能魔導薬』一本じゃ〜」
ステージに置かれた美しいクリスタルボトルが、虹色の光を放っていた。
中の薬液も神秘的に輝いている。
「これは貴重ですわね」カタリナが感心している。
校長先生が穏やかな笑顔でボトルを手渡してくれた。
「ルナ・アルケミさん、君たち1年生の活躍は素晴らしかった。特に君の『魔物と人の架け橋』のような能力は、将来必ず役に立つだろう」
「ありがとうございます」
ボトルを受け取った瞬間、手の中でほんのりと温かくなった。きっととても高品質の薬なのだろう。
「それでは最後に、メルヴィン副校長から一言〜」
メルヴィン卿がステージ中央に立った。
「事故はあった!爆発もあった!だが楽しかった!それでよし!」
いつものように両手を大きく広げながら、満面の笑みを浮かべている。
「来年はもっと派手に〜もっとひっくり返るような競技を用意するぞ〜」
各クラスの応援席から大きな拍手が起こった。
「それでは、今年の体育大会を締めくくる記念錬金撮影じゃ〜全員集まって〜」
216名の生徒と教職員、そして観客が校庭の中央に集まった。
9クラス分の大勢の人数で、まるで小さな町の住民全員が集まったようだった。
「はい〜みんな笑顔で〜せーの〜」
メルヴィン卿が錬金カメラに向かって手を上げた瞬間、私がうっかり手に持っていた『万能魔導薬』のボトルを落としてしまった。
「あ〜」
クリスタルボトルが地面に落ちて、パリンと割れた。
瞬間、中の薬液が地面に広がって…
ーードッカーーーーーーーーン!!!
今日一番の大爆発が起こった。
虹色の光と煙が校庭全体を包み込んで、まるで巨大な花火が地上で爆発したようだった。
爆発の衝撃で216名の生徒全員が宙に浮いて、ふわふわと舞い上がった。
「うわああああ〜」各クラスから悲鳴が。
「きゃああああ〜」女子生徒たちの声が響く。
「これは〜素晴らしい〜」メルヴィン卿だけは大喜び。
でも爆発の光が収まると、みんなカラフルに染まっていた。
私は薄紫色、1-A組のカタリナは薄いピンク色、1-B組は薄い青色。
2-A組の生徒たちは薄い緑色、2-B組は薄い黄色、2-C組は薄いオレンジ色になっていた。
3年生も、3-A組は薄い赤色、3-B組は薄い水色、3-C組は薄い金色と、クラスごとに違う色に染まっていた。
そしてセレーナに至っては、元々虹色の髪がさらに鮮やかになって、まるで歩く虹のようだった。
「あ、あはは…ごめんなさい」
でも誰も怒っていなかった。
それどころか、各クラスの生徒たちが自分たちの新しい色を楽しそうに見ている。
「1-C組、みんな同じ色になってる〜」
「2-A組の緑色、素敵〜」
「3-B組の水色も綺麗よ〜」
「全クラス違う色になってる〜」
色とりどりになった9クラス216名の生徒たちと教職員、観客たちが、記念錬金撮影のポーズを取り直した。きっと王立魔法学院史上最もカラフルな集合写真になるに違いない。
「パシャ〜」
錬金カメラのシャッターが切られた瞬間、各クラスの応援席から総立ちの拍手喝采が起こった。
「ブラボー〜!」
「最高の締めくくりよ〜」
「来年も期待してるわ〜」
メルヴィン卿も虹色に染まりながら、満足そうに頷いていた。
「これぞワシの求めていたフィナーレじゃ〜来年はもっと派手な閉会式にするぞ〜」
校長先生も薄い金色に染まって、とても神秘的な雰囲気になっていた。
「『万能魔導薬』の効果で、皆さんの魔力も一時的に向上するでしょう。良い体験になりましたね」
確かに、体の中を温かいエネルギーが流れているのを感じる。
きっと数日は魔力が強化された状態が続くのだろう。
「お嬢様」セレーナが虹色に光る髪を揺らしながら近づいてきた。
「予想外の展開でしたが、楽しい一日でしたね」
「そうね。来年はもう少し普通の体育大会がいいかも」
「お嬢様の『普通』ほど信用ならないものはございませんが」
定番のツッコミに、各クラスの生徒たちが笑った。
「ふみゅ〜♪」ふわりちゃんも薄い水色に染まって、さらに可愛くなっていた。
こうして王立魔法学院の体育大会は、史上最もカラフルで爆発的なフィナーレを迎えた。
翌日、「虹色に染まった学院祭」は王都中の話題となり、来年の体育大会への期待がさらに高まったという。特に「各クラスが違う色に染まった奇跡」として語り継がれることとなった。
そして私は、来年こそは『万能魔導薬』を落とさないよう気をつけようと心に誓ったのだった。
でも…それが守られる可能性は、やっぱり限りなく低そうだった。
「ピューイ〜♪」薄紫色になったハーブも、とても嬉しそうに鳴いていた。
各クラスの216名の生徒たちも、それぞれのクラスカラーに染まった姿で、思い出に残る一日を締めくくったのだった。