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第54話 王立魔法学院体育大会②

第3種目:魔法ほうきリレー


「さあさあ!次はチーム対抗の魔法ほうきリレーじゃ〜!」


メルヴィン卿の声と共に、校庭の上空に光るリングが次々と現れた。

空中に浮かぶリングを通過しながら、チームでリレーをする競技だ。


私は1-Aチームとして、カタリナ、エリオット、そしてトーマス君たちと一緒に参加することになった。


「バトン代わりの魔力光球は、扱いが乱暴だと暴発するから注意するのじゃ〜」


審判の先生が手のひらサイズの光る球体を見せてくれた。

確かにピカピカと不安定に光っていて、いかにも爆発しそうだ。


「ルナさん、あなたがアンカーでよろしいですか?」カタリナが確認してくる。

「え、私?」

「はい。何かあっても対応できそうですから」


何かあっても、って何だろう。

でもチームのみんなが私を信頼してくれているなら、頑張らなくちゃ。


「分かった。任せて」


全9チームがスタート位置に並ぶ。

1走はエリオット、2走がトーマス君、3走がカタリナ、そして4走が私だった。


「それでは…スタート〜!」


エリオットが颯爽とほうきにまたがって空中に舞い上がった

。彼のほうき捌きはとても上手で、理論通りに美しい弧を描いて最初のリングをくぐり抜けていく。


「さすがエリオット〜!」


でも2つ目のリングを通過した時、ほうきが急に左に傾いた。


「あ、あれ?制御が…」


どうやらほうきに何か問題があるらしい。

エリオットがバランスを崩しながらも、なんとか3つ目のリングを通過してトーマス君にバトンタッチ。


「魔力光球、受け取りました〜」


トーマス君が光球を受け取った瞬間、球体がやや強く光った。


「あ、ちょっと光が…」

「大丈夫よ〜優しく扱えば平気」


トーマス君は慎重に光球を抱えながら、ゆっくりとリングコースを進んでいく。

でも慎重すぎて、他のチームにどんどん抜かれていた。


「トーマス君〜もう少し速く〜」


応援の声に焦ったトーマス君が急加速した瞬間、バランスを崩して光球を空中でお手玉状態に。


「うわあああ〜落とす〜!」


ヒヤヒヤしながら見ていると、なんとか光球をキャッチして、カタリナにバトンタッチ。


「お疲れ様でした」カタリナが優雅にほうきにまたがる。


さすがお嬢様、ほうきの乗り方も上品だった。

魔法の適性も高い彼女は、スムーズにリングを通過していく。


「素晴らしい!」


5位まで順位を上げて、私にバトンが回ってきた。


「ルナさん、お願いします」

「任せて〜」


光球を受け取って、ほうきにまたがる。

でもこのほうき、何だかバランスが悪い気がする。


「あれ?このほうき…」


よく見ると、私のほうきだけ他と形が違っていた。

穂先が妙にふわふわしていて、柄の部分に見慣れない装飾がついている。


「もしかして、これって改良品?」


メルヴィン卿が「今年は特別製のほうきを用意した」と言っていたのを思い出した。

きっと錬金術で強化されたほうきなのだろう。


「まあ、なんとかなるわよね」


空中に舞い上がって、最初のリングに向かう。

でも上昇した瞬間、ほうきが勢いよく回転し始めた。


「うわああああ〜!」


まるでドリルのように回転しながら、空中でスピンしている。

目が回って方向感覚がめちゃくちゃになった。


「ルナさ~ん〜大丈夫ですか〜?」

下からカタリナの心配そうな声が聞こえるけれど、返事をする余裕がない。


なんとかスピンを止めようと、ほうきの制御を試みる。

でも回転が逆に激しくなって、今度はコークスクリュー回転になってしまった。


「これはこれで楽しい…かも?」

回転しながらでもリングは通過できることが分かって、むしろ普通に飛ぶより速いかもしれない。


スピン状態でリングを次々と通過して、何とか最終リングに到達。

でもゴール地点で回転を止められずに、そのままぐるぐると回りながらゴールイン。


「ゴール〜…したと思う〜」


地面に着陸した時も、まだ世界がぐるぐると回って見えていた。


「お嬢様〜!」セレーナが慌てて駆け寄ってきた。「大丈夫ですか?」

「うん…多分…」


結果的に、スピンしながらでも3位入賞を果たした。

他のチームの生徒たちが「新しい飛行技術だ」「回転飛行法って呼ぼう」と盛り上がっていた。


「来年はスピン飛行部門も作りましょうか」メルヴィン卿が楽しそうに提案している。


第4種目:錬金大玉ころがし


「お次は大玉ころがしじゃ〜!」


校庭の中央に巨大な球体が運ばれてきた。

直径3メートルはありそうな大きな玉で、表面がキラキラと光っている。


「この錬金大玉は気まぐれに重力を変えるのじゃ〜軽くなったり重くなったり、時には浮いたりするぞ〜」


チーム戦で、玉をコースの向こう側まで転がす競技だ。

でも普通の大玉ころがしと違って、玉が勝手に動き回る可能性がある。


「これは…普通じゃないですね」エリオットが困惑している。

「普通だったら面白くないでしょ」


1-Aチームは8人で玉を囲んで、スタートの合図を待つ。

玉に近づくと、微かに魔力の波動を感じた。


「この玉、何か生きてるみたい」

「まさか…」カタリナが不安そうに玉を見つめている。


「よ〜い…スタート〜!」

合図と共に、みんなで玉を押し始めた。


最初は順調だった。玉は普通の重さで、みんなで力を合わせれば簡単に転がすことができる。


「このペースなら勝てるわね」


でも10メートルほど進んだ時、突然玉がふわりと浮き上がった。


「うわあああ〜!」


玉が宙に浮いて、私たちの手から離れてしまった。

浮遊状態の玉は風に流されて、観客席の方に向かって飛んでいく。


「あ、あぶない〜!」


観客席で慌てる声が聞こえたけれど、審判の先生の結界魔法でギリギリセーフ。

玉は透明な壁にぽよんと跳ね返って、コースに戻ってきた。


「今度は私が押さえるわ」


玉が地面に戻った瞬間、私が抱きついて動かないようにした。

でも今度は玉が急に重くなって、私を押し潰しそうになった。


「うぎゃあああ〜!」


ぺちゃんこになりそうになったけれど、なぜか平気だった。

玉の重みで地面に埋まったけど、痛くない。


「お嬢様〜!」観客席からセレーナの心配そうな声が聞こえてきた。

「大丈夫〜まだ生きてる〜」


手をひらひらと振って無事をアピール。


重くなった玉をみんなで力を合わせて転がそうとするけれど、今度は重すぎてびくともしない。


「これは困りましたわね…」カタリナが汗をかいている。


そんな時、隣のコースで2-Bチームが大変なことになっていた。

彼らの玉が軽くなりすぎて、一人の生徒が片手で押し進めている。


「すげ〜!」

「軽々だ〜!」


観客席から歓声が上がっていた。


「うーん、どうしよう…」


そこでエリオットが魔法を唱えた。

風の魔法で玉を浮かせて、みんなで押しやすくしてくれたのだ。


「エリオット、ナイス〜」


みんなでエリオットを応援しながら、玉を転がしていく。

でも玉の重量変化はまだ続いていて、途中で再び軽くなったり重くなったりを繰り返した。


最終的に、玉が普通の重さに戻った時点でゴールイン。4位入賞だった。


「お疲れ様でした〜」


でも一番印象的だったのは、3-Cチームの玉が暴走して、コースを外れて学院の池に落ちた瞬間だった。


ザッパーン!


大きな水しぶきと共に、池の魚たちがびっくりして飛び跳ねていた。


「あ、お魚さんたち、ごめんなさい〜」3-Cチームの生徒たちが慌てて謝っている。

でも池から引き上げられた玉は、なぜか虹色に光るようになっていて、とても綺麗だった。


「これはこれで芸術的じゃな〜」メルヴィン卿が満足そうに頷いている。


第5種目:ゴーレム障害レース


「最後の団体種目は、ゴーレム障害レースじゃ〜!」


校庭の一角に錬金術の材料と作業台が準備されていた。

チームごとに制限時間30分でゴーレムを製作し、その背中に乗って障害物コースを走破する競技だ。


「ゴーレムは走る途中で暴走・崩壊する可能性があるから気をつけるのじゃ〜」


これはまさに私の得意分野だ。

錬金術でゴーレムを作るなんて、普段の実験の延長線上みたいなもの。


「ルナさん、お任せします」カタリナが信頼を込めて言った。

「うん、任せて」


材料を確認すると、粘土、魔力石、各種薬草、金属片などが揃っている。

「どんなゴーレムにしようかしら…」


普通に作るなら、バランス重視で安定したゴーレムがいいだろう。でも、それだと面白くない。

「せっかくだから、ちょっと変わったゴーレムにしてみましょう」


『軽量化の薬草』『速度向上の魔力石』『柔軟性強化剤』を組み合わせて、軽くて速いゴーレムを作ることにした。


「制作開始〜!」


粘土をこねながら、ゴーレムの形を作っていく。

せっかくだから可愛い形にしようと思って、ちょっとふわりちゃんに似せた丸っこい体型にしてみた。


「ふみゅ?」本物のふわりちゃんが肩で首をかしげている。

「可愛いでしょ?」


魔力石を胸の部分に埋め込んで、各種薬草エキスを練り込んでいく。

最後に『生命活性化の薬』を一滴垂らして…


ピカッ!


小さな光と共に、ゴーレムが完成した。

予想通り、ふわりちゃんに似た丸っこい体型で、とても愛らしい。


「おお〜可愛いですわね」カタリナが感心している。


でも他のチームのゴーレムを見ると、みんなとても実用的な形をしていた。

馬のような形だったり、人型だったり、中には戦車のような形のゴーレムもある。


「大丈夫かしら…」

「制作時間終了〜!それではゴーレムの動作確認じゃ〜」


全9チームのゴーレムが一斉に動き始めた。


私のゴーレムも、ぴょんぴょんと跳ねるように動いている。

確かに軽快で可愛いけれど、人を乗せるには少し不安定かも。


「ルナさん、本当にこれに乗るんですか?」エリオットが心配そうに見ている。

「大丈夫よ。多分」


でも隣の2-Aチームのゴーレムが、制作直後に崩壊しているのを見ると、やっぱり不安になってきた。


「うわああ〜腕が取れた〜!」

「足も〜!」

「頭も転がってる〜!」


でも慌てた様子で修復作業を始めている。

さすがに諦めるつもりはないらしい。


「それでは、ゴーレム障害レースの開始じゃ〜!」


コースには丸太の橋、泥の池、岩の坂道など、様々な障害が設置されていた。


「がんばれ〜ゴーレムちゃん」

私のゴーレムの背中にまたがると、意外にふわふわして気持ち良かった。


「スタート〜!」


ゴーレムが一斉に走り始める。

私のゴーレムは軽量化の効果で、ぴょんぴょんと跳ねるように進んでいく。

最初の障害の丸太橋も、軽やかに跳び越えていった。


「おお〜すごいじゃない」


でも問題は次の泥の池だった。

軽すぎるゴーレムは、泥に足を取られることなくスイスイと進む…はずだったのに、なぜか池の真ん中で止まってしまった。


「あれ?どうしたの?」


よく見ると、ゴーレムが泥遊びを始めていた。泥をぺたぺたと触って、楽しそうにしている。


「遊んでる場合じゃないのよ〜」


でもゴーレムは私の声を聞かずに、泥で小さな山を作り始めた。

どうやら子供っぽい性格になってしまったらしい。


そうこうしている間に、他のゴーレムがどんどん先に進んでいく。

特に3-Bチームの馬型ゴーレムは、とても速くて安定していた。

騎手も慣れた様子で、見事に障害をクリアしている。


「うちのゴーレムも頑張って〜」


ようやく泥遊びに飽きたのか、ゴーレムが再び走り始めた。でも今度は岩の坂道で問題が発生。

坂道の途中で、ゴーレムの手足がぽろぽろと取れ始めたのだ。


「あ〜手が〜」

「足も〜」


軽量化を重視しすぎて、強度が不足していたらしい。

でもゴーレムは手足が取れても、芋虫のようにのたくたと進んでいく。


「これはこれで可愛い…」


観客席から笑い声と拍手が聞こえた。

みんな私のゴーレムを応援してくれているようだ。


「がんばれ〜芋虫ゴーレム〜」

「ルナちゃ〜ん、面白いわよ〜」


手足を失った芋虫状態でも、ゴーレムは最後まで走り抜いた。

結果は7位だったけれど、「最も印象的なゴーレム賞」をもらった。


「お疲れ様、ゴーレムちゃん」


ゴールした後、ゴーレムを撫でてあげると、嬉しそうにぷるぷると震えていた。


一方、最も劇的だったのは2-Aチームだった。

彼らのゴーレムは制作時に崩壊したけれど、なんと走っている最中に自己修復を始めたのだ。


「おお〜!勝手に直ってる〜!」


走りながら手足が元に戻って、最終的にはスタート時よりも立派な姿になっていた。

そして2位でゴールイン。


「すごいですわね…まるで進化するゴーレムですわ」カタリナが感心している。

「うちのゴーレムも進化したわよ。手足から芋虫に」

「それは退化では…」


でも私のゴーレムは最後まで一生懸命走ってくれた。それだけで十分だった。


「次は個人種目ね」

「はい。魔法玉入れですが…」


カタリナが不安そうに空中のカゴを見上げていた。

確かに、あの高さで動くカゴに玉を入れるのは至難の業だ。


「まあ、何とかなるでしょ」

でも内心では、この先の競技が一番心配だった。

今までは何とか誤魔化せたけれど、個人の技術が問われる種目では、そうはいかないかもしれない。


「ふみゅ〜」ふわりちゃんが励ますように鳴いてくれた。

「そうね、最後まで頑張らなくちゃ」


こうして団体種目は終了し、いよいよ個人種目の魔法玉入れが始まろうとしていた。

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