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第34話 模擬試験での珍事件

皆さん、来週は錬金術の模擬試験です」


モーガン先生が教室の前に立って告げた。王立魔法学院の中間試験前の重要な模擬試験だ。


「今回の課題は『小さな魔法薬』の調合です」


私は手を上げた。


「先生、『小さな魔法薬』とは具体的にはどのような?」

「物を小さくする薬ですね。材料は各自で選んでもらいますが、効果は『小さくする』こと。それ以上でもそれ以下でもありません」


教室がざわめく。クラスメートたちが不安そうに顔を見合わせている。


「試験時間は2時間。失敗は許されませんので、しっかり準備してくださいね」


——試験一週間前・自室での予習——


「『小さくする薬』…理論的には『縮小エッセンス』と『サイズ調整剤』の組み合わせね」

私は錬金術の教科書を読み返していた。


「お嬢様、順調に進んでいらっしゃいますね」

セレーナが紅茶を運んできた。虹色の髪が勉強の集中光に美しく輝いている。


「ええ、でも念のため事前実験をしておきましょう」


『縮小草のエキス』『小型化石の粉末』『コンパクト結晶』を用意する。基本的な材料は問題ない。

「まずは小さな実験から」


試しに花瓶の花に一滴垂らしてみると——


——ピカッ


花が光って、見る見るうちに小さくなった。手のひらサイズの可愛い花になっている。


「成功ね!」

「素晴らしいですね」


でもその時、花が急に元の大きさに戻った。


「あら?効果時間が短いのかしら」

「持続性強化剤が必要かもしれませんね」


——試験前日・最終調整——


「明日の試験に向けて、『完璧縮小薬』を完成させましょう」

私は実験室で最終調整を行っていた。

『高純度縮小エッセンス』『長時間持続剤』『効果安定化薬』を慎重に混ぜ合わせる。


——キラキラキラ


薬が青い光を放ちながら美しく輝いた。

「いい感じね」

でも安定性を高めるために、さらに『強化増幅剤』を加えることにした。


——ポンッ


小爆発と共に、薬が紫色に変化した。

「色が変わったけど、きっと問題ないでしょう」


試しに机の上の小物に垂らしてみると——


——シュワァァァ


小物が見事に小さくなった。そして今度は元に戻らない。


「完璧!これで試験は安心ね」


——試験当日・王立魔法学院実習室——


「それでは、模擬試験を開始します」


モーガン先生の合図で、24名の生徒が一斉に作業を始めた。

「時間は2時間。頑張ってください」


私も準備した材料を取り出す。昨日完成させた配合比率で調合すれば問題ないはず。

隣の席のトーマス君が緊張しながら『基本縮小薬』を作り始めている。

アリスも慎重に材料を計量している。


「落ち着いて、いつも通りにやりましょう」

『高純度縮小エッセンス』を慎重にビーカーに注ぐ。透明で美しい液体だ。


——30分経過——


周りの生徒たちも順調に進んでいるようだ。

トーマス君の薬は薄い青色になっている。アリスは緑色だ。


「私も次の段階に」


『長時間持続剤』を加えると——


——シュワシュワシュワ


薬が泡立ち始めた。昨日と同じ反応だ。


「順調ね」

でも何かが違う。昨日より泡が多い気がする。


「まあ、実習室の環境が違うのかしら」


——1時間経過——


「そろそろ効果安定化薬を…」

最後の材料を加えようとした時、手が滑って予定より多く入ってしまった。


「あっ…」


——ボコボコボコ


薬が激しく泡立ち始めた。昨日の実験とは明らかに違う反応だ。


「大丈夫かしら…」

でも今更やり直す時間はない。最後の『強化増幅剤』を加えることにした。


「少なめに入れれば…」


——ドンッ!


予想外の爆発が起こり、薬が虹色に光った。


「きゃあ!」


周りの生徒たちが振り返る。


「ルナさん、大丈夫ですか?」

アリスが心配そうに声をかけてくれた。


「え、ええ…大丈夫です」

でも薬の色が昨日とは全然違う。虹色に輝いて、時々キラキラと光っている。


「まあ、効果に問題なければ…」


——試験終了10分前——


「では、効果テストを行います」


モーガン先生が各席を回って、完成した薬をテストしていく。


「トーマス君、良好ですね」

トーマス君の薬で、机の上の小さな植物がさらに小さくなった。


「アリスさんも成功です」

アリスの薬も正常に機能している。


「ルナさん、お願いします」

私の番が来た。緊張しながら薬を手渡す。


「これは…色が独特ですね」

先生が虹色の薬を不思議そうに見ている。


「試験用の植物にかけてみましょう」

机の上の小さな観葉植物に薬を一滴垂らすと——


——ピカァァァッ!


強烈な光が実習室全体を照らした。


「うわあ!眩しい!」

生徒たちが目を覆う。


光が収まった時——


「あれ?植物が…」

観葉植物は小さくなるどころか、逆に巨大化していた。しかも今も成長を続けている。


「ルナさん、これは縮小薬ではなく…」


——ドカァァァン!


大爆発と共に、植物が爆発的に成長し始めた。


「きゃああああ!」

「逃げろ!」


実習室中の机や椅子を押しのけながら、植物がどんどん大きくなっていく。


——5分後——


「これは…植物園ですか?」


モーガン先生が呆然と呟いた。


実習室は完全に巨大な観葉植物に占領されていた。

緑の葉っぱが天井まで届き、太い幹が机を持ち上げ、枝が窓から外にまで伸びている。


「ルナさん…」

「すみません…『巨大化薬』になってしまったようで…」


生徒たちが植物の葉陰に隠れながら私を見ている。


「でも、これはこれで素晴らしい効果ですね」

「え?」


「『小さな魔法薬』の課題でしたが、逆方向に完璧に機能している。理論的には同じ原理なのです」

先生が感心している。

「つまり…合格ということですか?」

「もちろんです。むしろ、これほど劇的な効果を出せるのは天才の証拠でしょう」


——その後——


実習室を元に戻すために『縮小薬』を作り直すことになった。今度は正確な分量で調合する。

「みんな、今度こそ小さくするわよ」

『逆転効果薬』を調合して、巨大植物に散布すると——


——シュルシュルシュル


植物がみるみる縮んでいく。でも元のサイズより少し大きめで止まった。


「まあ、このくらいなら許容範囲でしょう」

結局、実習室には普通より少し大きな観葉植物が残った。


——帰り道——


「ルナさん、今日も凄かったですわね」

カタリナが苦笑いしながら声をかけてくれた。


「ごめんなさい、また迷惑をかけてしまって」

「いえいえ、むしろ『逆転の発想』として勉強になりました」


「逆転の発想?」

「小さくする薬を作ろうとして大きくする薬ができる。これも錬金術の面白さですわね」


エリオットも頷いている。


「確かに、理論的には同じベースですからね」

「ありがとう」


——夕方・自宅——


「お疲れ様でした、お嬢様」

セレーナが紅茶を運んできた。今日は一日中植物の香りに包まれていたせいか、少し疲れた様子だ。


「今日の試験も予想外の結果になったけれど…」

「でも、先生に褒めていただけて良かったですね」


「『小さくする』つもりが『大きくする』になってしまうなんて」

窓の外を見ると、学院の方向に少し大きめの緑が見える。あの植物はまだ実習室にいるのだろう。


「明日は『サイズ調整の精密理論』を勉強し直しましょう」

「それが良いと思います」


「ハーブ、今日もお疲れ様」

「ピューイ」


薬草ウサギが満足そうに鳴いた

。今日は巨大化した植物の葉っぱを少し分けてもらって、とても嬉しそうだ。

明日からはまた新しい実験が待っている。

今度はサイズをもっと正確にコントロールできるように頑張ろう。でも、それもまた錬金術師の楽しい日常だった。


——翌朝の学院新聞——


『模擬試験で奇跡の植物園が出現!ルナ・アルケミの『逆転錬金術』が話題』


という見出しが一面を飾り、私の実験が「創造的失敗の成功例」として大きく報道された。

多くの生徒が「逆転の発想」の重要性を学んだという教育的効果も評価されたとか。


私は「…今度こそ正確なサイズで作りたいです」と小さくつぶやいたとか。


——実習室のその後——


巨大化した観葉植物は結局そのまま実習室に残され、「ルナの記念樹」と呼ばれるようになった。

多くの生徒が「錬金術の可能性の象徴」として親しむようになり、学院の名物の一つになったという。

モーガン先生は「時々、予想外の結果こそが新しい発見につながる」と生徒たちに教える際の実例として活用しているそうだ。

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