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第52話 夏祭りの夜に響く大騒動 最終日 ~爆発する名誉と笑いの祭典~

「諸君!今夜は歴史的瞬間の幕開けじゃ!」


王都中央広場に響き渡るバルナード侯爵の威勢の良い声。

彼は豪華な演台の上で、羽根飾りのついた帽子を振り回している。


私は観客席で苦笑いしながら、肩のふわりちゃんを撫でていた。

「ふみゅ?」ふわりちゃんも首をかしげている。


「領地対抗花火合戦かぁ…絶対普通の花火大会じゃないわよね」


隣に座るカタリナが縦ロールを風になびかせながらため息をついた。

「ルナさん、あなたが言うとまるで他人事みたいに聞こえるのですが」


確かに、私も参加者の一人だった。アルケミ伯爵家代表として。


「お嬢様」セレーナが後ろから心配そうに声をかけてくる。


「本当に大丈夫なのでしょうか?あの『時間停止花火』とやらは…」

「大丈夫大丈夫!計算は完璧よ♪」


実際のところ、完璧かどうかは微妙だった。

『時の砂』『虹色結晶』『持続強化剤』を組み合わせた新作花火。

理論上は空中で虹を時間停止させて、5分間消えずに残るはず…だけど。


「ピューイ…」ハーブが不安そうに鳴いている。


ハロルドが眼鏡をくいっと上げながら、静かに呟いた。

「お嬢様の『大丈夫』ほど信用ならない言葉はありませんからね」


「ハロルドまで!」


「では第一陣、コットン男爵家の花火から参りましょう!」

バルナード侯爵の合図で、最初の花火が打ち上げられた。


夜空に舞い上がったのは…


「あ、あれは…」


巨大なソーセージだった。


空中でくるくると回転しながら、そこからマスタードとケチャップ色の火花が散っていく。

観客席からは爆笑が起こった。


「ソーセージ花火ですって!?」カタリナが呆れ顔だった。


「さすがコットン男爵!食肉加工業で有名な領地らしい発想じゃ!」バルナード侯爵は大喜びしている。


次はブルングネルト伯爵家。


空に上がったのは巨大なおにぎりだった。

しかも海苔の部分が本物らしく、ぺらぺらと風でなびいている。


「おにぎり…ですか」エリオットが困惑している。

「米どころブルングネルト領らしいのう!素晴らしい!」


バルナード侯爵は何を見ても素晴らしがる。完全にお祭り騒ぎモードだ。


そして三番手はローゼン侯爵家。


「カタリナの番ね」


彼女の花火は流石に上品で美しかった。

薔薇の花が次々と咲いては散り、最後に大きな花束の形になって夜空を彩る。


「おお〜」観客席から感嘆の声が上がった。

「さすがローゼン侯爵家!格調高い!だがもう少しひっくり返って欲しかったのう」


バルナード侯爵は満足しつつも、どこか物足りなそうだった。


続いて、シルバーブルーム男爵家のエリオット。


彼の花火は精密な幾何学模様を描いて、まるで巨大な魔法陣のようだった。

錬金術の知識が活かされた美しい作品。


「理論的で美しいですわね」カタリナが感心している。

「うむ、知的じゃが…やはりもう少し予測不能さが欲しいのう」


そして他の領地の花火が続く。


巨大なニワトリが空を飛び回ったり(養鶏業のコッケコケ領)、本物そっくりの巨大チーズが空中で溶け始めたり(酪農業のミルクカクハン領)、でかすぎるウサギがぴょんぴょん跳ねながら人参の花火をばら撒いたり。


「ピューイピューイ!」ハーブが興奮している。同族に反応しているらしい。


「もうめちゃくちゃね…」


そしてついに私の番が来た。


「では最後を飾るのは、アルケミ伯爵家のルナ嬢じゃ!」


私は競技エリアに向かいながら、特製の花火を抱えた。

見た目は普通の筒型だけど、中身は今まで作った中で一番複雑な調合物だった。


「ふみゅ〜」ふわりちゃんが応援するように鳴いている。

「よーし、行くわよ!」


発射台に花火をセットして、点火用の魔法を唱える。


「『時よ、踊れ!光よ、留まれ!』」

花火は勢いよく夜空に舞い上がった。そして…


「わあ…」

空中で爆発した花火から、七色の光の帯が広がっていく。

それは空に巨大な虹のアーチを描いて…止まった。


文字通り、時間停止した虹だった。


「すごい…消えない」

「本当に虹が空に固定されてる」

「これは魔法?錬金術?」


観客席がざわめいている。虹は美しく夜空にかかったまま、微動だにしない。

でも何かおかしい。


虹がだんだん明るくなってきている。


「あ、あれ?計算が…」


虹から光の粒がぽろぽろと落ち始めた。

それは地上に降り注いで、触れた人の髪や服を虹色に染めていく。


「きゃー、髪が虹色に!」

「でも綺麗!」

「ざ~んし~ん〜!」


観客席は大盛り上がりだった。


でも虹はまだ明るくなり続けている。


「ルナさん、これ大丈夫ですの?」カタリナが心配そうに見上げている。

彼女の縦ロールも虹色に染まっていた。


「えーっと…多分?」


その時、虹が突然回転し始めた。


空中でくるくると回る虹から、今度は小さな星の形をした光が飛び散って、それぞれが小さな花火になって爆発する。まるで虹が子供を産むように、次々と小花火が生まれていく。


「これは…予想外すぎるのう」バルナード侯爵も目を丸くしている。


「ふみゅみゅ〜」ふわりちゃんが楽しそうに羽ばたいている。


結局、虹は予定の5分を大幅に超えて15分間も夜空で踊り続けた。

最後は大きな花の形になって、ゆっくりと散っていく。


静寂の後、観客席から盛大な拍手と歓声が上がった。


「素晴らしい!これぞ求めていた『予測不能』じゃ!」バルナード侯爵が興奮して跳び跳ねている。

「アルケミ伯爵家の優勝じゃ〜!」


こうして、史上初の領地対抗花火合戦は、予想を遥かに超える大騒動で幕を閉じた。


観客席では、虹色に染まった人々が楽しそうにしている。

セレーナも髪が虹色になりながら、「流石お嬢様です」と苦笑いしていた。


「来年はどんな花火にしようかしら」


私がそうつぶやくと、周りの人たちが一斉に「やめて〜」と言った。

「ふみゅ♪」ふわりちゃんだけは楽しそうに鳴いていた。


きっと来年も、素敵な花火大会になるに違いない。

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