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第30話 侯爵令嬢の肖像画と隣家の光と影の爆発

「お嬢様、本日は宮廷画家のモンマルトル先生がお見えになります」


朝、ジュリアがカタリナに告げた。今日は待望の肖像画制作の日だ。


「ええ、楽しみですわ。やっと私の肖像画を描いていただけるのですね」


カタリナは鏡の前で赤茶色の縦ロールを整えながら微笑んだ。今日のために特別に仕立てたブルーマリーンのドレスが、彼女の美しさを一層引き立てている。


「モンマルトル先生は王室専属の画家でいらっしゃいますから、きっと素晴らしい肖像画を描いてくださいます」

「そうですね。後世に残る美しい肖像画を期待しています」


——午前10時・ローゼン侯爵家応接間——


「お嬢様、モンマルトル先生がお着きになりました」


現れたのは、ベレー帽をかぶった上品な紳士だった。白い髭を蓄え、芸術家らしい雰囲気を漂わせている。


「ローゼン侯爵令嬢、カタリナ様ですね。噂に聞いた通りの美しいお嬢様だ」

「ありがとうございます。よろしくお願いいたします」


モンマルトル先生は準備を始めた。大きなキャンバス、絵の具、筆…すべてが最高級品だ。


「では、窓際のお椅子にお座りください。自然光で描かせていただきます」


カタリナは優雅に席に着いた。窓からの柔らかな光が彼女を包み、まるで天使のような美しさだ。


「素晴らしい。この光の具合が完璧ですね」


モンマルトル先生が満足そうに呟いた時——


——隣家のアルケミ伯爵家——


「今日は『光量調整薬』の実験をしましょう」


私は実験室で新しい薬の調合を始めていた。

これは部屋の明るさを自由に調整できる便利な薬で、夜でも昼のように明るくしたり、昼でも薄暗くしたりできる。


「お嬢様、光の実験は少し危険ではありませんか?」


セレーナが心配そうに虹色の髪を揺らした。今日は朝の光を受けて、特に美しく輝いている。


「大丈夫よ。ちゃんと計算してあるもの」


『輝き草のエキス』と『太陽石の粉末』と『光の結晶』を慎重に混ぜ合わせる。


——キラキラキラ


薬は美しい金色に光り始めた。まるで液体の太陽のようだ。


「いい感じね。今度は『光拡散剤』を加えて…」


——ローゼン侯爵家——


「では、制作を始めさせていただきます」


モンマルトル先生が筆を取った瞬間——


——ピカァァァッ!


隣家の窓から眩しい光が差し込んできた。


「まあ!何て明るい光でしょう!」


カタリナが目を細めた。

窓から入る光があまりにも強烈で、部屋全体が真昼の太陽のように照らされている。


「これは…まるで聖なる光のようですね」

モンマルトル先生が感嘆の声を上げた。


「お隣のルナ様の実験でしょうか」

ジュリアが苦笑いしながら窓の外を見ると、アルケミ伯爵家の実験室から虹色の光が漏れている。


——アルケミ伯爵家——


「あれ?光が強すぎるみたい」

『光拡散剤』を加えたら、薬の光度が予想以上に上がってしまった。


「お嬢様、窓から光が漏れてます」

「『光量抑制薬』を作らないと…」


慌てて抑制薬の材料を用意していると——


——ポンッ


小爆発と共に、光がさらに強くなった。


「うわっ!眩しい!」

実験室が白い光で満たされ、まるで雲の上にいるような状態になった。


——ローゼン侯爵家——


「この光…神々しいですね」


モンマルトル先生が興奮気味に筆を動かし始めた。

強烈な光がカタリナを後ろから照らし、まるで後光が差しているように見える。


「先生、普通の肖像画を…」

「いえいえ、これは運命です!この神秘的な光を活かした作品にいたしましょう!」


画家の芸術魂に火がついてしまった。


「でも、私は普通の肖像画が…」


カタリナの言葉も聞かず、モンマルトル先生は夢中で筆を走らせている。


——アルケミ伯爵家——


「『光量抑制薬』完成!」

やっと抑制薬ができたが、今度は色が紫色になってしまった。


「これで光を弱く…」

薬を光源にかけると——


——シュワァァァ


光が紫色に変化した。そして次の瞬間——


——ドカァァァン!


大爆発と共に、今度は虹色の光が部屋中に拡散した。


「きゃー!今度は虹色になってしまいました!」

セレーナが慌てふためく。


「『色彩中和薬』を…」

でも材料を取りに行こうとした瞬間——


——バンバンバン!


連続小爆発が起こり、光が赤、青、緑、黄色と次々に色を変え始めた。


「止まらない!」


——ローゼン侯爵家——


「おお!今度は虹色の光が!」


窓から差し込む光が虹色に変化し、カタリナの周りに幻想的な色彩効果を作り出している。


「まるで女神様のようです!」

ジュリアが感動している。


「先生、やはり普通の肖像画の方が…」

「これは芸術の奇跡です!神が与えた奇跡ですぞ!」


モンマルトル先生はもはや芸術の世界に入り込んでしまっている。筆の動きも激しく、まるで憑かれたように描き続けた。


——アルケミ伯爵家——


「『全色彩中和薬』で一気に解決しましょう」

私は最後の手段として、すべての色を打ち消す薬を調合した。


「お嬢様、今度こそ大丈夫でしょうか?」

「きっと大丈夫よ」


『全色彩中和薬』を光源に注ぐと——


——ゴゴゴゴゴ


部屋中の虹色の光がゆっくりと収束し始めた。


「やった!成功…」


でもその瞬間——


——ドッッッカァァァァン!!!


これまでで最大の爆発が起こり、今度は金色の光が爆発的に放射された。


「うわああああ!」

実験室が眩しい金色の光で包まれ、まるで太陽の中にいるようだった。


——ローゼン侯爵家——


「神々しい!実に神々しい!」


窓から差し込む金色の光が、カタリナを完全に後光の女神のように見せていた。


「これはもはや肖像画ではなく、宗教画ですわ…」

カタリナが諦めたように呟く。


「完成です!」

3時間後、モンマルトル先生がついに筆を置いた。


キャンバスに描かれていたのは…普通の肖像画では決してなかった。

カタリナが金色の後光に包まれ、虹色の光に囲まれて、まるで聖母マリアのような神々しい姿で描かれている。


「これは…確かに美しいですが…」

「芸術の傑作です!私の人生最高の作品となりました!」


モンマルトル先生が涙を流して感動している。


——夕方——


爆発も収まり、隣家からの光も通常に戻った頃。


「カタリナ、今日はごめんなさい。迷惑だったでしょう?」


私が謝罪に訪れると、カタリナが苦笑いで迎えてくれた。


「ルナさん、今日も賑やかな実験でしたのね」

「ごめんなさい。『光量調整薬』が暴走してしまって…」

「いえ、結果的には…」


カタリナが振り返ると、そこには神々しい後光付きの肖像画が飾られていた。


「確かに印象的な肖像画になりましたわね」

「でも、普通の肖像画が良かったのではないの?」

「……普通の肖像画が欲しかったのですけれど」


カタリナが小さくため息をついた。


「モンマルトル先生は大喜びでしたけれど」


確かに、画家は「この作品を王立美術館に展示したい!」と興奮して帰っていった。


「でも、これはこれで素敵だと思うわ。きっと後世まで語り継がれる名画になるもの」

「そう言っていただけると救われます」


ジュリアが紅茶を運んできた。


「お嬢様の肖像画、王都中の話題になりそうですね」

「『後光の令嬢』として有名になってしまいそうですが…」


カタリナが苦笑いする。


「今度普通の肖像画を描いていただく時は、事前に教えてね」

「もちろんです。今度は『光遮断薬』も用意しておきますわ」


——その夜——


「お疲れ様でした、お嬢様」

セレーナが疲れた様子で言った。虹色の髪が少し乱れている。


「今日の実験も予想外の結果になったけれど…」

「結果的にカタリナの美しさがより際立った肖像画になったね」


窓の外を見ると、カタリナの部屋の窓に神々しい肖像画がかすかに見えた。


「明日の新聞には何て書かれるかしら」

「『奇跡の後光肖像画』とかでしょうか」


セレーナが苦笑いする。


「ハーブ、今日もお疲れ様」

「ピューイ」


薬草ウサギが満足そうに鳴いた。


明日からはまた新しい実験が待っている。

今度はどんな予想外のことが起こるだろうか。でも、それもまた錬金術師の楽しい日常だった。


——翌朝の新聞——


『神々しい後光の令嬢!宮廷画家が描いた奇跡の肖像画』


という見出しが一面を飾り、カタリナの後光付き肖像画の記事が大きく掲載された。

王都中の話題となり、多くの貴族が「後光付き肖像画」を注文するブームが起こったという。


カタリナは「……やっぱり普通の肖像画が良かったです」と小さくつぶやいたとか。

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