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第39話 謎の封印扉と騒がしい調査団

いつもなら虹色に輝いているライトダンジョンの入口が、今日はなんだか元気がない。

まるで風邪を引いた蛍のように、光がぽわぽわと弱々しく点滅している。


「本当に光が弱くなっていますわね」


カタリナが心配そうに眉を寄せた。


「スライムキング〜?」


私が呼びかけると、いつもより二回りは小さくなった光の玉がふらふらと現れた。

まるで電池切れのおもちゃみたい。


『ルナちゃん〜、来てくれたんだネ〜』

声もどこか掠れている。これは確実におかしい。


「大丈夫?いつもより光が弱いわよ」

『それが問題なんだヨ〜。奥で見てもらいたいものがあるんだ〜』


スライムキングに案内されて奥に進むと、通路にいるスライムたちがまるでしおれた花のようにぐったりしている。普段なら「ぽよぽよ〜」と元気に跳ね回っているのに、今日はみんなぺしゃんこだ。


「みんな元気がないのね」

『そうなんだヨ〜。最近急にこうなっちゃって〜』


私は鞄から『活力回復薬』を取り出して、弱っているスライムたちに一滴ずつ垂らしてあげた。

薬を垂らした瞬間——


——ピカピカピカ!


薬が効いて、スライムたちが少しずつ光を取り戻していく。

まるで充電完了のランプみたい。


『わあ〜!元気になった〜!』

『ありがとう、ルナちゃん〜!』


小さなスライムたちが嬉しそうにぽよぽよ跳ね回った。


「よかった。でも根本的な原因を解決しないと」


スライムキングがさらに奥へ案内してくれる。


『実は、この間の地震の後に、見たことない扉が現れたんだヨ〜』

「扉?」


通路の突き当りに、これまで見たことのない重厚な石の扉がどーんと立っていた

。扉全体に複雑な魔法陣が刻まれ、不気味に光っている。なんだか古代遺跡のボス部屋の入り口みたい。


「これは…古代の封印魔法ですわね」


カタリナが扉を調べながら顔をしかめる。


「でも、封印が少しずつ弱くなっているようです」


「封印が弱くなると何が起こるの?」

『分からないけど、この扉が現れてから、ダンジョンの光がどんどん吸い取られてるんだヨ〜』


私が好奇心で扉に近づこうとした瞬間——


——ゴゴゴゴゴ!


扉から不穏な魔力が漏れ出した。思わず後ずさりしたら、足がもつれてしまう。


「あ、あわわ!」


「危険ですわ!下がって」


カタリナが私の手を引いて距離を取る。


「これは…私たちだけでは対処できそうにないわね」

「スライムキング、みんなでここから離れた方がいいわ」


『そうするヨ〜。でもこの扉、どうすればいいの〜?』

「学院の先生に相談してみるわ。きっと解決策が見つかる」


私たちは残りの『活力回復薬』をスライムたちに配ってから、急いでライトダンジョンを後にした。



翌日の朝、まだパジャマで朝食を食べていたら、学院から緊急呼び出しの魔法通信が届いた。


「お嬢様、グリムウッド教授から緊急連絡です!」

セレーナが慌てて駆け込んでくる。


「すぐに学院に来るようにとのことです」


私は大急ぎで支度をして、学院へ向かった。

カタリナとエリオットも同じように呼び出されたらしく、校門で合流する。


「何事でしょうね?」


エリオットが首を傾げる。


「昨日の報告について、何か分かったのかもしれませんわね」


「失礼します!」


教授の部屋に駆け込むと、グリムウッド教授が大量の古書に囲まれて座っていた。

机の上には羊皮紙や古い地図が散乱している。


「ルナさん、カタリナさん、エリオットさん。昨日の報告を受けて、一晩中調べていたのですが…」


教授が分厚い魔導書を指差す。


「その封印扉の描写からすると、古代王朝時代の『深層封印』の可能性が高いです」

「深層封印?」


「非常に危険…いや、正確には『非常に重要』な存在を封じ込めるための、最高位の封印魔法です」


教授が古い挿絵を見せてくれる。そこには今朝見た扉とそっくりな絵が描かれていた。


「ここに記録があります。『深層封印が破られし時、光が失われ、大地に変化もたらさん』…まさにライトダンジョンの異変と一致する」


「変化って、悪いことなんですか?」


エリオットが質問すると、教授が首を振った。

「それが分からないのです。古代の記録は曖昧でしてね」


その時、研究室のドアがコンコンと鳴った。


「失礼いたします」


グランヴィル侯爵が現れた。

いつもの威厳ある雰囲気で部屋が一気に引き締まる。


「ルナ・アルケミ、昨日の報告を受けて検討した結果…」


侯爵が私を見据える。


「この件を正式な調査任務とすることに決定した」

「え?」


「ただし」侯爵が手を上げる。

「君たちだけでは危険すぎる。冒険者の護衛をつけることにした」


教授が書類を取り出した。


「実は、優秀な冒険者パーティに既に連絡済みなのだ」

「どんな人たちですか?」


私が聞いた瞬間、研究室のドアがバーン!と勢いよく開いた。


「呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃーん!」

「目立つチャンス到来ね!」

「ふむ、古代魔法とな」

「…また面倒なことに巻き込まれた」


エドガー、リリィ、マーリン、ミラの四人が登場した。

エドガーは相変わらず決めポーズ。


「俺たちが護衛だ!勇者エドガーと愉快な仲間たちだぜ!」

「愉快な仲間って何よ!」


リリィがツッコミを入れる。


「お久しぶりですね、皆さん」


私が丁寧に挨拶すると、マーリンが髭を撫でた。


「ルナちゃんか~。今度は爆発しないようにな」

「あの、それは…気を付けます……」


侯爵が地図を広げる。

「まず、作戦の概要を説明しよう」


教授が魔法で地図にライトダンジョンの構造を浮かび上がらせる。

「第一段階:封印扉の詳細な魔法陣解析」

「第二段階:封印の安全な解除方法の検討」

「第三段階:必要に応じて再封印の実施」


エドガーが拳を握る。

「俺は前衛で守るぜ!右手が疼いてきた!」


「私は隠密偵察を担当するわ。暗殺者の出番ね!」

リリィが短剣をくるくる回す。


「古代魔法の知識なら任せておけ。本当だぞ?」

マーリンが自信満々に言うが、なぜか疑問符がつく。


「…怪我人が出ないことを祈るわ」

ミラが不安そうに呟いた。


カタリナが口を開く。

「でも、封印されているのが本当に危険なものなのでしょうか?」


「それが一番の謎だな」

侯爵が顎に手を当てる。


「古代の記録では『大切なもの』とも書かれている。危険なのか、貴重なのか…」


私が手を上げる。


「もしかして、封印されているのはとても大事なものを守るためだったりして?」

「ほう、どういうことだ?」

「だって、『光を失い』って書いてあるけど、『闇が訪れる』とは書いてないでしょう?」


教授が目を丸くする。

「確かに…『変化をもたらす』という表現も、必ずしも悪いことを意味しませんね」



「それでは、明日から正式な調査を開始する」


侯爵が宣言すると、みんなの表情が引き締まった。


「ルナ君、君の錬金術が鍵になるかもしれない。ただし…」


侯爵の視線が鋭くなる。


「慎重に行動せよ」

「はい!でも…」


私がもじもじしていると、カタリナが小さく笑った。


「程よい爆発は残しておくんですしたわね?」


「そ、そういうわけじゃ…」


「いいじゃないか」

マーリンが髭をしごく。

「爆発も時には解決策になるものだ。多分」


「多分って何よ!」

リリィのツッコミに、みんなが笑った。


研究室の窓から見えるライトダンジョンの方向は、確かにいつもより薄暗い。

でも、なんだかワクワクする気持ちの方が大きかった。


封印された存在が危険なものなのか、それとも大切なものなのか。

明日からの調査で、きっと答えが見つかるはず。


そして今度こそ、適度な爆発で謎を解いてみせる。それが私、ルナ・アルケミの錬金術なのだから。


「みんな、頑張りましょうね!」


私の言葉に、調査団全員が「おー!」と気合の声を上げた。明日からの調査が、とても楽しみになってきた。

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