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第42話 ふわもこ天使と爆発報告会

「それでは、グリムウッド教授に報告に参りましょう」


カタリナの提案で、私たちは学院へ向かうことになった。

肩に乗ったふわりちゃんが、道中ずっときょろきょろと辺りを見回している。


「ふみゅみゅ〜」


外の世界が珍しいのか、蝶々を見つけては嬉しそうに羽ばたく。その度にみんながにやけてしまう。


「もう完全に我々の戦力は削がれたな」

エドガーが諦めたように呟く。


「ふわりちゃんがいると、悪いことする気持ちが全く起きないのよ」

リリィも完全にメロメロ状態だ。


学院の正門をくぐると、すれ違う生徒たちがみんなふわりちゃんに釘付けになる。


「きゃー!なにあの可愛い子!」

「天使?妖精?」

「触らせて〜!」


あっという間にふわりちゃんを囲む人だかりができてしまった。


「ふみゅ〜?」

ふわりちゃんが困ったように私を見上げる。


「大丈夫よ。みんなあなたが可愛くて仕方ないの」

私がそっと頭を撫でると、ふわりちゃんは安心したように私の髪の中に潜り込んだ。

黒髪に白いふわふわが混じって、まるで雪が降ったみたい。


「あらあら、大変な騒ぎですわね」

カタリナが苦笑いしながら人だかりをかき分けてくれる。


なんとか教授の研究室に到着すると—


「お疲れ様でした!調査はいかがでし—きゃああああ!」


グリムウッド教授が振り返った瞬間、ふわりちゃんと目が合って黄色い声をあげた。


「せ、先生…?」

私が困惑していると、教授は既にふわりちゃんの前で正座している。


「なんという可愛さ…これが封印されていた存在か」

「ふみゅ?」


ふわりちゃんが首を傾げると、教授の目がハートマークになった。完全にやられている。


「先生、報告をお聞きください」

カタリナが咳払いして教授を現実に戻す。


「あ、ああ、そうでした。それで調査の結果は?」


私たちが順番に報告していく中、ふわりちゃんは私の肩でのんびりと羽繕いをしていた。その仕草がまた可愛くて、教授の話を聞く集中力がどんどん削がれていく。


「つまり、『平和の化身』だったということですね」


教授がメモを取りながらまとめる。


「危険な封印ではなく、保護の結界。そして成長のタイミングで外の世界を求めた、と」

「はい。ライトダンジョンの異変も解決しました」


『そうなんだヨ〜!』

スライムキングも一緒についてきていて、今は教授の机の上でぽわぽわ光っている。


「それにしても」教授が眼鏡を光らせる。

「ルナさんの『万能解錠薬』が効いたということは、君の錬金術に何か特別な力があるのかもしれませんね」


「特別な力?」

「古代の封印に反応するということは—」


その時、研究室のドアがバタンと開いた。


「緊急事態です〜!」


セレーナが慌てて飛び込んできた。


「お嬢様!お屋敷で大変なことが!」

「え?何があったの?」


「お嬢様が留守の間に、ハーブが実験道具をいじって…」

「ピューイ!」


ハーブが申し訳なさそうに鳴く。


「それで?」

「錬金釜が…」


セレーナが言いかけた瞬間—


—ドオオオオン!


遠くから爆発音が聞こえた。お屋敷の方角から虹色の煙が立ち上っている。


「あああああ!」


私が頭を抱えていると、ふわりちゃんがくすくすと笑った。


「ふみゅみゅ〜」

まるで「いつものことね〜」と言ってるみたい。


「ふわりちゃん、あなたこれから私たちと一緒だと、こういうことが日常茶飯事よ?」

「ふみゅ!」


嬉しそうに頷くふわりちゃん。どうやら爆発も含めて気に入ってくれたみたい。


「それでは急いで戻りましょう」

カタリナが立ち上がる。


「教授、報告書は後日提出いたします」

「あ、ちょっと待ってください」

教授が慌てて立ち上がる。


「ふわりちゃんの研究も兼ねて、私も同行していいですか?」

完全にふわりちゃん目当てだった。


「構いませんが…爆発に巻き込まれるかもしれませんよ」

「むしろ望むところです!」

教授の目が輝いている。研究者魂に火がついたみたい。



お屋敷に到着すると、案の定大騒ぎだった。


「お嬢様〜!おかえりなさい〜!」

マリアが泣きながら迎えてくれる。


「実験室が虹色になっちゃいました〜!」

「ピューイ〜」


ハーブも反省した様子で鳴いている。


実験室を覗くと、確かに壁も床も天井も虹色に染まっている。キラキラしていて、ある意味綺麗。


「これは…『七色変化薬』の反応ですわね」

カタリナが分析する。


「ハーブったら、勝手に材料を混ぜちゃったのね」

私がハーブを抱き上げると、申し訳なさそうに私の頬を舐めた。


「まあ、怪我がなかったなら良いけど」


その時、ふわりちゃんが私の肩から飛び立って、虹色の実験室の中をくるくる舞い始めた。


「ふみゅみゅ〜♪」

虹色の光に照らされて、ふわりちゃんがまるでプリズムのようにキラキラ光る。


「うわあ、綺麗…」

みんながうっとりと見とれていると—


—ぽわわわわん


ふわりちゃんの周りから優しい光の粒が舞い散って、虹色に染まった実験室がみるみる元通りになっていく。


「すごい!浄化魔法?」

教授が興奮している。


「いえ、これは『古代の神聖な力』ですわね」

カタリナが感動したように呟く。


「あらゆるものを本来あるべき姿に戻す、古代の神聖な力。書物で読んだことがありますわ」

「ふみゅ〜」


ふわりちゃんが私の肩に戻ってきて、疲れたように小さくあくびをする。


「ありがとう、ふわりちゃん。おかげで片付けの手間が省けたわ」

私がお礼を言うと、嬉しそうに頬をすり寄せてくれた。


「承知いたしました」

ハロルドが深々とお辞儀をする。


「以後、ふわり様にも最高級のおもてなしをご用意いたします」

「様って…」


私が苦笑いしていると、ハロルドが真剣な顔で続ける。


「これほど神々しい御方を粗雑にお扱いするわけにはいきません」

「ふみゅ?」


ふわりちゃんが首を傾げているが、ハロルドの決意は固そうだ。


「それにしても」

グリムウッド教授が興奮気味に言う。

「ルナさんのお屋敷は本当に飽きませんね。爆発あり、可愛い天使あり…」


「天使の力で片付けも楽になりそうですし」

セレーナも嬉しそうに微笑む。


「でも」私が心配そうに呟く。

「ふわりちゃんに頼りっぱなしじゃダメよね。私も爆発しないよう気をつけないと」


「ふみゅみゅ〜」

ふわりちゃんが首を振って、私の頬をぺたぺた触る。

まるで「爆発も含めてルナちゃんでしょ?」と言ってるみたい。


「もしかして、程よい爆発は許可してくれるの?」

「ふみゅ!」

嬉しそうに頷くふわりちゃん。なんて優しい子なんでしょう。


「よし、それじゃあお疲れ様の意味も込めて、みんなでお茶会にしましょう」

「賛成ですわ」

カタリナが手を叩く。


「ふわりちゃんの歓迎会も兼ねて」

お茶会の準備中、ふわりちゃんは興味深そうにお屋敷の中を探検していた。

マリアが用意したミニサイズのティーカップに目をキラキラさせて、小さな前足で持とうと頑張っている姿がまた可愛い。


「ふみゅ〜」


カップが重すぎて、ふわりちゃんがよろけてしまう。


「大丈夫?」

私が支えてあげると、恥ずかしそうに頬を赤らめた。


こうして、ライトダンジョンの調査は無事終了し、素敵な新しい仲間も増えた。

爆発もあったけど、ふわりちゃんがいれば後始末も楽になりそう。


これからどんなことが待っているのか分からないけれど、きっと今まで以上に楽しい日々になりそう。

程よい爆発と、ふわもこ天使と、素敵な仲間たちと一緒に。


「ふみゅみゅ〜」


ふわりちゃんが私の膝の上で丸くなって、安心したように眠り始めた。

その寝顔を見ていると、今日という特別な日を大切にしたいと思った。


明日はどんな何をしようかしら。きっと、ふわりちゃんも興味を持ってくれるはず。

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