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第51話 夏祭りの夜に響く大騒動 二日目

「今年の王都夏祭りは一味違うぞ〜!」


夕暮れの王都中央広場に、バルナード侯爵の威勢の良い声が響いた。


屋台の香ばしい匂いと、演奏隊の音色が夏の夜風に乗って漂っている。

夏祭り特別製の明かりがゆらゆらと揺れて、いつもより賑やかな雰囲気だった。


私は広場を歩きながら、肩のふわりちゃんと一緒に祭りの雰囲気を楽しんでいた。


「ふみゅ〜♪」ふわりちゃんが小さな翼をパタパタと羽ばたかせて、祭りの音楽に合わせるように鳴いている。


「今年は料理コンテストもあるのですね」

カタリナが、美しい扇子で顔を仰ぎながら言った。

いつもの縦ロールにお祭り用の髪飾りをつけて、いつも以上に上品だ。


「そうなのよ。バルナード侯爵が『夏祭りにはもっと派手な催しを!』って言い出したから」

実際、今年の夏祭りは例年とは違っていた。


普通の屋台に混じって『爆発わたあめ』『虹色かき氷』『時間加速焼きそば』なんて変わった店も出ている。

「あの『時間加速焼きそば』って、一体どうやって作っているのかしら…」私は興味深そうに屋台を眺めていた。


「お嬢様、あまり変なものを召し上がらないでくださいね」

後ろからセレーナの心配そうな声。

手にハーブの籠を持っている。私の実験の影響で虹色になった髪が、祭りの明かりでキラキラと輝いていた。


「ピューイ〜」ハーブも祭り用の小さな鈴をつけて、楽しそうに鳴いていた。

薬草ウサギの彼も、この賑やかな雰囲気が気に入っているらしい。


「ハロルドは来ないの?」

「『祭りの喧騒は苦手』とのことで、お屋敷で留守番です。

マリアも一緒に残っております」セレーナが苦笑いしている。


広場の中央では、特設ステージが組まれて、今まさに料理コンテストが始まろうとしていた。


「皆の者〜!今年のテーマは『涼を呼ぶ夏料理』じゃ!」


バルナード侯爵がステージの上で大きく手を振っている。


「ただし!普通の料理では面白くない!何かひっくり返ったり、爆発したり、虹色になったりする料理を期待しておるぞ〜!」

観客席から笑い声が起こった。いつものバルナード侯爵らしい無茶振りだ。


「あ、エリオットも参加するのね」

ステージを見ると、エリオットが調理台の前に立っていた。


「皆さん、お疲れ様です」エリオットが私たちに手を振る。


「今日は理論よりも実践重視で挑戦してみます」

「何を作るの?」


「『温度逆転スープ』を考えています。見た目は熱々でも、実際は氷のように冷たいという…」

なるほど、いかにもエリオットらしい理論的なアプローチだ。


他にも様々な参加者がいた。

パン屋のおじさんは『ひんやりメロンパン』、八百屋のおばさんは『踊る夏野菜サラダ』、お菓子屋の若い女性は『涼風ケーキ』の準備をしている。


「ルナさん、あなたは参加なさらないのですか?」カタリナが聞いてきた。

「え、私?料理は普通にしかできないわよ」


「『普通』とおっしゃいましても、ルナさんの『普通』ほど信用ならないものは…」

「ちょっと〜、そんなことないわよ」


でも確かに、最近の私の実験は予想外の結果になることが多い。

この前も『簡単解毒薬』を作ろうとして、なぜか『歌う薬草スープ』ができてしまったし。


「では、コンテスト開始じゃ〜!制限時間は1時間!」

バルナード侯爵の合図で、料理コンテストが始まった。


最初は順調だった。

エリオットは慎重に温度調整の薬草を混ぜ、パン屋のおじさんは器用にメロンパンの生地をこねている。

でも10分ほど経った頃、最初の異変が起こった。


「あれ?私のスープが青くなってきた…」

八百屋のおばさんが困惑していた。

彼女の『踊る夏野菜サラダ』のドレッシングが、なぜか鮮やかなブルーに変色している。


「お、おお!これは面白い!」バルナード侯爵が興奮している。


さらに数分後、お菓子屋の女性の『涼風ケーキ』から本当に風が吹き始めた。


「きゃ〜!ケーキが竜巻を起こしてる〜!」

ケーキの周りに小さな竜巻が発生して、観客席まで涼しい風が届いてくる。

みんな「涼しい〜」と喜んでいるけれど、作った本人は慌てふためいていた。


「あの〜、こんなことになる予定じゃなかったんですけど…」


そして極めつけは、パン屋のおじさんの『ひんやりメロンパン』だった。


「あれ?パンが…膨らみすぎてない?」

メロンパンが通常の5倍ほどの大きさになって、しかもぷよぷよと脈動している。


「ちょっと待て、これはメロンパンじゃなくて巨大スライムになってしもうた〜!」おじさんが慌てている。

巨大メロンパン…いや、メロンパンスライムが調理台から転がり落ちて、ぷるぷると震えながら観客席に向かって行く。


「きゃ〜!」

「逃げろ〜!」


でも近づいてみると、メロンパンスライムはとても良い香りがして、触ると本当にひんやりと冷たかった。


「あ、美味しそう…」

勇気のある子供が一口齧ってみると「美味しい〜!冷たくて甘い〜!」と大喜び。


それを見た他の観客たちも、次々にメロンパンスライムに群がって行く。


「これはこれで大成功じゃな〜」バルナード侯爵が満足そうに頷いていた。


「お嬢様」セレーナが心配そうに私を見ている。

「まさか、何か実験の副作用とかじゃ…」

「え?私は何もしてないわよ」


そう答えながらも、確かに最近この辺りで『冷却強化実験』をしたことを思い出していた。

あの時の薬品が地面に染み込んで、地下水に影響を与えたのかも…?


「あの、すみません」エリオットが困った顔でやってきた。


「僕の『温度逆転スープ』が逆に熱くなってしまって…」

見ると、彼のスープはグツグツと煮立っていて、湯気が天井まで立ち上っている。


「理論的には完璧だったはずなのに…」

「きっと何かの魔法的干渉があるのよ」私は慰めるように言った。

でも内心では、やっぱり私の実験の影響かもしれないと思っていた。


そんな時、広場の向こうから大きな爆発音が響いた。


ドッカーン!


「今度は何?」


爆発の方向を見ると、『爆発わたあめ』の屋台から色とりどりの煙がもくもくと立ち上っている。ピンクや青や黄色の煙が混じり合って、まるで虹の雲のようだった。


「うわあああ〜!わたあめが本当に爆発したああ〜!」屋台のおじさんが慌てている。

でも煙が晴れると、わたあめは無事だった。

それどころか、なぜか空中に浮かんでクルクルと回っている。


「飛んでる〜!」

「わたあめが踊ってる〜!」


子供たちが大喜びで手を叩いている。

空中に浮かぶわたあめは、まるで雲の妖精のように優雅に舞い踊っていた。


「ふみゅみゅ〜!」ふわりちゃんも興奮して、小さな翼をばたつかせながら浮かぶわたあめを追いかけようとしている。


「この状況、何だか既視感があるのですが…」カタリナが呆れたような顔をしている。


確かに、いつもの私の実験みたいな展開だ。

予想外の爆発、色とりどりの煙、そして妙にメルヘンチックな結果…。


「もしかして、ルナさんが何か…」

「違うわよ〜!今日は何の実験もしてないもの!」


でも心の中では、昨日屋敷で作った『夏祭り気分向上薬』のことを思い出していた。

あれを作っている時に少し多めに材料を使いすぎて、余った薬液を庭に撒いたんだった。

それが地下水を通じて王都全体に…?


「あ〜、『虹色かき氷』も変なことになってる」


『虹色かき氷』の屋台では、かき氷が本当に虹色の光を放ちながら、まるでオーロラのようにゆらゆらと揺れている。

食べた人たちは「美味しい〜」「まるで虹を食べてるみたい〜」と大喜びだ。


「『時間加速焼きそば』は?」


見に行くと、そこでは焼きそばが超高速で調理されていた

。麺が空中で踊るように炒められ、野菜が瞬間的にシャキシャキになって、ソースが美しい弧を描いて混ざっていく。


「うお〜!焼きそばが一人で作られてる〜!」屋台のお兄さんが驚いている。


10秒で完成した焼きそばは、普通の10倍美味しそうな香りがして、食べた人は「これまで食べた焼きそばの中で一番美味しい〜」と絶賛していた。


そんな中、料理コンテストも最終段階に入っていた。


「残り10分じゃ〜!」バルナード侯爵の声に、参加者たちが慌てて最後の仕上げに入る。

でもこの時点で、もうコンテストどころの騒ぎではなくなっていた。


エリオットの『温度逆転スープ』は、熱くなりすぎて調理台の周りに小さな砂漠ができている。


八百屋のおばさんの『踊る夏野菜サラダ』は、野菜が本当に踊り始めて、観客席まで出て行って人々と一緒にダンスをしている。


お菓子屋の女性の『涼風ケーキ』に至っては、竜巻が成長して会場全体に涼しい風を送る天然のエアコンになっていた。


「も、もうコンテストも何もあったもんじゃないですわね…」カタリナが苦笑いしている。

「でもみんな楽しそうよ」


確かに、予想外の展開だらけだったけれど、観客たちはみんな大喜びだった。

子供たちは空飛ぶわたあめと遊び、大人たちは踊る野菜と一緒にダンスを楽しんでいる。


「素晴らしい〜!」バルナード侯爵が感動で涙ぐんでいる。「これこそワシの求めていた『ひっくり返った祭り』じゃ〜!今年は全員優勝じゃ〜!」


そして料理コンテストのクライマックスは、全ての料理が合体した時だった。


空飛ぶわたあめ、踊る野菜、オーロラかき氷、超高速焼きそば、砂漠を作るスープ、竜巻ケーキ、そして巨大メロンパンスライム。

これらが全部一か所に集まった瞬間、大きな光と共に…


ピカーッ!


「うわあああ〜!」


光が収まると、広場の中央に巨大な『夏祭り料理遊園地』ができていた。


わたあめで作られたメリーゴーランド、野菜のジェットコースター、かき氷の観覧車、焼きそばの滑り台。

そして中央には、メロンパンスライムの巨大トランポリンがあった。


「これは…もう料理なのか遊園地なのか…」エリオットが呆然としている。

「でも楽しそう〜!」


子供たちが真っ先に『料理遊園地』に駆け込んで行く。

大人たちも後に続いた。


「お嬢様」セレーナが呆れたような顔で私を見ている。「まさか本当に何も…」

「本当よ〜。今回は本当に何もしてないもの」


嘘ではない。今日は確かに何の実験もしていない。

ただ、昨日の『夏祭り気分向上薬』が予想以上の効果を発揮したのかもしれない。


「ふみゅ〜♪」ふわりちゃんがメロンパントランポリンに興味深そうに見つめている。


「行ってみる?」

「ふみゅ!」


こうして、王都夏祭りは前代未聞の『料理遊園地祭り』となった。


わたあめメリーゴーランドは本当に甘い香りがして、乗っているだけでお腹がいっぱいになる。

野菜ジェットコースターはシャキシャキと音を立てながら爽快に駆け抜けて、健康になった気分になる。

かき氷観覧車は頂上で本当にオーロラが見えて、みんな「綺麗〜」と歓声を上げていた。


「これは来年も期待できそうですわね」カタリナがメロンパントランポリンでぽんぽん跳ねながら言った。

「そうね。でも来年はもう少し普通の祭りがいいかも」


「お嬢様の『普通』ほど信用ならないものはございませんが」セレーナが定番のツッコミを入れながら、焼きそば滑り台を楽しそうに滑っていた。


「ピューイ〜♪」ハーブも小さな野菜の乗り物に乗って、とても楽しそうだった。


夜遅くまで続いた『料理遊園地祭り』。

最後には全ての料理が元の美味しい状態に戻って、みんなで美味しくいただいた。


翌日には王都に突如現れた料理遊園地」は王国中の話題となり、バルナード侯爵は「来年はもっと予測不能な祭りを!」と意気込んでいるという噂が流れたのだった。


そして私は、次の実験では『普通の薬』を作ろうと心に誓ったのだけれど…それが守られる可能性は、限りなく低そうだった。

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