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第37話 虹色メイドの一日

「セレーナ、今日は特別にあなた一人で錬金術に挑戦してもらうわ」


朝の実験室で、私はセレーナに向かって言った。

虹色の髪が朝日を受けてキラキラと輝いている。


「えっ、私が一人で錬金術を?」


セレーナが驚いたような顔をする。

これまでずっと私の補助をしてくれていたけれど、セレーナも錬金術の基礎をすっかりマスターしたし、そろそろ独り立ちしてもらう時期だと思ったのだ。


「ええ。もうあなたは立派な錬金術師よ。私は見ているだけで、口出しはしないから」

「分かりました!頑張ります」


セレーナが目を輝かせて答えてくれた。でも、少し不安そうでもある。


——第一の実験・『万能洗浄薬』——


「今日最初の実験は『万能洗浄薬』よ。どんな汚れでも落とせる薬を作ってみて」

私は材料を指差しながら、セレーナに任せることにした。


「洗浄薬ですね。えーと、『泡立ち草のエキス』と『油分解酵素』と『汚れ分離剤』でしたね」

セレーナが教わったことを思い出しながら材料を手に取る。私は口を挟みたくなったけれど、グッと我慢した。


「まず『泡立ち草のエキス』を10滴…」

「その通りよ」


セレーナが慎重に薬を垂らしていく。1滴、2滴、3滴…

「あれ?なんだか緊張して手が震えて…」


「落ち着いて、大丈夫よ」


——ドボドボドボ

緊張したセレーナの手がぶれて、一気に大量のエキスが投入されてしまった。


——ブクブクブクブク


薬が猛烈に泡立ち始めた。まるで洗濯機の中のようだ。


「きゃあ!泡が止まりません!」

「大丈夫、『泡安定剤』を加えてみて」

私は見守りながらアドバイスするに留めた。


——ポンッ!


でも泡安定剤を加えた瞬間、小爆発が起こって泡が一気に実験室中に飛び散った。


「わああああ!」

二人とも泡まみれになってしまった。


「ま、まあ、これも経験よ。続けましょう」

泡を拭きながら実験を続ける。


「今度は『油分解酵素』を慎重に…」

「分かりました!今度は絶対に間違えません」


セレーナが集中して薬を垂らそうとした時——


「ピューイ!」

突然ハーブが足元を走り抜けた。


「きゃっ!」

驚いたセレーナがよろけて、『油分解酵素』の瓶を投げ上げてしまった。


——パリィィィン


瓶が天井に当たって割れ、中身が雨のように降ってきた。


——シュワシュワシュワ


床に落ちた酵素が泡と反応して、虹色の煙を上げ始めた。


「お嬢様、床が溶けてます!」

「大丈夫、『中和剤』で…」


——バンッ!


中和剤を撒いた瞬間、また爆発が起こった。今度は床が妙にピカピカに光っている。


「あら、床がすごく綺麗になってるわ」

確かに、爆発の影響で実験室の床がこれまでにないほどピカピカになっていた。

「洗浄薬として…成功?」


——第二の実験・『記憶定着薬』——


「気を取り直して、次は『記憶定着薬』を作ってみて」

泡と煙を換気扇で追い出しながら、セレーナが次の実験に取りかかる。


私は黙って見守ることにした。


「記憶を良くする薬ですね。えーと、材料は『記憶草のエキス』『集中力向上剤』『脳活性化薬』でした」

セレーナが一人で材料を確認している。成長したものね。


「今度こそ慎重に…『記憶草のエキス』を5滴」

セレーナが息を止めて、一滴ずつ丁寧に垂らしていく。

「1…2…3…4…5!完璧です」


私は口を挟みたくなったけれど、セレーナの集中を邪魔しないよう我慢した。


「次は『集中力向上剤』を…」

セレーナが一人で次の工程に進もうとする。


「はい!」

セレーナが瓶を取ろうとした時、虹色の髪が瓶に引っかかってしまった。


「あれ?髪が…」


——ガシャーン!


瓶が倒れて中身がこぼれ出した。


——キラキラキラ


こぼれた薬が光りながら蒸発していく。そして変な匂いが立ち込めてきた。


「セレーナ、息を止めて!」

つい口を出してしまったけれど、遅かった。セレーナが薬の蒸気を吸い込んでしまった。


「あれ?なんだか頭がすっきりして…昨日読んだ錬金術の本の内容が全部思い出せます」

私も少し蒸気を吸い込んだけれど、セレーナほどではない。


——ポンポンポン


薬が連続小爆発を起こしながら、青い光を放っている。


「これは『脳活性化薬』を加える前に記憶草が暴走してしまったのね」

「でも、効果は確実にありますね。頭の回転が早くなった気がします」


セレーナが前向きに受け取ってくれて安心した。


——第三の実験・『万能接着剤』——


「最後の実験は『万能接着剤』よ。何でもくっつけられる薬を一人で作ってみて」


頭がすっきりしたおかげで、セレーナの手つきが格段に良くなっていた。私は後ろで見守るだけ。


「『粘着樹液』と『硬化促進剤』と『永続性向上薬』ですね」

「その通りよ。でも今度は私に頼らず、一人でやってみて」


セレーナが慎重に材料を混ぜ始める。記憶定着薬の副作用で集中力が向上しているようだ。


——ドロドロドロ


薬が粘り気のある液体になっていく。


「いい感じね。今度は『硬化促進剤』を…」

「はい!」


セレーナが薬を加えようとした時、スプーンが手にくっついてしまった。


「あれ?スプーンが取れません」

「あら、接着剤が手についちゃったのね」


——グイグイグイ


セレーナが必死にスプーンを取ろうとするが、びくともしない。


「お嬢様、助けてください」

「ちょっと待って…『剥離剤』を…」

私が剥離剤を取りに行こうとした時——


——ペタッ


私の足が床にくっついてしまった。さっきこぼれた接着剤が残っていたのだ。


「あら、私も動けないわ」


——ポンッ!ポンッ!ポンッ!


接着剤が小爆発を連発しながら、どんどん粘り気を増していく。


「このままじゃ実験室から出られません!」

「大丈夫よ、必ず解決策があるはず…」


「お嬢様、昼食のお時間ですが…」

ハロルドが実験室のドアを開けた瞬間、目を丸くした。

「これは一体…」


私は床にくっついて動けず、セレーナは手にスプーンがくっついたまま、実験室は泡と虹色の煙に満たされている状況だった。


「あの…ハロルド、『剥離剤』を取ってもらえる?」

「…承知いたしました」


ハロルドが深いため息をつきながら、剥離剤を持ってきてくれた。


——シュワシュワシュワ


剥離剤をかけると、ようやく私たちは自由になった。


「ありがとう、ハロルド。でも…」

ハロルドを見ると、顔が青ざめている。


「大丈夫?」

「…胃が痛いだけです」


「さて、今日の実験結果を確認しましょう」

午後になって、ようやく実験室が片付いた。


「一人でやった洗浄薬は床を綺麗にする効果がありました」

「記憶定着薬は集中力向上の副次効果が」

「接着剤は…強力すぎましたね」


セレーナが苦笑いしながら手をさする。まだ少しスプーンの跡がついている。


「でも、どれも一人で作り上げたのよ。これは立派な成果よ」

「本当ですか?」

「ええ。もうあなたは立派な錬金術師だわ」


「ハロルド、胃の調子はどう?」

夕食の時間、ハロルドがまだ青い顔をしているのが気になった。


「いえ、大丈夫です。ただ…」

「そうだ!今日作った薬を応用して『胃薬』を作りましょう。もちろん、セレーナが一人でよ」

「私一人で胃薬を…?」


ハロルドが慌てたような顔をする。


「大丈夫よ。セレーナならきっとできるわ」

「私、頑張ります!」


セレーナが意気込んでいる。


——胃薬の調合——


「『消化促進草』と『胃壁保護剤』と『痛み緩和薬』を使って、一人で作ってみて」


再び実験室に戻って、今度はセレーナが一人で胃薬作りに挑戦する。私は口を出さずに見守った。


「今度こそ慎重に…」

セレーナが材料を慎重に混ぜていく。午前中の経験を活かして、とても丁寧に作業している。


——キラキラキラ


薬が優しい緑色に光り始めた。


「いい色ね。今度は『胃壁保護剤』を…」

つい口を挟みそうになったけれど、グッと我慢した。


——シュワシュワシュワ


薬が泡立ち始めたが、今度は穏やかな泡だ。


「最後に『痛み緩和薬』を一滴だけ…」

セレーナが慎重に一滴だけ垂らすと——


——ポンッ


小さな爆発と共に、薬が美しいエメラルド色に変化した。

「成功よ!」


「ハロルド、どうぞ」

エメラルド色の胃薬をハロルドに差し出すと、彼は複雑な表情をしている。


「これは…安全でしょうか?」

「大丈夫よ。今度は爆発もしなかったし」


「…分かりました」

ハロルドが恐る恐る胃薬を一口飲んだ。


「あ…」

「どう?」

「…胃の痛みが引いています」


ハロルドの顔色が良くなってきた。


「やったわ!今度は副作用なしで成功ね」

「ありがとうございました、お嬢様」


「お疲れ様、セレーナ」

寝る前に、今日一日の実験について話していた。


「今日は一人で実験をして、爆発ばかりでしたが、とても勉強になりました」

「そうね。一人でやり遂げることで、本当の実力がつくのよ」

「明日からも一人で頑張ります」


セレーナの虹色の髪が、ろうそくの光でやわらかく輝いている。


「でも次回はもう少し慎重に行きましょうか」

「はい、それがよろしいかと…」


窓の外を見ると、ハロルドがまだ胃薬を持って歩いているのが見えた。用心深く少しずつ飲んでいるようだ。


「明日は何の実験をしましょうか?」

「『爆発防止薬』はどうかしら」

「それです!それをお願いします」


セレーナが真剣な顔で頷いた。もう彼女なら一人でも安全な実験ができそうだ。


でも、爆発も錬金術の醍醐味の一つ。きっと明日もまた、セレーナの一人実験で予想外の発見が待っているに違いない。

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