表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/213

第40話 封印調査とふわもこの予感

翌朝、調査開始の日。私は張り切って早起きし、錬金術道具を詰め込んだ鞄を背負ってライトダンジョンに向かった。


「おはよう、ルナ!」

エドガーが決めポーズで登場する。朝から全開だ。

「今日は俺が守るぜ!右手が——」


「朝からうるさいのよ!」

リリィがエドガーの頭をぺちんと叩いた。


「ふむ、古代封印の調査か。楽しみだな」

マーリンが髭をしごきながらにやりと笑う。なぜかとても楽しそう。


「…また何か起こりそうで不安だわ」

ミラが早くも疲れた顔をしている。


「皆さん、おはようございます」

カタリナとエリオットも合流し、いよいよ本格的な調査団が結成された。


ライトダンジョンに入ると、昨日よりもさらにスライムたちがしょんぼりしている。

まるで雨に濡れた子犬のよう。


『ルナちゃん〜、おはよう〜』

スライムキングも相変わらず光が弱々しい。


「みんなに活力回復薬を配りましょう」

私が薬を取り出すと、スライムたちが嬉しそうにぽよぽよと集まってきた。

一滴ずつ垂らしてあげると——


——ピカピカキラキラ!


「わあい〜!」

「元気になったよ〜!」


スライムたちが光を取り戻して跳ね回る。その様子を見ていたエドガーが感動している。


「すげぇな!薬一つでこんなに変わるなんて」

「ルナさんの錬金術は本当にすごいですわね」


カタリナが微笑む。


さて、問題の封印扉の前に到着。

昨日よりも魔力の漏れが強くなっているような気がする。


「うーん、確実に封印が弱くなってるな」

マーリンが杖で扉を指しながら分析する。


「でも不思議ですわね」

カタリナが首を傾げる。


「危険なものが封印されているなら、もっと禍々しい魔力が漏れそうなものですけど…」

「そうなのよ!なんだか…ふわふわした感じがするの」


私の言葉に、みんなが振り返る。


「ふわふわ?」

エリオットが聞き返す。


「えーっと…危険というより、何かがむずむずしてるような?」


「むずむず…」

リリィが困惑顔で扉を見つめる。


「ルナちゃんの直感って、意外と当たるのよね」

ミラが呟いた。


「よし!それじゃあ魔法陣の詳細を調べてみよう」


マーリンが本格的に調査を始める。古代文字を一つ一つ指でなぞりながら解読していく。


「ふむふむ…『光を愛するもの』…『希望の象徴』…『純粋なる心』…」

「あら、全然危険そうじゃないですわね」


カタリナが安心したような顔をする。


「でも『封印』されてるってことは、何か理由があるはずよね」


私が扉に近づいて魔法陣をよく見ると、中央部分に小さな穴があることに気づいた。


「あ、これって…鍵穴?」

「鍵穴だと?」


マーリンが飛んできて確認する。

「本当だ!これは封印じゃなくて『保護の扉』だな」


「保護?」

「危険なものを閉じ込めるんじゃなくて、大切なものを守るための扉だ」


マーリンの解説に、みんなが「なるほど」と頷く。


「それで鍵は?」

エドガーがそう聞いた時、私はふと思い出した。


「そういえば…」

鞄をがさごそ探って、例の『万能解錠薬』を取り出す。

前に作った時は普通の鍵しか開けられなかったけど…


「もしかして、これで開くかもしれません」


「おお!ルナの錬金術の出番ね!」

リリィが興味深そうに見つめる。


私は慎重に『万能解錠薬』を鍵穴に一滴垂らした。すると——


——シュウウウウ…


薬が鍵穴の中でシャボン玉のように泡立ち始める。

「わあ、綺麗…」


泡がキラキラと光りながら魔法陣全体に広がっていく。まるで扉全体を優しく洗っているよう。


「これは…浄化の反応ですわね」

カタリナが目を丸くする。


「封印が汚れか何かで詰まってたのかしら?」


——カチャリ


鍵穴から小さな音がして、魔法陣がゆっくりと光を弱めていく。


「開いた…?」


その瞬間——

——ふわあああああ


扉の隙間から、とても暖かくて優しい風が流れ出してきた。

花畑にいるような甘い香りも一緒に。


「この香り…」


私が風を嗅いだ瞬間、なぜだか涙がちょっと出そうになった。

すごく懐かしくて、安心できる匂い。


「なんだか…お母様のお膝の上にいるような感じですわね」

カタリナも目を細めている。


「俺も何だかほっこりする…」

エドガーまでが優しい表情になっている。


扉がゆっくりと開き始めると、中から柔らかな光が漏れてきた。

危険な感じは全くしない。むしろ、すごく安全で暖かい場所みたい。


「中に何があるんだろう?」

私がそっと覗き込もうとした時——


——ピューイ!


いつの間にかハーブが私の肩に飛び乗って、扉の向こうを指差して鳴いた。

まるで「早く中を見てみて!」と言ってるみたい。


『ルナちゃん〜、この香り知ってる〜』

スライムキングも嬉しそうにぽわぽわ光っている。


『昔々、ずっと昔に嗅いだことがあるような〜』

「昔?スライムキングってそんなに長生きなの?」

『よく分からないけど〜、でもこの香り好き〜』


扉の向こうから聞こえてくるのは、水のせせらぎのような音と、時々混じる小さな鳴き声のような音。


「何か生き物がいるのかしら?」


私の質問に、マーリンが髭をひねった。


「古代の記録では『光の使い』とか『癒しの化身』とか書いてあるが…」

「化身って、人の形をしてるってことですか?」


エリオットが質問する。


「いや、そうとは限らない。古代語では『愛らしき姿』という表現もある」

愛らしき姿…まさか。


「もしかして…ものすごくかわいい何かが封印されてるのかしら?」

私の推理に、みんながざわめいた。


「か、かわいいもの?」

「それで『保護の扉』なのかもしれませんわね」


カタリナが手を叩く。


「危険だから封印したんじゃなくて、大切だから守ってた…」


「うわあ、それって超気になる!」

リリィが目をキラキラさせている。


「よし、中に入ってみよう!」

エドガーが勇ましく先頭に立とうとしたが——


「待って!」

私が慌てて止める。


「もしかしたら、すごく繊細で臆病な子かもしれない。大人数で入ったらびっくりしちゃうかも」

「それもそうですわね」


カタリナが頷く。


「まずはルナちゃんだけで様子を見てみる?」

「そうしましょう。私、動物や魔物とお話しできるし」


みんなが心配そうな顔をしたけど、私は大丈夫だと思う。

この優しい香りや暖かい風からして、きっと危険なものじゃない。


むしろ、すごくかわいくて愛らしい何かが、長い間一人ぼっちで寂しく過ごしてたんじゃないかしら。

そう思うと、一刻も早く会いに行きたくなった。


「それじゃあ、行ってきます」


私は扉の向こうへ足を向けた。

いったい、どんなかわいい子が待っているのだろう。想像しただけでワクワクが止まらない

きっと、ライトダンジョンの光が弱くなったのも、この子が寂しがってるからなのかもしれない。

だとしたら、私が友達になってあげなくちゃ。


扉の向こうから、ますます甘くて懐かしい香りが漂ってくる。

そして、とても小さな、まるで赤ちゃんの寝息のような音も聞こえてきた。


「待ってて、すぐに会いに行くから」


私は勇気を出して、光の向こうへと歩き始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ